郭神琳「マギを失えばHUGEは巨体を維持できずその場で崩壊するはずよ。軟組織は一晩もあれば無機物にまで分解され、骨格も数日で……」

ワイ「それアルトラ級に適用したらどうなるか分かってる?」

そんなアサルト与太話



pixivにも画像として投稿してあります

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アルトラ級のあとしまつ

 アルトラ級。全長400メートルとも1キロメートルとも言われる大怪物。S級ネストの主にしてHUGEたちの親玉。ノインヴェルト戦術のマギスフィアを複数発撃ち込んでようやく仕留めることのできるバケモノ。今回はそんなアルトラ級を考察していこうと思います。

 

 

 

アルトラ級のスペック

 

 何はともあれ読者の方々と筆者の間で想定を共有しておかなければ話が進まないので、仮想アルトラ級HUGE(命名:アルト君)を考えていきます。

 

 形はアニメに倣ってヒト型、全長は……切りよく1kmとしましょう、これを出発点とします。

 さて、ヒト型身長1kmの重量を計算しましょう。だいぶ強引ですが、HUGEの身体構造をヒトと同一のものと考えることにします。標準的な体型の身長2mの人は88kgの体重です。そして、体重は身長の3乗に比例します。立方体を相似拡大すると体積は3乗になりますね? 同じ理屈です。なので身長1kmのヒト型の体重は1.1×1010 kg = 1100万トンになります。わーお。

 いきなりアホな数字が出てきてしまって困惑しています。

 

 身長1kmのアルト君ですが、これだけ身長が大きいと相当な範囲を見渡すことができます。こっそり近づいてノインヴェルトを撃ち込んで仕留める? ハハッ! ご冗談を。1kmの高所から周囲を見渡したとき、水平線地平線までの距離はおよそ120kmになります*1。もちろんこれは完全に平坦な地形を想定しているわけで、実際は山などがあるのでそこまで遠くは見えません。ですが、これは見たい物の高さが0mだったときのお話です。見たい物の高さが高くなればなるほど、地球の丸みに隠れることができなくなるので、ガンシップなどで近づくのはバレバレです。強襲ならいけるかもしれませんが奇襲は諦めてください。

 

 遠くまで見通すことができても視力が足りなければ見えないのでは? と考えた近視のあなた。鋭いと思います。

 アルト君の視力を考えましょう。視力とはすなわち、一定距離にある2点を見分ける分解能のことです。一般的に、光学系の分解能は対物レンズの口径に比例します。眼球における対物レンズは水晶体でしょうか(角膜かもしれません)。とにかく、身長が500倍の相似拡大ならレンズ直径も500倍です。直径5mとかになるので宇宙観測用の望遠鏡並みです。視力はレンズ直径に比例するので、一般人の視力1.0としてアルト君の視力は500です。この視力だと、分解能は約0.12秒になります(1秒は1°の360分の1)。これは、1km先の距離にある0.6mmの物体を見分けることができるということ。要するに、100km先の6cmの物体が見えるということです。ますます奇襲が無理になりました。

 というわけで、アルトラ級を奇襲したかったら山などの地形に隠れて近づくか、森などの障害物で視線から隠れながら近づいてください。見つかったら熱線が飛んできて蒸発です。

 

 

 

 

アルトラ級のあとしまつ(微生物によらない有機物の分解)

 

 さて、我々は無事アルトラ級を討伐することに成功しました。しかしながら、死亡したHUGEの巨体は、わずか一晩で無機物にまで分解してしまうとの情報があります。「無機物に分解する」とはどういうことか。有機物の分解とは、突き詰めていえば二酸化炭素と水への変換とも言うことができます。要するに有機物を酸化することであり、急激な酸化のことを一般的に燃焼、と呼びます。

 もうおわかりと思います。アルトラ級の死体はそれ自体が巨大な爆弾になる可能性を秘めていると言うことができるでしょう。

 

 当然のことですが、HUGEがどのような成分で構成されているかなどという情報はまったく公開されていないので仮定をいれます。(脚本の人そこまで考えてないと思うよ画像略)

