超地球救済戦記!真・ダンザイオーΩ〈オメガ>~戦争もやめねぇ!環境破壊もやめねぇ!バカで愚かな人類は身長170センチ以下で無職童貞ニートの俺が全員滅ぼす!~   作:かにグラタン

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第九十八話 20××年 5月3日 その2

第九十八話 20××年 5月3日 その2

 

報告書 20××年 5月2日 

20××年 5月2日、夜頃、『実験体9号』のGPS反応が途絶える、原因は不明。

情報漏洩の防止のため、上層部は『実験体9号』の処分と断罪刀『長月』〈ながつき〉の回収を『実験隊部隊』に要請した。

これに対し、『実験隊部隊』は『実験体11号』を『実験体9号』の処分のために出動させる。

『実験体9号』の捜索中に『実験体11号』のGPS反応が消失。

『実験体部隊』のスタッフと医療班によると『実験体11号』のGPS反応が消失した地点に『実験体11号』の死体が確認された。

『実験体部隊』は『実験体11号』の死体に断罪刀で切り付けられたような形跡が見られたことから、『実験体11号』は『実験体9号』に殺された可能性が高いと判断した。

『実験体部隊』は引き続き、『実験体9号』の捜索を開始した。

              *

20××年 5月2日 夜

「ひどいケガね、サツキ」

杉本が病室からいなくなってすぐに、薄紫色の長髪が特徴的なナガツキが病室に訪ねてきた。

「アンタが他人のお見舞いだなんで、なんかめずらしいわね」

そう、ナガツキは冷静沈着・傲岸不遜をまるで絵にかいたような少女だった。

「ねぇ、サツキは断罪刀の力を『怪異』以外のことに使ってみたいとは思わない?」

「ナガツキ...あんた...殺されたいの?」

私は病室内に盗聴器が仕掛けられていることをナガツキに対して示唆する。

「ああ...盗聴器のことね、いいわよべつにそんなの」

「別にって、あんたねぇ!」

「仮にここの軍人達が束になっても、断罪刀を所有している私たちに勝てるわけないんだから、サツキだってそれくらいわかってるでしょう」

「そういうことじゃないでしょ!その軍人の代わりにあんたを始末するのが誰なのかぐらいアンタにだってわかってるはずよ!」

「そうね、断罪刀の所有者を殺すことができるのは『怪異』か断罪刀の所有者だけ」

「そうよ、アンタは仲間に戦友を殺させる気なの?あんたを殺す仲間の気持ちを考えなさいよ!」

「単刀直入に言うわ、私はもうここには帰らない」

「そんな...ただでさえ、シワスがいなくなってみんな落ち込んでるのに、あんたまでいなくなったら私たちはいったいどうすればいいのよ!」

「シワス...フフッ」

「なにが面白いのよ!」

「だってその『シワス』とかいう名前も結局、本名じゃなくて、ただのコードネームでしょ、本当なら『実験体12号』って呼べばいいのに、杉本が上層部に非人道的だとかなんとかクレームつけて無理矢理みんなに『断罪刀』の名前のコードネームをつけて、それで断罪刀との適応率が落ちれば、たとえそれが自分の娘で廃棄でハイサヨナラ。あなたこそいつまで『こんなところ』にこだわってるわけ?」

「ナガツキ...確かにアンタの言ってることは一つも間違ってないわ」

「そんなこと言ってもいいの?盗聴器に録音されてるかもよ?」

「いいわよ別に、だってあんたはここで私が始末するんだから!」

私は病室のベッドから上半身を起こそうとするも、ケガのせいで体が全く動かない。

「あらあら、言ってることとやってることが矛盾してるわね」

そっかナガツキはこうなるのも予測して私のいる病室に来たのか...。

「私を殺したければ、とっとと殺しなさい。でもその前に一つ、お願いがあるわ」

「なに?」

「アンタは...アンタを始末しにきた仲間に殺されそうになったら...その仲間を本当に殺せるの?」

「その質問、もはや答えるまでもないわね」

そう言ってナガツキは病室から出ていった。

結局、ナガツキは私のことを殺さなかった。

だから私はナガツキのGPS反応が消えるまで、ナガツキのことを杉本に報告しなかった。

それにしても、あの冷静沈着・傲岸不遜をまるで絵にかいたようなナガツキが私のお見舞いに来たのにはいったいどんな目的があったんだろうか。

もしかすると、あれがナガツキなりのお別れのあいさつだったのかもしれない。

シモツキがナガツキの返り討ちにあって死亡したのを知ったのはその翌日の朝だった。

            *

20××年 5月3日

 

