君を誘ったのは、お礼だけが理由じゃなくて。
ブルアカの二次創作は二回目なので生暖かい目で見守ってやってください……
※pixivにも投稿しています
夏。それは、暑くて、セミがうるさくて、エアコンの冷たい風と扇風機が恋しくなる季節。私は、今日も今日とて、対策委員会の部室で微睡んでいた。
後輩たちはそれぞれの用事がありここには居らず、珍しくひとりぼっちな室内でぽふぽふと枕に顔を埋める。
リゾートバカンスでの一件から早数日が過ぎ、気が抜けて少し疲れが溜まっていたのか、うつらうつらの内に時間が流れていく。
あと少し、もう少しで眠りが深くなり。私が目覚めるきっかけになったのは、こそばゆい頭を撫でられる感覚だった。
「ん……ん〜……?」
「あ……ごめんね、ホシノ。起こしちゃった?」
「いーよ、おじさんも寝過ぎちゃってたくらいだし…………で、いつまで撫でるの?」
「もう少しだけ、ね」
そう言って、微笑む先生を許してしまう私も私なんだろう。短くない付き合いの中で、色んなことがあって、私と先生の間には言葉では表現できない空気があった。
最初は弱さを許す優しさだけだったのに、積み重なって、紡ぎ出して、愛おしいものが溢れていた。
でも、最後の一線は互いに引いていて、もどかしさを感じる。曖昧であやふやだけど、確かにそこにある落ち着くもの。
「……何か用があったんだよね? あいにく、今日はおじさんしか居ないけどどうする?」
「そっか。じゃあ、先にホシノにだけ話しておこうかな。実はね──」
時折相槌を打ちながら先生の話を聞くと。なんでも百鬼夜行連合学院の自治区で、大きな花火大会が開催されるらしい。チケットさえ買えば他校の生徒でも自由に参加できる特別な催しの一つで、先生はお祭り運営委員会の子からチケットをプレゼントされたのだが、都合の合う生徒が居らず、枚数を持て余してしまっているとのこと。
なんというか、先生らしいなと思った。
リゾートの時、私たちは日頃の感謝の印や今までのお礼も兼ねて誘ったのに、あなたはそれすら返そうとする。
多分、チケットをプレゼントされたのは本当なんだろう。けど、枚数を持て余しているというのは、きっと嘘だ。わざわざ余分に融通してもらって、それを私たちに渡そうとしている。根っからのお人好しだ。
最も、そういう先生が好きだから、みんなが慕っているんだろうけどなぁ。
「うへへ〜……嬉しいね〜。それじゃあ、先生のお言葉に甘えちゃおうかなぁ?」
「そうしてくれると助かるよ。私も、お祭りを回るのが独りだと寂しいから」
「やだなぁ。おじさんたちが居なくても、先生だったら百鬼夜行の子たちがいるじゃん」
「どうかな? お祭りでみんな忙しかったり、それぞれ楽しんでたりするし、ひとりぼっちかも」
誤魔化すように笑って、どこまでいっても大人な回答をする先生。線引きした先にある見えない壁が邪魔で壊してしまいたいのに、それすら怖がる私は……臆病だ。
「……夕日が眩しいね〜、そろそろいい時間じゃない? シャーレのお仕事は平気? まだあるなら、お手伝いくらいできるよ?」
「気にしないで。もう少しくらいしかないから、平気だよ! ……じゃあ、他のみんなによろしく。私の方からも、モモトークで連絡は入れとくから」
「はいはーい。またね、先生」
「うん、またね」
去っていく先生の背中を見つめて、見えなくなった所で、また枕に顔を埋める。
浴衣、か。
ボソリと、一言そう零し、スマホをポッケから取り出す。私たちの意思に任せたかったからか、先生はあまり強く押さなかったが、誘ってくれた花火大会では、無料で浴衣の貸し出しと着付けをしてくれるらしい。
着て行ったら、喜んでくれるかな?
かわいいって、言ってくれるかな?
踏み出す一歩に、なれるかな?
