問題児たちが裏ボスと出逢うそうですよ?   作:問題児愛

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お待たせしました。
本当は輪廻VS〝ノーネーム〟の予定でしたが、せっかくなので原作で雑に扱われた某神群の一柱を登場させてみました。
結果、約3万文字という限界突破を果たしましたとさ。


特訓・後編

〝ノーネーム〟本拠地・大広間。

そこには〝ノーネーム〟主戦力の十六夜・飛鳥・耀の三人。

彼らのメイドを務めるレティシア・ラミア・レイミアの三人。

そして〝ノーネーム〟現頭首ジンと黒ウサギが集まっていた。

その中でレティシアは容器を持っており、長机を囲うように席に着いている十六夜達七人の前にはそれぞれティーカップが置かれていた。

レティシアは優雅にそれぞれのティーカップに、容器の中に入っていた液体を注いでいく。

その液体の正体は―――紅茶。

何故紅茶か、それは数万年前にラミア(いもうと)と交わした約束を果たす為だ。

この紅茶が、妹の苦労が全て労われる程のものである事を願って。

本当は自分と妹と妹の娘の家族三人だけでお茶会を開こうと思っていたが、十六夜達五人にも感謝の気持ちを込めて淹れた紅茶を飲んで欲しいと思い、彼らも招いたのだ。

紅茶を淹れ終えたレティシアは、一礼して言う。

 

「本日は私のお茶会に参加してくれてありがとう。腕によりをかけて紅茶を淹れたので是非堪能してほしい」

 

レティシアがそう言うと、真っ先にラミアがティーカップを手に取り、まずは紅茶の香りを嗜む。

 

「まあ!なんて上品な香りでしょうか!あの姉上が淹れた紅茶とは思えない出来映えです!」

 

「いや、ラミア?あれから数万年も経っているのだからむしろ上達していなかったらお笑い種なんだが」

 

「ふふ、冗談ですよ。あ、でも香りが良くても味の方がイマイチという可能性も捨て切れませんね」

 

「⋯⋯⋯ラミアはそんなに私を〝美味しい紅茶も淹れられない姉〟のままにしたいようだな」

 

苦笑しながらもラミアを見つめて感想を待つレティシア。

そんなマジマジと見つめられては飲みづらい、とでも言いたげなラミアは頬を紅潮させながらティーカップに口を付けて一口。

 

「⋯⋯⋯⋯⋯ッ」

 

そのたった一口飲んだだけで、ラミアの両目から涙が零れ紅潮した頬を伝う。

唐突に涙を流すラミアを見たレティシアはギョッと目を剥いて驚く。

 

「ラ、ラミア!?まさか私の紅茶は泣く程不味かったのか!?」

 

「ち、違います!あ、姉上の淹れた紅茶は、とても美味しいです⋯⋯⋯っ!この、涙は⋯⋯⋯嬉し涙ですっ!」

 

「嬉し涙?」

 

「はいっ!〝次のお茶会では姉上の淹れたお茶で〟という約束を忘れずに果たしてくれたことと―――私のことを想って淹れてくれたことが堪らなく嬉しいんですっ!!」

 

そう言いながらまた一口、また一口と紅茶を飲み、涙を流しながらレティシア(あね)に微笑むラミア。

そんなラミアを見て、照れくさそうに頬を掻きながらレティシアは言う。

 

「ふふ、喜んでもらえて私も嬉しい。ずっとずっと、こうしてあげたかった。本来、私が受けるはずだった呪い(モノ)をラミアに背負わせて幾星霜も辛い思いをさせてすまない。だから私の淹れた紅茶で、その苦労が労われることを願って。―――ありがとう。そしてお疲れ様、私の最愛の妹」

 

「あ、姉上⋯⋯⋯!」

 

「―――見つめ合う二人。高鳴る鼓動。互いの想いは一つになり、押さえ切れなくなった感情は二人の行動を加速させベッドへと縺れ」

 

「込まないからな!?いきなり現れて変なナレーション付けないでくれ輪廻殿⋯⋯⋯っ!!」

 

「な、なんて積極的な姉上でしょう!?ふ、ふふふ。これはいよいよ私も覚悟しなければなりませんねッ!!」

 

「ラミアは少し黙っててくれないか!?話がややこしくなるだろう⋯⋯⋯っ!!というかなんで凄く嬉しそうに言うんだ!?」

 

何処からともなく現れた輪廻の茶々入れにツッコミを入れるレティシアと、それを満更でもない表情で受け入れようとするラミア。

ちなみに、流石に輪廻は首と手首足首に付けていた枷は外してある。

この体は夢のものであり、十六夜の実妹だ。

もし枷を付けっぱで〝ノーネーム〟を訪問しようものなら十六夜が蟀谷に青筋立てて凄く良い笑顔で『我が妹にこんなもの付けた〝ウロボロス〟の頭首様には今度お礼参りに行かねえとな♪』という感じに言うに違いない。

輪廻はそんなことを想像しながら苦笑し、レティシアの持つお盆の上に置いてあった容器を手に取ると―――『I LOVE人類!』などという小っ恥ずかしい文字が刻まれたマイカップに紅茶を注いで飲む。

 

「うむ。いつ飲んでもレティシアの紅茶は美味(かな)

 

「うむ、じゃないわッ!!また輪廻殿は勝手に紅茶を飲んで自由か⋯⋯⋯ッ!!」

 

全くだッ!!!と内心で叫ぶ黒ウサギ。

いや、〝ノーネーム〟への不法侵入(テレポート)も幾千万と行っている輪廻は既に自由の域を凌駕しているかもしれない。

とはいえ彼女には良くしてもらっている分、それを許してしまう黒ウサギである。

輪廻はふむ、と少し考える素振りを見せたかと思うとパチンと指を鳴らした。

すると次の瞬間、極光が大広間を呑み込み、その光が晴れると―――長机の上に白い大皿とその上には一ホールのケーキがあった。

 

「「「―――⋯⋯⋯は?」」」

 

何の前触れも無く現れたケーキに素っ頓狂な声を洩らす十六夜・飛鳥・耀の異世界三人組。

そんな光景に慣れてしまったレティシア・ラミア・レイミア・黒ウサギ・ジンの箱庭五人組は苦笑。

レティシアは何処からともなく取り出したナイフで素早くケーキを八等分し、輪廻を除いた十六夜達七人分と自分の皿を用意すると切り分けたケーキを乗せていく。

それから一切れのケーキが乗った皿を十六夜達七人の紅茶の隣に置いていき、残り一つはレティシアの手元に。

立ったままのレティシアに、輪廻はもう一度パチンと指を鳴らし、極光と共に現れた豪奢な椅子に座り誘う。

 

