神にも個体差が見られ、私とアーシアの意見が一致した結果、嫌いな神の一位にヘルメスが輝いた。
共同体を失う要因となったアレスに関しては既に嫌いという段階ではないらしいが、同時にアーシアが好ましいと思っている神も存在する。
「俺がガネーシャである!」
「名乗りに関しての返答。目の前の神が何者か知っていなければ依頼は引き受けなかった。何度も名乗りを上げるのは自己顕示欲が過剰な現れと察せれ、普段の行動もそれ故との印象を与えかねない」
「そうか! 気を付けよう! そして俺がガネーシャである!」
それが民衆の味方を自称する象の仮面の男、ガネーシャである。
善か悪であるかを問えば善であり、アーシアが幼いからと何かと気を使い便宜を図って貰った事は認めるので今回の依頼、神の宴での調理作業を引き受けたのだ。
尚、私のガネーシャへの印象は自己顕示欲が高い馬鹿である。
「それでこの料理は何だ?」
「ナチョスとトルティーヤ、コーンをすり潰して作ったチップスと生地に野菜や肉を巻いた物だ」
巨大な象の姿をしたホーム(眷属に無断で改築したらしい。やはり自己顕示欲が過剰である)で開かれた宴の会場、場所的には直腸や肛門の辺りだと思いながら分身と併せて五カ所にそれぞれ別メニュー、今後屋台で出す予定のメニューの宣伝も兼ねて出している。
しかし知識と記憶から調理法を推察、この様に再現したが他国の料理に詳しかった例の地球人の食い道楽は凄まじいな。
他にはチーズタッカルビ、ライスバーガー、汁無し担々麺、飲茶各種、何処にも大勢並んでいるし、屋台出店の新規申請をするに値する結果だろう。
「あら、そっちも美味しそうね。屋台は出入り禁止だけれど、此処は別に良いわよね?」
「神フレイヤに対する出禁は普段の屋台のみかどうかへの返答、許可する。ナチョスはチーズソースとサルサソースの二種類を選択可能である」
今は他の客が使い物にならなくて困る訳でもなく、男神共が勝手に順番を譲ったのだから咎めつつ揚げ立てを差し出す。
フレイヤは少し迷った後で結局ソースを両方皿の端に乗せていた。
「ねぇ、貴女って結構情報を仕入れているわよね? 何か面白い話とか聞いていないかしら?」
「取り終わった後は横に避けるのを要求。他が取るのに邪魔になる」
「つれないわね、其処が可愛いのだけれど」
色々と面倒な女神であるが、要求を受け入れてくれる辺りは助かる。
初対面で魂の色が二つだの片方は全く知らない色だの意味が不明な事を言われたのでアーシア同様に面倒な神ランキングでは上位ではあるが。
「闇派閥の疑いがある集団がダイダロス通りで目撃、ゲドという素行の悪い下級冒険者が大量の血を失った状態で発見、但し死因は首の骨の骨折」
「あらあら、物騒ね。オッタル達が知ったら出歩くのに制限されそう」
敵対している、正確には敵視されているイシュタルが最近荒れているのはオッタルからの情報であり、その時点で制限するのが正解だと思うが、女神の自由を制限する気など無いのだろう。
……常連の一人であるアレンは愚痴を吐いていたが。
「ヘファイストス! 会いたかったよ!」
少し離れた場所から聞こえた声の方に視線を向ければ料理を持ち帰る準備をしつつ多く食べていた駄目な女神がヘファイストスに何やら話している。
ああ、これも話しておくか。
「神ヘスティアから聞いた情報、あの白髪の冒険者は彼女の眷属らしい」
「へぇ、そうなの。じゃあ、お代わりを貰えるかしら? これ、気に入っちゃったもの」
「列に並び直せ。横入りは厳禁である」
並んでいた神々は直ぐに列を彼女に譲る。
まあ、彼女に列を譲った程度で宣伝行為の効率は落ちないだろう。
