超地球救済戦記!真・ダンザイオーΩ〈オメガ>~戦争もやめねぇ!環境破壊もやめねぇ!バカで愚かな人類は身長170センチ以下で無職童貞ニートの俺が全員滅ぼす!~   作:かにグラタン

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第百十二話 20××年 海

第百十二話 20××年 海

 

あの3人が去った後、俺はヤヨイちゃんを背中に担いで、海へと向かっていた。

おっさんが女子高生をおんぶしている光景はかなり珍しいのか、すれちがう人々から向けられる視線が胸に突き刺さる。

「ヤヨイちゃん...あのさぁ...」

「ごめんなさい...」

何度話かけてもこの繰り返しだ。

俺の実家が崩壊・炎上したこと。

俺の父さんと母さんを危険な目に遭わせたこと。

断罪刀『水無月』との適合に失敗して『怪物』と化したナガツキの姿。

そして、それはヤヨイちゃんにとって、そう遠くない未来の自分自身の姿でもあること。

自己嫌悪と自分が自分でなくなる恐怖にヤヨイちゃんの心は完全に壊れてしまった。

ああ、背中が痛い。

「ヤヨイちゃん、俺、もう疲れちゃったよ...」

「すいません、わたしがわがままを言わなければ、あんなことや、こんなことには...」

「そ、そういう意味じゃなくてさぁ、背中、背中がもう限界です...」

「私、重いですか?」

「重くないけど、重くないわけじゃない...かな?」

「それは重いって言うんですよ...いいです、私、どうせ重い女ですから...」

「いや、そういう意味じゃなくてさ」

「じゃあ、このまま、おんぶしててください」

「ふぇ?」

「いいじゃないですか...私、どうせこのまま『怪物』になって、軍隊とかに殺されちゃうんですから...死ぬまでに、わがままの一つぐらい聞いてくれてもいいじゃないですか...」

