これはとある記者M(仮名)による記録、恩恵を持たぬ身でありながら恩恵持ち以上の事を平然とこなす屋台の店主についての調査だ。
インタビューに際し、匿名を条件に取材に応じて貰った。
取材対象・とある兄弟の長男
「元々彼女の屋台の常連だったとか?」
最初の取材対象は上級冒険者を兄弟でやっているGさん(仮名)
「ああ、同じ種族だからじゃなく、我が女神がちょっと気にしていたから十歳の子供の屋台を訪れたんだけれど、肉まんやらチマキやら珍しく美味い料理を出していてね。気に入ったから通う事にしたんだ」
「トラブルとなったのは彼女の女神様への対応だとか?」
「そうだ! あの餓鬼、わざわざ出向いた女神様に無礼な態度を取ったから報いを受けさせようと思い、その場は諫められたから抑えたが、後で出向き……」
途中で怒りを滲ませたGさんだが、最後には言葉を濁す。
どうやら言いたくない内容らしい。
記者はあえて追求せず、彼が話してくれるのを待った。
「奴の家は人通りの少ない場所……料理の匂いが漏れても大丈夫なようにしているらしいんだが、遠くから観察し、死なない程度に痛めつけようとして……彼奴に囲まれた」
「っと言うと分身ですか?」
「ああ、少人数になら増えるとは知っていたが、一人当たり十人で囲まれて分断され、全て本人だからか連携だって悔しいが自分達兄弟以上だっただろう。……結果がこの頭だ」
Gさんは少し躊躇した様子で兜を外す、すると奇妙な髪型になっていた。
「ジャ……何とかから教わったナミヘーヘアーという奴らしい」
「確か貴方達兄弟は……」
「ああ、上級冒険者、其れも一度や二度のランクアップじゃない。おっと、そろそろ用事の時間だ」
Gさんは足早に取材の場であった喫茶店を去って行く。
彼の少女についての謎が深まる内容であった。
取材対象・ギルド勤務の女性
「彼女についてギルドが調査をしたのは大手ファミリアとのトラブルが原因だったとか?」
「ええ、本人が恩恵持ちで無いのはオラリオの検問で調べてはいたけれど、何かしらの不正を行ったのではないかって問い合わせが殺到して、其れで毎日通っていた私が同僚と一緒に調べさせて欲しいと頼みに行きました」
「結果、彼女は潔白だったと」
記者の問い掛けにEさん(仮名)は沈痛な面持ちで頷く。
話に寄れば家族を失っているらしい幼い少女に疑いを掛ける事に躊躇いが有ったのだろう。
「前から増えたりタチの悪い冒険者を片手で締め上げたり、恩恵を隠している疑惑はあったけれど常連の神様達が間違い無いって言っていたから調査しませんでしたが……」
「幾ら何でもおかしいと? 貴女は疑いましたか?」
「……はい。結果は潔白、証言していた神様達もここぞとばかりに信頼関係を疑うのかと抗議が結構来まして……」
「あの騒ぎは随分と大きかったですね。彼女に興味を持って屋台を利用した結果、常連となった神も多いと聞きますし。悪ふざけ半分が多かったとは聞いていますが……」
普段は何だかんだでファミリアに依頼や罰則を出しているギルドを責めるチャンスとあって多くの神が乗り気だったらしい。
「それで会いに行くのが気まずかったのに“質問を受諾、怒っていないのか。回答、業務の遂行の範囲内。対価は貰った”って言うだけで、その対価について教えては貰えませんでしたし。そんな事があってから暫く経って食事をするついでに改めて謝罪をしたら……」
「普通に接して来たと。それにしても彼女の話し方は特徴的ですね」
「ええ、それでお仕事が休みの日は普通の口調だし、強いのに冒険者にはならない理由はモンスターが怖いっていう普通の女の子何だなって」
「成る程。彼女の意外な一面ですね」
私の言葉にEさんは静かに頷く。
「所で気になっている男性は居ますか?」
「ちょっと最近担当になった子が心配で……これ以上は秘密です」
流れで答えて貰えると思ったが元々の話題とは無関係な質問は途中で遮られた。
多くの男性が知りたかっただろうに残念である。
取材対象・とある神々
最後のインタビューは趣向を変えてお二方に同時に取材をさせていただきました。
彼女と少しトラブルになったA様とS様(共に仮名)です。
「先ずA様ですが、最初は眷属にしようとしたとか?」
「……ああ、恩恵も持たずに魔法のような真似が出来るんだ。料理も美味いし、手元に置いて可愛がるべき、そう思ってしまったのさ」
「逆にS様は興味が無かったとか?」
「趣味以外に時間を費やす気が起きなかったからな。屋台だって一度も利用していない。だから乗り込んで来た時は誰か分からなかった」
インタビューに答えつつA様は頭を抱えて僅かに震え、S様は鼻を片手で抑える仕草を見せた。
「それでA様は随分と強引な勧誘をしたとか?」
「私は自らの愛に忠実なだけさ。其処の趣味に没頭して眷属にさえ無関心な奴とは違うのさ」
「神自ら子供達に迷惑を掛ける奴に言われたくないな」
お二方が少し険悪な雰囲気になったので少し宥める。
「それでA様ですが、何度も勧誘に行っても断られたとか?」
「ああ、ちゃんとした建物に店を出す金を工面してやると言っても自分で稼ぐからと断られてね、最終的にホームで私のファミリアの素晴らしさを教え込もうとしたのだが……」
「団長は返り討ちにされ、失礼ですがA様は……」
「これ以上は勘弁してくれるかい? あれ以降、パルゥムが少し怖くなった位なんだ。路傍の石でも見る目を向けられたのは忘れられないよ」
「どんな神でも地上の人間は神を神として扱うが、この発言からも彼女の特異性が伺えますね。では、続いてS様ですが、眷属の方の暴走行為だとか?」
「ああ、金を持ってる子供だと思い、一部の者が狙ったらしい。返り討ちに合い、あの者が乗り込んで来た時に私は酒を造る真っ最中だったのだが、完成間近の酒を窓の外に蹴り飛ばされてしまってな。怒り、神威を解放するも鼻に指を突っ込まれ、ギルドまで引きずられて連れて行かれた」
「お二方の一件が広まってから強引に手を出そうとするファミリアが出なくなったとか」
「だろうな。あれは“どうせ本当に死ぬのではないから”って平気で神の首を刎ねる奴だ。やっぱり誘うなら気弱そうな子に限るね」
「……ギルドに素行の是正を命じられてな。団長に任せたから大丈夫だろうが」
「そうですか。今日はありがとうございました」
「所で君も私の眷属になる気はないかい?」
私はA様の勧誘を断り、今回の取材を終えた。
「やれやれ、匿名のようで匿名になっていない、それに気が付かせない為の軽い催眠が効果的なようで何よりだ。例の星に向かうついでにこの星に立ち寄ったが、まさか私が外星人第一号ではないとは。先に用事を済ませた後で母星に出す資料を読ませて貰いましょうか。……次にこの星に来た時は共に酒と食事でも……」
記者はそう言いながら財布の中のヴァリスを確かめ、静かに懐にしまった。
「その時は割り勘で良いか? バルタン星人」