問題児たちが裏ボスと出逢うそうですよ?   作:問題児愛

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1万字超えてしまった………。


交渉

場所は変わり、〝ペルセウス〟本拠地。

輪廻の『空間跳躍(テレポーテーション)』で七桁の〝ノーネーム〟本拠地から一瞬で五桁の〝ペルセウス〟本拠地へと跳んできた事実に、言葉を失う〝ペルセウス〟の騎士達。

おそらく彼女は〝空間〟を司っているかあるいは〝境界門(アストラルゲート)〟を操作出来る者に違いない。

箱庭上層に席を置き、そして彼女の頭部にある白と黒の異なる立派な角を見るに、最強種の一角と見て間違いないだろう。

そんな彼女に喧嘩を売った〝ペルセウス〟の騎士達は、ドッと嫌な汗を滝のように流して俯いていた。

よく命があったものだと思うと同時に、なぜ彼女は〝ペルセウス〟の騎士達に一切危害を加えなかったのか。

〝ペルセウス〟を傘下に置いている〝サウザンドアイズ〟とことを構えたくないのだろうか?

何はともあれ助かった、と〝ペルセウス〟の騎士達が安堵していると、輪廻がレティシアを抱きかかえたまま屋敷の中へ入ろうとし―――

 

「って、お待ちください!」

 

「ん?」

 

「ん?ではありません!なに勝手に上がろうとしているんですか!?」

 

「なんだ、駄目なのか?」

 

「送っていただいたことには感謝しますが、不法侵入されるというのは流石に」

 

「い・い・よ・な?」

 

「「「「「はいッ!どうぞお入りくださいッ!!!」」」」」

 

輪廻の凄味に白旗を上げながら全力で頭を下げて彼女を招き入れる〝ペルセウス〟の騎士達。

なんというか哀れだな、とレティシアは〝ペルセウス〟の騎士達を可哀想な仔羊を見るような目で見つめた。

よろしい、と微笑する輪廻は彼らに招かれて屋敷の中へと入っていった。

それから輪廻は最上階まで行くと、玉座に腰かけ居眠りを開始した―――レティシアを抱き枕にしながら。

 

「すぅ………すぅ………」

 

愛らしい寝顔で寝息を立てながらスヤスヤ眠る輪廻に、〝ペルセウス〟の騎士達が堪らず叫ぶ。

 

 

「「「「「自由かッ!!!」」」」」

 

 

全くだッ!!!と内心で叫ぶレティシア。

しかし輪廻が眠ったのならば、今なら彼女の腕の中から逃げられるのでは?と思ったレティシアは脱出を試みるが、ガッチリホールドされていた為、断念した。

というより寝てるのになんて力だ、とレティシアは驚いていた。

ただ力が強いというだけでなく、レティシアを締め上げないように力加減もされている器用さ。

ずっと疑問に思っていたことだが、なぜレティシアに対してこうも過保護だというのか。

母親でもなければ、〝箱庭の騎士〟を造った『純血の龍種』というわけでもない、血の繋がりなどないはずなのに。

いやそもそもコレは変態だったな、とレティシアは思い直し深い溜め息を吐くのだった。

一方、〝ペルセウス〟の騎士達は眠っている輪廻を遠目から観察して何やらブツブツと呟いていた。

 

「寝ている隙に吸血鬼を奪還できるのでは?」

 

「寝首を掻くことは可能か?」

 

「………しかし良く見たら二人とも可愛いな」

 

「ああ、たしかに可愛い。なぜ今まで気付けなかったんだ?」

 

「そんな余裕が我らにはなかったのだろう」

 

「ではルイオス様がご帰還されるまで、我々は目の保養に彼女達を観賞するとしよう」

 

「「「「「うむ」」」」」

 

