問題児たちが裏ボスと出逢うそうですよ?   作:問題児愛

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約1年ぶりに書いて色々詰め込みすぎたら前の二倍以上になってしまった⋯


正体

白夜叉は〝大事な話がある〟と言って、女性店員とラミア母娘を別室に向かわせ、輪廻と二人きりになる。

輪廻は、白夜叉の殺気立った雰囲気を感じ取り、いつもの微笑を消して彼女と向かい合う形で座った。

白夜叉が上座に腰掛けると、真剣な顔つきで問い質した。

 

「さて、輪廻ちゃん⋯⋯⋯いや、輪廻よ。単刀直入に聞くが、貴様は―――貴様が〝閉鎖世界(ディストピア)〟か?」

 

その言葉と共に白夜叉の全身から凄まじい星の殺意が放たれ、輪廻を怒りの形相で睨みつけていた。

それに輪廻は一度目を閉じると、全身から闇の如き真っ黒な〝何か〟が溢れ出し彼女の姿を覆い隠す。

その闇が晴れると、金髪を暗黒に染め上げ、アメジストの瞳は血のように赤い紅玉を覗かせていた。

白夜叉の警戒は最大になり、立ち上がると臨戦態勢に入る。

しかし輪廻は座ったまま、白夜叉の問いに答えた。

 

「⋯⋯⋯やはり我が化身(アバター)を知ってしまえば、そう疑うか。⋯⋯⋯貴女の言う通り我輩は―――(わたし)は『元・魔王』〝閉鎖世界〟だ」

 

「そうか」

 

短く返した白夜叉は拳を硬く握り締めると、全力で輪廻に殴りかかった。

白夜叉の今出せる本気の一撃を、輪廻は片手で受け止めて言う。

 

「こんな場所で余達が殺し合えば、下層は無事では済まないぞ?」

 

「⋯⋯⋯チッ」

 

盛大に舌打ちした白夜叉は、悔しいが輪廻の言う通りだった。

拳を収めた白夜叉は、ドカッと上座に腰掛け直し輪廻を睨みつける。

輪廻はその場から動こうとはせず、白夜叉を見つめ返していた。

そんな輪廻を睨みつけたまま白夜叉は訊く。

 

「それで、貴様の正体を知ってしまった私は、今ここで消されるのか?」

 

「⋯⋯⋯?どうしてそうなるんだ?」

 

「どうしてだと?この私に正体を知られたのだ、貴様にとって都合が悪いことではないのか?」

 

「都合が悪い?別にそうは思わんな。余の正体が露呈されようが一向に構わん。正体を知ったところで、余に挑んで来る無謀で愚かな奴はこの箱庭にいるとは思えんが?」

 

身体から〝闇〟を滲ませ不敵に笑う輪廻。

かつて箱庭の勢力を二分させた『元・魔王』故の余裕か。

実際に白夜叉の目の前にいる存在は、ただの魔王ではない。

人類最終試練(ラスト・エンブリオ)〟―――人類が人類を滅ぼす魔王であり、彼女はその一角。

様々な王号を与えられ、数多の神群を滅ぼしてきた最凶にして最強の大魔王。

如何に強大な神群であろうと、最強の〝神殺し〟が相手では容易に戦いを挑めるものではないのだ。

だがそれでも白夜叉は、拳を強く握り締めこう告げた。

 

「呵ッ!ならばこの私が―――〝天動説〟が貴様に挑んでやろう!貴様を止める為ならば今すぐにでも神格を返上し、全身全霊を以て相手をするぞ?」

 

「ほう」

 

〝天動説〟―――それは黎明期に全ての宇宙観(コスモロジー)に君臨していた頃の白夜叉が名乗っていたもの。

神々としての神威と、魔王としての王威を生まれながらに手にして発生した星霊最強個体・箱庭席次第10番。

全権領域(箱庭二桁)〟の最初に座した最強の宇宙真理(ブラフマン)の一人である彼女は三度の敗北を経て、その強大だった霊格は、今や一介の太陽神と同程度しか残っていない⋯⋯⋯のだが、

 

「それに貴様も知っているはずだ。私には貴様を封印する術を持っているということを。如何に貴様とて、この私のパラドックスゲームを受ければ最後、私諸共、永遠に出口のない白夜の地平を彷徨うことになるだろうな」

 

〝天動説〟の霊格(しんじつ)は、人類史が存続する全ての時間を費やしても暴けない位置に存在しており、星の果て、時の果て、宇宙の最果てに到達してようやく証明が可能なのだ。

白夜叉がパラドックスゲームを仕掛ければ、彼女の霊格は肥大し、輪廻と無限(どうかく)に至り、封印も可能だということだろう。

輪廻は顎に手を当てながら呟いた。

 

「⋯⋯⋯ふむ。白夜様と二人っきりで永劫の刻を過ごすか。それも悪くないな」

 

「は?」

 

「だがそれでは夢が十六夜や外界に残された実兄と友らに金輪際会えなくなってしまうのは心苦しい。何よりも、十六夜が夢との失われた記憶を取り戻す為に頑張ってくれるのだからな。それが永遠に果たせない結末を迎えさせるわけにもいかないか」

 

輪廻は独り言のように何かをブツブツと呟くと、パチンと指を鳴らした。

するとまるで最初から〝閉鎖世界〟の力を解放していなかったかのように〝闇〟は霧散し、金髪とアメジストの瞳に戻っていた。

白夜叉は不可解に思いながらも輪廻を睨みつけることは忘れない。

輪廻はやれやれと肩を竦ませ言う。

 

「白夜様の箱庭愛は相変わらずだな」

 

「ふん。何を今更言うておるんだ貴様は」

 

「ふふ。まあそれはさておき、現実的な話をしようか白夜様」

 

「何?」

 

「余としては先も言った通りバレようが一向に構わん。だがそれを知って得をするのは一体何処のコミュニティだと思う?」

 

「⋯⋯⋯?貴様一体何を―――ハッ!?まさか!?」

 

輪廻の質問に、白夜叉は完全に理解する。

彼女が所属しているコミュニティは―――〝ウロボロス〟。

金糸雀達のコミュニティ〝      〟大連盟をたった一夜で滅ぼした魔王が属する最大の『敵』。

もしも奴らが輪廻の正体を知ってしまえば、どんな手を打ってくるか分かったものではない。

最悪、〝ディストピア戦争〟が再び起こる可能性だって無いとも限らない。

そんなことになれば、今度は一体どれ程の犠牲者が出るというのか。

白夜叉は暫しの黙考後、苦渋の決断をした。

 

「⋯⋯⋯分かった。貴様の正体は言わん。またしても〝階層支配者(フロアマスター)〟として許されない行為をしてしまったわい」

 

「別に気にする必要はないと思うぞ。余の正体を知っているのはもう一人いるからな」

 

「何じゃと!?一体誰が貴様の正体を知っているというんだ?」

 

「⋯⋯⋯夢を箱庭に召喚したのは誰だ?」

 

「!?まさかあやつも共犯者なのか!?」

 

「共犯者というよりかは、どちらかというと余の方が弱みを握られてるな」

 

「何!?この私も輪廻ちゃんのありとあらゆる弱みを握っては好き放題したいというのにあやつはこの私よりも上だというのか⋯⋯⋯!」

 

「本音が駄々漏れだが、というより余は白夜様に散々好き放題され続けてきたと思うが⋯⋯⋯まだその先があるのか?」

 

輪廻はやれやれと肩を竦ませるが、内心では満更でもなさそうだ。

彼女にとって白夜叉と共に居れる時間もまた、とても大切なものであり失いたくないものの一つなのだろう。

故にこそ、彼女は白夜叉との本気の殺し合いは望まないし、出来ることならばそうなる結末は迎えたくないと思っているのだ。

どうして輪廻が白夜叉を慕うのかは、何れ語るとしよう。

 