「たは~フルタイムってこんなに疲れるのか~」

バイト先のスーパーからヤヨイちゃんの待つ自宅までの帰り道の途中、俺はフルタイム出勤の恐ろしさをその身に味わっていた。

「でも、ヤヨイちゃんの手作り弁当おいしかったな~」

でも、家に帰れば、まだ俺には家事が待っている。

料理はヤヨイちゃんがしてくるとして、これで明日も出勤だと思うと先が思いやられる。

そしてその現状が、俺にアカリさんがいなくなってしまったことを想起させ、俺自身を追い詰める。

「ゔあああああああああ~ッ!」

俺は思わず空に向かって叫び声を上げる。

「痛ッ!あああッ!私のアイスクリームがぁッ!」

視線を前に戻すと、学校の制服に身を包んだ薄紫色の長髪が特徴的な少女が地面に落ちたアイスクリームを見て落ち込んでいる。

もしかして、俺が空に向かって叫んでいる途中で、この少女とぶつかってしまったのだろうか。

「あの、もしかして、そのアイスクリーム落ちちゃったの、俺のせい?」

「そうよ!道歩くときはちゃんと前見て歩きなさいよ!」

「ごめん、俺、弁償するよ、おいくら?」

「だめよ!今すぐ私に土下座しなさい!弁償するのはそれからよ!」

「ふぇ?」

バイト先でも担当者に土下座、そして公道でも女子高生に土下座、もう俺の人生いったいどうなってんだよ。

俺はとりあえず、薄紫色の長髪が特徴的な少女に土下座した。

そして土下座し終えた俺は女子高生からアイスクリームの値段を聞いて、財布の中身を確認する。

「あの~昨日お金降ろすの忘れて、財布の中身がすっからかんなんですが...」

「嘘ついても無駄よ!財布の中身見せなさい!」

薄紫色の長髪が特徴的な少女が俺の手から財布を乱暴に取り上げて中身を確認する。

そのついでに薄紫色の長髪が特徴的な少女は俺の財布から運転免許証を抜いて、目を通す。「高村...友助...!」

薄紫色の長髪が特徴的な少女の顔が俺を一瞬睨みつけるも、すぐににんまりと笑顔になる。「なるほど...これはこれで案外面白そうなことになりそうね」

「ふぇ?」

「いいわ、この時間じゃ、どの銀行も閉まっちゃっただろうし。そのかわり、明日またここで会いましょう?アイスクリームの弁償はその時にお願いするわ」

「いや、でもコンビニでお金おろせば...」

「だって手数料かかっちゃうでしょ?私がしてほしいのはアイスクリームの弁償だけよ」

「はぁ...でも俺、明日、バイトでなにかあって残業になったら、明日のこの時間にここに来れるかわからないよ」

「なら、連絡先を交換しましょう?」

「ふぇ?」

薄紫色の長髪が特徴的な少女がメモ用紙にボールペンで何か書き終えると、俺に一方的に突き出してくる。

「ほら、これ私の名前と連絡先よ。あなたの連絡先は?」

「携帯持ってないの?」

「持ってるわよ、でも、使うと位置情報が逆探知されちゃうのよ」

「逆探知?」

「ああ~もう!そんなのどうでもいいからとっと書きなさいよ、はいメモ用紙!」

俺はとりあえず、薄紫色の長髪が特徴的な少女からもらったメモ用紙に連絡先を書こうとするも、手元にボールペンがない。

「あの、ボールペンが...」

「はい!」

「あんがと。え~とっ、ほい!これ、ボールペンとメモ用紙。でも本当にいいのか?もし俺が君に連絡したり、君が俺に連絡したら、君が困るんじゃないか?なんかさっき言ってだろ、逆探知がどうとか」

「大丈夫、私こう見えて最強なんだから!じゃあね!いい歳こいたフリーターさん!」

「うるせぇ!」

薄紫色の長髪が特徴的な少女はボールペンと俺の連絡先を受け取ると足早に俺のもとを去っていった。

俺の手にあるメモ用紙には薄紫色の長髪が特徴的な少女の電話番号と名前が記されていた。

「桜乃ナガツキ...めずらしい名前だな」

 

次回予告 第九十九話 20××年 5月4日 




次回もお楽しみに

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