超地球救済戦記!真・ダンザイオーΩ〈オメガ>~戦争もやめねぇ!環境破壊もやめねぇ!バカで愚かな人類は身長170センチ以下で無職童貞ニートの俺が全員滅ぼす!~   作:かにグラタン

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第百一話 20××年 5月5日

第百一話 20××年 5月5日 

 

報告書 

20××年、5月4日、夜、規則違反および殺人の容疑で逃走していた『実験体9号』が高村友助を通して『実験体3号』と接触。

高村友助を監視していたスタッフの通報により実験体部隊責任者の杉本ヒロキが高村友助宅に侵入、『実験体9号』と接触。

その後、『エリアA』街路にて『実験体7号』と『実験体9号』が交戦。

これにより『実験体7号』が死亡。

別任務を終えた『実験体2号』が『実験体9号』を交戦するも、『実験体2号』が瀕死の重傷。

その後、実験体部隊責任者の杉本ヒロキの緊急増援要請により、別任務を終えた『実験体1号』・『実験体8号』・『実験体4号』が現場に到着、『実験体9号』と交戦。

瀕死の重傷を負った『実験体9号』は逃走。

『実験体9号』の捜索は引き続き続行。

なお、『実験体12号』・『実験体11号』・『実験体8号』という貴重な戦力を失った実験体部隊に対して上層部は断罪刀『弥生』との適合率の低下が原因で廃棄が決定されていた『実験体3号』の廃棄執行日を一ヶ月延長することにした。

              * 

20××年 5月4日 深夜

「まさか病人が増えるとはね」

私の隣の病室のベットにはナガツキとの戦闘で瀕死の重傷を負ったキサラギが寝ている。

「サツキさん!ケガの具合はどうですか?」

「ドアホ!人のケガの心配するより、まず自分のケガの心配しなさいよ!」

「す、すいません。でもよかったですね、ヤヨイさんの廃棄執行日、一か月延長になったそうです!」

「それ本当?」

「はい、僕、杉本さんが泣いてるの初めて見ました」

「そう...でもなんでいきなりヤヨイの廃棄執行日が一ヶ月も延期になったわけ?」

「それが、杉本さんが言うには僕たちが戦えないことと、シモツキさんに続いてフミヅキさんが戦死したことで戦力が低下したことが原因らしいです」

「なるほど、それに加え、シワスの戦死にナガツキの反逆だもんね。たった数日で断罪刀の使い手が私たちも含めて6人もダメになれば、さすがに上層部もヤヨイを廃棄して戦力をわざわざ減らすようなバカはしないわよね」

「はい...だから杉本さん、今、とっても複雑だと思います」

「そりゃそうよ、仲間が死んでくれたおかげで、自分の娘の寿命が一ヶ月延長したんだから、嬉しいやら悲しいやらでもう心がぐちゃぐちゃよ!」

「結局、ムツキさんとウヅキさんとハヅキさんの三人がかりでもナガツキさんを捕まえられませんでした。三人とも別任務を終えての合流だったみたいで」

「まぁ、ナガツキ相手に生き残れただけでも幸運よ、ちなみにミナヅキとカンナヅキは?」

「別任務で『怪異』と戦闘中だったみたいです」

「そっか、あの二人がアンタたちと合流できてたらなんとかなったかもね、それにしてもナガツキのやつもしぶといわね」

「ええ、でもナガツキさん、瀕死の重傷らしいってムツキかんから聞きました」

「まぁ、三人相手ならそうなるでしょうね、実質五人か、よく逃げられたわね」

「ナガツキさんはきっと僕たちが『怪異』から守ってる普通の人々みたいに自由に生きてみたかっただけなんでしょうね」

「そういこと言ってると殺されるわよ、この病室、盗聴器あるんだから」

「そ、そうなんですか!」

「そうよ。でもさぁ、きっと自由な人なんてどこにもいないと思わない?だって私たちが『怪異』から守ってあげないと普通の人達だっていつ死んでもおかしくないんだからさ」

「そう言われてみればそうですね」

「とにかく、もう寝ましょう。『怪異』とナガツキのせいでまた断罪刀の所有者が減れば、今度はけが人の私たちにも出動命令が出るかもしれないんだから」

「そうですね、おやすみなさい、サツキさん」

「おやすみキサラギ、よく生き残ったわね」

             *

玄関のドアを爆破した杉本が帰ったその晩、俺とヤヨイちゃんは、倉庫にあった、どういった理由でアカリさんが保管していたのかが、いまいちわからない、でかい木の板を何枚か重ね、さらにその上からガムテープを使用して玄関に設置することで簡易ドアの制作に成功した。