満場一致で〝ペルセウス〟の騎士達は輪廻とレティシアを観賞することにした。

最初の方は奪還だとか、寝首を掻くとか物騒なことを言ってたのに可愛いとか目の保養にするとかお馬鹿なことを言っていた。

レティシアは苦笑しつつも、襲われることはないことを知り安堵した。

………ルイオスか、とレティシアはその男に買い取られた日のことを思い出す。

ベッドに押し倒されて襲われるのかと思いきや、結局は何もしてこなかった。

『やっぱやめた。お前は愛想ないし体は殆んどガキだし僕の好みじゃない』とかなんとか言ってルイオスはレティシアを部屋から追い出した。

………思い出しただけで少し腹が立ってきた、私だって大人化すれば胸もそこそこあるんだぞ!と内心怒りを見せるレティシア。

愛想ないのは単純に、ルイオスなんかに振り撒くつもりは毛頭ないからだろう。

目的は〝ノーネーム〟だったし、〝ペルセウス〟には所有物らしく大人しくしてチャンスを伺っていただけに過ぎないのだから。

だがふと、レティシアは嫌な予感が頭に過ぎった。

ルイオスが好みそうな者が〝ノーネーム〟にいることを思い出して。

加えて彼女は献身的でルイオスの口車に乗せられて交渉に応じてしまったらと思うとレティシアの顔色がみるみるうちに青ざめていく。

頼む黒ウサギ!間違えても自分の身を犠牲にしてまで私を取り戻そうなどという馬鹿な真似はしないでくれッ!!と内心で悲痛の叫びを上げ、何も無いことを祈るレティシアだった。

それから暫くしてルイオスが屋敷へと帰還する。

何やら上機嫌の様子な彼を、側近の男が出迎え屋敷の中へと入っていく。

側近の男はルイオスに言った。

 

「ルイオス様、最上階にてお客様がいらしてます」

 

「うん?なに勝手に招き入れてんの?………ああ、なるほど。もしかして白夜叉が言ってたやつのことかな?まあいいや、案内しろ」

 

「ハッ!」

 

側近の男と共に最上階へと向かうルイオス。

最上階に着き、そこでルイオスが目にした光景は―――玉座に腰かけ、レティシアを抱き枕にして眠る輪廻の姿と、その少女二人を列をなして胡座を掻きながら観賞する〝ペルセウス〟の騎士達という何とも不思議なものだった。

口をポカンと開けて固まるルイオス。

意味が分からなかった、自分の玉座に腰かけ居眠りする輪廻もそうだが、自分の部下達の行為が一番謎すぎた。

全くもって、一体何をしているのやらとルイオスには理解不能であった。

だがレティシアの状態を見るや否や不機嫌そうに眉を顰めて騎士達に言う。

 

「何やってんのお前ら?つか吸血鬼石になってないじゃん。言われた通りに出来ないとかホント何やってんの?」

 

「「「「「はっ!?ルイオス様!おかえりなさいませ!!」」」」」

 

「え?あ、うん。ただいま………じゃなくて、なんで吸血鬼石になってないんだよ」

 

「え?あ、はい。石化のギフトを使って吸血鬼を捕らえようとしたのですが………そこで居眠りしてる彼女に握り潰されて失敗しました」

 

「……………は?」

 

素っ頓狂な声を漏らすルイオス。

星霊のギフトを素手で握りつぶしただと?と。

ゴーゴンの威光は触れた対象を石化させる効果を持つというのに、居眠り少女は素手で触れても石にならず逆に握り潰したというのだ。

ルイオスは顔を引き攣らせながら言う。

 

「へ、へえ。流石は白夜叉の言っていたやつなだけあるな。まさか星霊アルゴールの石化を無効にするとかどんだけだよ」

 

「私達も目を疑う光景を目撃した次第です」

 

「……………」

 