期待と不安が混じる感情を、表に出さないよう蓋をしてみんなにモモトークを送る。
お祭りは、明後日だ。
◇
約束の日、みんなで百鬼夜行連合学院の自治区に向かった。他校の自治区に行くのは、シャーレの任務で珍しくないけど、こうやってのんびり回るのは初めてだ。
みんなも同じ気分なのか少し浮き足立った様子が目立つが、これも青春なんだろうと一歩引いて歩いていく。下駄を鳴らして、脇に並ぶ屋台を眺めながら行くのも新鮮だ。
「……ホシノ先輩、どうしたの?」
「何かありましたか〜?」
「ううん。ただ、浴衣を着て花火大会なんて良い青春だなぁ、と思ってさ」
「無料のサービスで着付けまでやって貰えるなんて凄いですよね!」
「少し時間はかかっちゃったけど、先生も浴衣姿が見れたら喜んでくれるでしょ!」
「ですね♪」
「ん、待たせてるかもだし早く行こう」
「だね〜」
一人一人違う色、違う柄の浴衣に身を包み進む。シロコちゃんは藍色と白の縦縞の浴衣。ノノミちゃんは薄黄色の布地にひまわりが彩られた浴衣。アヤネちゃんは鼠色ベースで水玉柄の浴衣。セリカちゃんは黒色ベースで波模様の浴衣。私は……水色の布地に金魚がいっぱい描かれた浴衣だ。
一目見て、これだと決めてしまったが、子供っぽかっただろうか?
いや……でも、先生はそんなこと言わないだろう。思わないとは言いきれないけど、口にはしない。そういう人なんだ。
「……あっ、あれ! 先生じゃない?」
「みたいたですね〜」
「急ぎますか?」
「転んだら危ないし、このままでいいんじゃないかなぁ?」
「賛成」
いつも通りと言うべき、私たちは私たちのペースで先生ともとに向かう。今日くらいスーツをやめればいいのに、昨日とは少し柄の違う物を着て、ネクタイだけ場に合った彩で引き締めている。
合流したら合流したで、オーバーリアクションで褒めてくれるんだから、本当に先生は先生だ。
「引率よろしくね、先生」
「任せて! 花火が良く見える場所、教えて貰ってきたから!」
「いいね〜」
なんて軽い挨拶から、アビドスの夏祭りが始まった。
◇
うずうずしながら先を急ぐシロコちゃんをセリカちゃんが追いかけて、ノノミちゃんが笑いながらそれについていって、アヤネちゃんもりんご飴片手に引かれていく。
一つの青春の在り方を前に、私は先生と隣合って、みんなの後ろ姿を見ていた。
別に、あの輪に入れないわけじゃない。一度の間違いがあっても、受け入れくれた子たちだと知ってるから。
純粋に、今、この瞬間の光景を、脳裏に刻み込んでおきたかっただけなんだ。来年には、同じ目線で見えなくなる世界をかけがえのないものとして、自分の心に収めたかった。本当に、それだけ。
「はしゃいでるね〜。お祭りだからかな?」
「お祭りは人の心も財布も軽くする魔法の力があるからね。そうかも」
「ふっふっふ、お金の用意は十分かな? 先生?」
「あはは……もしもの時はコンビニに駆け込むよ」
「冗談、冗談。なにかあったらおじさんもだすよ〜。先輩だし」
互いにからかいあうのほほんとした会話に気を取られていると、喧騒に混ざって、ブチリと嫌な音が響く。
恐る恐る足元に視線を向けると、最悪な予想通り、下駄の鼻緒が切れていた。
やってしまった、と思い先生に助けを求めようとした次の瞬間、体がふわっと浮いた。
「へ?」
「ごめんね。恥ずかしいと思うけど、少し我慢して」
「せ、先生!?」
「鼻緒、切れちゃったんでしょ? シズコに聞いた委員会のテントが近くにあるから、一先ずそこに急ぐよ。せっかく遊びに来たんだから、楽しまないと!」
真剣な表情なのに、どこか子供っぽい言葉選びで、何故か温かい。
不思議だ。こんな時の先生には勝てない。どんなに頑張っても下ろしてはくれないだろう。そうやって、早々に諦めた私は、恥ずかしさを紛らわせるように、巾着袋に入ったスマホを取りだし、みんなにモモトークでメッセージを送る。
返ってくるメッセージを見るに、みんなも思い思いに動いてるらしく。花火の時間になったら、先生が共有してくれた絶景スポットに集合ということで話が落ち着いた。
けど、こっちは……
「委員会のみんな、出払ってたみたい……ごめん、ホシノ」
「そ、そんなに落ち込まなくても……ほら! おじさん元気で怪我してないし! 先生にお姫様抱っこして貰えたし、一石二鳥……みたいな?」
「私がするお姫様抱っこ、そんなに需要あるかな……」
「ある! すっごくあるから! だから元気だして! せっかくのお祭りなんだし、先生も楽しもうよ!」
「……そうだね。もう一回、お姫様抱っこで行く?」
「それは流石に恥ずかしいし……ゆっくりここで待とう? もしかしたら、そんなに時間が経たない内に帰ってくるかもだしさ」
「わかった。ホシノがそう言うなら」
さっきまではあわあわ慌てて落ち込んだかと思ったら、私の言葉でこうも落ち着いてくれる。……全くもって、喜怒哀楽が激しい人だ。似て欲しくない所まで、重なって見えてしまう。どうして、どうしてこうも心動かされてしまうのか。
ユメ先輩と似てるから?