「ほれ、レティシア。立ったままではなく座ったらどうだ?ここに丁度いい椅子が」

 

「輪廻殿の膝上には座らないからな?」

 

「むぅ」

 

身の危険を感じたレティシアは即断じる。

見事に振られて拗ねる輪廻。

一連の流れに呆気にとられていた飛鳥がハッと我に返って声を上げた。

 

「ちょ、さっきのは何なのかしら!?いきなり美味しそうなケーキが現れたのだけれど!?」

 

「その椅子もいきなり現れた。どういうこと?」

 

耀も不思議そうに小首を傾げて訊ねる。

十六夜もヤハハと笑いながら、

 

「まるで魔法だな。もしかしてさっきのはどっちも無から生み出したモノだったりするのか?」

 

「YES!先程のケーキや椅子は、輪廻様が〝模倣〟し無から生み出したモノでございます♪」

 

「模倣?」

 

「はいな。輪廻様が生み出すモノは基本、他の方が作ったモノなんですよ」

 

「へえ?」

 

黒ウサギの説明を聞いて物騒に瞳を光らせる十六夜。

続けて飛鳥が訊く。

 

「もしかして輪廻さんは、なんでも模倣できるのかしら?」

 

「いや。我輩にも模倣出来ぬものならある」

 

「それは?」

 

「それは―――〝疑似創星図(アナザー・コスモロジー)〟だな」

 

「「「〝疑似創星図〟?」」」

 

「うむ。〝疑似創星図〟は神群の秘奥或いは神群を構築する世界(うちゅう)そのものだ。我ら龍種の〝自己観測宇宙(パーソナルコスモロジー)〟もそうだな。これらに関しては我輩にも模倣出来ぬ」

 

そも、輪廻の〝模倣〟は全能の一端に過ぎない。

その〝模倣〟で世界そのものである〝疑似創星図〟や〝自己観測宇宙〟すら作れてしまったらそれこそ反則である。

まあそれでも、これら以外なら〝模倣〟出来てしまうのだからデタラメといえばそうなるが。

十六夜がスッと瞳を細めて輪廻を見つめ言う。

 

「〝純血の龍種〟である輪廻も、〝自己観測宇宙〟なるものを所有してたりするのか?」

 

「ふふ、それについてはノーコメント。それよりもせっかくレティシアが淹れてくれた紅茶だ、冷める前に飲め。我輩の用意したケーキも一緒にな?」

 

「それもそうね。冷めないうちに戴きましょう」

 

「うん」

 

輪廻に促されて紅茶とケーキに舌鼓を打つことにした。

紅茶を飲んだ後、ケーキを食べる。

レティシアの淹れた紅茶はさっぱりとした味わいで飲みやすく、輪廻の用意したケーキは甘過ぎず見事に紅茶とマッチしていてあっという間に飲み干し、食べ切ってしまった。

 

『ごちそうさま(でした)』

 

「「お粗末さまでした」」

 

レティシアは食器類の片付けに入る。

輪廻もパチンと指を鳴らして一ホールのケーキが乗っていた大皿を消し去った。

今まで無言だったレイミアが口を開く。

 

「伯母様の紅茶、とても美味しかったのだわ。これはお母様も腕を上げねばなりませんね?」

 

「うぐっ。そ、そうですね。悔しいですが姉上の方が遥かに上手ですし⋯⋯⋯私もメイドとして腕を磨いて追いつきませんとね!」

 

「ふふ。そういうレイミアはまだまだ未熟だからな。伯母としてみっちり鍛えてあげないといけない」

 

「あら?それは母親である私の役目でしてよ?まずは私を超えて頂かないと」

 

「ひっ!?お、お手柔らかに頼みます⋯⋯⋯っ!」

 

どうやらレイミアの腕はまだまだらしい。

レティシア(おば)ラミア(はは)がみっちり鍛えるようだ。

半泣きのレイミア。

そんな吸血鬼家族三人の様子を微笑ましげに輪廻が眺めていると、十六夜が思い出しように訊いてきた。

 

「なあ、輪廻」

 

「ん?」

 

「以前、お嬢様達が〝フォレス・ガロ〟とのギフトゲームをクリアした後に、奪われた〝旗印〟と〝名〟の返還を行ったんだが、その中に〝ルル・リエー〟ってのがあったんだがもしかして―――クトゥルフも箱庭にいるのか?」

 

「「「え?」」」

 

〝クトゥルフ〟という言葉を聞いて反応する黒ウサギ・ラミア・レティシアの三人。

飛鳥・耀・ジン・レイミアの四人は初めて聞く言葉に小首を傾げる。

十六夜が〝ルル・リエー〟とクトゥルフを結びつけたのは、〝ルル・リエー〟はクトゥルフが眠る場所だからだ。

 

1925年3月23日のラヴクラフトの小説『クトゥルーの呼び声』において初めて言及された架空の都市。

異常極まりない非ユークリッド幾何学的な外形を持つ多くの建造物からなっている。

大いなるクトゥルフが眠り夢見ながら再浮上を待つ場所であり、クトゥルフ神話の中核を成す要素の一つ。

星辰が正しい位置に着いた時、クトゥルフは目覚め、〝ルル・リエー〟は再び浮上すると伝えられている。

〝ルル・リエー〟は南太平洋の、位置はニュージーランドと南米大陸と南極大陸の中間付近の海底に沈んでいるとされる。

著者によっては〝ルル・リエー〟の位置はバルト海だったり、カリフォルニア海岸沖だったりと変わったりするが。

 

輪廻は頷いて答える。

 

「ああ。正確には〝居た〟だがな」

 

「居た?なんで過去形なんだ?」

 

「それは〝クトゥルー神群〟を名乗る奴らが昔、下層で好き勝手暴れてな。〝天軍〟によって外宇宙(いせかい)に封印されて今は居ないんだ」

 

「ふうん?下層でってことは文献に書いてる程強くはないのか?」

 

「そうだな。連中は大抵六桁で実力のある奴でも五桁程度だ」

 

「そいつは意外だな。アザトースとかヨグ=ソトースあたりは輪廻とサシで渡り合える強さがあると思ってたが」

 

「人類の創作物というのもあるが、彼らはまだまだ成長途中の〝純血の龍種〟だったからという点が大きいな」

 

「「「龍?」」」

 

龍と聞いて瞳を輝かせる十六夜・飛鳥・耀の問題児三人組。

輪廻は『この異世界人らは〝龍〟好き過ぎないか?』と苦笑を零す。

しかしそこまで興味があるのならば、と輪廻はニヤリと笑って問題児三人組に訊いた。

 

「〝クトゥルー神群〟の一柱に逢いたいか?」

 