ルイオスは居眠りする少女を見つめながら、白夜叉の言葉を思い出す。

『私はむしろ貴様の同士が可哀想だと思ったわい。今頃は輪廻ちゃんの玩具にされておるだろうな』と言い、呵々と笑っていた白夜叉。

ハッタリだと思っていたルイオスだったが、部下の様子やレティシアが石になっていない事実を見れば嘘などではなかったのは一目瞭然である。

ルイオスはあの時の光景を思い出して震える部下達に、訊いた。

 

「それで、お前らは寝てるそいつにボコボコにされたから何も出来ずにいるわけだ?」

 

「いえ、それが彼女は私達には危害を加えませんでした」

 

「ふうん?………ああ、なるほど。そいつと白夜叉の仲なら、僕ら〝ペルセウス〟に危害を加えなかったのも納得できる。だって〝ペルセウス〟の後見人は白夜叉だからね」

 

つまり、白夜叉とことを構えたくなかったから居眠り少女は騎士達に一切危害を加えなかったということだった。

ルイオスは拍子抜けとばかりに肩を竦ませ笑う。

 

「なんだよ、白夜叉が言うからどんなヤバイやつかと思ったら大したことなさそうだね。今なら寝首も掻けそうだし、これ以上邪魔されたら困るから今ここで殺しとくか」

 

「ル、ルイオス様!?何を!?」

 

側近の男の声を無視して、ルイオスがギフトカードから一振りの鎌を取り出す。

そしてその鎌を、居眠り少女に振り下ろし―――

 

「ふむ、ようやく来たか。〝ペルセウス〟の頭首よ」

 

―――目を覚ました輪廻が、人差し指と中指の二本で鎌の刃先を白羽取った。

 

「「「「「なっ……………!?」」」」」

 

驚愕する騎士達とルイオスとその側近の男。

輪廻は眠い目をこすりながら白羽取りした鎌を見つめて呟く。

 

「なるほど、『星霊殺し』のハルパーか。たしかにこの鎌ならば、『純血の龍種』たるこの我輩を傷付けられるやもしれんな。だが、そんなノロマでは掠り傷一つさえ負わせられんが?」

 

「………チッ―――て、は?『純血の龍種』だと!?」

 

「ん?なんだ貴様、白夜様から聞いてないのか?」

 

「は、初耳だよッ!!クソ、まさか最強種相手に斬りかかってたのか僕!?」

 

「ふふ、しかも我輩の寝首を掻こうとしていたな?名前負けのボンボン坊ちゃんの分際で」

 

「ぐっ、」

 

言い返せず、苦虫を噛み潰したような顔をするルイオス。

今の一撃をあっさり受け止められてしまった以上、実力の差は歴然で勝てる気が全くしない。

それに『亜龍』ではなく『純血の龍種』の人型は、よく分からないがヤバイ、とルイオスの直感が警笛を鳴らしている。

ルイオスは鎌をギフトカードに仕舞うと、輪廻に訊いた。

 

「それで、お前がここに残ってたのは僕に用事があるんだろ?」

 

「ああ、そうだ。貴様、レティシアを箱庭の外に売ろうとしているんだってな?」

 

「そうだね。だけどその取引も、もしかしたら無くなるかもしれないよ」

 

「………?ああ、なるほどな。貴様はやはり黒ウサギに目を付けたか」

 

「へえ?よく分かったね。うん、そうだよ。僕は黒ウサギに一目惚れしちゃってさ、だから交渉したんだ」

 

「―――私を〝ノーネーム〟に返す代わりに、黒ウサギを〝ペルセウス〟が貰う………そういう交渉を黒ウサギに持ちかけたのか貴様ッ!!」

 

ルイオスの言葉を遮り、レティシアが彼の交渉内容を推測して言い、彼を怒りの形相で睨みつける。

ルイオスは鬱陶しそうにレティシアを睨み返して言う。

 

「なに僕が言おうとしたことを邪魔してお前が言ってんの?つか所有物の分際で偉そうな態度取るのやめてくれる?あー、まじでうざい」

 

「くっ………!」

 

