この世界で彼を待っていたのは、戦いに次ぐ戦いの数々だった…。
「それで、なんで俺こんな姿になってるんですか!? それにこの世界は一体…」
レディッシュ・ハートとなった俺は、ブルーティッシュ・カリバーンとなった咲夜さんに事の説明を求めた。
「これが私達の加速世界での姿、デュエルアバターよ」
「デュエル…アバター…?」
そういえばあのスレでも見たな…。
「このデュエル・アバターは他のゲームのように自分が操作するアバターではなく、自分そのものがアバターとなって、戦うのよ」
「な、何と…?」
「同じ、バーストリンカーとよ」
―――――第4話:「序章;Introduction」―――――
「いい? 加速っていうのは無限に行えるものじゃないの。一人のバーストリンカーが行える加速には必ず回数限度があるの」
俺と咲夜さん…ことブルーティッシュ・カリバーンは、この荒廃した世界をブラブラと歩きながら、俺にこの世界でのシステムを説明する。
「限度…?」
「そう、バーストリンカーにはそれぞれ〝バースト・ポイント″というのが一定量割り振られて、これがゼロになると…」
「加速できない?」
「それだけじゃないわ…このブレイン・バーストを永久にアンインストールされるの」
「…!」
永久にアンインストール…その言葉を聞いて、俺は急に不安に駆られた。
この兆常の力を無くすだって…? それも永遠に?
「そんな…! じゃあ加速しまくってたらいずれは…!」
「だから戦っているのよ、私達は。この加速世界でね」
咲夜さんの口ぶり…ということは、この世界で俺達バーストリンカーがデュエルアバターとして戦う理由って…まさか!
「察しのいいアンタならもう気付いてるでしょ? そうよ、バースト・ポイントはこの世界で戦って勝ち取るのよ。他のバーストリンカーからね」
「…そういうことだったのか」
咲夜さんのこの説明で、俺はあのスレに書かれていた内容について大方理解した。
なるほど、バーストリンカーは皆、加速の力を失わないよう必死で戦ってるってわけか。
「まぁよほどのことが無い限り、バーストポイント全損なんてことには滅多にないから安心しなさい」
「は、はい。…それで、ちょっと気になったんですけど」
「なにかしら?」
「このデュエルアバター…姿形は変えられないんですか? せめて色だけでも…」
俺のアバターは…まぁ形状はいいんだが、この赤錆びのような色がどうしてもミスマッチで、なんとかして変えたいと思っていた。
「それは無理ね。言ったでしょ? 『たとえ自分がどんな姿になっていようとも、それはあなたの運命だと思って受け入れなさい』って。デュエルアバターの姿は、そのバーストリンカーの過去のトラウマや劣等感といったものよって形作られたものなのよ」
トラウマや劣等感…。
そうか…俺のトラウマ……それは小学生のあの時、あの娘に振られたときの…。
「で、でも咲夜さんのアバターってすごい綺麗ですよね? それもトラウマで作られたものなら、結構差が…―」
「…本当に、そう思う?」
「…え?」
そう言って咲夜さん…ブルーティッシュ・カリバーンは拳を握り、わなわなと震え始めた。
いかん…何か地雷を踏んでしまったか…。
「…デュエルアバターはバーストリンカーの負の過去を映し出すものなの…それを綺麗だとかかっこいいだとか…今度言ったら」
咲夜さんは俺の顔に拳を突きつける。
拳は俺の顔の寸前で止まり、その風圧が顔に感じられた。
「潰すわよ」
「…ご、ごめんなさい」
ドスの効いた声と睨み視線、そして眼の前の拳に俺は思わずビビる。俺は素直に謝ると、咲夜さんは固く握った拳を開き、ゆっくりと下ろした。
…そうだよな、誰だって自分のトラウマや劣等感をいい意味でとらえてなんてほしくないし、軽はずみなことを言った俺が浅はかだった…。
「…次にこの世界について説明するわね。ここは通称〝風化ステージ″、バーストリンカーが戦うステージはいくつかあって、それらはランダムで出現してくる仕様よ。戦うステージによっていろいろ特性があるから、それらをうまく利用して戦うことね」
「はい」
気を取り直してこの世界の説明を再開してくれた咲夜さんに、俺はちょっと安心した。
「他に質問は?」
「あ、そういえばあのスレを見てたときにレベルがどうのこうのっていうのを見たんですけど…」
「あぁ、そうだったわね。一番大事なこと忘れてたわ」
そう言って咲夜さんはタッチ画面を開き、リストのようなものを開く。そこには俺達のアバター名が書かれており、その横の数字の部分を指さす。
「アバター名の横に数字が書いてあるでしょ? アンタはさっき始めたばっかりだから当然レベル1」
確かに、俺の名前の横には「Lv1」と書かれていた。
一方、咲夜さんのレベルはというと…。
「え…? レベル6!?」
「そうよ、すごいでしょ♪」
「…一応聞きたいんですが、このレベルまで到達するのにどれくらいかかったんですか?」
