超地球救済戦記!真・ダンザイオーΩ〈オメガ>~戦争もやめねぇ!環境破壊もやめねぇ!バカで愚かな人類は身長170センチ以下で無職童貞ニートの俺が全員滅ぼす!~   作:かにグラタン

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第百十一話 20××年 5月7日 その4

第百十一話 20××年 5月7日 その4

 

「コウスケさん、私たちの家が大変なことになってしまいましたねぇ...」

「サユリ...まぁ、あれで命が助かっただけありがたいと思わんとな」

俺の父さんと母さんが、ナガツキちゃんに瓦礫の山にされた実家を前になにやら、ぶつぶつ言っている。

「すみません、サユリさん、コウスケさん、私がこの家に来てしまったばかりにこんなことになってしまって...」

「いや、別に、ヤヨイちゃんを責めてるつもりじゃないんだよ、実際ヤヨイちゃんが助けてくれなかったら、私とコウスケさんは今頃どうなっていたか...」

母さんが全身を震わせ、青ざめた顔でヤヨイちゃんを慰める。

母さんはヤヨイちゃんが断罪刀でナガツキの右肩や首を切り裂くの見てしまった。

あんなのを見せられれば、ヤヨイちゃんに恐怖心を抱いて当然だろう。

父さんはヤヨイちゃんそっちのけで瓦礫の山と化した実家を見て、独り言を言っている。

おそらく、目の前で連続で起きた人知を超えた非日常的な現実にショックを受けているのだろう。

ヤヨイちゃんは自分が俺の実家に来てしまったことで、俺の父さんと母さんに精神的なダメージを与えてしまったことに感づいているのか、父さんと母さんに向かって何度も謝罪している。

俺達が実家に来たばかりに、父さんと母さんは居場所を失くしてしまった。

父さんと母さんのためにも、俺とヤヨイちゃんはもう、ここにいないほうがいいのかもしれない。

「ヤヨイちゃん、とりあえず、ここから離れよう...」

「でも、私のせいで、友助さんのお父さんとお母さんが...!」

「俺たちはもう、ここにいるべきじゃない」

「でも、でも...」

「あの家は俺達家族にとって思い出が沢山詰まった宝箱みたいなもんだった」

「だったら!」

「今、父さんと母さんを巻き込んだことについて謝罪しても、父さんと母さんの心は救われない、だから、俺達が父さんと母さんのためにできることは、ここから立ち去って、父さんと母さんを当たり前の日常に返してあげることだけだ」

「でも、私の...せいで」

「結果的にはヤヨイちゃんとサツキちゃん達のおかげで俺と父さんと母さんは生き延びることができた。ヤヨイちゃんは悪くないよ...」

ヤヨイちゃんが膝を負って、子供みたいにわんわん泣き始める。

俺とサツキちゃんとキサラギちゃんとミナヅキちゃんもそれをただ見ていることしかできない。

俺だって泣きたいよ。

断罪刀『水無月』との適合率が低下して『怪物』と化したナガツキちゃんの肉体は、誰がどう見ても人間ではなかった。

『組織』に断罪刀との適合率低下を認められたヤヨイちゃんは近いうちに、自分がナガツキちゃんと同じ運命をたどることを確信しているはずだ。

ヤヨイちゃんが今、流している涙にはそれも含まれているのかもしれない。

ヤヨイちゃんだけじゃない、サツキちゃんだって、キサラギちゃんだって、ミナヅキちゃんだって、断罪刀との適合率が低下すれば、ナガツキちゃんと同じ運命をたどるのだ。

そして『組織』が完全に崩壊した今、断罪刀ととの適合率が高いか低いかを判断する手段もない。

目に見えない、異形への進化と恐怖が断罪刀の持ち主たちをこれからも苛むに違いない。

俺はナガツキちゃんが地面に落とした断罪刀『水無月』をキサラギちゃんの方に担がれているミナヅキちゃんに手渡した。

「友助...あ、ありがとう」

「何があったのか、よくわかんないけどさ、名前からして、ミナヅキちゃんは断罪刀『水無月』をナガツキちゃんに奪われてたんだよな?」

「ええ、そうだけど...」

「それで、ナガツキちゃんは一時的にせよ、断罪刀『水無月』と適合していた、その間、ミナヅキちゃんと断罪刀『水無月』との適合率っていうのは低下するもんなのか?」

「う~ん、もう『組織』が壊滅しちゃったから適合率の上昇と低下について、確かめるすべはないわね。でも、途中でナガツキと断罪刀『水無月』の適合率が低下したってことは、たぶん、まだ私と断罪刀『水無月』は適合しているんじゃないかしら?」

「そっか...ありがとな」

「なによ、急に」

「いや、なんだか気になっただけだ。それでみんなはこれからどうするんだい?」

「サツキさん、どうしましょう?」

「そんなのわかんないけどさ、とりあえず、杉本さんの望みはこれで叶ったと思うのよね、実質、断罪刀の使い手はみんな『ブレイズ』と敵対している私たちだけになったわけだから」