 

 

 

一方、その頃の〝ノーネーム〟はというと、

 

 

「「「じゃあこれからよろしく、メイドさん」」」

 

 

「え?」

 

「え?」

 

「⋯⋯⋯え?」

 

〝ペルセウス〟から取り返したレティシアを、十六夜・飛鳥・耀の問題児三人がメイドにしようとしていた。

唐突な展開に困惑する黒ウサギ・ジン・レティシアの三人に飛鳥・耀・十六夜の順に言う。

 

「え?じゃないわよ。だって今回のゲームで活躍したのって私達だけじゃない?貴方達はホントにくっ付いてきただけだったもの」

 

「うん。私なんて力いっぱい殴られたし。石になったし」

 

「つーか挑戦権を持ってきたの俺だろ。所有権は俺達で等分、3:3:4でもう話は付いた!」

 

「何を言っちゃってんでございますかこの人達!?」

 

混乱して叫ぶ黒ウサギ。

ちなみにジンも絶賛混乱中だった。

唯一、当事者であるレティシアだけが冷静に返した。

 

「んっ⋯⋯⋯ふ、む。そうだな。今回の件で、私は皆に恩義を感じている。コミュニティに帰れた事に、この上なく感動している。だが親しき仲にも礼儀あり、コミュニティの同士にもそれを忘れてはならない。君達が家政婦をしろというのなら、喜んでやろうじゃないか」

 

「レ、レティシア様!?」

 

黒ウサギが、まさか尊敬していた先輩をメイドとして扱わなければならないとは⋯⋯⋯と焦りと困惑の中、飛鳥が嬉々として服を用意し始めた。

 

「私、ずっと金髪の使用人に憧れていたのよ。私の家の使用人ったらみんな華も無い可愛げも無い人達ばかりだったんだもの。これからよろしく、レティシア」

 

「よろしく⋯⋯⋯いや、主従なのだから『よろしくお願いします』の方がいいかな?」

 

「使い勝手がいいのを使えばいいよ」

 

「そ、そうか。⋯⋯⋯いや、そうですか?んん、そうでございますか?」

 

「黒ウサギの真似はやめとけ」

 

ヤハハと笑う十六夜。

意外と和やかな四人を見て、黒ウサギは力なく肩を落とし、

 

 

「―――なるほど、そういう展開になっていたか」

 

 

「へ?フギャア!?」

 

何の前触れもなく背後に現れた輪廻に驚いて悲鳴を上げる黒ウサギ。

輪廻はそんな黒ウサギに詫びる。

 

「おっと、済まない。驚かせてしまったな黒ウサギ」

 

「り、輪廻様!?〝ノーネーム〟にはどういったご用件で―――じゃなくて、いきなり現れないでくださいと言ってるじゃないですか!?」

 

「だから済まんて」

 

「心臓に悪いのですからね!⋯⋯⋯って、え?輪廻様、そのお姿は?それに後ろのお二方は一体、」

 

「ん?ああ、そうだな。我が化身(アバター)と後ろの娘達については後で話してやる。それよりも、だ」

 

輪廻は十六夜・飛鳥・耀を見回すと、鋭い視線で睨みつけた。

 

「レティシアをメイドにしようとしているのは貴様らで間違いないか?」

 

「ええ、そうよ」

 

「何か文句ある?」

 

「まさか駄目だって言うつもりか?」

 

輪廻の問いに、飛鳥・耀・十六夜が答え睨み返す。

暫しの睨み合い後、四人は同時に右手を掲げて親指を立てた。

 

「超グッジョブ」

 

「でしょう?」

「でしょ?」

「だろ?」

 

雰囲気的に今から殺し合いでも始まるのかと勘違いしそうなものだったが、輪廻もまた問題児側の人間もとい龍であった。

黒ウサギは思わずずっこけそうになり、レティシアはやっぱりかというような調子で溜め息を吐く。

ジンも苦笑いな様子。

輪廻は顎に手を当てながら十六夜達三人に訊いた。

 

「それで、レティシアを三人でどう分けるつもりなんだ?まさか三枚に」

 

「卸すかッ!どうしたらそういう発想が生まれるんだ!?というか私を三枚に卸したところで三人には増えないぞッ!!」

 

「うむ、分かっている。ちょっとしたジョークだ」

 

「⋯⋯⋯ならいいが」

 

どうしてか輪廻が相手だとツッコミ役を買ってしまうというよりツッコまずにはいられなくなるレティシア。

輪廻は気を取り直してコホンと咳払いをして言う。

 

「正直に言うとだな。レティシアがお前達の主になるということはこれから彼女は忙しくなるということだ。何せ三人も仕えるべき主がいるのだからな」

 

「ああ、そうだな。忙しくなるのは百も承知の上だ。メイドとして誠心誠意努めさせてもらうつもりだ」

 

「だがそれだと我輩がレティシアで遊ぶ時間が無くなる。それは由々しき事態だ」

 

「は?」

 

「そこで我輩から提案があるんだが、」

 

「ちょっと待てッ!!」

 

輪廻の言葉を遮るようにレティシアが声を上げた。

輪廻は不思議そうに小首を傾げた。

 

「ん?」

 

「ん?ではないぞ輪廻殿!なんだ私『で』遊ぶ時間が無くなるっていうのは!?なんで私『と』ではないんだ!?」

 

「なんだ?その言い方だと我輩と遊んで欲しいように聞こえるぞレティシアよ?」

 

「ッ!!?一言もそうは言ってないだろ!?どうしてそういう解釈になるんだ!?」

 

「そういう割には顔が赤いな、照れ屋さんなのかな?ふふ、可愛いレティシアよ」

 

「ッ!!?」

 

いつの間にか眼前に現れた輪廻が、レティシアの頬に手を添えて微笑した。

レティシアは驚いて逃げようとしたところ、唐突に飛鳥が手を引いてきて庇った。

 

「あら、駄目よ輪廻さん。レティシアは既に私達のものだもの。口説き落とそうったってそうはいかないわ」

 

「うん。友達の輪廻でも、レティシアは譲れない」

 

続いて耀も飛鳥の意見に賛同し、レティシアを庇う。

十六夜もヤハハと笑いながらレティシアを庇うように輪廻に立ち塞がり言う。

 

「まあ、そういうことだ。レティシアへの逢い引き行為は主人の俺達が認めないぜ輪廻」

 

「ふむ、そうか。それならば仕方ない」

 

「だが、後ろの奴らには俺も興味がある。是非紹介してほしい」

 

「ああ、構わん。後で話してやると言ったからな。それに元々この娘達は貴様らとの取引材料というわけでもない。この娘達は―――〝ノーネーム〟に無事帰還できたレティシアへの褒美だ」

 

「⋯⋯⋯?私の⋯⋯⋯?」

 

輪廻の意味深な発言に、レティシアは困惑の表情を見せる。

これには黒ウサギ達五人も全く見当が付かず首を傾げた。

輪廻は待機していたフードを目深に被った少女達に言った。

 

「さて、もう顔を見せていいぞ―――ラミアとその娘」

 

「―――!!?」

 

輪廻の口から告げられた『ラミア』という名前に、レティシアは目をいっぱいに見開き驚愕する。

聞き間違えだろうか、輪廻殿が私の―――私の妹の名前を口にしたのは。

そんなレティシアに微笑する輪廻。

次いで、はい、と輪廻の後ろの右の方にいた少女が応えて黒いフードを取って顔を見せ、

 

「だからその娘と呼ぶのはやめてほしいと言っているのだわ!」

 

左の方にいた少女も怒りながら黒いフードを取って顔を見せた。

金髪紅眼のポニーテール少女―――ラミアと。

金髪紅眼のツインテール少女―――ラミア二世。

親子だからか顔はそっくりで、髪型が同じだったらどっちがどっちか分からなかったかもしれない。

そんな彼女達をまじまじと見つめた飛鳥・耀・十六夜はそれぞれ感想を口にする。

 