無意識の内に、先生とユメ先輩を重ねてるから?
わからない。もしかしたら、考えうる理由、全てが正解なのかもしれない。全部が合わさって上で、私は先生に揺らされているのかもしれない。
だけど、もしそれが『
感じる距離にもどかしさを覚えるのも、お姫様抱っこに恥ずかしさを覚えるのも、伝わる温度に温かさを覚えるのも。
恋が理由なら、ストンと自分の胸に落ちる。
「…………」
「…………」
委員会の人を待ち、歩いていた時と同じように隣合って座る私と先生。そっと、先生の方に手を伸ばしてみた。手に触れるのが怖くて、力なくスーツの袖を引っ張ってみる。視線を向けられた。でも、向けられた視線に合わせる勇気がなくて、それでも踏み込みたくて、腕に体重をかけてみる。
何も、言われなかった。
無言で受け入れてくれる寛容さが大人の器なのか、あなたの人柄なのかわからなくて、心がキュッと締め付けられる。──苦しい。
ずっと、ずっと。二人して黙ったまま時間だけが過ぎて、遠くなかった約束の時間がやってくる。
打ち上がる花火、鳴り響く轟音。
聞こえるか聞こえないかわからない、そんな微妙なタイミングが、私の背中を押した。
「好き」
「…………」
「大好き」
「…………」
「先生に会えて、良かった」
「…………」
反応はない。ギリギリセーフ、ギリギリアウト……今はどっちでもいいか。とにかく、先生には聞こえてなかったらしい、その証拠になにも返してくれなかった。
どうせだったら、さっきみたいに、「ごめん」の一言くらいくれてもいいのに──いや、不器用な私が悪いのかな。
自嘲気味な笑いが零れ、俯いていた顔をあげようとしたその時、見えてしまった。花火の光のせいではなく、赤面してるが故に真っ赤に染る先生の耳が。
「せん、せい?」
「……ホシノ、目を瞑って」
「あ、う、うん」
真っ暗な世界の中、胸の高鳴りと花火の打ち上がりがピークに達した時、唇に柔らかい感触が触れた。
緊張と嬉しさで更に高鳴ってしまう鼓動を必死に抑えたくて、でも全部吐き出したくて、先生の胸に頭を預けて、伝える。
「先生のことが、好き。大好き。ずっと、離れたくない。離して欲しくない」
「うん」
「生徒じゃなくて、子供じゃなくて、対等な関係が良い。寄りかかるだけはヤダ。頼って欲しい、頼られたい」
「うん」
「先生の一番は、私がいい」
「……良いの? 言っとくけど、私も結構面倒臭いよ?」
「嫌だったら、こんなこと言わないよ」
「……ありがとう、ホシノ。私も好きだよ」
「もっと言って」
「大好きだよ」
「もっと」
「……愛してる」
「……うへへ……私もだよ、せんせい」
花火が打ち上がる空に見惚れる人が居るように、私は先生に見惚れていた。先生も、私に見惚れていたと思う。
この先も、ずっと未来でも、私だけを見ていて欲しいな。なんて、夏祭りの夜に願っていた。