「「「超逢いたい(わ)」」」

 

「「「「「え?」」」」」

 

即答する問題児三人組。

驚くジン・黒ウサギ・レティシア・ラミア・レイミアの五人。

ついさっき封印されていると言ったばかりなのに、まるで逢わせることが可能みたいな事を輪廻が口にしたのだから驚くのは仕方ないことだろう。

輪廻はうむ、と頷くと〝ウロボロス〟の旗印が刻まれた黄金と漆黒のギフトカードを取り出して、

 

「ふふ、いいだろう。そんなに逢いたいならば逢わせてやる。だがその前に場所を移すとしよう―――〝疑似世界(アナザー・ワールド)〟」

 

大広間を再び極光が呑み込み、景色がガラリと変わる。

そこは十六夜達三人が白夜叉に喧嘩を売った時に見た光景と全く同じ世界だった。

黄金色の穂波が揺れる草原。

白い地平線を覗く丘。

森林の湖畔。

白い雪原と凍る湖畔―――そして、水平に太陽が廻る世界。

 

「「「なっ⋯⋯⋯!?」」」

 

十六夜・飛鳥・耀は驚愕の声を上げる。

まさか白夜叉のゲーム盤さえ〝模倣〟出来るとは思いもしなかったのだろう。

輪廻の〝疑似世界〟を経験済みの黒ウサギ・ジン・レティシア・ラミア・レイミアの五人は今更驚きはしないが、相も変わらずデタラメだと舌を巻く。

しかも〝箱庭の騎士〟にとって致命的な太陽光も、輪廻のアレンジで薄明の太陽の光を浴びても何の問題もないらしい。

次に輪廻はギフトカードから極光と共に一つの箱を顕現させた。

何故かその箱は開けっ放しで、その中には宝石が吊り下げられている。

その宝石は、黒光りして赤い線が走る多面結晶体で、箱の内面に触れることなく、金属製の帯と奇妙な形をした七つの支柱によって、箱の中に吊り下げられている。

箱は不均整な形状をしており、異形の生物を象った奇怪な装飾が施されている。

それも文献で見たことがある十六夜が目を見開いて驚く。

 

「おいおい、まさかそれ〝輝くトラペゾヘドロン〟じゃねえだろうな?」

 

「輝くトラなんとかかんとかって何かしら?春日部さんは分かる?」

 

「さあ?」

 

十六夜の言ってることがさっぱりな飛鳥と耀は小首を捻る。

輪廻は感心したように笑みを浮かべた。

 

「ほう?コレも知っているとは中々。ならば誰が召喚されるかも分かるな?」

 

「ああ。異名は代名詞である〝這いよる混沌〟。異形の神々の使者であることに着目した呼称〝強壮なる使者〟。化身は二重冠を戴く、長身痩躯の〝暗黒のファラオ〟、身体も服も全てが闇のように黒い〝暗黒の男〟、〝終末の煽動者〟、〝核物理学者デクスター〟、〝ナイ神父〟、〝ランドール・フラッグ〟などの人の姿を始め、燃える三眼と黒翼を備えた〝闇を彷徨う者〟、三重冠を被り、ハゲタカの翼、ハイエナの胴体、鉤爪を備える顔の無い黒いスフィンクス〝無貌の神〟、異名『盲目にして無貌のもの』北米ンガイの森における化身体で、円錐形の顔の無い頭部に触手と手を備える流動性の肉体を持ち、二本のフルート吹きを従える〝夜に吠える者〟〝闇に棲みつく者〟、化身説と眷属説がある巨大な翼あるマムシと形容できる〝忌まわしき狩人〟〝狩り立てる恐怖〟などの異形の姿etc…」

 

「説明が長いぞ十六夜」

 

「おっと悪い。『クトゥルフ神話』体系における旧支配者の一柱にして、盲目で白痴なアザトースの生み出した三つの分身の一つ。その主人であり創造主たるアザトースら異形の神々に仕え、知性を持たない主人の代行者としてその意思を具現化するべくあらゆる時空に出没するらしいな。んで主人であり外なる神の中で最強のアザトースと同等の力を有する地の精、その名は―――〝ナイアーラトテップ〟」

 

心地よい冷や汗を流しながら〝クトゥルー神群〟の一柱の名を告げる十六夜。

輪廻はニヤリと笑って〝輝くトラペゾヘドロン〟を閉じた。

 

「マーベラス、大正解だ。相も変わらず博識だな十六夜は」

 

「そりゃどうも」

 

十六夜がヤハハと笑った瞬間、〝輝くトラペゾヘドロン〟は赤黒い怪しい輝きを放ち〝疑似世界〟を満たしていく。

その輝きが収まると〝輝くトラペゾヘドロン〟の前には―――白髪ロングに紅い瞳を持ち、黒のロリータを着た少女が現れた。

 

 

『うわお!』

 

 

十六夜の話を聞いた後だから一体どんな異形のモノが姿を現すかと思ったら、絶世の美少女だった為、コンマの狂いも無く同じ言葉が重なる十六夜達八人。

というかその白髪美少女は絶賛お食事中だったらしく、正座したままオニギリなるものを口に咥えてキョトンとした顔で固まっていた。

そんな彼女に、輪廻が歩み寄る。

 

「急に呼び出して済まないな、ニャルちゃん」

 

『ニャルちゃん!?』

 

「はっ!?貴女様は輪廻様じゃないですか!あ、てか今私を召喚出来る御方は輪廻様以外におりませんでしたね!はい、そうです!私こそ皆のアイドルニャルラトホテプことニャルちゃんでございますよ!」

 

パチリッ!と輪廻達九人に愛らしくウインクして謎の自己紹介をするニャルラトホテプ(ニャルちゃん)

輪廻を除く十六夜達八人は、『何かやたらとテンション高い子』という感想を抱いた。

というより食事の邪魔されたのに怒らないとかどんだけ輪廻好かれてるのだろうか。

ニャルちゃんが素早くオニギリなるものを食べ切ると、立ち上がって輪廻に問いただす。

 

「ところで輪廻様。あちらにいる人間共は?ニャルちゃんが殺しても構わない連中ですか?」

 

「こっ!?」

 

「殺す!?」

 

「黒ウサギをか?」

 

「何でですか!?こんな時にボケないでくださいお馬鹿様ッ!!」

 

ここぞとばかりにボケる十六夜の頭に、スパァーン!と黒ウサギの渾身のハリセンが炸裂する。

輪廻は小首を横に振って拒否した。

 

「それは駄目だ。彼らは我輩の無くせない友だからな。もし誰か一人でも殺めたら―――分かっているな?」

 

「ひっ!?」

 

