超地球救済戦記!真・ダンザイオーΩ〈オメガ>~戦争もやめねぇ!環境破壊もやめねぇ!バカで愚かな人類は身長170センチ以下で無職童貞ニートの俺が全員滅ぼす!~   作:かにグラタン

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第百七話 20××年 5月6日 その3

第百七話 20××年 5月6日 その3

 

俺が杉本さんから聞いた話をまとめてみた。

●人々に寄生して不安とストレスと不幸を与える目には見えない精神生命体『怪異』。

●この世界で唯一『怪異』を破壊できる兵器『断罪刀』。

●全部で12本の『断罪刀』に選ばれた『実験体』と呼ばれる12人の『適合者』。

●『断罪刀』との適合率が低下した『実験体』は『怪物』になってしまう前に『組織』によって廃棄(殺害)される。そして、その非人道的な行いを繰り返しながら『怪異』から人類を守護している『組織』を壊滅させるために設立された会社が『ブレイズ』。

しかし、仮に『ブレイズ』が『組織』の壊滅に成功すれば、人類は『怪異』から人々を守る盾を失う。

もし、そうなれば、『怪異』による不安やストレスで今以上に大勢の人々が不幸になるか、命を失う。

つまり、『組織』の壊滅はヤヨイちゃんのように非人道的な扱いを受けている『実験体』に人間らしい生活を取り戻させるのと引き換えに、人類全体に多大なダメージを与えることになるのだ。

それに一度適合率の低下が発覚した『実験体』は仮に『組織』から解放されても『怪物』になってしまう未来が待っている。

俺の妻でヤヨイちゃんの母親であるアカリさんが所属している『ブレイズ』が本当にそこまで考えて『組織』を潰そうとしているのか、俺にはまだわからない。

でも、今、俺にできることは、義父として、この地獄のような環境から、娘のヤヨイちゃんを遠ざけることだ。

そう、俺はヤヨイちゃんと一緒にこの狂った世界から逃げ出すんだ。

「友助さんは...本当にこれでいいんですか?」

自宅で旅の準備をしている俺にヤヨイちゃんが話しかけてきた。

「ヤヨイちゃんはどうしたいの?」

「私は...友助さんといっしょにいたいです。でも、どう考えても『組織』や『ブレイズ』から逃げられるとは思えません」

「でもヤヨイちゃんは『組織』の一員として戦うのも『ブレイズ』と戦うのも嫌なんだろ?」「はい...嫌です」

「なら、いいじゃないか、ダメだとわかっていても一緒に逃げよう」

「でも、私、断罪刀との適合率が低下してしまったので、このままだと、いずれ『怪物』になってしまいます。そしたら、友助さんにも迷惑がかかります」

「そんなの心配するなよ、ヤヨイちゃんと一緒に逃げるってことは、『組織』と『ブレイズ』の両勢力を敵に回すってことだ、死ぬ覚悟はとっくにできてる」

嘘だ、正直、俺だってまだ死にたくない。

でも俺はもう決めたんだ。

「私は『怪物』になった私のせいで友助さんが死んでしまったら、とても悲しいです」

「そんな先のこと考えても仕方ないだろ、俺が杉本さんに聞いた話が本当なら、ヤヨイちゃんの廃棄は一ヶ月延長したんだろ、それって、そんなにすぐ『怪物』になるわけじゃないってことだろ」

「でも、それは上層部の予測に過ぎません」

「ああ、でも予測しかできないってことは、一ヶ月経っても必ず『怪物』になるとは限らない、そうだろ?」

「あはは...友助さん、私のためにそんなに無理しないでください。友助さん、本当は今、とっても怖いはずです」

「そりゃあ、怖いさ。でも、人間なんてそもそも、いつ死ぬかわからない。病気で死ぬかもしれないし、事故で死ぬかもしれないし、他人に殺されるかもしれない、死ぬのは怖いけど、自分がどうやって死ぬのかなんて、その時になってみないとわかんないよ。だからヤヨイちゃんもとっとと旅の準備、終わらせちゃいなよ」

「旅の準備」

「ああ、ヤヨイちゃんはどこに行きたい?」

「友助さんがいればどこでも」

「そうじゃなくて、行きたい場所だよ」

「海...海に行きたいです」

「そっか、じゃあ、はやく準備を終わらせて、海に行こうよ!」

「はい...」

俺とヤヨイちゃんの住んでいる『エリアA』は内陸部だから海に行くとなるとかなり時間がかかるな。

旅の準備を終えた俺とヤヨイちゃんは自宅の戸締りをして海に向かって出発する。

俺とヤヨイちゃんの前にどこかで見た黒い車が止まる。

黒い車から杉本が出てくる。

「す、杉本さん!と、止めても無駄ですよ!」

「わかってるよ、そんなこと」

「じゃあ、何しに来たんですか?」

「自分の娘にお別れを言いに来ただけだ」

そっか、杉本さんはヤヨイちゃんの実の父親。

断罪刀との適合率が高いヤヨイちゃんを、すでに『組織』の一員だった杉本さんは『実験体』として扱うしかなかった。

「ヤヨイ、そんな怖い顔でにらむな、今日は俺一人だけで来たんだからさ」

「お別れの言葉、とっとと終わらせてくれませんか、『杉本さん』」

杉本さんがヤヨイちゃんを抱きしめる。

「離してください...」

「ごめんな、こんなダメなお父さんで」

「離してよ...」

ヤヨイちゃんが涙声で杉本さんを拒絶する。

「俺は『組織』のために、人類の平和を守る為に、娘であるお前を『実験体』にして『怪異』と戦わせた」

「そうよ...『お父さん』は自分の娘より『組織』と人類の平和のほうが大事だった」

「今、ムツキとウヅキとハヅキが『組織』を裏切ったナガツキとカンナヅキと戦ってる...」

「それを聞けば、私が『組織』に戻るとでも思ったんですか?」

「ありがとな、俺のこと久しぶりに『お父さん』って呼んでくれて」

「杉本さんはこれからどうするんですか?」

「俺はこれからも『怪異』から人類を守る為にできることをするだけだ。杉本、娘を頼んだぞ、ヤヨイも、元気でな」

「杉本さん!」

「なんだよ、友助、安心しろよ、俺はお前たちの邪魔をするつもりはねぇよ、俺はな」

「死なないでくださいよ!」

「けっ、相手は『怪異』と『ブレイズ』だぜ、無茶言うなよな」

杉本さんが黒い車に乗って、俺とヤヨイちゃんの前から遠ざかっていく。

「友助さん」

「なに」

「夕焼けがとってもきれいです」

「わぁ、本当だ」

俺とヤヨイちゃんの旅が始まった。

 

次回予告 第百八話 20××年 5月7日 




次回もお楽しみに

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