俺はふとあのレベルに関する内容が書かれたレスのことを思い出した。
あのレスの主は、自分がレベル5に到達するのに2年かかったと書いてあったが…。
「それは知らない方がいいわよ、私がこの世界でどれくらいの間過ごしてきたのか…それを知ったらアンタ、絶対ひっくり返るから」
「マジっすか…」
「質問は以上? なら今度は自分の力を試す番よ」
「え? なんのこと…―」
「お、やっと来たか」
俺と咲夜さんの他に別の者の声がした。
声のした方を見ると、そこには2人のデュエルアバターが待っていた。
一人は青い体色に、稲妻のような紋様が描かれたボディ。そして頭からは一本の角が生え、俺たちに手を振っている。どうやら俺達に声をかけてきたのはこの人のようだ。
もう一人はひょろひょろとか細い体系に薄い赤、おどおどしてて気の弱そうな人だった。
二人ともデュエルアバター…つまり、バーストリンカーのようだ。
「待ちくたびれたよ~、5分も待たせるなんて」
「ごめんごめん、ちょっと
咲夜さんはにこやかに青いバーストリンカーと話す。
「あの…咲夜さん、この人達は…あだっ!」
咲夜さんはいきなり俺の頭をグーで殴る。
「本名で呼ぶなバカ! ここではリアルでの情報が漏れるのは厳禁なんだから! ちゃんとアバターネームで呼びなさい!」
「は、はい…カリバーンさん」
「ははは、まぁ初めてだからいろいろ間違えることもあるさ。俺の名は〝ライトニング・ユニコール″、よろしくな」
「あ、どうも。〝レディッシュ・ハート″っていいます」
そう言ってそのデュエルアバター、〝ライトニング・ユニコール″は俺に握手を求める。
差し出された握手に応え、俺も手を握る。
「しかし、長い事ソロで活動していた〝
「〝
「私の二つ名よ。この加速世界である程度有名になると、そういう風に二つ名で呼ばれるようになるのよ」
二つ名かぁ…なんだかそういう名がつくと、いかにもベテランって感じがするな。
俺にも二つ名が付く日が…果たして来るんだろうか?
「ユニコールはバーストリンカーの中でも数少ない常識人なの。ま、悪く言えばただのお人よしなんだけどね」
「おいおいひでぇなw」
確かに、このライトニング・ユニコールという人、さっきも俺に握手を求めたりとなかなか気さくな人のようだ。
加速世界初心者の俺からすれば、こういう人の存在はとてもありがたい。
「で、そっちの赤いのは?」
咲夜さんはさっきからずっとユニコールさんの後ろに隠れている細長で薄赤のデュエルアバターを指さす。
「ほれ、ごあいさつごあいさつ」
「あ…はい」
ユニコールさんはそデュエルアバターの背中を押し、俺達の前に立たせる。
「えっと…〝シナバー・アラクニ″っていいます…よろしくお願いします」
うつむき加減に小さく呟き、それだけ言うとそのデュエルアバター、シナバー・アラクニはまたすぐにユニコールさんの陰に隠れた。
「こんな彼だけど、これでもこの前の対戦でレベル2に上がったんだ。そこそこの腕前だよ」
ユニコールさんの言う通り、さっき咲夜さんがやってたようにリスト画面を開き、アラクニのレベルを見てみると「2」と書かれている。そしてその上のユニコールさんのレベルは5…ちょうどレベル1の俺と、レベル6の咲夜さんを足した数になる。
「じゃあ、そろそろ始めましょうか。もう7分も経っちゃったし」
「え? 始めるってなにを?」
「アンタねぇ…誰の為にここまでやってあげてると思ってるのよ! 対戦に決まってるでしょ対戦! あの掲示板使って、この二人をわざわざ呼び寄せたんだからね!」
「あ…え!? そうだったんですか!?」
「そうよ、感謝しなさいよね」
「まぁ俺達も、いつもは渋谷区あたりを活動拠点にしてるんだけど、〝暴麗の騎士″のお誘いとあっちゃね~」
「渋谷区っていうと…もしかして一昨日ハチ公前で戦ってたりします?」
俺は一昨日の掲示板の書き込みのことを思い出した。
たしかあの掲示板で戦っていた人もレベル5だと言っていたし…もしかしてと思った。
「見てたのかい? そうだよ。ちなみに、その時に対戦相手はこのアラクニ君さ」
「…負けちゃったけどね
「ハイハイ、そこまでにしなさい。本当に時間がもったいないんだから」
そういえばこの世界では30分までしかいられないんだった。
30分経っても互いにダメージゼロだと、当然
「そいじゃ、始めるとしますか」
俺と咲夜さん、そして相手側のユニコールとアリアドスは俺達と一定の距離をとる、
「いい? 対戦方式は2vs2のタッグ形式よ。私の相手はあのライトニング・ユニコール、アンタの相手はシナバー・アラクニよ」
「でも俺…どんな風に戦ったらいいのかよくわからなくて…」
「大丈夫よ、ステータス画面で自分の技が確認できるからそれを頼りに戦いなさい」
「えぇ!? そんな大雑把な!?」
これから戦いだっていうのに、しかもまだ戦ったことすらないこの俺に対するこのあまりにもあっさりな戦闘方式の説明…この人、俺が勝っても負けてもどっちでもいいっていうのか!?