輪廻の凄まじい殺意に、恐怖で声が上手く出せないニャルラトホテプ。

全身から冷や汗を流しながら小首を勢い良く縦に振る。

輪廻の地雷を踏んでしまったらしく、危うく殺されるところだった。

反省いや、猛省しているニャルちゃんの頭を優しく撫でながら「分かれば良し」と言う輪廻。

輪廻はニャルちゃんの代わりに頭を下げて十六夜達に謝る。

 

「ニャルちゃんが失礼なことをした。この子は人間や自分が仕える神々もとい龍種以外にはこういう態度を取りがちなんだ。根はいい子だから仲良くしてやってほしい」

 

「そ、そうなのね。いきなり物騒なこと言われて驚いたけれど、私は平気だから顔を上げて輪廻さん」

 

「うん。殺る気満々な龍でも私は構わない」

 

「ヤハハ。殺る気満々ならむしろ俺と一勝負しようぜ!」

 

どうやら許してくれるようだ。

問題児ではあるものの、心は広いらしい。

まあ、約一名やる気満々な問題児もいるが。

輪廻はうむ、と頷いてニャルちゃんに向き直る。

 

「では仲直りの握手を彼らとしよう。これを機にニャルちゃんも友を増やすといい」

 

「はーい!」

 

元気を取り戻したニャルちゃんが飛鳥・耀・十六夜の順に握手をした。

それからモジモジと恥ずかしそうに上目遣いでニャルちゃんが言う。

 

「そ、その!輪廻様の御友人方!よ、よろしければニャルちゃんとも、友達になっていただけないでしょうか⋯⋯⋯?」

 

「「可愛い」」

 

「ああ、可愛いな」

 

「へ?」

 

「もちろん、いいわよ。よろしくね、ニャルラトホテプさん」

 

「私もいいよ、むしろこっちがお願いしたいくらいだったから。よろしく、ニャルラトホテプ」

 

「おう。その代わり友達のよしみとして一勝負申し込むから覚悟しとけよ、ニャル子」

 

「は、はい!ありがとうございます!それと私のことは親しみを込めて〝ニャルちゃん〟とお呼びください!⋯⋯⋯ところで金髪の殿方!」

 

「十六夜様だぜ。なんだ?」

 

「はい、十六夜様!〝ニャル子〟とはどういう意味合いで付けた愛称でしょうか!?」

 

ニャルちゃんが訊くと、十六夜がヤハハと笑って答える。

 

「〝ニャルラトホテプは女の子〟、縮めて〝ニャル子〟だ。どうだ?悪くないだろ?」

 

「成程!確かに悪くない愛称ですね!〝ニャルちゃん〟は輪廻様限定にして私の事は〝ニャル子〟とお呼びください!」

 

「ええ、分かったわ。私のことは飛鳥で構わなくてよ。改めてよろしくね、ニャル子さん」

 

「分かった。私も耀でいい。改めてよろしく、ニャル子」

 

「はい!こちらこそ改めてよろしくお願い致します!飛鳥様!耀様!」

 

こうしてニャルちゃん改めてニャル子は飛鳥・耀・十六夜の問題児三人組と友達になったのだった。

飛鳥と耀は様付けをこそばゆく感じているが、恐らく様付けはやめてくれないだろうと思い諦めた。

そんな光景を微笑ましげに眺めていた黒ウサギ・ジン・レティシア・ラミア・レイミアの五人のうち、黒ウサギがハッと思い出したように輪廻に問いただす。

 

「輪廻様!先程〝クトゥルー神群〟は〝天軍〟に封印されたと仰いましたよね?」

 

「ああ、言ったな。それがどうした?」

 

「どうしたもこうしたもないのですよ!封印されているはずの〝クトゥルー神群〟の一柱を召喚出来るとか一体どうなってるのでございますか!?」

 

「黒ウサギの言う通りです!まさか輪廻様には封印されていようがいまいが関係ないんですか!?」

 

黒ウサギに続きジンも輪廻に訊いてくる。

するとそれに十六夜が口を挟んだ。

 

「黒ウサギと御チビはニャル子のことを何も知らねえみたいだな」

 

「「え?」」

 

「〝クトゥルー神群〟が〝天軍〟に封印されたって聞いてピンと来たんだが。俺が知ってる内容は〝旧支配者は旧神との戦いに敗れ封印された〟だ。この〝旧支配者〟=〝クトゥルー神群〟なら、〝旧神〟=〝天軍〟を指してるんじゃないかってね」

 

「ほう。それで?」

 

「ナイアーラトテップだけは〝旧支配者の中で唯一、旧神の封印を免れた〟って文面がある。これを指す意味は―――〝ニャル子はそもそも封印されていない〟じゃねえか?」

 

ハッとした顔でニャル子を見る黒ウサギとジン。

パチパチと拍手したニャル子が答える。

 

「その通りです!流石は輪廻様の御友人!十六夜様ですね!大正解ですッ!!遥か昔のことですが、〝天軍〟と名乗る連中に敗北した我々の同胞は次々に封印されていく中、次は私の番となった瞬間―――私は極光に包まれ気付いた時には見知らぬ場所に立っておりました!」

 

『え?』

 

「驚きの余りしばらくの間固まって動けないでいた私の前に現れたのは、太陽よりも眩しい極光の輝きを放つ黄金の長髪を靡かせ、血のように紅い瞳を持ち、漆黒のワンピースを着た少女でした!その彼女は私に右手を差し出し、こう言いました!『(わたし)と共に来い、ニャルラトホテプ。〝天軍(やつら)〟に目にもの見せてやろうではないか』と!」

 

『ほう』

 

「私はそんな彼女の手を取りました!それからというもの、私は彼女に色々なことを教わったりもしましたね!この少女の姿も彼女が『美少女に変身すれば〝天軍〟の目を誤魔化せる』と仰いましたので今日までこの姿なんですよ!」

 

チラチラ、と横目で輪廻を見ながら語るニャル子。

やはり輪廻だったか、と十六夜達八人が納得したように頷く。

ニャル子の話を聞いていた飛鳥が訊く。

 

「つまり、ニャル子さんを〝天軍〟というものの手から救ったのが、輪廻さんということでいいのかしら?」

 

「はい!」

 

「〝天軍〟って悪い奴らなの?」

 

「悪い奴らというわけではありませんね!我々〝クトゥルー神群〟は最も醜い龍種だったので〝邪神〟認定されましたが、もとはといえば我々が〝箱庭侵略しようぜ!〟などと息巻いて下層を襲撃したことが発端ですし!」

 

「ヤハハ、なんだそりゃ。完ッ全にニャル子達が悪者じゃねえか!」

 

「ですよね!」

 

「ですよね!じゃないのですよこんのお馬鹿様ああああああ―――ッ!!」

 