「そ、そうだね...ごめん」

「友助さんは私の気持ちに気付いてますか?」

「ど、どうしたんだよ、急に...」

「おんぶされた状態だと、友助さんの顔を見ずに話すことができます、だから今なら友助さんに言いたいこと言えそうな気がします...だからちゃんと答えてください...」

「そ、そりゃあ、なんとなくは...」

「友助さんの背中、あったかいです。私、ずっとこのままでいたいです」

「そ、それじゃあ、俺の背中と腰が死んじまうよ」

「なら、よかったじゃないですか、もうすぐ私が死ねば、友助さんの背中と腰は死なずに済みます」

「お、おかしな冗談を言うなよ...」

「私が怪物になって、軍隊に殺されて死んじゃうのは冗談じゃなくて、本当ですよ」

「ごめん、俺、もう君と何を話していいのかわからないよ...俺がなにを言っても、きっと君の心は救われない」

「ひとつだけ、ありますよ、私の心が救われる言葉が...」

「それって...」

「私からは絶対に言いませんよ」

「お、俺にはアカリさんが...」

「友助さんは本当に臆病者ですよね、答え、ちゃんとわかってるくせに、私の心を救いたいんじゃないんですか?」

「なぁ、でもさ、そもそもなんで君みたいな若い女の子が俺なんかのことを...」

「そんなの知りません」

「ふぇ?」

「理由が必要でしょうか?」

「確かに、何かを好きになるのに理由はいらないかもね」

「私、前にさっきと同じことをお母さんに言ったんです」

「理由が必要かどうかってこと?」

「はい。断罪刀との適合率が低下して、もうすぐ自分が死ぬことに気づいた私はお母さんにあることをお願いしました」

「あること?」

「死ぬ前に好きな人と一緒にいたいって、お母さんにお願いしたんです」

「う、うん...」

「それで、お母さんに私の好きな相手について聞かれました。私の答えを聞いたお母さんは私になぜ、その人のことを好きになったのか理由を聞いてきました」

「その時に言ったんだね」

「はい、私は『理由が必要でしょうか?』とお母さんに言いました」

「そうしたらお母さんは大笑いして、私のお願いを聞いてくれました。そして次の日になったら置手紙を残して家からいなくなっていました」

「じゃあ、アカリさんが家出したのはヤヨイちゃんのせい?」

「そうですよ、お母さんはもうすぐ死んでしまう娘のために、私が死ぬまでのあいだだけ友助さんを私に貸してくれたんです」

「じゃあ、ヤヨイちゃんはアカリさんに許可をもらって、ヤヨイちゃんが死ぬまでのあいだ、俺をレンタルしているってこと」

「はい」

「でも、ヤヨイちゃんさぁ、アカリさんが家にいたころは、ずっと俺によそよそしくなかった?」

「だって、普通、お母さんの再婚相手にアプローチしますか?」

「普通しないね」

「でも、自分がもうすぐ死ぬってわかったら、もう普通じゃないんです。だから、今、こうして友助さんにアプローチしてます」

「でも、それじゃあ、どうしてアカリさんは『ブレイズ』に入社したんだろう?」

「お母さんは『組織』を裏切って、『ブレイズ』に入社して『組織』を壊滅させることで私への罪滅ぼしをしたかったのかもしれません」

そっか、杉本さんもアカリさんも『組織』に所属していたばかりに断罪刀と高い適合率を出した自分の娘であるヤヨイちゃんを『実験体』にするしかなったんだ。

そして、そのせいで、ヤヨイちゃんはこうして今、苦しんでいる。

「そっか、アカリさんは『組織』を壊滅させることで、ヤヨイちゃんを実験体にしてしまった罪滅ぼしをしようとしてたんだね...」

「でも、そんなことしたら、この世界で生きる人々はみんな『怪異』に寄生されて、自殺してしまいます...『組織』の壊滅は人類が『怪異』に負けを認めるのと同じことなんです」

「いいじゃないか、負けちゃっても...」

「え?」

「どうせ人間いつかは死ぬんだ、それなら最初から『怪異』に負けを認めてるのと同じだよ」

「でも『怪異』を『断罪刀』で殺すことで救われる命もあります」

「うん、でもその『断罪刀』で救われる命のせいで、ヤヨイちゃんが苦しい思いをするのは間違ってるよ。ヤヨイちゃんだって、本当はそう思っているんだろ?」

「そう...ですね...」

「ヤヨイちゃん着いたよ、海に」

「海...ですね」

「でも、どうして海なの?」

「そのうちわかります」

ヤヨイちゃんがやっと俺の背中から降りる。

俺はリュックサックからレジャーシートを取り出して砂浜に敷いた。

俺とヤヨイちゃんはレジャーシートの上で体育座りをしながら海を眺めていた。

「俺、ヤヨイちゃんをずっとおんぶしてたから、なんだか疲れて眠くなっちゃったよ」

「お疲れさまでした、もう、ゆっくり休んでいいですよ」

「う、うん...おやすみなさい」

俺はそのままレジャーシートの上で横になって目をつぶった。

昼寝から目を覚ますと、空が茜色に染まっていた。

「俺、ずいぶんと長い時間、昼寝してたんだな、夕焼けが、まぶしい...あれ、ヤヨイちゃんは?」

昼寝をする前まで俺の隣にいたはずのヤヨイちゃんがいなくなっていた。

レジャーシートの上には俺と俺のリュックとヤヨイちゃんのリュックだけ。

砂浜にもヤヨイちゃんはいない。

そして俺の目の前には海があった。

なぜ、ヤヨイちゃんが海に行きたがったのか、なんとなくわかった気がした。

俺はすぐにその考えを否定した。

でも否定してすぐに、また俺の脳が俺の心に問いかけてくる。

なぜ、ヤヨイちゃんは海に行きたがっていたのか?

そう、『怪物』になって暴走したヤヨイちゃんが俺を守る方法はたったひとつしかない。

俺の脳裏にいつかのヤヨイちゃんの言葉がよぎる。

『私が...私が友助さんを守りますから...!』

次回予告 第百十三話 20××年 海 その2

 

 

 




次回もお楽しみに!

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