「まあ!なんて可愛らしい子達なのかしら!」

 

「金髪美少女が二人増えた」

 

「なるほど、これはレティシアに負けず劣らずの美少女だな」

 

「ほ、褒めても何も出ないわよ人間!」

 

「こ、こらラミ―――こほん。レイミア!褒めてくださってるんですから素直に喜んだ方がいいですよ」

 

己が娘の名を『ラミア』と言いかけて『レイミア』と呼び直すラミア。

二人して『ラミア』では紛らわしい為、娘の名前を仮名『レイミア』と呼ぶ事にしたらしい。

輪廻がラミアを揶揄う際に言った『レティミア』にしようかともラミアは悩んでいたらしいがそれはここだけの話。

黒ウサギとジンもラミアとレイミアの顔をまじまじと見つめて小首を傾げた。

 

「それにしてもお二人様方のお顔、どこかレティシア様に似ているような気がするのですよ」

 

「うん、僕もそう思った。失礼ながらお二人は、レティシアさんの親戚か何かでしょうか?」

 

ジンの質問に、ラミアはハッとした顔を見せ、自己紹介がまだだった事に気づき頭を下げて謝罪する。

 

「あ、申し訳ありませんでした。自己紹介がまだでしたね。私の名前は―――きゃっ!」

 

ラミアが名前を名乗ろうとしたところ、何者かによる突進で遮られ、彼女はその者に押し倒される。

ラミアに突進した何者かの名前を、黒ウサギが驚きの声を上げて呼んだ。

 

「レ、レティシア様!?一体どうされましたか!?」

 

そう。

ラミアに突進して彼女を押し倒した者は―――レティシアだった。

黒ウサギがレティシアに近付こうとすると、それを輪廻が右手で制した。

そして彼女は口元に人差し指を持っていき『シーッ』と言って黒ウサギを黙らせる。

輪廻のその行動に黒ウサギとジンが困惑する中、飛鳥・耀・十六夜の三人は彼女の意図を汲み取ったのか、ラミアとレティシアを温かな眼差しで見守ることにした。

レティシアに押し倒されたラミアの隣で、レイミアが意味深な笑みを浮かべてその二人を眺める。

突然の出来事に驚いた表情のまま、自分の上に覆い被さるレティシアを見つめるラミア。

そんなラミアを、目元に今にでも溢れ出しそうな涙を堪えた瞳で見つめてレティシアが口を開いた。

 

「⋯⋯⋯君は本当に、『あの』ラミアなのか⋯⋯⋯?私の愛する妹なのか⋯⋯⋯?」

 

「⋯⋯⋯姉上には私が偽者に見えるんですか?それならその⋯⋯⋯凄く悲しいです」

 

「―――っ!偽者なわけが無いッ!この愛おしい匂いも、最後に言葉を交わしたあの時と全く同じ姿の君は―――紛れも無い、私の愛する、たった一人の可愛い妹だ」

 

「っ!あ、姉上⋯⋯⋯っ」

 

レティシアに『愛する』とか『可愛い』などと言われて、ラミアの顔は熟れたトマトの様に真っ赤に染まる。

顔だけでなく、耳や首までもが。

そんなラミアを見ていたレイミアがニヤニヤしながら言う。

 

「最愛の姉上に『愛する妹』とか『可愛い妹』とか言われて、とても嬉しそうですね?ラミアお母様?」

 

「―――ッ!!?」

 

「ん、お母様?⋯⋯⋯なら君は」

 

「はい。私はラミア=ドラクレア二世と申します。お母様と名前が被ってしまうので仮の名で『レイミア』と名乗っております。以後お見知り置きを、レティシア伯母様」

 

「ふふ、そうか。ではレイミアもこっちに来てくれないか?」

 

「⋯⋯⋯?いいですけど、伯母様は私にも何か用件が―――ひゃあ!?」

 

レティシアに近づいたレイミアは、唐突に彼女の手に引き寄せられラミアと共に抱きしめられた。

困惑するレイミアだったが、限界を迎えたのか、レティシアの両目から大粒の涙が零れ落ちているのを見て、何か言おうとしたがやめた。

レティシアは、ラミアとレイミアを抱きしめ泣きながら言った。

 

「よかった⋯⋯⋯本当に、よかった!妹も姪も無事で⋯⋯⋯っ!こうしてまた、ラミアと再会できて⋯⋯⋯っ!ラミアの娘に、私の姪に、会う事ができて―――っ!!」

 

「姉上⋯⋯⋯」

「伯母様⋯⋯⋯」

 

泣きじゃくるレティシアに抱きしめられていた妹と姪は、それぞれ彼女に向けて言った。

 

 

「ただいま、姉上」

「私も会えて嬉しいです、伯母様」

 

 

そんな光景を眺めていた飛鳥と耀は、目尻に光る涙を手で拭い取りながら言った。

 

「⋯⋯⋯なんていうか⋯⋯⋯よかったわね、レティシア」

 

「⋯⋯⋯うん。本当に、よかった」

 

「そうだな。あの感じからすると、俺の推測だと生き別れて数百、数千年ぶりの再会だろうな。レティシアの様子を見るに、本来なら有り得ない出来事とすら思える」

 

「ほう。彼女達の様子を見るだけでそこまで読み取るとは中々の観察眼だな十六夜」

 

「そりゃどうも」

 

輪廻が感心すると、ヤハハと笑う十六夜。

一方、黒ウサギとジンはというと、

 

「レディジア様ぁああああッ!!ぼんどうに、よがっだのでずよぉおおおおおおおおッ!!!」

 

「く、黒ウサギ!?よ、よぉしよぉおし。い、いい子だから泣き止んで?」

 

レティシア以上に泣きじゃくっていた大号泣ウサギを、ジンが彼女のウサ耳を優しく撫でて必死にあやすというカオスな展開になっていた。

 

 

閑話休題(しばらくして)

 

 

泣き止んだ黒ウサギとレティシアは、人前で泣きじゃくっていた事を恥ずかしく思い、顔を赤らめていた。

そんな彼女達を飛鳥・耀・十六夜・レイミアがニヤニヤしながら見つめ、輪廻も微笑する。

レティシアは輪廻に向き合うと、深く頭を下げ感謝の気持ちを述べた。

 

「輪廻殿。私の妹と姪を救って頂き誠に感謝致します。この御礼は必ずお返しさせていただきます」

 

「ふふ、御礼は不要だ。我輩が好きでやった事だしな。それに―――お前達〝箱庭の騎士〟は箱庭の秩序を、下層を守る為に戦ってきたというのに、何者かの謀でコミュニティは崩壊し、ある者は魔王に堕ち、またある者は化け物にされて幾星霜も苦しんできたのを我輩は知っている。ならばこうしてお前達が報われる日が訪れてもいいだろう?」

 

「⋯⋯⋯っ、輪廻殿」

 

「だがもし本当に何か御礼をしたいのならば、レティシアが体で払ってくれてもいいぞ?無論、ラミアでもレイミアでも三人纏めてでも我輩は一向に構わん!」

 

「「「お断りします」」」

 

「グハッ」

 

輪廻の申し出に吸血姫三人は丁重に断る。

クリティカルヒットを受けた輪廻は吐血してくず折れた。

白夜叉みたいな事を言い出す輪廻に、飛鳥・耀・黒ウサギは生ゴミでも見るかのような冷ややかな視線を向け、十六夜は腹を抱えて笑い転げ、ジンは苦笑した。

それから黒ウサギはハッと思い出したような顔で輪廻に訊いた。

 

「そういえば輪廻様。そのお姿についてもお話して下さるのですよね?化身がどうのとか言っておりましたが」

 

