「げっげっげっげっげっ! アタイみたいな絶世の美女に抱いて貰えるんだ。幸せ者だねぇ」
イシュタル・ファミリアの団長であるフリュネは醜悪だ。
それはヒキガエルの親戚のような、毎度モンスターの彫像らしき物が描かれる場所に彫像が描かれるような、宇宙の帝王で背の低さを気にしている有る意味理想の上司の側近の先に死んだ方の同族のような容姿だけでなく、内面がだ。
自らを美の女神すら叶わない程の美女と驕り高ぶるのは別に良いだろう、何せ彼女はLv.5のアマゾネス。
強い男に惹かれるという本能、つまり力こそ何よりの魅力だという根本的思想の持ち主である種族の彼女ならば同族の格下を多く持つ環境下にいればその様に思う可能性は高い。
……異様な性欲に隠れているだけで本人も知らないが同性愛の部分があり、それが強い自分は美しいと思い込んでいる可能性もあるが。
だが、美しいのだから何をしても良いのだと傲慢に振る舞い、格下を虐げ、攫った男を薬を使って(毎度使っている時点で自分の魅力の無さに気が付きそうな物だが)無理に一部分を元気にして廃人になるまで犯す。
その様な醜悪で悪辣な行為を今もしている真っ最中だ。
今回の獲物は前回使い物にならなくなるのは免れたが心を折られ掛けているLv.2。
ダンジョンが存在しても全体を見れば下級冒険者が多いオラリオでは充分に強い彼も第一級には到底敵わず、今日を持って廃人になってしまう運命……の筈だった。
「……ん?」
突然の轟音と振動、そしてフリュネが男を押さえる力が弱まった時、彼は全力で目の前の怪物を突き飛ばす。
前回は無駄な抵抗に終わったそれは今回は相手を大きくはね飛ばせた。
「何をするんだい!」
怒り、痛めつけようと横に置いてあった超重量の武器を片手で持ち上げようとし、持ち上がらない。
「な、何でだっ!? まさか恩恵が、ぎゃっ!?」
恩恵が消えた、その言葉を彼女が言い終わるよりも前、男は先程まで自分を拘束し、犯す為に外された鎖を掴んで束ねるとフリュネの頭に向かって上級冒険者の力で振り下ろしていた。
対し、今の彼女は恩恵が封じられた状態、ダンジョン外のモンスターにさえ勝てるか分からない多少鍛えているだけの耐久力だ。
即死しなかったのは男が心身共に弱まっていたからであり、それは幸運ではない。
「……」
「お、おい、何だその目……ぎゃっ! 痛っ! 止めっ! 誰か助け……」
死ぬほど痛いが死ねはしない。
邪魔が入らない為の隠れ家に男を連れ込んだフリュネに助けは入らず、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も鎖が叩き付けられ、動かなくなり、頭が変形し、目玉が飛び散っても鎖は振るわれ続ける。
「はあ……はあ……」
何が起きたのか、未だ上から続く轟音と振動の正体も何も彼には分からない。
只、助かったのを理解し、同時に望郷の念が強く押し寄せる。
「帰ろう、帰るんだ。土産を買って帰るんだ。もう、俺は冒険者を辞める……」
完全に心が折れた男が思い出すのは出稼ぎの為と言って夢を追ってオラリオに向かう為に田舎に置いて来た妻と生まれたばかりの娘の顔。
涙を流し、笑みを浮かべる彼は天井を見上げ……。
「……え?」
そのまま崩れてきた天井に押し潰される。
最後に彼が見たのは頭をグチャグチャに潰されたフリュネの顔であった。
「何でしょうか、あれは……」
この日、イシュタル・ファミリアに所属する春姫は窓からホームの方を眺めていた。
突如最上階から放たれる光に驚き、手で顔を隠していると響き渡った衝撃音、そして崩れて行くホーム。
それはフジツボ、もしくはイソギンチャク、或いは心臓。
それらを連想させる形状をしており、火山のような突起が無数に生えた直径六十メートル程の巨岩……らしき物体。