 ヒト型のアルトラ級を仮定したので、構成成分もヒトと同じと仮定しましょう。ヒトの材料といえば、「水35L、炭素20㎏、アンモニア4L、石灰1.5㎏、リン800g、塩分250g、硝石100g、硫黄80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3g、その他少量の15の元素」のフレーズが有名ですが、これだけでは計算に支障があるのでしっかりとした元素ごとの表を参照して考えます。

 

 

人体構成元素重量%
酸素61
炭素23
水素10
窒素2.6
カルシウム1.4
リン1.1
硫黄0.2
カリウム0.2
ナトリウム0.14
塩素0.12
マグネシウム0.027

表1 人体を構成する元素とその割合*2

 

 

 表1にはマグネシウム以下にストロンチウム、臭素、鉛……と続きますが、あまりにも微量すぎるので割愛します。リンまでで99%に達するのでそれより少ない成分は誤差みたいなもの。

 巨人の肩から見渡すことで、HUGEの構成元素(仮)が分かりました。しかし、人間そのままの造形で考えると、「軟組織は一晩もあれば無機物まで分解され」*3という台詞との矛盾が発生します。動物の死体は一晩で勝手に骨になったりしない、美味しいお肉が大好きな皆さんはご存じですよね。あっという間に分解されてたら食べることもできませんもの。このことから、HUGEの組織は普通のタンパク質などではなく、マギで保持される「何か」で構成されていると考察することができます。

 

 今回は「原子一つ一つをマギで保持、組み替えを行うことによって生体機能を発現させている」という仮定をします。通常であれば化学結合によって維持されている分子が、化学結合の代わりにマギでくっついている、と考えてください。このことは、化学結合では安定的に存在できないが優秀な特性を発揮する分子構造を使うことができる、という利点があります。(そんな分子があるかは知りません)

 原子をマギで無理矢理保持する以上、マギの保有者であるHUGEが絶命した瞬間から崩壊が始まります。当然ながら、マギは体表面側から空気中に放散されるのでしょう。マギの抜けた後に残されるのは単原子がむき出しで置かれたよく分からない状態ですが、これは反応性が高いため速やかに近くの原子と結合して分子を形成します。

 

 

 雑多な計算を行う前に、水について考えます。人体の構成要素(この与太話ではHUGEの構成要素でもある)において、重量にして60%は水といわれています*4。HUGEが水辺を好む設定とあわせて考えれば、この水分は水(H2O)として保持していると考えるのが妥当でしょう。

 よって、アルト君の体重1100万トンの60%、660万トンは水分となり、反応から除外されます。残った440万トンが反応して種々の反応生成物となるわけなので、これを計算します。

 

 

HUGE構成元素重量(万t)重量%
炭素253 62.16
酸素84.3 20.72
水素36.7 9.01
窒素28.6 7.03
カルシウム15.4 3.78
リン12.1 2.97
硫黄2.2 0.54
カリウム2.2 0.54
ナトリウム1.5 0.38
塩素1.3 0.32
マグネシウム0.3 0.07

表2 水分を除いたアルトラ級HUGE*5の成分表

 

 表2は水分を除いたアルトラ級HUGEにおける元素別の重量と重量分率です。真夏の道路でたまに見かけるミミズのように、カラカラに干からびた状態です。

 炭素だけで253万トンもあるので計算結果がアホな数字になりそうな予感しかしませんね……。

 

 

 

 

こいつ、死んだ後の方がやっかいなのでは?

 

 ではアルトラ級の分解における放出熱量を計算しましょう。ほんのちょっぴりだけ熱力学の話が出てきますが、分からなくても結論には影響がありません。

 

 物が燃えたときに発生する燃焼熱は「生成物の生成エンタルピー」と「反応物の生成エンタルピー」の差で表されます*6。細かい計算は省略しますが、アルトラ級の巨体が完全燃焼*7したときに発生する熱はおよそ3.60×1017J(ジュール)*8になります。接頭辞を使って表すと約360PJ(ペタジュール)です。

 これは100万kWの発電量を持つ原子力発電所が11.4年かけて発電するエネルギーに匹敵します。消費側で言うと2300万世帯の1年分の電気エネルギーとほぼ同等になります。

 また、熱エネルギーを発生させるということは爆弾みたいなものなので、よく聞く「TNT換算量」に直すと、85.84Mt(メガトン)になります。史上最大の爆弾として有名な「ツァーリ・ボンバ」が50Mt相当なのを考えると、かなりヤバ目のシロモノだということが分かっていただけるでしょうか*9。