ズパァーンッ!という強烈なハリセンの一撃をニャル子の頭にクリティカルヒットさせる怒りウサギ。

ギャンッ!?と謎の悲鳴を上げたニャル子は、ぶたれた頭を抱えて涙ぐむ。

本当は痛くないのだが、弱々しい印象を持たせる為のニャル子の作戦(?)である。

一方、レティシアがふむ、と考えるような素振りを見せた後、口を開いた。

 

「邪神ニャル子を救ったということは、その頃の輪廻殿は魔王だったのか?」

 

「そうだな。というか〝天軍〟は悪者を封印したんだからな。その邪魔をした我輩は必然的に〝悪〟となるだろう?」

 

「いえ。輪廻様なら〝あの子、面白そうだから救っとくか!〟という感じで〝天軍〟の邪魔しそうな気がしますね」

 

「お母様に激しく同意なのだわ」

 

「お前達、我輩をなんだと思ってるんだ?」

 

「「「面白いものに目がない変態龍」」」

 

「ぬぅ」

 

レティシア・ラミア・レイミアが口を揃えて言い、それに低く唸る輪廻。

苦笑いのジンは、ふと気になってニャル子に訊いた。

 

「ニャル子さん。輪廻様の仲間になった後、〝天軍〟とは戦いましたか?」

 

「いいえ!当時の私は弱かったので隠れてましたね!」

 

「ふうん?ちなみに輪廻は〝天軍〟と戦ったことある感じか?」

 

「ん?まあ、そうだな」

 

「輪廻様なら幾度となく〝天軍〟と戦っておられますね!しかも単騎で〝天軍〟を退ける程の最強魔王様でしたから!」

 

「「「うわお!」」」

 

「「「「「なっ⋯⋯⋯!?」」」」」

 

口を揃えて驚く十六夜・飛鳥・耀の三人。

だが他の五人の驚き方は尋常じゃなかった。

それもそのはず、〝天軍〟を単独で相手どれる魔王は、数える程しかいない。

 

〝天軍〟―――最強の武神集団と噂される神々の連合コミュニティ。

これに属している神群は仏門だけでなくオリュンポスの神々や天使、スラヴ神群、ケルト神群など多種多様だと聞き及んでいる。

 

そんな〝全能領域(箱庭三桁)〟の神々が雁首揃えている混成神群を、単騎で打ち負かすなど正気の沙汰ではない。

それをやってのけた、かつて魔王だった輪廻。

その正体はまさか―――

 

「(いえ、それだけは絶対にあり得ないのですよ!)」

 

「(かの大魔王は〝消去〟されて箱庭に存在するはずがありません!)」

 

「(〝ジェームズ〟なら輪廻様の正体を知ってるのかしら?)」

 

「(〝天軍〟を単騎で退けた⋯⋯⋯〝西業〟⋯⋯⋯だが奴の容姿は〝黒髪で血のように紅い瞳の長身の男〟のはず⋯⋯⋯ニャル子の言った〝金髪長髪で血のように紅い瞳の漆黒のワンピースを着た少女〟ではない⋯⋯⋯一体どういうことだ?)」

 

黒ウサギ・ラミアは内心で否定し、レイミアは輪廻の正体が気になりとある男の名を内心で呟き、〝ディストピア戦争〟の経験者であるレティシアだけは矛盾を見つけ頭を悩ます。

だがハッと気が付く。

否、気が付いてしまった。

容姿こそ違えど―――〝瞳の色〟は一緒だという事実に。

輪廻は〝模倣〟に長けている。

もしレティシアの予想が正しいのならば⋯⋯⋯姿すら自在に変えられるというのなら―――

 

「⋯⋯⋯⋯⋯ッ」

 

いや、そもそも姿を変えていたではないか。

輪廻は〝西郷夢〟という少女の化身(アバター)を隠す為に、全く別の姿に。

全てのピースが繋がってしまった。

 

輪廻の化身、〝西郷夢〟―――〝西業〟の〝理想(ゆめ)〟。

輪廻は幾度となく〝天軍〟と戦っている―――〝天軍〟はそもそも対ディストピアの為に組織された混成神群。

輪廻が〝天軍〟の手から救ったニャルラトホテプ―――〝ディストピア戦争〟の頃の話というのなら。

 

どっと嫌な汗が全身から噴き出すのを感じ取ったレティシア。

今は、輪廻と眼を合わせられない。

眼があったら最期、殺されるかもしれないという恐怖が彼女を支配する。

顔色が悪いレティシアを、心配そうに見つめてきたラミアが言う。

 

「あ、姉上!?どうしたんですかそのお顔は!?」

 

「⋯⋯⋯いや、大丈夫だ。妹を心配させるなんて悪い姉だな私は」

 

「そ、そんなことはありませんよ!お辛いのでしたら私の膝を貸しますよ?」

 

「⋯⋯⋯すまない、恩に着る」

 

レティシアはそう言ってラミアの方に体を倒して、レティシアの頭がラミアの膝元に乗る。

これ即ち―――〝膝枕〟である!

 

「(きゃああああああああああっ!!?な、ななななんというご褒美タイムですかこれは!?あ、あああ姉上が私の〝膝枕〟を求めてくるなんてッ!!あーもう今日死んでもラミアの人生に一遍の悔いなしッ!!!)」

 

顔を今日一番に真っ赤にさせながら内心で歓喜の声を上げるラミア。

そんなラミアを見て、悪そうな顔をするレイミア。

 

「(あらあら、お母様ったら伯母様に〝膝枕〟出来て御満悦のようですね。揶揄ってあげたいけれど、伯母様、本当に辛そうなのだわ。まさか本当に輪廻様の正体が魔王〝閉鎖世界(ディストピア)〟とでもいうのかしら?)」

 

レティシアの様子がおかしいことを疑問に思い小首を捻るレイミア。

ジェームズなら知ってるかもしれないし、取り敢えずこの件は彼を頼ることにした。

この選択が仮令(たとえ)―――母親と共に〝ウロボロス〟へ帰還する事を命じられたとしても。

一方、ニャル子はポンと手を叩くと、十六夜を見て言った。

 

「そういえば十六夜様!」

 

「なんだ?」

 

「友達のよしみで一勝負したいと仰ってましたよね?」

 

「ああ、言ったな。お?もしかして、手合わせしてくれるのか!?」

 

「いいですよ!輪廻様の御友人方の実力がどれ程のものか見てみたいですしね!飛鳥様と耀様もよろしければ是非是非私と一勝負しましょう!」

 

「そうね。私もニャル子さんがどんな恩恵(ギフト)を持っているのか気になるし、参加しようかしら」

 