「落ち着けレティシア。黒ウサギが貴様を見捨てるはずがないと、初めから分かっていただろう?それにまだ返事は貰ってないはずだ。そうだろう、〝ペルセウス〟の頭首?」

 

「え?あ、うん。一応一週間の猶予は与えたさ。未練とか残されても困るからね。僕の所に来たら金輪際、〝ノーネーム〟と関わることはなくなるんだし」

 

ケラケラと笑って言うルイオス。

レティシアは必死に怒りを抑えながらも、ルイオスを睨みつける。

輪廻は、なるほどと頷き更に問う。

 

「では万が一、黒ウサギが交渉に応じなかった場合は、従来通り箱庭の外に売るんだな?」

 

「そうなるね。え、なに?もしかしてアレ欲しいの?」

 

「うむ、超欲しい。もし我輩にレティシアを譲ってくれるのであれば―――我輩が〝ペルセウス〟の後ろ盾をしてやってもいいが」

 

「マジで!?あ、いやお前って何桁の住人?」

 

「ん?詳しくは教えてやらんがそうだな………〝全能領域(箱庭三桁)〟以上とでも言っておこうか」

 

「「「「「さ、三桁ッ!!?」」」」」

 

顎が外れんばかりに口を開けて驚愕する騎士達とルイオスと側近の男。

しかも以上ということは〝全権領域(箱庭二桁)〟の可能性も出てくる。

そんな怪物が後ろ盾になってくれるのならば、〝ペルセウス〟は安泰で間違いないだろ。

しかしレティシアにそれほどの価値があるとは思えないが、これは千載一遇のチャンスと思い、ルイオスは口角を吊り上げて笑って頷く。

 

「うんうん、いいよいいよ。お前………いや、貴女が〝ペルセウス〟を守ってくれるならそいつはあげる!黒ウサギが交渉に応じなかったらね?」

 

「ああ。交渉が決裂した場合は、我輩がレティシアを貰い〝ペルセウス〟を守ろう。………ついでに取引先を潰して証拠隠滅もするか」

 

うん?とルイオスが耳を疑った。

………取引先を潰して証拠隠滅って言わなかったか?

箱庭の外とはいえ、一国規模のコミュニティを滅ぼしていいのだろうか?

最強種は一体何を考えてるのかルイオスにはさっぱり分からないのだった。

それからレティシアを丁重に扱うようルイオスに約束を取り付けると、輪廻は白夜叉の下へ帰っていった。

 

 

 

 

「ただいま、白夜様」

 

「ん?おお、輪廻ちゃんか。丁度良かった」

 

輪廻の帰還に、白夜叉が意味深な発言をする。

輪廻は、なんだ?と思い視線を白夜叉から外すと、視界に十六夜の姿が映った。

 

「………十六夜?」

 

「輪廻か。俺がここにいるのが不思議か?」

 

「いや、大方〝ペルセウス〟と決闘する方法を探しに白夜様を頼ったのだろう?」

 

「ああ、流石は輪廻、話が早くて助かる」

 

「ふふ、我輩も先ほどまで〝ペルセウス〟の頭首と交渉していた。レティシアを譲ってくれるならば、我輩が〝ペルセウス〟の後ろ盾になろう、とな」

 

「へえ?輪廻が後ろ盾のコミュニティとかヤバイな!誰も挑む気ないんじゃねえか?」

 

「はてさて、それはどうだろうな。少なくとも我輩は〝旧ノーネーム〟に一度敗北している『元・魔王』だ。勝ち目があるやもしれぬと挑んでくる奴らはいないとも限らんが?」

 

「それもそうだな」

 

微笑する輪廻と、ケラケラと笑う十六夜。

それにしても俺ですら手も足も出ない怪物の輪廻を、一体全体どういう方法で倒したのか興味に尽きない。

本当に面白いコミュニティに所属したもんだ、と心の底から楽しげに笑う十六夜。

そんな彼に微笑した輪廻は、白夜叉に向き直り訊いた。

 