しかし、フレイヤに関する噂を考慮した場合、忠告すべきか。
「これは独り言。街中で何か起きたとして、客がひっきりなしに注文を続けた場合は私は動けない。尚、持ち帰りの品を持って席に居座るのは厳禁とする」
「あら、大丈夫よ。私、沢山食べる子は可愛いと思うもの。じゃあ、私の眷属達が大食い大会をする時には宜しく頼むわ」
あの少年にフレイヤが何をしようと私には無関係だ。
商売の邪魔なら手を出すが、商売の真っ最中に動く必要も無い。
「そうそう、怪物祭は見に行くのかしら?」
「いや、
モンスターを調教する様子を見せる怪物祭だが、二年前から少しだけ趣向が変わっている。
世間話に巻き込まれた際、怪物祭への意見を求められたので、私が例の地球人から得たショーの知識を少しだけ話した結果、顧問料を貰う代わりに練習の様子を見て意見を口にしている。
私には楽しさが分からないが、アーシアが楽しんでいるのだから受け入れているだけ。
「祭りの最中は稼ぎ時だ。今後始める予定の夜間の移動式屋台の宣伝も必要であり、雇った神に指示を送る必要もある」
神は全知無能、全てを知っているという割にはヘスティアは情けない点が見られるが、数度の練習と指摘だけでタケミカヅチは冷凍ラーメンの調理を習得した。
「しかし、眷属が過保護なのは何処も同じなのだろうか?」
“歓楽街には私が行きます”と眷属が言っていたが、雇ってもいない相手に仕事に参加させる気もなく、そもそも眷属が満足に稼げば主神がアルバイトをする必要が無いと指摘しておいた。
「そうね。ちょっと一人で出歩いただけで大騒ぎなのだもの、息苦しいわ。今度、ちょっと連れ出してくれないかしら?」
「要請への返答。断固拒否」
もうこの場でも出禁にすべきか迷う私であった。
「捌く時間は鍋に麺を付けると同時に砂時計が動く。水は水晶の予備を用意しているので出が悪くなれば報告を。売上によって追加給金、ツケや洗い物時の容器の破損、その他契約違反行為にはペナルティを課す」
「うむ。任せておけ。折角雇って貰えたのだ。期待に添えるように頑張ろう」
神であろうと雇い主には敬語を使うのが妥当と思った私であるが、アーシアの意見により黙っておく事にした。
無論、ペナルティの発生時には一切容赦せず、搾り取れるだけ搾り取る気だ。
「これをどの様にすれば理解が可能というのだろうか。やはり共感等は勘違いの類である」
此方は分身五号、受け持つ屋台はケバブサンド。
巨大な肉を焼き、見た目と匂いで客を引き寄せた上で目の前で肉を削ぎ、新鮮な野菜と辛めのソースと共にピタパンに挟み、手が汚れないように紙で包んで渡す、屋台の中でも人気の高いメニューであるが、そのケバブサンドを山積みに盛って食べ進める馬鹿二人の姿があった。
「はっ! もう辛そうじゃねぇか」
「ぬかせ。トロ臭く食べてる癖によ」
馬鹿の名はベートとアレン、事の発端は先にベートが三個注文し、後ろに居たアレンが小食だの何だのと挑発し、大食い対決に発展したのだ。
鬼気迫る様子に他の客は遠巻きに眺め、とても注文する空気ではない、勝負の邪魔だと言われるのを恐れているのだろう。
呆れている間に闘技場の方でショーの開催時間が迫っているからか人気がなくなって来た頃、私は決めた。
「あの時はああ言ったが、迷惑を被るのなら話は別だ。二人揃って一ヶ月は出禁だな」
今の勝負が終わったら即座に言い渡そうとした時、物陰から次々と白装束の不審者達が現れた。
「上級冒険者達を見つけたぞ! 我等が愛の為、奴らの命を神に捧げろ!」
勝てないだろうに何が目的だ?
フィンの目的に関しては今回かけなかった