「私も、友達になったニャル子の恩恵を使えるか試してみたいから参加する」

 

「ヤハハ、そうこなくちゃな」

 

そんな感じでニャル子・十六夜・飛鳥・耀の四人は一勝負することになった。

ニャル子は輪廻の方へと向き直り言う。

 

「というわけで輪廻様!私は十六夜様、飛鳥様、耀様の御三人方とギフトゲームをしようと思います!」

 

「ほう?それで?」

 

「私の〝主催者権限(ホストマスター)〟は輪廻様に封印されておりますので、貴女様が〝主催者(ホスト)〟としてギフトゲームを開催して頂けないでしょうか!」

 

「え?」

 

「うむ。そういうことならばこの我輩が〝主催者〟を務めるとしよう。だがその前に―――」

 

輪廻はスッと眼を細めて十六夜達三人に問うた。

 

「ニャルちゃんは〝白痴の魔王〟アザトースの娘にして化身だ。〝天軍〟に敗北した頃は中層(五桁)程度であったが今は違う。魔王の娘に挑む覚悟はあるか?」

 

「「「⋯⋯⋯ッ!?」」」

 

輪廻の凄味に、十六夜・飛鳥・耀の三人は思わず息を呑む。

安易な気持ちで挑むな、と輪廻は釘を刺してきたのだ。

しばしの静寂の後、覚悟を決めた十六夜が口を開く。

 

「ああ。〝当時の〟ってニャル子が言ってたからな。〝ペルセウス〟のとこの隷属された元・魔王様並とは思ってないぜ。だが―――だからこそ、俺は戦ってみたい。お嬢様達もそう思うだろ?」

 

「ええ。私と春日部さんはその元・魔王様と戦っていないからあの下衆坊ちゃんの実力がどれくらいだったのかは分からないけれど⋯⋯⋯私の恩恵がニャル子さんに通用するのか知りたいわ」

 

「私もさっき述べた通り、友達になれたニャル子の恩恵が使えるか試したいから降りるわけにはいかない」

 

瞳に宿る闘志の炎を燃やして十六夜・飛鳥・耀の三人がやる気を見せる。

そんな彼らに輪廻は満足したように笑い頷いた。

 

「お前達の覚悟、確かに受け取った。ならば止めはすまい。ではニャルちゃん、改めて自己紹介をよろしく」

 

「はい!」

 

元気良く返事をしたニャル子は一礼して、今一度名乗り直した。

 

「我が父君〝白痴の魔王〟アザトース様の娘にして化身!箱庭第四桁・〝クトゥルー神群〟が一柱―――魔王ニャルラトホテプ!這いよる混沌が生きとし生けるもの全てに狂気と混乱を齎す邪神でございます!」

 

『〝神域級(第四桁)〟だと!?』

 

これには流石に黒ウサギ・ジン・レティシア・ラミア・レイミアの五人も驚愕する。

〝神域級〟ということは、今の白夜叉並みはあると見ていいだろう。

十六夜は心地よい冷や汗を流しながら苦笑する。

 

「四桁、か。ハッ!いいぜいいぜいいなオイ!今の白夜叉並みとは一度戦ってみたかったところだぜ!」

 

「とても楽しそうね十六夜君。今の白夜叉並みってなると、死闘は覚悟しないといけないかしら?参るわね」

 

「そういう飛鳥も実はワクワクしてるでしょ?本当にこれは参った!」

 

参った、と口にしながらもその表情は三人共に楽しげである。

〝神域級〟の実力を知る良い機会ということもあるが、何よりも己が恩恵がニャル子に通用するのか試したくてうずうずしているようだ。

なんと頼もしいことか、と思う半面無茶をしないか心配になる黒ウサギ達五人。

輪廻は微笑すると、黒ウサギとレティシアに言う。

 

「そんなに心配ならお前達も参加したらどうだ?黒ウサギとレティシアよ」

 

「そ、そうでございますね!黒ウサギもギフトゲームに参加致します!」

 

「⋯⋯⋯ッ、そうだな。主殿達が頑張るのだから、私もメイドとして彼らを守らねば」

 

「姉上!黒ウサギさん!ファイトです!」

 

「伯母様!兎の人!ファイトなのだわ!」

 

「二人とも、気を付けて!」

 

「はい、行って参りますね御三人方!」

 

「ああ、行ってくる」

 

ラミア・レイミア・ジンの応援を背に十六夜達三人の下へと向かう。

 

「お?黒ウサギとレティシアも参戦か。〝ノーネーム〟対魔王の実戦訓練みたいで燃えてきたぜ」

 

「黒ウサギとレティシアの恩恵も気になっていたのよ。共に頑張りましょう」

 

「共に頑張ろう!」

 

「はいな!」

 

「ああ」

 

「おやおや!五対一ですか!?これではか弱いニャルちゃんも流石に負けてしまうかもしれませんね!」

 

どの口が言うか、と十六夜達八人は内心で呟く。

そんな十六夜達五人とニャル子の下に、輝く羊皮紙が一枚ずつ現れる。

十六夜とニャル子が〝契約書類(ギアスロール)〟を手に取り、その内容を確認した。

 

 

『ギフトゲーム名〝狂乱の魔王と無名の新星〟

 

・プレイヤー一覧

逆廻 十六夜

久遠 飛鳥

春日部 耀

黒ウサギ

レティシア=ドラクレア

 

・プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター

〝狂乱の魔王〟ニャルラトホテプ

 

・勝利条件

ゲームマスターに一撃与える(但し防がれたら無効とする)。

 

・敗北条件

降参か、上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

〝          〟印』

 

 

〝契約書類〟に目を通した十六夜が軽薄な笑みを浮かべて、

 

「輪廻が指定したゲームマスター〝狂乱の魔王〟ニャル子に一撃与える、か。シンプルな内容でいいじゃねえか」

 

「き、狂乱って何だか凄そうな魔王名ね」

 

「ニャル子が狂い乱れるのかな?」

 

「いえ。恐らくニャル子さんではなく相手を〝狂気〟と〝混乱〟に貶めるのでしょう」

 

「正気を保ったまま戦えるかどうかも鍵になりそうだな」

 

「ふむふむ!私の勝利条件は皆様を降参させればいいんですね!」

 

ニャル子が楽しげに拳を握って言うと、輪廻は苦笑しながら、

 

「軽い試練みたいなものだ、そう構えるな。ニャルちゃんはくれぐれも彼らを殺すような真似はするなよ?」

 

「分かっておりますとも!とはいえ殺さない程度にはボコボコにしても構いませんよね!?」

 

「え?」

 

「ああ、いいぞ。だがお前と渡り合えるレベルの奴もいるから、舐めてかからん方がいいとだけ忠告しておこう」

 

