シン・バルタン星人   作:ケツアゴ

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食べ物は大切に

「これを見ていると冒険者の人って凄いなあ……」

 

 私の手にはドーナツが大量に入った袋、フワッフワの触感が嬉しい私のお気に入り。

 バルタンはモチモチ派らしくフワフワ系のは作ってくれないから屋台で買うしかないんだけれど、どうせだったら自分で作れるようになりたい。

 

 それにしても今の私はバルタンが寄生した影響で体の支配権を返して貰った状態でもバルタンの能力が使えるんだけれど、鉄の棒を握ったら指の跡がくっきりと残る位に力が強いのにドーナツを潰さずに持てている。

 それはバルタンが自動調整してくれているかららしいけれど、これを自力でやっている上級冒険者さんは本当に凄い。

 下手すれば何となく振った手が通行人に当たっただけで挽き肉がぶちまけられる事になりそうなのに、普通にクレープとかの柔らかいお菓子を持てる力の調整をしているんだから。

 

「取り敢えず晩御飯は何にしようかな?」

 

 バルタンが食べ過ぎだって警告をしてくるけれど、成長期なんだからお腹が空くんだもん。

 あっ、凄く動くのにそんなに食べなくても平気だから冒険者って其処も凄い……あれ?

 

 

 ギルドの近くの屋台で買い込んだドーナツを食べ歩きしていると赤い液体を周囲に飛び散らせながら向かってくる全身真っ赤な人が見えた。

 死にかけなのかと家族の姿が頭に浮かんで身が竦み、だから私は動けず、ドーナツに臭い液体が掛かるのを防げない。

 

 

 

「エイナさ~ん!」

 

 私が我に返った時、彼は元気そうな明るい声でギルドの中に飛び込んでいて、その後頭部に向かって汚れてしまったドーナツを全力投球、見事命中!

 

 柔らかいドーナツは彼の後頭部で大爆散! 見事に前に吹っ飛んだ!

 

 

「ちょっとベル君!?」

 

 ギルド内から聞こえて来たのはエイナさんの声、ちょっと冷静になった。

 

 

 

「……やばっ」

 

 まあ、良いや。街中に振り撒いているみたいだし、自業自得って事で知~らない!

 

 

 

「やあ! アーシア君じゃないか。久し振りだね」

 

 ギルド内に飛び散ったドーナツの処理から逃げ出して町中を歩いているとじゃが丸くんの屋台で働く駄女神様と遭遇しちゃった。

 

「お久しぶりですね、ヘスティア様。売り上げの方はどうですか?」

 

「いやー、それが最近は君の屋台のメニューによっては売り上げがさっぱりでさ。タケが任されてた屋台なんて畳むことが決まっちゃったよ」

 

「え? 馬鹿みたいなミスをして時給をもの凄く減らされたヘスティア様じゃない方がクビにされたんですか?」

 

「ぐぬぬぬぬっ! 君、ちょっと神への敬意が足りてないんじゃないのかい?」

 

「ガネーシャ様とかには払っていますよ? 変な神様ですが立派な事をなさっていますし。……バイト初日からお客さんと大喧嘩するみたいな真似はしないでしょうし」

 

「そ、それを言わないでおくれよ。僕だって反省しているんだ。大体、あれはロキが悪いんだし……」

 

 このヘスティアというロリ巨乳の女神様、眷属を見つけるまでと言って友達のホームに居候するもだらけた生活で怒りを買って追い出されたって情けない方なのよ。

 丸一日食べずに町を彷徨った挙げ句、分身が居るから必要無いのに雇ってくれって泣きついて、私が同情して賄い付きのバイトとして雇ったら、常連のロキ様と喧嘩を始めちゃって……。

 

 

 前日にフィンさんに求婚を仄めかされて、聞きつけたティオネさんに乗り込まれて少し限界だったから即座にクビ、ロキ・ファミリア全員を暫く出禁にしたのがこの前……。

 

 

「聞いてくれよ。僕にもついに眷属が出来たんだぜ!」

 

「え? あの廃墟同然のホームを見られて逃げられていたヘスティア様がですか? どうやって騙したんですか?」

 

「君、酷いなっ!?」

 

「私の中でヘスティア様の印象が酷いので……」

 