その日の夜から早朝にかけての防犯対策はとりあえず、その簡易ドアでなんとかしのいだ。

次の日の朝、頼んでもいないのに建築業者が新しいドアをもって杉本に爆破された玄関のドアの修理に来た。

時計を見ると、まだ朝の八時だった。

「まだ十時前だぜ、ちょっと早くない?」

「あはは...確かに」

ヤヨイちゃんは顔に苦笑いを浮かべていた。

結局、ドアの修理はその日のうちに終わった。

            *

5月5日

携帯の呼び出し音が切れる。

しばらくして俺の携帯の受話口から前妻の声が聞こえてくる。

「杉本君?なにかようかしら?」

「お、おう、アカリ、あのな、ヤヨイの廃棄執行日が一ヶ月延長されたよ」

「あっそ」

「あっそって、もっと喜べよ、自分の娘の寿命が延びたんだぞ」

「でも一ヶ月後には廃棄が執行されるわけでしょう?」

「あ、ああ、まあな。でも、実験体の中から反逆者や負傷者や死亡者が出てな、戦況によっては、廃棄執行日が伸びる可能性もある」

「それって杉本君の予想でしょ?最終的に判断を下すのは上層部よ」

「ああ、そうだな。俺さ、正直、色々あってさ、自分でももうどうしていいかわからないんだ。この前なんかヤヨイに怖い顔でにらまれちゃってさ」

「なによ、今さら。それを覚悟で『怪異』から人類を救うために組織に入って『実験体部隊』の責任者になったんじゃないの?」

「そうなんだけどさ、実際、俺、嬉しんだ。実験体のやつらが次々に死んでくれたおかげで、ヤヨイの廃棄執行日が延期されたこと。俺って最低だよな、自分の仲間が死んだのに、そのおかげで自分の娘の寿命がたった一ヶ月でも延びたことが嬉しくてたまらないんだよ」

「あのね、こっちはこっちで忙しいから、そういうのはあとにしてくれない?」

「なぁ、アカリ、お前今どこにいるんだ!お前、このままだと、ヤヨイに友助とられちまうぞ!」

電話が切れた。

「ったく、アカリのやつ切りやがった」

「逆探知すればわかるかもよ、アカリさんの居場所」

声のした方向を振り向くと、そこには水色の長髪と巨乳が特徴的な少女、ミナヅキがいた。

「ミナヅキ...いいのか休んでなくて」

「もう大丈夫、それよりごめんね、ナガツキの時、増援に行けなくて」

「別に、謝ることじゃないだろ、昨日の増援要請は緊急時のものだ、気にするな。それよりお前の相手にした『怪異』の数、いつもより多かったな」

「ええ、何か嫌な予感がするわね。ねぇ、杉本さん」

ミナヅキが正面から抱き着いてきた。

「ミナヅキ...お前!」

「迷惑ですか?でも杉本さんがとてもつらそうだったから」

「とりあえず、ここでは控えろ」

「私、杉本さんのためなら死ねます」

「よりによって今、そういう言葉は聞きたくない!」

俺はミナヅキの両肩をつかんで突き放す。

「ごめんなさい...でも私、杉本さんのこと好きです...」

「俺は上の命令が出れば、お前たちに容赦なく廃棄命令を出すような男だぞ!たとえそれが自分の娘でもな!これまでだって何人廃棄してきたか...」

「でも、杉本さんは私たち実験体に名前をくれました、わたし、ここに来る前から自分の名前がなかったのでとても嬉しかったです」

「名前っていっても、お前たちの断罪刀の名前をそのままコードネームにしただけだよ」「それに、『怪異』との戦闘で死んでしまった実験体や廃棄した実験体のためにちゃんと悲しんでくれてます」

「そっか、お前に聞かれてたんだよな、アカリとの電話」

「私が裏切りもののナガツキちゃんを殺したら、杉本さんは喜んでくれますか?」

「ノーコメントだ、でも『怪異』の殲滅とナガツキの殺害と断罪刀『長月』の回収がお前たちの今の任務だ」

「いじわるな、言い方ですね」

「まいったな」

「私知ってます、どうせどんなに頑張ってもヤヨイちゃんに勝てないことぐらい!でも私がナガツキちゃんも殺して、他の実験体達よりも『怪異』をたくさん倒して、いつか必ず杉本さんの一番になってみせます!」

「ミナヅキ...なら絶対に死ぬな、いいな?」

俺の言葉にミナヅキが顔に満面の笑みを浮かべて返事をする。

「はい!」

ミナヅキが俺に背を向けて走っていく。

おそらく、ナガツキを探しに行くのだろう。

俺はそれが最後の別れになってしまいそうで、思わず、走り去るミナヅキの背中に向けて自分の右手を伸ばしてしまう。

結局、俺にできるのはお前たちを自分のために利用することだけだ。

 

次回予告 第百二話 20××年 5月5日 その2




次回もお楽しみに

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