「でも、まだ『ブレイズ』にはアカリさんがいるわ」

「ミナヅキ...今、アカリさんの話は...」

「なによ、サツキちゃん、だって事実でしょう?アカリさんが『ブレイズ』に入ったのはヤヨイを仲間にするためなのよ!まだ、追っ手が来るかもしれないわ!」

「ミナヅキさんの言う通りです、『ブレイズ』はもともと『組織』を壊滅するために存在している会社だと聞いています、『組織』が壊滅したとはいえ、『組織』側の僕たちをこのまま野放しにておくとは思えません...」

「サツキちゃん、それって、つまり『ブレイズ』は断罪刀の使い手も、断罪刀もこの世界から消そうとしているわけかい?」

「断罪刀に関してはまだ、わからないけど、おそらく、友助の言う通りね、でも今すぐ私たち4人の断罪刀の使い手を殺したら、『怪異』の被害者を増やすだけだわ」

「そこがよく、わからないんだよな、『ブレイズ』は自分たちも『怪異』の被害に遭うことまで考えてるのかな?」

「でも、いくら私たちが『怪異』を殺してもさ、結局『怪異』が絶滅するわけじゃないのよね」

「それって本当かい?」

「ええ、ミナヅキの言う通り、『組織』はもう何百年も前から今と同じ方法で『怪異』と戦ってきたのよ、断罪刀さえあれば、持ち主が死んでも、別の適合者を探せばいいんだから」

「じゃあ、『怪異』と人間たちの戦いはこれからも永遠に続くってことかい?」

「未来のことはわかりません、でも僕たちはずっと『学校』で『怪異』と戦う意味や戦い方を教わってきました。僕たちが断罪刀に選ばれた人間が人々を不幸から救える特別な人間であると...」

「『学校』?」

「ええ、杉本が『実験体部隊』の専用施設につけた名前よ、おまけに私たちに『実験体』に断罪刀の名前までつけちゃってね」

「それじゃあ、君たちは今まで、ずっと『組織』で『実験体』って呼ばれてたわけ?」

「はい、杉本さんだけが僕たち、『実験体』を人間扱いしてくれたんです、そうですよね、ミナヅキさん」

「そう、だから、ヤヨイちゃん以外の『実験体』はみんな、杉本さんのこと好きになっちゃってね、そりゃあ、みんなであの手この手で争奪戦よ」

なんだ、杉本さんのやつ...なんて、うらやましいんだ...!

「でも結局、杉本さんにとって一番大事だったのは自分のことを嫌っている娘のヤヨイちゃんだった、だからカンナちゃんはふてくされて、『組織』を裏切って『ブレイズ』にいっちゃったのかもね?」

「ミナヅキさん...」

「心配しないで、キサラギ、私、あの世にいったらもう一度、杉本さんにリベンジするんだから!」

「この状況でそういうポジティブなことが言えるあんたがうらやましいわ...」

ヤヨイちゃんはまだ、ひざを折ったま、うなだれている。

「ヤヨイちゃん、とりあえず、前に進もう、海に行くんだろ?」

「でも、お母さんはきっと...まだわたしのこと諦めてません」

「とりあえず、『ブレイズ』の追っ手がここに来ると、父さんと母さんがまた、危ない目に遭う、だから行こうよ、海に」

「しかたないわね、『ブレイズ』は私たち3人でなんとかするわ、だから、友助とヤヨイはとっとと、海でもどこでも勝手に行ってきなさい!」

「ちょっとサツキ!勝手に決めないでよ!私、まだ歩けないんだから!」

「でも、『ブレイズ』にはもう、断罪刀の使い手はいません、僕たち3人の『断罪刀』の力を合わせれば、『ブレイズ』を壊滅させることができるかもしれません」

「ちょっとキサラギも!正気なの?」

「ねぇ、ミナヅキ、ヤヨイちゃんがこのまま『ブレイズ』に捕まっちゃったら、天国の杉本さんはどう思うかしら?」

「はいはい、わかりました~!でも、どっかで車椅子買ってこないと私、戦えないわよ」

「それじゃあ決まりね、私たちは『ブレイズ』の本部を探して襲撃することにしたわ」

「サツキちゃん、本当にいいのかい?」

「どっちにしろ私たち3人は追われる身だしね、それにいつ『怪物』になるかわからないし、お先真っ暗だし...もう覚悟ができたわ!」

「それではヤヨイさん、友助さんといい時間を」

「私はべつにヤヨイちゃんのためじゃなくて、杉本さんのために戦うのよ!」

「素直じゃないな、ミナヅキは。ヤヨイ、杉本さんが命を懸けて作ってくれた時間を無駄にするんじゃないわよ、じゃあね」

そう言って、サツキちゃんとキサラギちゃんとミナヅキちゃんは俺たちの前から離れていった。

サツキちゃんが言っていた通り、ヤヨイちゃんにはもう、あたりまえの時間は残されていない。

ヤヨイちゃんがもし『怪物』になってしまったら俺はどうするべきか?

もう、その答えを考えてる時間は、あまり残されていない。

 

次回予告  第百十二話 20××年 海

 

 

 




次回もお楽しみに!

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