「ん?ああ、そうだったな。話してもいいが―――我が化身の正体を明かしても構わんか十六夜?」

 

『え?』

 

「ああ、いいぜ。俺も知ってもらった方がいいと思っていたとこだしな」

 

『え?』

 

「ふふ、ならお言葉に甘えて自己紹介といこうか―――交代だ、夢」

 

輪廻と十六夜の会話に、レティシアを除いた六人が困惑する中、夢と呼ばれた少女が、はい、と応えて丁寧に自己紹介を始めた。

 

「皆様、初めましての方もそうでない方もこんばんは。私は輪廻様の器であり、十六夜お兄ちゃんの妹で名前は西郷夢と申します。輪廻様と十六夜お兄ちゃん共々、これからもよろしくお願い致します」

 

夢の自己紹介が終えると暫しの静寂後、

 

 

『十六夜お兄ちゃん!?』

 

 

飛鳥・耀・黒ウサギ・ジン・ラミア・レイミアの六人が同時に声を上げた。

レティシアだけはガルドとの一件で既に知っていた為、今更驚きはしないのだが、夢と十六夜が兄妹なのは本当に驚きものだ。

飛鳥達六人はすぐさまその事について問い質す。

 

「あ、貴女があの十六夜君の妹さん!?」

 

「一体全体どういうこと!?」

 

「というより十六夜さんに妹さんが居たなんて初ウサ耳なのですよ!?」

 

「僕は驚き過ぎて何を聞こうか忘れちゃったよ」

 

「でも苗字が違いますね?どういうことなんでしょうか?」

 

「きっとアレだわ。養子というやつね」

 

「え、ええと⋯⋯⋯」

 

一斉に質問されて困惑する夢。

そんな彼女の肩を抱き寄せた十六夜が眉間に皺を寄せて叫ぶ。

 

「いっぺんに質問するな戯け共がッ!我が妹が困ってんだろうがッ!!」

 

『!!?』

 

〝フォレス・ガロ〟との戦いの後に行われた『〝名〟と〝旗印〟の返還』を行う際に見せたものとは比べ物にならないくらいの威圧感を放つ十六夜にギョッとする飛鳥達七人。

そんな彼の学ランの裾を摘んで夢が言った。

 

「十六夜お兄ちゃん!?私は大丈夫ですから落ち着いて!でも―――夢の為に怒ってくれたのはとても嬉しい、ですっ!えへへ♪」

 

『(―――ッ!!?何この可愛い生き物は!?)』

 

天使のような笑顔を見せる夢に、飛鳥・耀・黒ウサギ・レティシア・ラミア・レイミアの女性陣六人の心臓(ハート)は射抜かれた。

十六夜は、そうかい、と微笑して夢の頭を優しく撫でてやる。

その撫で方は夢にとっては懐かしかったのか、気持ち良さそうに目を細めてご満悦のようだ。

そんな十六夜と夢を眺めていた女性陣六人がボソリと呟く。

 

 

『尊い』

 

 

「ふぇ?」

「あん?」

 

『なんでもない』

 

「「???」」

 

たった今、十六夜夢兄妹―――通称イザユメ推しのファンが六人も出来たのはここだけの話。

そんな光景を、夢の目を通して眺めていた中にいる輪廻が笑いを噛み殺す。

一方、僕の目の前に天使が舞い降りた、とでも思ってそうな顔で頬を赤らめ夢を見つめたまま呆けるジンがいた。

そんなジンの視線に気付いた(てんし)が小首を傾げて、

 

「ジンお兄さん?私の顔に何か付いてますか?」

 

「お、お兄さん!?ぼ、僕がですか!?」

 

「はい。輪廻様からはジンお兄さんは11歳だとお聞きしましたので、9歳の私にとってはお兄さんですよ」

 

「き、9歳なんですか!?そのようなお歳で輪廻様の化身を!?」

 

ジンはびっくらこいた。

僅か9歳で輪廻の化身という大役を務めているということに。

そんな彼女より年上の僕といったらなんだ、黒ウサギにあれこれやってもらって、ギフトゲームに参加しても飛鳥さんや耀さん、十六夜さんに頼ってばっかで何の役にも立てていない⋯⋯⋯!

僕はなんて惨めなんだ、と己の無力さを嘆き、自分の弱さが嫌になる。

ジンの心中を察したのか、夢が歩み寄ってきて彼の両手を取って微笑んだ。

 

「大丈夫ですよジンお兄さん。貴方は決して弱くなんかありませんし、今からでも遅くありません。ですから貴方の中で眠っている可能性を引き出してください。私も輪廻様も、貴方の『変化』に期待していますから」

 

「―――っ!?僕に、期待を!?」

 

「はい。ですから諦めずに頑張ってください。何も力だけが全てではありませんからね。十六夜お兄ちゃんすら超えられる何かが、ジンお兄さんにもあると思いますよ」

 

「僕が⋯⋯⋯十六夜さんを、超える⋯⋯⋯!?」

 

先日、十六夜に『先代を超えろ』と言われた。

今度は夢に、『十六夜を超えろ』と言われた。

そんなのは絶対に無理!無理だけど、それは力の面であり頭脳ならばあらゆる知識という知識を詰め込めば追いつけるかもしれない⋯⋯⋯!

ならばとジンは夢に誓った。

 

「⋯⋯⋯分かりました。僕、頑張ります!夢さんに、輪廻様の期待を裏切らない『変化』を見せます!そして貴女のお兄さんを―――十六夜さんを超える立派なコミュニティのリーダーになってみせます!!」

 

夢の激励により、ジンの顔付きが変わった。

それに夢の中にいる輪廻と、十六夜が感心した。

これはひょっとしたら、ひょっとするかもな、と。

夢は嬉しそうに笑ってジンに言った。

 

「はい。ジンお兄さんの覚悟、伝わりました。―――ということで、十六夜お兄ちゃん!この方が弟子になりたいそうですよ」

 

「へ?」

 

「へえ?そいつは度胸があるじゃねえか。それに俺を超えるって言ってたしな。こいつは扱き甲斐がありそうだ」

 

「ひいっ!?」

 

ボキボキ、ゴキゴキと拳を鳴らしていい笑顔でジンの目の前で仁王立ちする十六夜。

ジンは魔王ですら畏怖するであろう大魔王を垣間見た。

ジンは夢に助けを求めようとしたが、彼女は天使のような笑顔で一言。

 

 

「十六夜お兄ちゃんを超えることは生半可な覚悟では絶対に出来ませんよ?なので―――死ぬ気で頑張ってくださいね?ジンお兄さん♪」

 

 

前言撤回。

夢は天使の皮を被った大悪魔だった。

嗚呼、僕の恋心、ここで潰える。

やはり問題児の妹もまた問題児であった。

イザユメは尊いが、最大限に警戒はしようと女性陣六人は思ったのだった。

それから夢から輪廻に戻ると、

 

「では我輩は〝ウロボロス〟に帰還する」

 

「あ、はい。ところでラミア様とレイミア様は」

 

「ん?このまま〝ノーネーム〟に置いていくぞ」

 

『え?』

 

「え?ではない。先も言っただろう、この娘達はレティシアへの褒美だと」

 

「だがそれだと輪廻殿が所属しているコミュニティが取り返しに来たりするんじゃないか?」

 

「その事なら心配は無用だ。その娘達は〝ウロボロス〟の所有物ではなく、我輩のものだからな。ならば我輩が勝手に〝ノーネーム〟に預けたところで誰も文句は言えまい?」

 

輪廻の言葉に、それもそうかと納得する一同。

 

「それにお前達もレティシアに会いに来ただけでは物足りないだろう?特にラミアはレティシアと幾星霜もの間生き別れになっていたんだからな。これからゆっくりと失われた時間を取り戻すといい」

 