「やれやれ…これじゃキリがないな。なら!」
長らく咲夜さんと話をしていたため、相手側のユニコールさんがついに痺れを切らし、手に長いランスを出現させ、それを俺達に向けて構える。
「こちらからいかせてもらうぞ!」
そしてそのままランスの切先を咲夜さんに構えると、咲夜さん目掛けて突進する。
「チッ! せっかちな男はモテないわよ!」
「か、カリバーンさん!?」
「いいから、アンタもさっさと戦いなさい! 戦いはもう始まってるのよ!」
急に戦えなんて言われても…俺の目の前に立つこいつ…シナバー・アラクニは、どう見たって気が弱そうで、その細い体からは明らかに俺よりも攻撃力のある攻撃を繰り出すとは思えない。これじゃ一方的な勝負になるんじゃ…。
「…来い、強化外装」
どうしようか…と考えていたとき、突然シナバー・アラクニが小さく何かを呟いた。
「何て言ったんだ?」と聞き返そうとしたが、その必要はなくなった。なぜなら、シナバー・アラクニ自身がその答えと思わしき姿に変わったからだ。
「なっ…!」
シナバー・アラクニの下半身が突然巨大な何かに覆われる。それは巨大な朱い楕円形の物体であり、アラクニの下半身に装着されるとその底部から6本のロボットアームを展開し、地面に降り立つ。
俺よりもはるかに全長がデカくなったシナバー・アリアドスの姿は…まるで神話の中に出てくる怪物、アラクネーに酷似していた。
「なんじゃ…こりゃ…」
突然の事に硬直してしまい、俺の動きが止まる。
「クククッ…そうさ…これが俺様の強化外装! 他のデュエルアバターよりも高い所から攻撃し、殲滅する! シナバー・アラクニ様の真の姿だァ!!」
その〝強化外装″とやらと合体したとたん、いきなり口調や態度が豹変するアラクネに、俺は驚きと若干の恐怖を覚える。
「強化外装!? …って、なんなんですか!?」
俺は遠くの方でユニコールの相手をしている咲夜さんに問いかける。
「デュエルアバターの中には、稀に自分専用の武器を持った者がいるのよ。その武器のことを通称〝強化外装″と呼ぶのよ。ちなみに私も…来い、〝グランド・ディスキャリバー″!!」
咲夜さんがそう叫ぶと、その手には一本の大ぶりな剣が握られる。
刃渡りは自分の身長よりも長い、片刃の巨大な剣だ。柄の部分にはもう一本、小振りの短刀が付属している。
「ちなみに俺の、この〝ライトニング・ランス″も強化外装だぜ」
と、ユニコールさんが自分のランスを指さして言う。
「て言う事は…この中で強化外装持ってないの俺だけぇ!?」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇぞ! オラいくぜ!? ≪ジェノサイド・フルガトリング≫!!」
よそ見をしていた俺に対し、シナバー・アラクニは(これも強化外装の一部だろう)右手と左手に2門づつ、両手合わせて4門のガトリングガンを装備する。その砲身全てを俺の方に向けると、砲身を回転させ、その銃身から雨あられと銃弾が俺に向かって発射される。
「うわっ…うわわわわわわ!!」
慌ててアラクニの傍から離れ、全速力で走って距離をとる。
後ろからは撃ち出された弾丸の風圧と爆音が響き、俺の体を銃弾が掠める。
と、そのうちの数発が俺の脇腹あたりに命中する。
「がはっ…!」
その途端、俺の体力を示すパラメーターが少し減少する。
…なんてこった、痛覚まであるなんて…。
これ以上銃撃を受けたらヤバい。俺はよろけながら崩壊した建物の陰に隠れ、奴の攻撃をやり過ごすことにした。
「隠れても無駄だぜェ!! ≪ミサイル・ストーム≫!!」
俺の姿が視界から消えると、今度は下半身の蜘蛛の腹のような部分が、まるで潜水艦の魚雷発射管のようにハッチが開き、そこからミサイルが何発も発射される。
発射されたミサイルは上空で割れ、その中からまた新たに小型のミサイルが俺のいる場所に降り注ぐ。
「くっ…ヤバい!!」