 まあ、半分は冗談、打てば響くこの神様は苦手でも嫌いでもない。

 ついでに言うならロキ様やフレイヤ様だって苦手なだけで嫌いじゃないの。

 

 

 ……ソーマ様とアポロン様は嫌いだけれど。

 

 

 

 

 

 

「あっ! アーシアだ! ねぇ、今日は屋台はお休みなの?」

 

 ヘスティア様と少し話をしていて気が付いたら夕暮れ時、そろそろ家に帰って夕ご飯でも作ろうかと思っていた私に駆け寄って来るのはティオナさん。

 この人も屋台の常連で、何時も明るいので話していて楽しい人。

 ……お姉さんの方はちょっと苦手なんだけれど。

 

 

「今日はお休みですけれど、明日はハンバーガーとフライドポテトの日なので来て下さいね」

 

「わわっ! そっか、明日はハンバーガーの日なんだね! 楽しみー!」

 

「ティオナさん、明日はドロップアイテムの換金とか忙しい日ですけれど……」

 

「えー? 大丈夫だって。ちょっと食べるくらい。レフィーヤだってアーシアの屋台の料理は好きでしょ?」

 

「そうですけれど……」

 

「アイズも行くよね?」

 

「……うん」

 

 あれ? アイズさん、少し元気が無いような……。

 

 ティオナさんに連れられて屋台に顔を出す人達の一人のアイズさんだけれど何処か落ち込んで見える。

 何かあったのかな?

 

「わっ!?」

 

 そんな風に思ってたらティオナさんがお尻を蹴られてビックリしちゃっている。

 蹴ったのは悪人っぽい顔のお兄さんだ。

 

 

 

「おい、何をチンタラしてやがる。さっさと行くぞ、ノロマ」

 

 ……あっ、ベートさんだ、バルタンが言うには酷い言葉を口にする時、瞳や表情筋の変化から実は相手に“このままじゃ死ぬぞ。辞めるか強くなるかしろ”って言いたいらしい。

 

 

『伝達の表現に問題有り。悔しさからの奮起には効果が見受けられるが、組織の一員としては問題が生じる』

 

 とか言っていたし、ロキ様に何となく言ってみたんだけれど、見抜いた事に驚かれたけれど、周りがその内ちゃんと分かってくれるからって第三者の私には黙っていて欲しいんだって。

 

 

「……何ジロジロ見てやがる」

 

「ベートさんって面倒臭い人だなって。ロキ様がツンデレ? とか変な呼び方してたよ。じゃあね!」

 

 ベートさんが怒り出す前に私はその場から素早く逃げ去る。

 そのまま家の方に真っ直ぐ向かい、玄関が見えた時、バルタンの声が頭の中に響いた、

 

 

 

 

 

『警告。侵入者の痕跡が鍵穴周辺に有り』

 

「ええっ!?」

 

 思い出すのは押し込み強盗に入ろうとしたソーマ・ファミリアの団員。

 仕込んでいた途中のスープを台無しにされたし、掃除した所を泥だらけの靴で汚されちゃったし、思わずホームに乗り込んでソーマ様に鼻フックしながらギルドに連行したんだっけ。

 

 

 

 

「……取り敢えず中に入って様子を確かめようか」

 

『提案に賛成。非常時は破壊光線の使用を推奨』

 

「いやいや、冷凍光線にしとこうよ、バルタン」

 

 家の中をできるだけ壊したくないと思いながら中に入ったら不法侵入者は玄関にわざわざ椅子を用意して待っていた。

 

 

 

 

「黙って入った事をお詫びするよ。俺はヘルメス。こうやって名乗るのは、はじっ!?」

 

 相手が話している最中、バルタンが勝手に体を動かしてトマトを顔面に投げつけた。

 一瞬で潰れて周囲に飛び散ったトマト、そして仰向けに倒れ込んだ侵入者のヘルメス様、これでも一応神だ。

 

 

 

 

「バルタン?」

 

『メフィラスと同様に信用の必要性が無い相手と判断。簀巻きにして川に捨てるのを推奨』

 

 そのメフィラスって人、前にも聞いたけれど本当に嫌いなんだなあ……。

 

 

 

 

 

 

 

「流石に川は不味いし、簀巻きにして路地裏に転がす程度で良いと思うよ?」

 

 




前回までの感想はあしたかえします

https://syosetu.org/novel/247677
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