「⋯⋯⋯っ、輪廻様⋯⋯⋯本当に、ありがとうございますっ!」

 

深々と頭を下げて感謝するラミア。

救ってくれただけでなく、レティシア(あねうえ)と一緒に居られる時間まで作ってくれるとはいくら感謝してもし足りない。

そんなラミアに輪廻が微笑で返すと、次にレイミアに視線を向けて言う。

 

「それとレイミア。人間を憎むなとは言わんが少なくとも、レティシアを救った〝ノーネーム〟とは仲良くしてやってくれ」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯」

 

「それが出来ぬと言うのなら、お前には酷だが〝ウロボロス〟に連れ帰る。母親大好きのお前がラミアと距離を置き、これから伯母とも交流を深められるそのチャンスを棒に振ってもいいのならな?」

 

「―――っ!ひ、卑怯なのだわ!そんなこと言われたら〝ノーネーム〟に残る選択肢しかないじゃない!」

 

ムスッと不貞腐れるレイミアの頭を、輪廻が優しく撫でて言う。

 

「ふふ。お前だってレティシアを救ってくれた十六夜と飛鳥、耀には感謝してるだろう?」

 

「そ、それは⋯⋯⋯そうですけど」

 

「ならば仲良くしてやってくれ。まあ、彼らは問題児だから苦労するかもしれないが」

 

「え?」

 

「いやなんでもない」

 

苦笑する輪廻に、レイミアは頭上に疑問符を浮かべる。

最後に、レティシアに視線を向けて輪廻が言った。

 

「ではラミアとレイミアのことは任せたぞ、レティシア」

 

「⋯⋯⋯本当にいいのか?」

 

「何がだ?」

 

「いやだって、私の愚行のせいで妹と姪を苦しめてしまったんだ。そんな私が彼女達と共に暮らす生活を手にして」

 

「いいに決まってるだろ。あの娘達がお前のことを恨んでるわけないし、逆にお前がそれを望まなかったらとても悲しむぞ?」

 

「⋯⋯⋯っ、」

 

「だからお前は黙って我輩の好意に甘えろ。いいな?」

 

「⋯⋯⋯ああ、分かった。本当にありがとう、輪廻殿」

 

分かればよろしいと、レティシアに微笑する輪廻。

だがまだ輪廻に用があるようで、十六夜が口を開く。

 

「帰る前に一つ聞かせろ輪廻。あんたはどうしてレティシア達に優しいんだ?」

 

「それは私も気になるわ。まさか保護者だったりするのかしら?」

 

「DNA狙い?」

 

「保護者ではないし耀のは何を言ってるのかさっぱりだ。そして十六夜の質問の答えは―――企業秘密と言っておこうか」

 

ではな、と輪廻は問題児達三人の質問をてきとうにあしらって〝ノーネーム〟から姿を消すのだった。

 

 

 

 

それから三日後の夜。

子供達を含めた〝ノーネーム〟一同は水樹の貯水池付近に集まっていた。

その中で一際目立つメイド服に身を包んだレティシア・ラミア・レイミアの吸血姫三人。

輪廻が〝ウロボロス〟に帰った後、ラミアとレイミアは『戦力としては〝ノーネーム〟に協力出来ない』のと、レティシアがメイド故かやる気満々のラミアと不本意ながらも母親と伯母がメイドをやるならとレイミアもメイドを務める事となった。

メイドが三人に増えた為、十六夜・飛鳥・耀は専属メイドを作るのではなく、ローテーションを決めて日にち毎に担当するメイドを交代するようにしたそうな。

そんな吸血姫メイド三人が見守る中、黒ウサギが開会の音頭を取った。

 

「えーそれでは!新たな同士を迎えた〝ノーネーム〟の歓迎会を始めます!」

 

ワッと子供達の歓声が上がる。

周囲には運んできた長机の上にささやかながら料理が並んでおり、本当に子供だらけの歓迎会だったが、悪い気はしていなかった。

 

「だけどどうして屋外の歓迎会なのかしら?」

 

「うん。私も思った」

 

「黒ウサギなりに精一杯のサプライズってところじゃねえか?」

 

〝ノーネーム〟の財政は想像以上に悪く、あと数日で金蔵が底をつく。

十六夜達三人が本格的に活動し始めたとしても、100人超の子供達を支えるのは厳しいだろうし、ましてやその中で、魔王との戦いや仲間達の救出を行わなければならないのだ。

こうして敷地内で騒ぎながらお腹いっぱい飲み食いをする、というのもちょっとした贅沢になる程に。

その事について輪廻が『援助してやろうか?』と提案してきたが、流石にそれは断ったらしい⋯⋯⋯というよりそこまで気にかけてくれるならいっその事〝ノーネーム〟に移籍して欲しいくらいだ。

冗談はさておき、そういった惨状を知っている飛鳥は、苦笑しながら溜め息を吐いた。

 

「無理しなくていいって言ったのに⋯⋯⋯馬鹿な子ね」

 

「そうだね」

 

耀も苦笑で返す。

二人がそんな風に話していると、黒ウサギが大きな声を上げて注目を促す。

 

「それでは本日の大イベントが始まります!皆さん、箱庭の天幕に注目してください!」

 

十六夜達を含めたコミュニティの全員が、箱庭の天幕に注目する。

満天の星空で、空に輝く星々は今日も燦然と輝きを放っている。

異変が起きたのは、注目を促してから数秒後の事だった。

 

「⋯⋯⋯あっ」

 

星を見上げているコミュニティの誰かが、声を上げた。

それから連続して星が流れ、すぐに全員が流星群だと気が付き、口々に歓声を上げる。

黒ウサギは十六夜達や子供達に聞かせるような口調で語る。

 

「この流星群を起こしたのは他でもありません。我々の新たな同士、異世界から来た三人がこの流星群のきっかけを作ったのです」

 

「え?」

 

子供達の歓声の裏で、十六夜達が驚きの声を上げる。

黒ウサギは構わず話を続ける。

 

「箱庭の世界は天動説のように、全てのルールがここ、箱庭の都市を中心に回っております。先日、同士が倒した〝ペルセウス〟のコミュニティは、敗北した為〝サウザンドアイズ〟を追放されたのです。そして彼らは、あの星々からも旗を降ろすことになりました」

 

十六夜達三人は驚愕し、完全に絶句した。

 

「―――⋯⋯なっ⋯⋯まさか、あの星々から星座を無くすというの⋯⋯⋯!?」

 

そう飛鳥が声を上げた刹那、一際大きな光が星空を満たした。

そこにあったはずのペルセウス座は、流星群と共に跡形もなく消滅していたのだ。

言葉を失った三人とは裏腹に、黒ウサギは進行を続ける。

 

「今夜の流星群は〝サウザンドアイズ〟から〝ノーネーム〟への、コミュニティ再出発に対する祝福も兼ねております。星に願いをかけるもよし、皆で観賞するもよし、今日はいっぱい騒ぎましょう♪」

 

嬉々として杯を掲げる黒ウサギと子供達。

だが三人はそれどころでは無い。

 

「星座の存在さえ思うがままにするなんて⋯⋯⋯ではあの星々の彼方まで、その全てが、箱庭を盛り上げる為の舞台装置という事なの?」

 

「そういうこと⋯⋯⋯かな?」

 

その絶大とも言える力を見上げ、飛鳥と耀は茫然としている。

だが十六夜だけは、流星群を見ながら感慨深く溜め息を吐いていた。

 

「⋯⋯⋯アルゴルの星が食変光星じゃないところまでは分かったんだがな。まさかこの星空の全てが箱庭の為だけに作られているとは思わなかったぜ⋯⋯⋯」

 

十六夜が口にしたアルゴルとは、アラビア語でラス・アル・グルを語源とする〝悪魔の頭〟という意味を持つ星のことで、同時にペルセウス座で〝ゴーゴンの首〟に位置する恒星でもある。