「それで、丁度良かったとは何のことだ?」

 

「ああ。私はそこの童に〝ペルセウス〟と決闘を行える方法を教えてやっての。ただ開催している場所がちと遠すぎるから、輪廻ちゃんの『空間跳躍』でちょちょいと連れて行ってやってほしいのだ」

 

「ほう?そういうことならお安い御用だ。だがな、十六夜」

 

「なんだ?」

 

仮令(たとえ)友の頼みであっても、タダでとはいかんな」

 

「………へえ?ならあんたは俺に何を望むんだ?」

 

十六夜の問いに、輪廻は凶悪な笑みと共に告げた。

 

 

「貴様の隠し持っている恩恵(ギフト)を我輩に見せてみろ。さすれば送り迎えをしてやってもよい」

 

 

そう言って、輪廻は懐からギフトカードを取り出す。

そのカードには〝互いの尾を喰らい合う三匹の龍〟―――〝ウロボロス〟の旗印が刻まれていた。

初めて見る輪廻の所属するコミュニティの旗印を見た十六夜は、不可解そうに眉を顰めた。

それもそのはず、〝ウロボロス〟は〝己の尾を喰らう蛇〟として描かれるのだが、輪廻のコミュニティ〝ウロボロス〟の旗印は、三匹の龍が描かれ互いの尾を喰らい合う様なのだ。

十六夜が思考を高速で張り巡らせようとするが、白夜叉のゲーム盤に招かれた時の感覚に似ていることにそれどころではなくなってしまう。

そして十六夜と白夜叉が投げ出されたのは―――漆黒の空間に輝く無数の星々と、蒼き星『地球』が眼下に広がっていた。

つまりここは『宇宙空間』であり、『地球』の真上のようだった。

十六夜は、ヤハハハ!と興奮しながら笑って両手を大きく広げ天を仰いだ。

 

「ここが輪廻のゲーム盤なのか!?」

 

「いや、我輩はゲーム盤を持たん。これは我輩の故郷を再現した〝疑似世界〟のようなものだ」

 

「似たようなもんだろ。しっかし白夜叉といい、あんたといい、俺の想像を遥かに超えたデタラメな景色を見させてくれやがる!〝箱庭〟って場所はこんなにもロマンが溢れてるのか!?」

 

「気に入ってくれたようで何よりだ」

 

瞳をキラキラと輝かせながら嬉々とした笑みを見せる十六夜と、そんな彼に微笑する輪廻。

一方、白夜叉は『地球』の赤道線上に幾つも建ち並んでいる〝何か〟を見つけて怪訝な顔つきになる。

何だ〝アレ〟は?………赤道線上に幾つも建ち並ぶ………〝塔〟?

白夜叉は神速で『地球』の周りを赤道線上に沿って飛んでみる。

そして〝塔〟のようなものの数を数えて、更に驚いた。

………『二十四本』の〝塔〟だと?………『太陽の主権』の数と同じ数の〝塔〟か………ううむ、分からん!

だがこの〝塔〟のようなものは、白夜叉もどこかで見たことがあるような気がしたが、一体どこで見たものか、と必死に思い出そうとする。

輪廻は白夜叉が何かを思い出そうとしているのを遠目で眺めていたが、その邪魔はせず十六夜に言った。

 

「さて、景色を楽しむのはいいが、そろそろ本題といこうか」

 

「おっと、悪い。『宇宙旅行』でもしてみたかったが、ここはあくまでも輪廻の創った〝疑似世界〟だったな」

 

「ああ、そうだ。まあ、このまま〝疑似世界〟に囚われていたいのならば、それも構わんが………それだと黒ウサギは救えんぞ?」

 

「……………そうだな。早くここから脱出しねえと黒ウサギがあの色男の物になっちまう」

 

そう言って十六夜は右腕を掲げる。

すると右手から極光が輝き、輪廻の〝疑似世界〟にある星々の輝きを飲み込んでいく。

どこまでも伸びていく巨大な極光の柱が、〝疑似世界〟の何もかもを飲み込み、〝疑似世界〟は徐々に割れ始めた。

輪廻はその光景を見て歓喜の笑みを浮かべていた。

 

 

やはり貴様は―――貴様は、『トウヤ』の………!