「了解しました!それで、私と渡り合えるレベルの御方はどなたでしょうか!?」

 

「言わずともギフトゲームが始まれば分かる。さて―――」

 

輪廻は両手を広げて告げた。

 

「これよりギフトゲーム〝狂乱の魔王と無名の新星〟を開始する。両者共に、存分に力を振るい臨みたまえ」

 

輪廻の合図の下、ギフトゲーム〝狂乱の魔王と無名の新星〟の戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

 

 

「先手は皆様にお譲り致します!」

 

ニャル子がそう言うと、十六夜は獰猛な笑顔で応えた。

 

「そうかい。なら―――お言葉に甘えさせてもらうぜ!」

 

大地を勢い良く踏み抜いた十六夜は、第三宇宙速度を遥かに凌駕した速度でニャル子に肉薄する。

 

「へ?」

 

「間抜け面してどうした?魔王様!」

 

同速度で振り抜かれた拳を辛うじて回避したニャル子は、納得したように笑う。

 

「成程成程!私と渡り合える強さを持つ御方とは十六夜様の事でしたか!ならば手加減は不要ですね!」

 

そう言って第三宇宙速度で蹴りを繰り出した。

十六夜は左腕で受け止め、お返しとばかりに蹴りを繰り出す。

ニャル子は左腕で受け止めた。

互いの力は拮抗し、鬩ぎ合う。

この状況に十六夜は嬉々として笑った。

 

「こいつはいい!元魔王様には落胆させられたが、輪廻程デタラメな実力はなくともこの俺と殴り合えるのは最高だ!」

 

「ふふ。私もこんなにも強い人類に出会ったのは初めてです!私の力はまだまだこんなものではありませんよ!」

 

「へえ?なら見せてもらおうじゃねえか魔王様!」

 

呵ッと笑い合う二人。

第三宇宙速度で互いを肉薄し合い、殴る蹴るの攻防を繰り出し続ける。

その人智を超えた戦いを見ていた飛鳥達四人はポカンと口を開けて呆けていた。

 

「⋯⋯⋯私達は一体何を見せられているのかしら?」

 

「十六夜って、本当に人間?」

 

「く、黒ウサギが召喚を依頼した中には人間しか含まれていないのですよ?」

 

「ま、まあ、心強いじゃないか。四桁の魔王と渡り合えるのは⋯⋯⋯想像以上だが」

 

半眼の飛鳥と耀に苦笑いの黒ウサギと、フォローを入れつつも顔が引き攣ってるレティシア。

それだけ十六夜は人の域を逸脱した存在だということだ。

だが互角である以上、飛鳥達も加勢せねば勝機は見出せないだろう。

飛鳥は深呼吸をし、右手を戦っている二人に突き出し叫んだ。

 

「ニャル子さん―――『止まりなさい!』」

 

ニャル子に向けて己の〝威光(ギフト)〟を放つ。

その結果は、

 

「⋯⋯⋯ッ!!?」

 

ほんの一瞬だけ、ニャル子の動きを止めた。

その一瞬の隙を十六夜は見逃さない。

第三宇宙速度を遥かに凌駕した速度で繰り出された十六夜の拳は、ニャル子を捉えんと迫り―――グニャリと体を歪めることでニャル子はコレを無理矢理回避した。

 

「チッ!」

 

絶好の機会をものに出来ず盛大に舌打ちする十六夜。

人型を取っていたからすっかり忘れていたが、ニャル子は本来異形の怪物の姿をしている〝軟体生物〟のようなもの。

それ故に、本来躱せるはずの無い一撃さえ、自身の体を歪めることで躱すことが出来るのだ。

 

「―――あッぶないですね!?飛鳥様のギフトも脅威のようです!舐めてかからない方がいい御方はもう一人いましたか!ならば!」

 

バックステップで十六夜から距離を取りながら、ニャル子はパチンと指を鳴らす。

するとニャル子の影から扇を手に持ち、腰に幾本もの鎌を携えた―――もう一体のニャル子が現れた。

 

『うわお!』

 

重なる驚きの声。

本来は異形の姿なのだが、美少女としてやっているニャル子としては、美少女のままにしておきたいらしい。

ニャル子はもう一体のニャル子を傍に控えさせながら言う。

 

「流石の私も十六夜様程の相手をしながら、他の四人を相手取るのは厳しいので頼みましたよ―――我が化身!」

 

『了解』

 

化身と呼ばれたもう一体のニャル子は、コクリと頷き地面を踏み抜いた。

十六夜を無視して瞬く間に飛鳥に肉薄したニャル子の化身(以降化身ちゃんとする)は、扇を振り下ろす。

 

「―――〝疑似神格・金剛杵(ヴァジュラ・レプリカ)〟!」

 

それを阻止せんと輝く三叉の金剛杵を顕現させた黒ウサギが、雷光と共に稲妻を放つ。

 

『ッ!?』

 

化身ちゃんは黒ウサギの放つ稲妻を扇で打ち払った。

不快そうに眉を顰めた化身ちゃんは黒ウサギを睨む。

 

『⋯⋯⋯雷』

 

「あや?雷が嫌いでございますか?」

 

『同胞の、仇ッ!』

 

かつてクトゥルー神群を一蹴した憎き〝天軍〟の一人にしてローマ神群の主神―――天空神ユピテルと黒ウサギを重ねて吼える化身ちゃん。

それに呼応するかのように、彼女の周囲の地面から六本の触手が飛び出してきた。

それらの触手は化身ちゃんの腰に携えていた鎌を取り臨戦態勢に入る。

その姿を見た十六夜が成程、と理解したように笑う。

 

「姿がニャル子と同じだったから化身が何なのか分からなかったが、触手が出てきたところでピンと来たぜ。扇と六本の鎌を腰に携えた異形の姿なら―――〝膨らんだ女〟だろ?」

 

「おお!?我が化身の正体を見抜くとは流石ですね十六夜様!その通りです!彼女こそ〝膨らんだ女〟!複数人を相手取るには打ってつけての化身だと思いませんか!?」

 

「⋯⋯⋯そうだな」

 

十六夜の表情から余裕が消える。

黒ウサギなら問題ないが、他の三人が狙われては一溜りもない。

レティシアはそう簡単にやられるような奴ではないだろうが、六本の触手と鎌を、化身ちゃんと扇の計七体が相手だと分が悪すぎる。

加勢してやりたいが、目の前には十六夜と同格と見て取れる四桁の魔王がいる。

むしろ一番押さえねばならない相手こそ、このニャル子なのだから。

ニャル子はニヤニヤと笑って十六夜を挑発する。

 