 

 さて、「軟組織は一晩もあれば分解され」の台詞の通り、一晩かけて360PJの熱量が放出されることとしましょう。「一晩」がどのくらいの長さなのかは皆さん持論があると思いますが、ここでは10時間としましょう。つまりは寝て起きたら死体が骨だけになっていた、みたいな想定です。

 360PJを10時間=3600秒で割ると、1秒あたりの放出エネルギー*10が判明します。100TJ/s *11です。J/s = W(ワット)なのでやはり発電所と比較するとわかりやすいでしょう。

 

 上で挙げた100万kW級原子力発電所1基で発電される電気エネルギーは1GWです。100TW = 100000GWなので、出力だけを考えるなら原子力発電所10万基分のエネルギーです。うーん、この熱でお湯を沸かしてタービンを回すことができればエネルギー問題は解決するかもしれません! 熱効率を30%と仮定しても、原子力発電所3万基分です! 電気代なんてタダになりますよ!

 問題点は10時間ごとに燃料であるアルトラ級の死体を放り込まないといけないところ。電力会社社員のリリィが外からマギを送り込むなど、燃料を長持ちさせる工夫が必要でしょう。(アサルト冗談)

 

 

 話が逸れました。単位時間あたりのエネルギー出力を計算したことで、その被害規模を爆弾と比較することができます。

 爆発の規模を直感的に理解するのに便利な量として、TNT換算量があります。これは爆発に関与する可能性のあった爆発物の総エネルギーを、同じだけのエネルギーを発するTNT火薬の重量に換算した値です。核兵器の威力を表す単位になっていたりもします。

 

 上で算出した100TWという値ですが、このエネルギーはTNT換算量で23.9kt(キロトン*12)となり、TNT火薬23900トンが毎秒爆発しているのと同じだけのエネルギーを生み出していることを示します。

 そして、この23.9ktという値にふさわしい比較相手は……ファットマン! 君に決めた!

 

 長崎に投下された核爆弾、ファットマン*13の核出力は21kt*14でした。2ktも違いますが10%くらい誤差です。誤差。

 ただし、あくまで死体の分解は化学反応であって核反応ではないので、核爆弾につきものの放射線による影響はありません。不幸中の幸いです。それ以外はたいして変わりませんが。

 それにしても化学反応で核反応に匹敵する出力を発生させるとは、質量の暴力ここに極まれり、です。単純計算で毎秒12万トンの軟組織が分解しているわけで……12万トン!? そりゃあ出力も核爆弾並みになりますわ。

 

 何が恐ろしいって、これは毎秒のエネルギーの話なわけで。10時間連続でこのエネルギーが解放され続けるので恐らく周囲は地獄絵図です。御台場迎撃戦では天葉様のフィニッシュショットで巣無しのアルトラ級を仕留めたらしいですが、光壁システムの範囲外にある国際展示場やら埠頭やらはボロボロですね。このエネルギーに耐える光壁システムは一体何者なんだという話になりますが。そういった備えも何もなしに倒してしまった佐渡島ではたぶん山火事とか発生してハゲ山になったのでは、みたいな妄想もあります。

 

 

 次に、化学平衡計算プログラム(CEA*15)を用いて分解時の火炎温度を計算しました。

 マギの拘束から解放された単原子は、その瞬間周囲の何者とも結合していないため気体と見なすことができます。それまでマギにつなぎ止められ固体として振る舞っていた原子が気体へと変化するわけなので、当然圧力が急上昇します。およそ3500気圧! そのときの火炎の温度はおよそ6000℃*16!

 ちなみに、3500気圧なのは0℃の時で、6000℃まで温度が上がると気体は79400気圧まで昇圧されます*17。密閉空間ではないので、大気中に逃げ出す気体もあって実際にはもう少し低いはずですが。

 

 高圧の気体が瞬間的に周囲へとまき散らされる現象。そう、爆発です*18。

 毎秒気化する部分の体積は3120m3、79400気圧が1気圧に減圧するためには半径が43倍(球体の場合)に増加すればよいのでそこから計算すると……389m先まで離れれば1気圧ですね!(押しのけられる空気及び連続して発生する気体は無視するものとする)

 広島に落とされた核爆弾と同様に、放出されたエネルギーの50%が爆風に変わったとすると、中心部の風速は400m/s、600m以内に立ち入った人のうち半分は鼓膜が破裂します。300m以内に100秒以上とどまる場合、生存はほとんど期待できません。生き延びたければ、アルトラ級を仕留めたらすぐさま反対方向に走って逃げることをオススメします。爆発が起こる前に圏外へ脱出するには、音速並みの速度で全力ダッシュです。

 

 

 

 放出されたエネルギーのうち、残りの50%は熱線として、光の形で放出されます。化学反応なのでいわゆる放射線は出ません。安心ですね!

