静寂のトゥインクル・ロード   作:おむつガチ勢

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少し戻って、ローランの視点から。


仮面

男は当てもなく敷地の中を彷徨う。

思い出されるのは、随分と昔のようでずっと最近の、自分の選択のことばかりだ。

「都市の苦痛が、そう簡単に断ち切られていいはずがないんだ!!!」

そう言って、男は友の首を撥ねた。ローランは、アンジェラを許さなかった。

その手で最後に犯した罪の感触は消えない。

 

時計を見ればまだ朝の6時15分。冬の寒さが身体を冷やしても、贖いきれない業がべったりと手について離れないような感触がする。

しかし、今はそんなことを考えている暇はない。現在自分が置かれた状況を把握するのが先決だ。

 

「そうだ、今はとにかくここが何処なのか調べないとな。焦ったって、事が好転する訳じゃない。それはそれで、これはこれなんだ。」

そうして少し冷気に身震いしながら幾ばくか歩を進めてゆく。

 

どうやらここは学校の校舎であり、遠くから聞こえる早起きな生徒たちの声からこの学校が体育会系であることが予想出来た。

考えにくいが、何かの特異点によって現実改変が発生している?あるいは俺が見ているこれらは幻覚なのか?

 

ああでもない、こうでもない…思案しながら歩いていると、ふと巨大な像の前で足が止まる。

 

「へえ、随分ご立派な像なこって。どれどれ?…三女神像。運命的な出会いをもたらすと噂されている、ね。」

 

まさか、そんなオカルトじみた話があるわけがない。そう男は切り捨てようとしたが…この状況を他に説明する要素が存在しない。

 

「有り得ない…いや、都市でも大概な技術はあったけどさ?まさかそんな運命を作り出すような特異点なんて…そんなものがあったら俺が縋りたいよ。」

 

現実に引き戻され、もともと低い気分が更に落ち込んだ。泣きっ面に蜂かと天を仰ごうとしたところで、彼の横に栗毛の少女(ただし、獣のような耳がついている)が立ち止まった。

「…何か用か?」少し考えて、とりあえず当たり障りのない言葉を返す。交渉は常に後出し、とにかく相手の言葉を待つに限る。

「おはようございます。そのバッチ…トレーナーさんですよね?」

彼女はどうやら、俺のスーツの胸に着いた金色のお堅いバッチに意識が向いているらしい。

「(トレーナー、ね。このバッチがそれである証なのか。果たして何のトレーナーなのか…普通に考えれば、この子達のだろうけどさ。)」

「…ああ、そうだ。ちょっと早く目が覚めてさ。散歩がてらぶらついてたんだ。」

「なるほど。…あの、もしお邪魔でなければ、なのですけれど。」

 

「何だ?」

 

「一緒にお散歩、行きませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺なんかで良かったのか?君一人で走っても良かったんじゃないのか?」

 

「それは、そうですけれど…折角、お会いしましたから。何もせずに終わるのも、勿体ない気がしたんです。三女神様が私たちを引き寄せたのかもしれませんし。」

そんなふうに話す、どこか儚げな少女の名はサイレンススズカと言うらしい。姓名的にはサイレンスが姓、スズカが名にあたるとのことなのでとりあえずスズカとか、君とか呼ぶことにした。

 

「俺は迷信はあんまり信じてないよ。信じるのは悪いことだと思わないけどさ。」

 

「そうですか…結構、みんな不思議な体験をしているみたいですよ?」

 

「例えば、どんなだ?」

 

「そうですね…有名なものだと…」僅かに思案して、彼女はこう続ける。

「三女神像の前を通りがかったら不思議な力を貰った、とかは…結構有名ですよ?名を上げるウマ娘は何人も同じような体験をしているみたいですから。」

 

なんとも胡散臭い話ではある。が、複数人の経験者がいるのなら信憑性もあろうというもの。やはり俺をここに連れてきたのはこの三女神とやららしい。

「なるほどな…噂には聞いちゃいたけど、本当にそんな話もあるんだな。何かあやかれませんかねえ?」

大層に肩を竦めて見せる。

「ふふ…そう上手くいくものかしら?」

 

「言ってみるのは無料だからな。もしかしたら女神さまの耳に入るかもしれないし。」

 

「そうね、確かに。…ああ、お話していたらもうこんな時間!」

スズカの言葉に反応し、校舎に付いている大きな時計に目をやればもう6時45分。完全に朝日が登り、朝練に出向く生徒たちの声も幾分か賑やかになってきた。

 

「この後、スペちゃん…ええと、友人と朝食を食べる約束なんです。」

 

「おっと、それは悪いことしたな。急いで転ぶんじゃないぞ?」

 

「はい。…ああそうだ、トレーナーさんのお名前、聞いてませんでした。教えて頂けますか?」

 

「あー…ローラン。そう、トレーナーのローランだ。」

ここで下手に隠す道理もないし、普通に教える。人の繋がりは何よりも大事なことを、俺は知っている。

 

「ローランさん、ですね。楽しかったです。またお話、させてください!」

そう言って、栗色の髪の少女…もとい、サイレンススズカは小走りで走り去っていった。

 

 

ーーーそうだ、いつも通り。冗談が言えて、それなりに人当たりのいい「ローラン」を演じるだけでいい。この夢が終わったら、その時が俺の最期だ。どうしようもなく醜い俺が、「ローラン」の仮面を被るのは最後なのだから。

 

その背を見送る男の、どうしようもない苦痛を知るものはまだ居ない。




だいたい3話(次の話)まで前日譚→そこからほんへスカウト編に移行します。
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