慌ててその場所から転げるように逃げる。
その瞬間、地面に着弾したミサイルの爆発と衝撃により、俺の体が宙を舞う。
「うわあああああああ!!」
爆風に吹き飛ばされ、地面に転がり落ちる。
すると、また体力ゲージが少し減少する。
………
……
…
「お連れの彼、大丈夫かい? 随分苦戦してるようだけど」
「心配はいらないわ。あなたは私の相手だけをしてればいいの」
やっぱり思った通り…あのシナバー・アラクニというアバターは、完全な遠距離攻撃を得意としている。なら、その相手をアイツに任せて、私は同じ近接戦闘タイプのライトニング・ユニコールとの戦闘に興じる…。
悪く思わないでよレディッシュ・ハート、簡単にやられないよう、せいぜい逃げ回ってなさい。
「なら遠慮なく…行かせてもらう!」
「…!」
瞬間、ユニコールのランスが私の体を貫かんとばかりに迫る。しかし、私はその一撃に刀身をぶつけて狙いを逸らす。
「なっ…!」
「もらった!」
槍は一度攻撃を逸らされると防御に回るのが遅くなる。その一瞬の隙をついて、私は剣を逆刃で持ち、真横に迫るユニコールに斬りかかる。
「まだまだ!」
しかし、その一撃はランスの柄の部分によって弾かれる。大剣を逆刃で持っていたため、バランスは悪い。ちょっとした一撃で私は剣を取り落としてしまった。
「しまった!」
「おやおや、〝麗暴の騎士″にしてはらしくないミスだ…ねっ!」
ユニコールはその隙を見逃すことなく、すぐさま体制を整えるとランスを持ちかえ、武器を失くした私にその矛先を向け、突きを繰り出す。
「なんてね」
「…!」
剣を取り落としたのはワザと。相手の隙を作るためのね。
私は足を使い、地面に転がるグランド・ディスキャリバーの刀身を踏む。グランド・ディスキャリバーは石の上にかぶさるように転がっているから、あとはシーソーの要領で刀身の部分を踏めば、いくら重い大剣であってもその柄は自動的に私の目の前にまで持ってこれる!
起き上がった柄をそのまま握り、刀身を翻してランスの突きをかわしながら一気に相手の懐に飛び込む!
「はぁあああっ!!」
そのまま一気に下段から上段にかけて剣を振るう。
手ごたえあり…私の一撃は確実にユニコールのボディを切りつけた。
「ぐぅっ…あっ…!」
斬られた部分を手で押さえ、そのまま後ろに後退するユニコール。体力ゲージを見ると、大きく削れている。
「なんてこったい…まさかあんな方法で反撃してくるなんて…」
「それが私の二つ名の由来じゃなくって?」
一見、私の戦い方は利に当てはまった、いかにも騎士のような美しい戦い方のようにも見える。しかし、実際は相手の隙をついてあらゆる手段を用いてダメージを与える様は、荒々しくも効率を重視した、暴力的にも見える攻撃手段…その戦闘スタイルからついた二つ名が〝
「確かに…ならこれからは本気で行くよ!」
「望むところ!」
…
……
………
「くっ…あいつ…強化外装を装着したとたんにキャラが変わりやがって…」
ただ一方的にやられてるわけにはいかない…なにか武器はないのか!?
と、俺はさっき咲夜さんに言われた通り、スターテス画面を開き、自分の攻撃技を見てみる。
「え~っと…え~っと…お! ビームとかあるじゃん! よし、これで!」
すっくと起き上がり、シナバー・アラクニの方を向く。
「あん?」
アラクニもそれに気付いたらしく、俺の方に自分の巨体を向かせる。
「いくぞ! 今度はこっちの番だ!」
ステータス画面を見る限り、どうやらビームは額のクリスタルから発射されるようだ。
俺は両手を頭の前でクロスさせ、エネルギーを溜める。
「くらえ! ≪レディッシュ・ビィィィィム≫!!」
そして溜めたエネルギーを一気に放出し、アラクニに向けて赤みがかった色のビームを発射する。
…だが。
「はんっ! 効かねぇな!」
ビームはアラクニの本体に届く前に、見えない壁のようなものによって弾かれてしまった。
「なっ…!」
一体…何が…?