そうか、遂に見つけてくれたのか。

我輩の………(わたし)の親愛なる『カナリア』が!

ならば、救えるやもしれん。

幾星霜もの永き戦いで〝悪〟の御旗を掲げし余の真なる友―――『アジ=ダカーハ』の悲願を!

さあ、〝未来を救うと確約された英雄〟逆廻十六夜よ!

今こそ汝の往く道を歩み、そして運命に、宿命に抗ってみせよ!

余は幾らでも待ってる、何年だろうと何十年だろうと何百年だろうと。

だから余の下へ辿り着け、星の光よりも速く―――!

――――――――――〝創造主(マイマスター)〟。

 

 

そして十六夜の巨大な極光の柱は、輪廻の〝疑似世界〟を跡形もなく消し飛ばし、三人は白夜叉の私室へと跳ばされていた。

十六夜は畳が視界に入ると、戻って来れたんだなと安堵する。

輪廻の〝疑似世界〟すら切り裂けるとか、我ながらチートギフトを手にしてるなと苦笑する。

そうして十六夜は顔を上げると―――見覚えのない美少女が彼の顔を覗き込んでいた。

その者は十六夜と同じ金髪で、アメジストの瞳の少女だった。

見た目的に十六夜の弟の焔よりも若く幼い少女である。

実妹がいたとしたら、こんな美少女なのかもしれない。

ジーッと見つめてくる金髪美少女に、十六夜は頭を掻きながら一言。

 

「………誰だ?お前」

 

「………ッ」

 

十六夜の反応に、金髪美少女が悲しげな顔を見せ、俯いた。

十六夜が不思議そうに彼女の顔を覗き込もうとして、不意に彼女が口を開いた。

 

「………そっか。夢のこと、忘れちゃったんですね―――十六夜お兄ちゃん」

 

「………夢?………お兄ちゃん?」

 

「―――――っ」

 

やはり十六夜の反応は、金髪美少女こと夢の望んだものではなく、また悲しげな顔を見せる。

十六夜はどうしてそんな顔をするのか分からないといった調子で頭を掻き言う。

 

「………名前、教えな」

 

「……………西郷、夢です」

 

「西郷?ふうん?焔と同じ苗字か、凄い偶然だな」

 

「………焔お兄ちゃん」

 

「あん?さっきからお兄ちゃんお兄ちゃんって、俺も焔もお前のお兄ちゃんじゃないし、俺はお前とは初対面だが?」

 

「―――――ッ!!?」

 

夢の見る世界がグルグルと回って立っているのが困難になる。

十六夜は完全に夢のことを忘れてしまっていた。

夢はその事実に耐え切れず、部屋から飛び出して行ってしまった。

 

「お、おい!」

 

「よさんか小僧」

 

追いかけようとした十六夜を、白夜叉が扇子で制す。

 

「今日はもう輪廻ちゃんの気配を感じんの。今日は泊まっていけ小僧。おんしとあやつ………夢と言ったか?どういう関係かは知らんが、今はそっとしておいてやれ」

 

「………ああ」

 

白夜叉の行為に甘えることにする十六夜。

流石に『ちょっくら箱庭で遊んでくる』と言い残して早々帰るなど格好がつかないし、何よりも何の成果も得られていない状態で帰るわけにはいかなかった。

それにしても、西郷夢か………知らないはずなのに、初対面のはずなのに………どうして俺の胸はこんなにも苦しくなるんだ………?