そしてアルゴルが悪魔の星として伝承されたのは、変光星であるからだ。

連なる連星が重なり合い、光の波長を変える星が食変光星であり、アルゴルの魔性の正体。

星の位置を自由に遊び、ソラの彼方まで支配するような絶大な何かが、この箱庭にはあるのだ。

感動を補充するように眼を細めると、元気な黒ウサギの声が十六夜を訊ねる。

 

「ふっふーん。驚きました?」

 

黒ウサギがぴょんと跳んで来ると、十六夜は両手を広げて頷いた。

 

「やられた、とは思ってる。世界の果てといい水平に廻る太陽といい⋯⋯⋯色々と馬鹿げた物を見たつもりだったが、まだこれだけのショーが残ってたなんてな。お陰様、新たに個人的な目標が出来た」

 

「新たに、という言葉は意味深でございますが⋯⋯⋯それは何でございます?」

 

黒ウサギが訊くと、十六夜は消えたペルセウス座の位置を指差し言った。

 

「あそこに、俺達の旗を飾る。⋯⋯⋯どうだ?面白そうだろ?」

 

今度は黒ウサギが絶句するが、途端に弾けるような笑い声を上げた。

 

「それは⋯⋯⋯とてもロマンがございます」

 

「だろ?」

 

「はい♪」

 

満面の笑みで返すが、その道のりはまだまだ険しい。

奪われた物を全て奪い返し、その上でコミュニティを更に盛り上げなければならないのだから。

だが他の二人も反対はしないだろうと、そんな予感が十六夜にはあった。

 

「ところで十六夜さん。新たな目標が先程言ったものでしたら、最初の目標は何なのです?」

 

「そりゃ勿論―――『元・魔王』様の永劫輪廻を倒して隷属させ、〝ノーネーム〟のメイドにするに決まってんだろ」

 

「んなッ!!?」

 

十六夜のトンデモナイ目標を聞いて黒ウサギは顎が外れそうなくらい驚愕する。

 

「あの輪廻様を倒して隷属!?彼女の実力は未知数ですが〝全能領域(箱庭三桁)〟以上だと黒ウサギは白夜叉様から伺っているのですよ!?」

 

「〝全能領域〟以上ねえ。今の白夜叉では『逆立ちしても勝てない』とか言ってたな。けどどれくらいヤバイのか見当もつかねえよ。何度か手合わせして全く歯が立たないことは分かってるが」

 

「十分思い知らされてるじゃないですか!」

 

声を上げる黒ウサギに、ヤハハと笑う十六夜。

 

「だが少なくとも俺の『とっておき』はあいつに通用した。勝ち目がゼロじゃないならやってみなきゃ分かんねえだろ?」

 

「そうなんですか!?あの輪廻様に通用するギフトを所持しているとか何処まで規格外な方なのですか十六夜さんは!?」

 

騒がしい黒ウサギを見つめながら、十六夜は独り考えていた。

 

「(とはいえ俺の『とっておき』には発動までが時間掛かるからな。もし輪廻に本気の勝負を挑んだら、そんな隙は与えてくれねえだろうな)」

 

そう。

疑似世界(アナザー・ワールド)〟の時のように、輪廻が十六夜の『とっておき』を―――〝疑似創星図(アナザー・コスモロジー)〟の発動を待ってくれるとは限らない。

それもそのはず、〝疑似創星図〟とは世界そのものを武具として翳す領域であり、世界の頂に立つ神話の武具や、世界を支配する全能の術理などは所詮、世界を構成する一要素に過ぎないこれらに対抗する力は無い。

〝疑似創星図〟を真正面から迎え撃てるものなど、星霊の最上位か或いは最大成長した龍種くらいしかいないのだから。

十六夜は知らないが、輪廻の〝疑似世界〟は彼女の霊格の一部で構成されており、それを消し飛ばしたということは彼女の霊格の一部を消し飛ばしたのと同義である。

故に輪廻は〝疑似世界〟を消し飛ばされた後、一度夢と交代し、失った分の霊格を作り直す時間が必要だったのだ。

結論を言うと、十六夜は輪廻を倒す事が可能だが、〝疑似創星図〟が使える隙を作り出せなければ勝機は無い。

 

「(だが仮に、直接コイツを輪廻に当てられたとして、あいつの化身である我が妹を殺しちまわないかってとこだな)」

 

十六夜の懸念はむしろそこだ。

如何せん〝疑似創星図〟は強力過ぎる為、対象を確実に殺してしまうだろう。

だから打倒輪廻の目標よりもまずは夢を救う方法が先だ。

 

「―――ああ、そうだな。絶対にお兄ちゃんが救ってやるからな」

 

「⋯⋯⋯へ?十六夜さん、何か仰いましたか?」

 

「いんや、何でもねえよ」

 

ヤハハと笑う十六夜を、疑問符を頭上に浮かべた黒ウサギが見つめる。

夢を救い、輪廻を倒すことはきっと大変なことだろう。

それでも成し遂げてみせると、密かに誓いを立てた十六夜だった。

 

 

 

 

新たな同士を迎えた〝ノーネーム〟の歓迎会を、別館の屋根上で眺めている者が二人ばかりいた。

金髪ショートのエメラルドの瞳を持つ少女―――金糸雀が口を開く。

 

「ふふ。すっかり十六夜君に狙われちゃってるわねユーちゃん?」

 

「出逢って早々十六夜には目を付けられているがな」

 

金髪ロングのアメジストの瞳を持つ少女―――〝理想郷(ユーちゃん)〟こと永劫輪廻が肩を竦める。

その輪廻はムッと眉を顰めて言う。

 

「それはいいとして―――何故余は貴様の抱き枕にされているんだ?」

 

「あら、駄目だって言うの?体は夢ちゃんだし裏の夢ちゃん絶対喜んでると思うのだけれど」

 

「⋯⋯⋯はあ。夢の為ならばこの状況を甘んじて受け入れるほか無いか」

 

「やった!」

 

この体は金糸雀の言うように輪廻の化身こと西郷夢のものであり、彼女がこの状況を喜んでるなら拒否出来ないのは仕方が無いこと。

輪廻が夢にたいして甘いのもあるが、彼女が下層に行く為には必要な器であり、無くてはならない存在なのだ。

輪廻の本体は箱庭上層の何処かで眠っており、万が一ソレが下層に顕現でもしようものなら大変な事態になるのだから。

輪廻はふと星空を眺めながら呟く。

 

「―――そういえば貴様らも、かつてはデタラメな事をしでかした事があったな」

 

「あら?それはなんの事かしら?」

 

「ふん、とぼけるなよ。余が魔王〝閉鎖世界〟として活動していた時に見たあの光景は忘れるわけが無かろう。主権を持たぬ者には〝全能領域〟達でさえ箱庭の星は動かせないというのに貴様らは―――黄道十二宮を落とすという馬鹿げた事をやってのけたんだからな」

 

「⋯⋯⋯!ああ、レティシアを救出しに行った時のアレね!てかユーちゃん西側から見てたんだ」

 

「あれ程のビッグイベント、この余が見逃すわけなかろう?故にこそ貴様らには期待していたんだ。これ程面白い事をやる貴様らならば―――余達を殺してくれるやもしれぬとな」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯っ、」

 

輪廻のどこか寂しそうな瞳を覗き込んだ金糸雀は、居た堪れない気持ちになる。

〝ディストピア戦争〟の時に幾度か見せていたあの魔王の寂しげな瞳は、やはり見間違いでは無かったことを金糸雀は知る。

倒さねばならない最悪の魔王なのに、どうしてそんな瞳で私を見つめてくるのか当時は分からなかった。

だが今なら解る。

あの魔王が死に際に放った『ありがとう』の意味を。

あれはきっとこう言いたかったのだろう。

 

 

「⋯⋯⋯『余達を止めてくれて、殺してくれて―――ありがとう』」

 

 

「ん?」

 

「違うわよ⋯⋯⋯私達はあんた達を倒してなんか無いッ!倒し方を見つけられず彷徨った挙句、あの戦争を早く終わらせる為にあんな方法を取ってしまったというのに―――ッ!!」

 

血が滲む程力強く拳を握りしめて声を上げる金糸雀。

あんなものは胸を張って『勝利した』、『倒した』なんて言えないわよッ!!