「残念だったなァ! 俺様この前レベル2に上がった時に、レベルアップボーナスで『電磁バリア』の能力を取得したんだよォ!」
「レベルアップ…ボーナス…?」
つまりレベルが上がるたびに何か特殊な能力が付与できるってことなのか!?
つかバリアとか…そんなのアリかよ!
「そんなしょんべんみたいなビームじゃあ、俺様のバリアは破れねぇなァ!!」
「くっ…」
どうする…バリアを張られてるんじゃ、ビームはいくら撃ったってダメージを与えられない…。
「ボーっとしてんじゃねぇぞ! オラオラァ!!」
またもアラクニは両手のガトリングで俺を銃撃する。
先ほどの爆風で吹き飛ばされた時のダメージがまだ残っているらしく、思うように体が動かない。
「ぐあああああっ!!」
今度はマトモに、攻撃を喰らってしまった。
それと同時に大幅に減少する俺の体力ゲージ。
他には…なんでもいい、他に技はないのか!?
俺は地面に転がった状態のまま、ステータス画面を開き、先ほどのビームの技からさらに下にスクロールする。
…あった! え~っと、なになに…?
「ヒャーハハハハハ!! ミサイルミサイルゥ!!」
すると、更に追い打ちをかけるように発射されるミサイル。俺は慌ててその技を確認する。
「…よし、これなら!」
その技を試すと同時に、着弾するミサイル。
辺りに爆風と爆音が轟き、粉塵が巻き上がる。
「あん? 木端微塵に吹き飛んじまったか?」
ミサイルの着弾地点に俺がいないことにアラクニは気が付いた。
しかしもちろん、そんなわけはない!
「俺は…ここだぁ!!」
「なっ…!」
俺に備わったもう一つの技…それは、掌からワイヤーを射出し、対象物に絡ませるというものだった。
攻撃用の技ではないが、これのお陰で咄嗟に近くの電柱に射出し、その高さまでの登ってミサイルの雨から逃れることができた。
そして今度は、その電柱の上から飛び降り、アラクニ目掛けてキックをかます。
俺が飛び降りる瞬間に気が付いたようだったが、もう遅い。俺の渾身の蹴りはアラクニの体にクリーンヒットした。
「ぐっ…はぁ…!」
蹴られた衝撃でアラクニが悶絶する。
キックは下半身の頑丈な蜘蛛の部分ではなく、元々細くて脆い上半身の本体に命中したんだ。たった一撃だったが、元々防御の薄いボディのため、その一撃でアラクニの体力ゲージは一気に三分の一も削れた。
「ど…どうだ!?」
蹴りをかました後、地面に降り立つ俺。
アラクニはしばらく蹴られた部分を抑え、痛みに悶えていたが、やがて復活する。
「や…やるじゃねぇか…だがな、その一撃で俺様を仕留められなかったのはテメェのミスだ!」
「…どうゆう意味だ?」
「そのまんまの意味だよ。テメェの今の攻撃で俺様の必殺技ゲージは満タンになったからな!」
アリアドスのパラメーターをよく見てみると、体力ゲージの下に黄色のパラメーターが新たに表示されている。最初に見たときには溜まっていなかったが…今は限界まで溜まって『FULL』の文字が記されている。
「こいつでテメェを葬ってやるぜェ!!」
すると、アラクニの蜘蛛の下半身の正面ハッチが開き、何か突起物のようなものが出現する。その突起物から火花が散ると光が収束していき、狙いをピッタリと俺の方に向けられている。
「ビーム砲か…!」
それも大出力の…。なんとかこの場から逃げなければ、あのビームによって文字通り蒸発してしまう!
だが、先ほどのキックで俺の足にも深刻なダメージを負っている…逃げ切れるかどうか…。
考えていてもしかたがない…今は逃げる事が先決だ。
俺は若干足を足を引きずりながらアラクニの傍から離れる。
「チャージ完了…いくぜェ!! ≪
その瞬間、アラクニの下部から大出力のビームが広範囲に渡って発射された。
「うわあああああ!!」
背後からビームが迫る…このままではビームで呑みこまれる…!
その瞬間、俺は…全てを覚悟した…。
前半は主人公にこの世界のことを説明しなくてはいけなかったので、どうにもバトル描写が短くなってしまいましたw
今回は前編といったところで、後編で決着をつけたいと思います。
さぁ…どうなる主人公!どうやってこのピンチを切り抜ける⁉