鬱屈とした都市の、誰も寄り付かぬ路地裏の下水道に一人の男が浮いていた。

彼の背には、十と二の”報復”が突き刺さっていた。

見知ったものの剣。
顔も知らぬものの槍。
仇だったものの斧。
友だったものの短刀。
その他にも、様々な憎悪が彼の背に突き立って居る。
彼はただ一度、都市の苦痛の輪を断ち切ることができなかった。あと僅かに勇気が足りなかった。
「だから言っただろ、ローラン。殺しすぎてしまえば、何が何だか分からなくなるって…」

そうして、ローランという男は静かに忘れられた。

時として栄光は、思いもよらぬ悲劇によって塗り潰されてしまう。
それは11月1日、天皇賞・秋でのことだった。

ーーーサイレンススズカに故障発生!故障発生!何ということか!4コーナーを迎えることなくレースを終えた!沈黙の日曜日!!

勝利を確信された一頭の馬がいた。彼の名はサイレンススズカ。
”異次元の逃亡者”と謳われ、その逃げて差す、影すら踏ませぬほどの疾さで駆け抜ける走りは観衆たちの目を奪い、歓声を呼び起こした。
しかし、今日の東京競馬場は酷く静かだった。
何者もが、沈黙した。

だが、彼らに”もしも”があるとすれば?
君はそんな夢物語を望むだろうか?
であれば、この御伽噺を聞いていくといい。
「沈黙」の名を冠する2つの魂が交わり、共に輝ける道を往く様を。
  栄光の始まり
  仮面
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