 アルトラ級の死体の発する火炎の温度で、発生する光の波長でもっとも多いのは460nm付近です。青~紫に相当する波長が最も多いので、この火炎はほとんど真っ白に見えます。当然ながらそれよりも長い波長の光も大量に出ているわけですが。

 

 光の形で放出される50TWのエネルギーがどのように周囲に対して作用するかを考えるために、アルトラ級を同じだけの体積を持つ半球と仮定しましょう。表面積の数字が必要なので計算ができる形に直すためです。半球なのは地面に横たわった死体だからですね。

 アルト君の体積は1.12×107m3です*19。これを半球に直すと半径175mで、地面と接していない部分*20の表面積は1.92×105m2になります。丸めると20万平方メートルです。

 

 表面積が分かったので、単位面積あたりに放出されるエネルギーを計算することが出来るようになりました。一平方メートルあたりのエネルギーは250000000(2.5×108)W/m2です。太陽光が1366W/m2であることを考えると、とんでもない出力であることが分かります。日焼けするってレベルじゃない*21。

 さて、この値を平方センチメートルあたりに直すと2.5×104W/cm2となります。光のエネルギーは距離の2乗に反比例することをあわせて、どのくらい離れることができれば安全かを考えてみましょう。安全の基準は太陽くらいのエネルギーまで減衰する地点です。

 

 計算しました。太陽光レベルの0.1366W/cm2まで減衰する距離は74865.66…m ≓ 75km 先になります。佐渡市で倒したアルトラ級のせいで新潟市がぽかぽか陽気になるってマジですか?

 ここまで計算して、安全圏まで75kmもあったらアルトラ級にとどめを刺したリリィの生還が絶望的になるのでは、と気づいてしまいました。いくらリリィでも光速より素早く移動できるわけもないでしょうし、遮蔽物に隠れても周りの空間ごと蒸し焼きにされそうです。

 

 うーむ、ここはリリィの防御力に賭けるしかなさそうです。リリィは防御結界を纏っているので、常人よりも遥かに防御力が高いことがよく知られています。そのおかげでHUGEと渡り合えるわけですね。

 防御結界が死の光を少しでも弱めてくれることを祈って全力ダッシュですが、耐えるにしても限度があります。無限に耐えることができるならHUGEの攻撃なんて効かないので当然ですが。

 リリィの防御結界については、どのくらいの防御力があるのかはっきりとした描写がない*22ので分かりません。仕方がないので、ここでは皮膚やら何やらが炭化するレベルのHUGE熱線を1発防ぎ、2発目で割れ、3発目で被弾すると仮定しましょう。

 

 人体はほとんど水でできているので、比熱*23は水と同じとして差し支えありません。炭化するのは水分が全て蒸発してしまうからですしね。水の比熱は4.2J/(K・g)なので、1グラムの水の温度を1度上昇させるのに必要なエネルギーは4.2Jとなります。

 炭化するには水分を完全に蒸発させないといけないので、HUGE熱線を照射された部位は単純に1000℃まで上昇することにしましょう(適当)。熱線の直径は10cm、照射時間は1秒です。炭化の深さは1cmとしましょう。

 炭化部位の体積は314cm3 ≓ 314g、上昇温度は965℃なので、皮膚の吸収係数を0.95として計算すると、HUGE熱線の持つエネルギーは1.34×106Wとなります。単位面積あたりに直すと4266W/cm2です。

 

 おお! だいぶマシになりましたね! アルトラ級の死体から放射されるエネルギーがこの数字まで減衰するのは死体からおよそ250m離れた地点です! 音速並みの速度が必要ではありますが、リリィともなれば250mくらいなら反応が始まる前に走って逃げることができるでしょう。縮地S級の保持者はレギオンメンバーを助けるためにレアスキルと固有技の発動を頑張ってください。