わけも分からない感情が蝕む中、十六夜は眠りについた。

 

 

 

 

夢は一人、啜り泣いていた。

覚悟はしていた、だからこうなるのは分かりきっていたはずなのに。

実際に赤の他人と会話を交わすような扱いをされると、胸が張り裂けそうでとても辛く悲しかった。

輪廻曰く―――『〝消去〟された者の器になるということは、夢の存在もまた〝消去〟されるということだ。それは夢を知る者達の記憶からも例外なく〝消去〟される。思い出すことはまずないだろう』とのこと。

輪廻はかつて最初の化身(アバター)と共に、とある戦争で幾星霜もの永い時を戦い、最終的には〝乗り越える〟のではなく〝消去する〟という方法で殺された。

箱庭から消滅したはずの輪廻の器になるということは、つまりそういうことなのだ。

輪廻がそれでも存在できているのは、『純血の龍種』であり、箱庭の法則(ルール)の外側のもので、自己観測能力を持っているがゆえか、あるいは―――本来の霊格が別に存在しているからか。

だがその本来の霊格もまた、〝乗り越える〟ことが出来なかった為か、輪廻の故郷へと続く未来は、神話は閉ざされ実現不可能のものになってしまった。

〝    〟は〝消去〟され、真の〝   〟へと至る道が閉ざされてしまったこの箱庭では、その霊格を併せ持つ『純血の龍種』たる輪廻の器となることを選んだ夢は、大好きな十六夜(おにいちゃん)の記憶から〝消去〟される運命を受け入れるしかない。

夢は涙を拭って立ち上がる、いつまでも泣いてちゃ駄目だと、私は十六夜お兄ちゃんと焔お兄ちゃんの実妹で、金糸雀お姉ちゃんから沢山愛を貰って育ってきたのだから。

 

 

「―――それでこそ、私の可愛い夢ちゃんよ」

 

 

「……………え?」

 

 

夢は目を見開いたまま固まる。

その声の主は、夢の弱々しい背中を優しく抱きしめて耳元で囁く。

 

「あいつとの〝契約(ギアス)〟を破って会いに来ちゃった!」

 

「ひゃあ!?………て、え?金糸雀お姉ちゃん!?」

 

驚き振り返る夢の視界には、フードを目深に被る女が映った。

夢がフードの顔を覗き込み、金髪ショートにエメラルドの瞳が特徴的な彼女は紛れもなくあの金糸雀だった。

だが夢は驚きを隠せない、なぜなら金糸雀は外界で亡くなった事実を知っている。

 

「………本当に金糸雀お姉ちゃん………なんですよね?」

 

「え?もしかして疑われてる私?」

 

『―――まあ、貴様は外界で死んだことになっているらしいからな。それは余の偽装工作だが』

 

「へ?」

 

「そういうこと。ユーちゃんに渡されていたギフトを使って一時的に仮死状態になって、死を偽装したのよ。それから夢ちゃんや十六夜君と会わないように」

 

『ちょっといいか金糸雀』

 

金糸雀の言葉を遮る輪廻。

金糸雀は話を遮られてやや不機嫌そうな顔で聞き返す。

 

「なにかしら?」

 

『ユーちゃんというのは、余のことか?』

 

「そうよ。ユートピアのユーちゃん。素敵な愛称だと思わない?あ、それとも閉鎖ちゃんとかでも」

 

『閉鎖ちゃんはやめろ。余はもう『魔王』ではないのは、余を殺した貴様が知っていよう?』

 

「それもそうね。しっかし幾星霜もの永い時を殺し合った彼の大魔王様の本体が、あんな可愛らしい見た目をしていたなんて驚きよ。クロアのやつが密かに『我が幼女ハーレムに入れて愛で回したいッ!!』とかなんとか計画していたわね」

 

『ほう?レティシアに飽き足らず、余にまであのロリコンの魔の手が迫っていたのか。うむ、では今度会った時には奴の股間を粉砕してやるか』

 