最上階の室内から壁を破って現れたそれの六万トン近い重量に耐えきれずホームが押し潰されて行く、内部に残っていた者達と共に。
「……え? ア、アイシャ様!」
「呼んだかい? ったく、なんだありゃ……」
「アイシャ様!?」
思わず呼んだのは普段から世話になっているアマゾネスの名前、すると本人が後ろで扉を開けて立っていた。
「五月蠅いよ、馬鹿。さて、リヴィラの街に出たって新種のモンスターの同類かい、あれは……不味い事になったね」
崩れたホームの瓦礫と謎の物体の下から天に向かって登る光、神の送還の光景だとアイシャは記憶している。
それが誰なのか、恩恵が失われる感覚が無くても直ぐに理解した彼女は春姫の手を取った。
「逃げるよ、春姫。……アレは生きてやがる」
アイシャの言葉に呼応したかのようにその物体は……光の国の住民や地球人に”ブルトン”と呼ばれる怪獣が動き出した。
ブヨブヨとした動きで転がり、ボウリングのように周囲の建物を破壊して行く。
渦巻きの中心からゆっくりと外側を目指すかのような動きで、されど巨体故に逃げ遅れた者達を押しつぶしながらだ。
地面は陥没し、建物は次々と瓦礫になって行く。
時間は夕方頃、歓楽街が開く時間。
武器を持たない冒険者や遊びに来た神々が大勢居る時間帯だ。
「に、逃げろ!」
「た、助けて……」
「馬鹿、離せ!」
互いに押し合い自分が助かろうとし、次々に踏み潰されて行く。
この時、誰も気が付いてなかったが、ブルトンの体から伸びる繊毛は地球にて観測された個体に比べて些かボロボロであった。
長い時の経過によって石自体が経年劣化していたのか、星の環境がバルタン星人同様にブルトンに悪影響を及ぼしたのか、それは定かでは無いが……。
「おらっ!」
此処で一人の男がブルトンに戦いを挑む。
その速度は都市最速、フレイヤの指示で歓楽街の調査をしていたフレイヤ・ファミリア副団長のアレンだ。
その実力はLv.6、世界でも上から数えた方が早い実力者であり、素手でも深層のモンスターを蹂躙可能な彼は既に魔法を使っていた。
これに槍が加われば都市最強でさえ魔法無しには危うい程の力。
……だが、それだけだ。
「ちっ!」
真横からの一撃、それだけでアレンは離れる。
微塵も効いていないのだと彼だからこそ理解した。
「イシュタルが神の力で変なもんでも拵えたのか? ……面倒だぜ」
思わず悪態を付いた時だ、遠くから無数の雷の矢がブルトンに降り注ぎ、アレンに向かって槍が投げつけられる。
「遅ぇぞ。……我等が女神は?」
「脳筋が護衛中だ」
「バベルから勝利を信じて動くってさ」
「ロキ・ファミリアの幹部は何をやっているんだ?」
「殆どがダンジョンの中だろう。役立たずめ」
槍をキャッチしたアレンの背後に現れたガリバー兄弟、更に後方にはフレイヤ・ファミリアの団員達が集まっている。
「おい、駄猫。女神は残ると言って脳筋が護衛に残ったが、さっさと脳筋と交代して来い」
「速さが自慢だろう、駄猫」
「もしもの時はフレイヤ様を連れて逃げるのが役目だろう」
「さっさと行け」
この時、ガリバー兄弟もまたブルトンの強さを理解していた。
そして、その頃バルタン星人は……。
「……ふむ」
ゴモラを出すべきか、メリットデメリットを天秤に掛け、ふと歓楽街の入り口の方に視線を向ければ逃亡防止の首輪の力で苦しむ春姫と、それを何とか壊そうとするも力が足りないアイシャの姿が見え……。
空の彼方から謎の超巨大飛翔物体が現れ、地面に降り立った瞬間に地面が激しく揺れる。
「何…だと……」
バルタンの口から漏れる驚愕の声、落下する姿をその目はしっかりと捉えていたのだ。
「何や!? 新手かいな!?」
舞い上がった土煙の中で光る3つの光、土埃が晴れた時、その正体が月光に照らされて現れた。
「デュワッ!!」
それは肉体が赤と銀であり、額と両目が輝く……何処か半死半生に見える巨人であった。
ちょっと巨人描写変更