 なお、この想定だと2秒後には防御結界が割れてリリィの黒焼きができあがるので、もっと頑張って離れたいところではあります。耐えることのできる時間を10倍の20秒にすると、離れなければいけない距離はおよそ1.2km。ここまで離れてようやく、リリィがウェルダンにされることを防ぐことができます。(防ぐことができるとは言っていない)

 

 

 うっかり巻き込まれた時に備えて、常人に耐えることができそうな距離を考えてみましょう。やけどまで行かなくとも、体温が40度になるだけで甚大なダメージがあります。熱中症を考えるとわかりやすいです。なので、平熱36℃から40℃まで温度が上昇する照射エネルギーの地点を「かなり危険」ゾーンとします。

 1gの水の温度を4℃上昇させるのに必要なエネルギーは16.8Jで、皮膚の吸収係数は0.95なので、6.4km程度離れれば毎秒4℃の体温上昇で済みます。でもよく考えたら毎秒4℃の体温上昇って助からないヤツでは? 2秒後には体温44℃、3秒後には48℃です。アツゥイ!

 ちょっと失敗したので毎秒0.1℃の上昇に抑えることのできる地点を探しましょう。このくらいなら水をかぶっていれば何とかなるでしょう(なるよね?)。計算すると、41.5km離れたところなら大丈夫そうです。巻き込まれた一般人にはなりたくないですね。

 

 

 御台場迎撃戦で例えましょう。アルトラ級の死体から20km離れると、受けるエネルギーは1.88W/cm2となります。太陽光の14倍ほど強力ですが、毎秒0.5℃の温度上昇ならなんとかなるでしょう。この距離でも熱が拡散しなければ最終的に1800℃の温度上昇があるはずですが、現実には熱はいろいろな形で逃げていくので大丈夫です。(大気も加熱されるので熱が逃げにくい環境です。計算してませんが最終的に900℃くらいになるんじゃないでしょうか)

 

 疑似ネスト・大ケイブが現れた若洲にアルトラ級が居たとして、20km圏内は新宿、渋谷、千葉県は海浜幕張駅や船橋市の一部を含み、横浜の埠頭がギリギリ収まらないくらいの範囲になります。千代田区などはダメですね。都庁も範囲内なので、エリアディフェンスシステムに大きな穴が開く*24でしょう。

 

 でも安心してください。我らが御台場女学校には光壁システムがありました。光壁で遮ることができれば、都内は無事です。\光壁があってよかったぜ!/ \光壁万歳だ!/

 

 都(・)内(・)は(・)、無事です。

 光壁システムに守られていない羽田空港や横浜港、千葉県側*25は御台場迎撃戦の終わったあとで燃えたりするのでつらい。あと日本一の貿易量を誇る東京港が光壁システムの外側なので、御台場迎撃戦の後で輸入量が激減して日本はもうダメです。海洋貿易国家なのに港湾防衛も満足にできない防衛装置の配置とか恥ずかしくないの?  

 

 

 

 ここまでの結果を踏まえると、地上でアルトラ級を倒すのはやめた方が良さそうです。避難が済んで人の居ない地になっていた佐渡島はともかく、都会で仕留めるのは原爆級の被害が出そうです。

 都合のいいことに、アルトラ級は水辺の近くに出現する傾向があります。水中に居る間に倒してしまうことで、水で冷却が可能になるかもしれません。湖など、小さな水塊だと丸ごとお風呂になってしまう可能性もありますので注意がいりますが。

 

 大きな水辺を計算していきます。まずはBOUQUETで最後に倒したアルトラ級のいた相模湾を想定しましょう。相模湾の面積は2450km2、水深は平均300mとしましょう。よって、冷却に使用できる水の体積は7.35×1017cm3となります。これを熱線の形で放出される180PJで割ると……、温度上昇は0.25℃!*26 やりました! やはり自然の力は偉大です! 相模湾全体がおいしい鍋になる事態も避けることができて万々歳です。海鮮鍋を期待していそうな天葉様には申し訳ないですが……。

 

 比較して、湖の方はどうでしょうか。全国の湖を比較してみましょう。。

 温度上昇は貯水量に反比例するので、貯水量ランキングを下がっていきます。

 