「あー、うん。なるべくお手柔らかにね?ユーちゃんが容赦しなかったらあのクロアでもひとたまりもないでしょうし」

 

『ふむ、善処しよう』

 

そんな感じで輪廻と金糸雀が会話をしていると、夢が不意に金糸雀を抱きしめた。

夢は体を震わせながら涙を流し、嬉しそうに笑った。

 

「金糸雀お姉ちゃんが、生きていてくれて、よかったです………ッ!!!」

 

「夢ちゃん………あーもう!こんな可愛い子にそんな顔されたらこうしちゃうッ!!」

 

そう言って金糸雀は、夢を抱き上げるとそのままクルクルと回り始めた。

夢は久々の感覚に満面の笑みを見せる。

 

「わーーー!わーーーーー!」

 

「ふふ、そーれ高ーい高ーい!」

 

まるで母と子のような関係の金糸雀と夢に、輪廻は微笑を浮かべる。

だが金糸雀のお陰で夢がすっかり元気を取り戻していたのを見れば、自分との〝契約〟を破って夢に会いに来たことは水に流そうと思った。

まあそれはさておき、夢と交代してもらった輪廻は懐から何かを取り出し金糸雀に投げる。

 

「わっ」

 

それを危なげに受け取った金糸雀は、黄金に輝く指輪を見つめて首を傾げた。

金糸雀が訊くよりも早く、輪廻が説明する。

 

「その指輪には余の霊格が込めてある。それを指に嵌めておけ。さすれば貴様は死ぬことはない」

 

「………あら、私を生かしてくれるの?」

 

「なんだ?貴様は西側で生まれた娘だ。ならば余にとっては娘同然だからな。むざむざ死なせる親がどこにいる?」

 

「………そう。ふふ、随分と可愛らしいお母さんだこと」

 

「………ふん、言ってろ」

 

金糸雀の茶化しに、僅かに頬を赤らめる輪廻。

彼女が相手だと、どうも調子が狂うらしい。

 

「さて、金糸雀よ。余の影の中で、余と共に箱庭の行く末を見届けようか。なるべく外に出してはやるが、貴様は我が化身とは違って〝消去〟されたわけではないからな。下手に動いて生きていることがバレれば、箱庭に大きな影響を与えかねん」

 

「ええ、分かってるわ。私とユーちゃんは『敗北者』。これ以上の箱庭への干渉は避けないといけないわね。箱庭の未来は、新しい子達に委ねて私達は隠居しないとね」

 

「分かればよい。ではまたな、余の親愛なる金糸雀よ」

 

「ええ。またね、私の可愛いユーちゃんと夢ちゃん」

 

「ん?」

 

「なんでもないわ。でもせっかく箱庭に戻ってこれたのに、十六夜君や黒ウサギ達に会っちゃいけないとか死んじゃいそう」

 

「………余と夢がいつでも抱きしめてやるから元気出せ」

 

「うし!超元気出た!それじゃあね!」

 

ズズズズズ、と輪廻の影の中へと入っていった金糸雀。

やれやれ、やっと行ったかと珍しく疲れたような顔を見せる輪廻。

今ではこう軽口を叩き合える仲ではあるものの、彼の戦争では永きに亘り殺し合い、沢山の命が失われていった。

つまり、かつては敵同士であり、互いが相容れぬ存在だったということ。

それが終わり、幾星霜の月日が流れ今に至るのだ。

そんなあの頃を思い出しながら輪廻は天を仰ぎ呟いていた。

 

「余と夢、そして金糸雀の存在は箱庭にとってイレギュラー。この存在と余の正体を知る者は唯一無二―――協力者たる黄金の魔王〝クイーン・ハロウィン〟だけなのだからな」

 

女王に弱味を握られるのは正直アレだが、彼女の協力無くしては我が化身の召喚と金糸雀の帰還はなし得ないのだから。




なんか色々と設定てんこ盛りだけど後悔はしていないッ!!
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