ずっとずっと後悔していた。

もっと他にいい方法があったのではないかと。

今目の前にいる〝閉鎖世界(かのじょ)〟に、どんな顔をすればいいのか。

だがそんな金糸雀を、輪廻は振り返り優しく抱きしめた。

 

「確かにお前達の選択は間違っていたのかもしれない。だがそれでも、『不倒の魔王』たる余達を相手に勇敢に立ち向かい、箱庭を、人類の未来を救おうと必死に足掻いたのを余は知っている。それだけでも、余はこう言うぞ。お前達は『よく戦った』。その事を『誇って良い』。他ならぬこの余が『許そう』。そして『お疲れ様』、金糸雀」

 

「―――――⋯⋯⋯っ!」

 

「それにお前達は外界で見つけてきてくれたじゃないか。人類最高クラスのギフト保持者を―――人類最強戦力(ミリオンクラウン)を。逆廻十六夜(げんてんこうほしゃ)久遠飛鳥(あめのむらくものつるぎ)春日部耀(ゲノム・ツリー)。彼らはまだまだ青いし、〝天叢雲剣〟に至っては飛鳥の片割れが持っていたからな」

 

「⋯⋯⋯ユーちゃん、貴女いったいどこまで読めているの⋯⋯⋯?」

 

「ん?それは―――無論秘密だ。如何に戦いの舞台から降りている金糸雀であってもそれは教えられんな」

 

「そう⋯⋯⋯」

 

「だが特別に、お前だけに教えてやってもいいぞ。余の真の名を」

 

「え?」

 

輪廻が意味深な発言をして、金糸雀はキョトンとした顔をする。

輪廻は気にせず続けた。

 

「我が最初の化身であるトウヤが付けてくれたお気に入りの名だ。余の名は理想(りお)―――西郷理想(さいごうりお)だ。これから『りお』と呼んで構わんぞ、余の最愛なる金糸雀よ」

 

「〝西〟の〝郷〟の〝理想〟と書いて〝サイゴウリオ〟と読むのね。分かったわ、次からはそうさせてもらうわね理想ちゃん 」

 

「何故余をちゃん付けしたいんだ貴様は?」

 

「あら、別にいいじゃない減るものでも無いし」

 

「⋯⋯⋯ふん。勝手にしろ」

 

ムスッと不貞腐れる輪廻改め理想ちゃん。

ふふ、と上機嫌に笑う金糸雀。

まさか思わぬ形で二人だけの、夢を含めて三人だけが知る秘密を得られるとは思わなかった。

理想の言い分だと、〝ウロボロス(やつら)〟も彼女の本当の名前を知らないということになる。

これはしてやったりの気分だった。

そう。

〝ウロボロス〟は理想の正体を『知っている』。

そも、彼女が今まで正体を知られずに箱庭に存在していられたのも、〝ウロボロス(かれら)〟が匿っていたからだった。

それも金糸雀は知らないが、魔王〝閉鎖世界〟が倒されたその日に、眠っていた理想を見つけた〝ウロボロス〟の手によって保護されていた。

そして彼女にとって慕っているはずの白夜叉に吐いてしまった大きな一つの『嘘』。

だがこれは仕方の無い事だった。

〝ウロボロス〟と交わした〝契約(ギアス)〟―――『正体が明るみになった時、我ら〝ウロボロス〟と共に箱庭に〝戦争〟を仕掛ける』という恐ろしい内容が実行されないようにする為なのだから。

一方の金糸雀は、理想が口にした『最初の化身』の正体に内心驚愕していた。

 

「(理想ちゃんの言った〝トウヤ〟って何処かで聞いた事があると思ったら⋯⋯⋯十六夜君と焔君そして夢ちゃんの父親の名前じゃない!〝西業〟って名乗ってたから魔王ディストピアとは関係ないと思ってたのにこれは一体どういうことなの!?)」

 

理想の口にした〝トウヤ〟とは即ち〝サイゴウトウヤ〟―――西郷東夜(さいごうとうや)の事だろう。

粒子体研究者にして〝環境制御塔〟と言う名の『星を管理するバベルの塔』の発案者。

人類には当初、星の定めたタイムリミットが存在していた。

史上最大級の星の息吹―――破局的大噴火(ウルトラボルケイノ)

火山活動の中でも最大級の物を俗に〝巨釜噴火(カルデラボルケイノ)〟と呼ぶ。

強大すぎる星の力によって噴出した土石流は時に大地を造り、時に大陸すら木っ端微塵に吹き飛ばす最大最強の自然災厄であり、大地に残された傷跡の形状から巨釜や大杯などの意味を持つ〝カルデラ〟という名で呼ばれるようになったのだ。

核兵器の3000億倍と推定されるその力の奔流は大陸を砕き、巻き上げられた粉塵は空を覆って太陽の光を遮り、数百年に及ぶ氷河期で星を包み込むという。

当時、人類はこれを乗り越えることは不可能とされていたのだが、東夜の発案した〝環境制御塔〟によりそれを可能にした。

〝人類滅亡の形骸化〟―――別名〝神殺し〟と呼ばれる終末の獣達を打倒した末に、箱庭はその救済の力が人類の手に渡るよう歴史を正す事に成功する。

だが人類救済の力を得た人類は、その力を使って自滅する未来が確定してしまった。

これこそが〝人類最終試練〟―――人類が人類を死滅させる三体の魔王。

〝絶対悪〟魔王アジ=ダカーハ。

〝閉鎖世界〟魔王ディストピア。

〝退廃の風〟魔王エンド・エンプティネス。

当時の箱庭に〝踏破不可能〟と太鼓判を押された最強の魔王である。

 

「(人類救済の為に十六夜君の父親は尽力したはずなのに、まさか〝人類最終試練〟の魔王三体を生み出した元凶だというの!?)」

 

〝第三永久機関〟コッペリアを含めるのならば、東夜が生み出した人類への試練は四体かもしれない。

だが金糸雀には理解出来なかった。

どうして〝環境制御塔〟なるものを発案し、人類の未来を救おうとした男が、理想の化身に―――魔王〝閉鎖世界〟の化身になっていたというのだろうか。

彼の抱いた〝理想郷〟が否と突きつけられたから?それとも―――

 

「(いや駄目ね。私じゃ十六夜君の父親の気持ちを理解する事なんて出来ないわ。この事については分からず仕舞いだけれど、お陰様で理想ちゃんの正体が判明したわね)」

 

そう。

東夜が理想の化身であるならば、〝理想郷〟と〝閉鎖世界〟の霊格を併せ持つ彼女の正体も自然と浮き彫りになる。

 

「―――〝環境制御塔〟の化身。レティシア達〝箱庭の騎士〟を造った純血の龍種、太陽の軌道線上を飛ぶ〝衛星〟の化身と同じで、人類が残した文明の擬人化だったのね、理想ちゃん」

 

「ん?ああ、そうだ。ふふ、最初に余の正体に辿り着いたのが金糸雀で嬉しいぞ」

 

「いや流石に十六夜君の父親の名前を出されたら分かるわよ。だって私は元・最強のゲームメイカーだもの」

 

「それもそうだな」

 

「そしてもう一つ。〝生命の目録〟の製作者なんだけれど―――これも理想ちゃんが造ったんでしょ?」

 