 

貯水量ランキング名称貯水量(km3)温度上昇幅(℃)
1琵琶湖27.5 6.65
2支笏湖20.9 8.60
3洞爺湖8.19 21.96お風呂の壁
4田沢湖7.2 24.98
5猪苗代湖5.4 33.30
6十和田湖4.19 42.92
7摩周湖2.75 65.39鍋料理の壁
8屈斜路湖2.2 81.74
9池田湖1.38 130.31蒸発の壁
10サロマ湖1.3 138.33
ランク外霞ヶ浦0.6 299.72

表3 全国の湖における貯水量と温度上昇幅

 

 

 琵琶湖と支笏湖以外は水温が上がりすぎて水生生物は全滅です……。湖に営巣しているネストを仕留めるとその湖が蒸発する可能性が高いって、もう自然環境はダメですね。蒸発した水分は当然ながら雨になって地上に戻ってくるので、アルトラ級を倒した後しばらくは大雨に注意が必要です。

 

 その雨も恐らくやっかいなものになるでしょう。

 一体のアルトラ級に含まれる硫黄は2万2000トンですが、これが酸化して発生する大気汚染物質であるところの硫黄酸化物SO3*27は5万5000トンになります。いわゆる硫黄酸化物がどのような環境問題を引き起すかというと、PM2.5の主成分だったり酸性雨の原因になったりします。

 硫黄酸化物5万5000トンが全部酸性雨になったとすると、pH3.7の酸性雨を関東全域に200mmの雨量で降らせることができます。より強力なpH2.7であれば雨量20mmですね。コンクリート溶けちゃう。

 燃焼による大気汚染物質としては他に窒素酸化物(NOx)がありますが、燃焼生成物として無視できるくらいの量しか生成しなかったためここでは無視します。

 

 

 

 

 アニメBOUQUETでは未だ軟組織の残るHUGEの死骸の間を一柳隊が歩いていましたが、あなたがリリィでないならばやめておいたほうが無難です。リリィでも、毒ガスを無効化できないのであればうかつに近づくのはやめましょう。

 なぜならば、HUGEの燃焼ガスには一酸化炭素とシアン化水素*28が多量に含まれているからです。ものを燃やした後で発生する二酸化炭素も濃度が高くなると危険ですが、一酸化炭素とシアン化水素は毒性がそれと比較にならないくらい高いからです。

 二酸化炭素は空気中に2%あっても頭痛程度で済みますが、一酸化炭素だったらそのまま目を覚ますことはないでしょう。シアン化水素に至っては0.027%であの世行きです。

 

 HUGEの分解に伴って発生する気体のうち、重量にして37%を一酸化炭素が、16%をシアン化水素が占めています。ちなみに無毒な窒素は30%です。残りは雑多な気体*29です。

 

 アルトラ級1体から発生する一酸化炭素の重量は242万トン、シアン化水素は129万トンです*30。熱量よりもこっちの方がマズい気がしてきたぞ???

 一酸化炭素は2.9億人を殺すことのできる量ですし、シアン化水素は74億人を殺せるだけの量があります。アルトラ級一体倒しただけで人類滅亡ですか!?

 

 安心してください。地球の大気は5.3×1015トンの質量があるので、きちんと拡散させた場合にはシアン化水素濃度は0.0000024%となって、全くの無害になります。きちんと拡散できれば、ですが。

 これらの毒ガスは可燃性なので燃やして二酸化炭素と水と窒素に変えてしまうのもいいかもしれません。その場合、うかつに火をつけると爆発することがある気体なので十分に注意*31してください。

 

 燃やしたら燃やしたで影響があるのがひどいところ。とはいえ短期的には一番マシです。

 炭素が253万トンもあると、放出される二酸化炭素の量もそれなりになるので地球温暖化を促進します。計算しましょう。

 253万トンの炭素を酸化させて二酸化炭素(CO2)にすると、質量は928万トンに増えます。

 928万トンのCO2がどのくらいの量かと言いますと、(現実の)2020年度の日本の温室効果ガス排出量(CO2換算)は11億5000万トン*32なので、およそ0.8%に相当します。

 

 0.8%と聞くとたいしたことがないような気もしますが、一家庭あたりの年間CO2排出量が2.88トンであることを考えると、322万世帯分に匹敵する排出量となります。また、リリィが暴れ回ってアルトラ級を10匹も討伐すれば、それだけで国家の排出量が1割近くアップです。環境活動家の激怒待ったなし。

 地球温暖化も待ったなし。HUGEのせいで気候が狂っているってもしかしてそういうことですか……?

 

 

*1:
「見通し距離」という概念です。

*2:
ICRP Publication 23, Report of the task group on reference man (1974) p.327

*3:
アサルトリリィBOUQUET 第7話

*4:
根拠不明。けんさくするといっぱいでてくるからきっとほんとうなんだ!

*5:
ミイラ状態アルト君

*6:
ほんのちょっぴり要素。詳しくは熱力学の教科書を読もう。もっとしっかり説明しろ? こんな場末で教科書みたいに書いたところで誰が読むんだい?

*7:
骨は分解に時間がかかるようなので、リン酸とカルシウムは計算から除外しました。

*8:
単原子の酸素、水素、窒素あたりが正の生成エンタルピーを持つおかげで数値が跳ね上がりました。

*9:
実際のところ、爆弾は一瞬でエネルギーを放出しますが、アルトラ級の死体は「一晩」かけて放出するので直接は比較できません。

*10:
恐らく反応は死体の表面で発生するので、反応による表面積の変化で常に一定の出力を保つわけではありません。でも計算が面倒になりすぎるので一定の出力を保つと仮定しました。微分方程式? 知らない子ですね?

*11:
テラジュール毎秒、と読みます。

*12:
1キロトン = 1000トン

*13:
日本って核爆弾を落とされたことがあるらしいんですよ。知ってました?

*14:
広島に投下された原爆はおよそ15ktの核出力だったと言われています。詳しい被害はwikipediaでも読んでください。

*15:
S. Gordon and B. J. McBride, "Computer Program for Calculation of Complex Chemical Equilibrium Compositions and Applications," NASA Reference Publication 1311 (1996).

*16:
絶対温度で約6200K

*17:
雑計算。理想気体前提。昇温で分子が乖離して原子状態になるとか、炭素系の重合反応が起きて分子数が減少するとかは考慮していません。複雑すぎるので。

*18:
燃焼速度が分からないので厳密な話ではありませんが、単原子なんて反応性の高いものを仮定している以上、相当な速度で火炎が伝播するはずであり、ほぼ間違いなく爆轟にまで至ると思います。

*19:
人と同じ比重0.98として計算。

*20:
地面と接している部分は早々に熱平衡に達するはずで、エネルギーの出入りはない、という仮定。

*21:
もっとも、日焼けの元となる紫外線はあまり含まれていませんが。

*22:
○○を防御結界で防いだ! みたいな描写があったら教えてください。随時募集中です。

*23:
「比熱」というのは俗語で、本当は「比熱容量」といいます。単位質量(普通はグラム単位)の物体の温度を1度上昇させるのに必要なエネルギーのことです。温度依存性がありますが、基本的には定数として扱うことができます。

*24:
アホみたいな出力の電波を発生させている機械にとって、冷却問題は逃れられない課題です。そんななかで周囲の温度が突然急上昇したら……。

*25:
海浜幕張掃討戦が御台場迎撃戦の裏で行われていたようです。戦闘中にいきなり謎のアツアツ光が飛んでくるとか迷惑すぎる。眩しいどころか熱さでまともに戦えなさそう。

*26:
平均値。局所的には沸騰どころか、水分子が熱分解するような温度になる。

*27:
「硫黄酸化物」のくくりでSOxと表し、SO3以外にSO2も含まれますが、ここでは全量がSO3になるものとします。

*28:
慣例的に気体のシアン化水素は「青酸ガス」と呼ばれます。

*29:
炭化水素とか水素分子とか

*30:
上で議論した熱量の話では完全燃焼を仮定しているので、これらの毒ガスは発生しません。

*31:
爆発範囲は一酸化炭素で12.5vol%~74.2vol%、シアン化水素が5.6vol%~40vol%と幅広い。また、シアン化水素は水分などの存在下で発熱しながら重合し、そのうえ自触作用があるため点火源なしで爆発することがある。

*32:
環境省報道発表資料より。https://www.env.go.jp/press/110893.html


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