金糸雀の核心のついた問いかけに、理想の表情が微かに驚きに染まる。

 

「⋯⋯⋯どうしてそう思ったんだ?」

 

「簡単な話よ。理想ちゃんが〝環境制御塔〟の化身ということはつまり、星を管理するバベルの塔の力を有している。それを箱庭の星に置き換えるなら―――〝星権を支配する王〟って意味になるでしょ?だからね、私はこうすら思ってるの」

 

「なんだ?」

 

「―――箱庭の星権が持つ全ての権能を『星権なし』で振るえる。そうよね?〝不可能を可能にする生命体(エネルギー)〟の魔王様?」

 

カラコロと笑ってそう言った金糸雀。

今度こそ理想の表情が驚きに染まった。

〝不可能を可能にする生命体〟という表現を使ってきたことに驚いたのだ。

それは一桁ナンバーの〝退廃の風〟すらその気になれば倒せるんでしょ?と言ってるようなものだから。

確かに彼女の故郷は〝終末論〟を超えたその先に生まれた真の〝理想郷〟。

その世界に〝退廃の風〟の居場所などありはしないのだから倒す事も可能かもしれない。

だがそれでも理想が直接〝退廃の風〟を倒すことはないだろう。

何せ〝人類最終試練〟とは人類が乗り越えねばならない試練なのだから、純血の龍種たる彼女が出る幕では無いのだ。

理想は観念したように笑って頷いた。

 

「ああ、本当にお前には敵わないな金糸雀。そうだ、余が〝生命の目録〟を造った純血の龍種だ。〝生命の王冠(ゲノム・クラウン)〟まで至った孝明を見れば、余の正体を知った金糸雀ならばこの回答に行き着くのは当然か」

 

「まあね。てか〝生命の王冠〟は流石にチート過ぎないかしら?制限時間付きでも〝生命の目録〟所持者が最強種の器になれるとかホント星権に喧嘩売ってる代物よ」

 

「ふふ。だが余という単独二桁を倒すには必須級ギフトであったろう?」

 

「うわ、それ聞くと私達はトンデモナイ怪物と数万年も戦ってきたのかってなるわね」

 

「まあ、とはいえ人間(トウヤ)を器に顕現していたからな。流石に〝全権領域〟程の力はないぞ」

 

「それもそうね」

 

理想の言葉に納得する金糸雀。

だがそれでも彼女は強すぎた。

戦いが数万年も長引いているのだからその壮絶さを物語っている。

まあだがもし、彼女の最後の霊格を―――〝第三永久機関〟に辿り着いて居たのならば、彼女の故郷に、真の〝理想郷〟に至れたのかもしれない。

 

「ところで理想ちゃんの今の実力は何桁相当?」

 

「ん?ああ、夢を器にしている余は〝全能領域〟には負けぬが流石に〝全権領域〟には勝つ自信ないな」

 

「勝てないじゃなくて勝つ自信がないだけなのね。そこは流石単独二桁の魔王様ってところかしらね」

 

「茶化すな。それに余はもう魔王では無いと言ってるだろう?」

 

「あらごめんなさい」

 

本当に謝ってるのかこいつ、とでも言いたげな表情と半眼で金糸雀を見る理想。

金糸雀はクスクス笑った。

 

「次に夢ちゃんが表に出てきている時の実力は何桁相当?」

 

「夢が表に出ている時か。それならば十六夜の足並みとでも答えておこう」

 

「え?」

 

「ここだけの話だが、夢は余の正規の化身ではない。彼女はあくまでスペアにすぎないからな。故に余のバックアップを以てしても、十六夜には届かぬ」

 

「ちょっと待って!夢ちゃんが理想ちゃんの正規の化身じゃないってことは⋯⋯⋯まさか、十六夜君なの⋯⋯⋯?」

 

「ああ。十六夜こそが余の真の化身であり―――〝創造主(マイマスター)〟だ」

 

金糸雀は絶句した。

東夜が理想の最初の化身だった事を知った時以上に。

 

「十六夜君が理想ちゃんの真の化身にして〝創造主〟。ということは〝環境制御塔〟を造り上げたのは未来の十六夜君ってこと?」

 

「そうだ。少なくとも余の故郷で余を造った人類は十六夜で間違いない。だが十六夜が箱庭に召喚される可能性があると判断された段階で、歴史を修正する為に生み出されたというイレギュラーの彼の弟―――西郷焔と。余の化身のスペアとして〝ウロボロス〟が用意した本来存在する事自体イレギュラーな彼らの妹―――西郷夢の三人が、未来の余の〝創造主〟となるやもしれぬな」

 

「あら。それなら理想ちゃんは三人で取り合いになりそうね」

 

「どうしてそういう結論に至るのか分からんが、余の〝創造主〟が何人増えようが構わん。だが〝ウロボロス〟のようなやり方だけはしないでほしいな」

 

理想は目を閉じて黙祷する。

彼女に倣って金糸雀も黙祷した。

〝ウロボロス〟は世界を救う為ならば犠牲を厭わない連中だ。

彼らの行いで消えるはずのなかった命が幾つあったというのか。

これは金糸雀が箱庭を追放された時に外界で見てきた事だから知っていた。

そして十六夜と金糸雀で〝組織〟を壊滅させたこともあった。

あれから例の〝組織〟がどうなったか、完全に沈黙したか、それとも性懲りも無く同じ事を繰り返しているのか。

仮令(たとえ)後者であったとしても、舞台から降りた金糸雀にはもうどうすることも出来ないが。

理想は目を開けると、歓迎会を楽しむ十六夜達を眺めながら言う。

 

「〝敗北者〟である余達が今の箱庭に口を挟む権利などないからな。余達はこれからも彼らの行く末を見届けるとしようか」

 

「そうね。あ、でも理想ちゃんは白夜叉の言い付け通り、これからも十六夜君達に手を貸してくれるんでしょ?」

 

「そうだな。だが余の属する〝ウロボロス〟連盟に可愛い新米魔王達がいるからな。彼らの面倒もしっかり見てやらないといけない。故に次は〝ノーネーム〟の敵として、十六夜達の背中を押す形になるやもしれぬ」

 

「新米魔王?」

 

金糸雀が首を傾げると、理想は頷いて言った。

 

「うむ。皆初やつで可愛いぞ。一人は〝ウロボロス第三連合〟の盟主を任された白髪の少年で、もう一人は―――お前達の罪そのものと言える魔王だ」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯っ、その魔王の名は?」

 

「〝黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)〟―――黒死病(ペスト)。〝8000万の悪霊群〟の代表にして、彼らの怨嗟を叶える為に太陽に復讐する、心優しい魔王だ」




我ながら自己解釈満載の内容になってしまったが後悔はないッ!!

早々に正体バラされてるけど金糸雀がいるからしょうがないしょうがない(白目)

この調子だと西郷パパが魔王ディストピアなら、西郷ママは⋯⋯⋯いや群体って表記あるしわざわざ西郷ママ絡める必要ないか(夫が魔王になったら必然的に妻も魔王になりそうなものだけど)

一番のやらかし要素は、輪廻がその気になれば〝退廃の風〟倒せるかもしれないとか書いてるとこかな。二桁が一桁に勝てるわけないじゃん!全くもってその通り!ただこのSSの裏ボス主人公ちゃんは〝退廃の風〟すら吹かない真の〝理想郷〟の世界で発生した〝純血の龍種〟って設定だから、箱庭に来たから〝退廃の風〟に殺されるのもなんか違う気がするしでも『全ての世界を終わらせる権利』持ってるのが〝退廃の風〟だし⋯⋯⋯ホントこの風扱い難しすぎる!まあ、絶対倒せる!とは書いてないしセーフって事で()

邂逅編はこれにて終了です
次回はペスト編入るか番外編にするかは作者の気分次第ということで
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