「おやおやぁ?先程までの余裕はどこへ行きましたかぁ?早く私に一撃を当ててクリアしないと不味い状況だったりしますかねぇ?」

 

「ハッ!言ってろ邪神。確かに不味い状況ではあるが⋯⋯⋯よくよく考えてみれば俺が心配する必要はねえかもな」

 

「ほほう?それはどうしてですか?」

 

「いやなに。お前を一瞬でも足止め出来たお嬢様のギフトなら、活路を開けるかもしれないと思っただけさ」

 

「⋯⋯⋯ッ、そういえば飛鳥様のギフトが我が化身の動きを封じれる可能性がありましたね!とはいえ簡単には倒せるとは思わないことですね!モチのロン―――十六夜様には我が化身に指一本触れさせませんよ!」

 

「カッ!最初(はな)からそんなつもりはねえから安心しな魔王様!」

 

調子を取り戻した十六夜は笑って拳を握りしめニャル子に突貫する。

それを迎え撃つニャル子。

一方、飛鳥達四人を相手取る化身ちゃんは、扇の一振りで鎌鼬の如く風刃を無数に生み出し飛ばしていく。

それをレティシアが己が影を操り、無尽の刃と化した影で迎え撃つ。

だが神格を失っているレティシアには、風刃を逸らすのが精一杯だった。

流石は〝神域級〟のニャル子の化身といったところか、今のレティシアには荷が重い相手のようだ。

だがそれでいい。

少しでも対抗出来る力があるならば、とレティシアは思い黒ウサギに言った。

 

「私の〝龍の遺影〟なら、風刃をなんとか逸らすことができるみたいだ。黒ウサギ、触手と鎌は任せてもいいか?」

 

「はいな。レティシア様もご無理はなさらないようにお願い致します!」

 

「ああ、分かった」

 

レティシアは化身ちゃん本体が繰り出す攻撃に警戒し、黒ウサギは六本の触手と鎌を警戒する。

化身ちゃんは扇を振りかぶると同時に、六本の触手を動かして一斉攻撃を仕掛けようとし―――

 

 

「『全員、そこを動くな!』」

 

 

『ッ!!?』

 

 

飛鳥の〝威光〟がそれを阻止した。

ニャル子本体以上に、飛鳥のギフトが通用している。

ニャル子本体には一瞬しか効かなかったが、化身ちゃん相手ならば触手も含めて数秒間有効のようだ。

数秒後、化身ちゃんは飛鳥のギフトを突破して吼える。

 

『忌々しい!まずはお前から潰してやる!』

 

「⋯⋯⋯っ!!?」

 

標的を飛鳥に定めた化身ちゃんは、扇による風刃も、触手の鎌の攻撃も、全て飛鳥に向けて振るった。

 

「「させるかッ!」」

 

黒ウサギの金剛杵が放つ稲妻が六本の触手を、レティシアの〝龍の遺影〟が放つ無尽の刃が無数の風刃を迎え撃つ。

稲妻が触手を撃ち落とし、無尽の刃が風刃を逸らしていくが―――一本の触手が稲妻を掻い潜り、鋭い鎌が飛鳥に迫る。

 

「ッ!飛鳥、危ないッ!!」

 

「きゃっ!」

 

耀が飛鳥を突き飛ばして鎌の一撃から庇う。

その結果、触手の鎌が耀の背中を袈裟斬りにした。

飛び散る鮮血と共に、耀は力無く飛鳥に倒れ込んでしまう。

 

「か、春日部さん!?」

 

悲鳴を上げる飛鳥。

決して浅くない傷を負った耀は、背中に焼けるような熱さと痛みが襲い苦しそうに顔を歪める。

化身ちゃんは気を良くしたように嗤い、追撃の為の扇と触手を振るう。

黒ウサギとレティシアは、攻撃を捌き切れずに仲間を守りきれなかった事を悔いながらも化身ちゃんの攻撃を必死に凌いでいく。

飛鳥は泣きそうな顔で耀の背中に出来た裂傷を手で押さえつけながら叫ぶ。

 

「『止まれ!止まれ!お願いだから、止まってよっ!!』」

 

だが飛鳥のギフトでは、耀の背中の裂傷から溢れ出る血を止めることは出来ない。

激痛に苛まれながらも、飛鳥を、友人を守ることが出来たことを誇りに思う耀。

十六夜も飛鳥も黒ウサギもレティシアも、皆強い。

ニャル子やニャル子の化身を相手に負けず劣らずの力を持っている。

それに比べて私は―――なんて非力なんだろう。

白夜叉の試練を受けて、憧れの鷲獅子(グリフォン)の背中に跨がり、彼とも友達になれてギフトも貰った。

なのにガルドとの戦いでは倒し切れずに怪我して皆に迷惑をかけてしまった。

〝ペルセウス〟戦では友達(みんな)の力のお陰で十六夜達の力になれた。

けれど今は―――何も出来ずにこうして身を呈して友達を守ることしか出来ない。

ニャル子のギフトを手にした感覚も、ギフトが顕現していない事が何より物語っている証拠。

耀はこのギフトゲームで力になれない己の未熟さに、弱さに悔し涙を流す。

いっそこのまま死んでしまった方が―――

 

『お前はその程度の人間だったのか?』

 

いつの間にか耀の傍に現れた輪廻が言う。

耀以外、誰も気付いていないのはどういうことだろうか。

というより、時間が止まってるような感覚さえした。

そんなこと言われたって、私にはニャル子の化身にすら抗う術がないよ。

 

『⋯⋯⋯それはお前が〝生命の目録(ゲノム・ツリー)〟を―――〝生命の大樹〟の力を理解していないからだ』

 

⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯え?

輪廻は一体何を言ってるのだろう?

〝生命の大樹〟?

 

『やれやれ。本来は教えてやる義理はないが、あの男の娘がコレではな。流石にこのまま静観とはいかなくなった』

 

―――ッ!!?

待って、その言い方だとまるで私の父さんを知ってるみたいな⋯⋯⋯っ!?

 

『無論知ってるぞ。あの男とは殺し合ったこともあるし、今では親友と呼べる存在だ』

 

こ、殺し合ったッ!?

ちょ、ちょっと待って!もしかして私の父さん、箱庭に来たことあるの!?

 

『来たことあるも何も、お前の父親―――コウメイは〝ノーネーム〟の前頭首だが?』

 

は、はあっ!?

何それ初耳なんだけど!?

黒ウサギもレティシアもジンも私の苗字知ってるのに父さん知らないとかどういうこと!?

 

『まあ、それは一先ず置いといて。コウメイの娘であるお前なら、使いこなせぬわけあるまい?』

 

置いとくな!

⋯⋯⋯そう言われても、父さんには色んな獣と言葉を交わせるとか、私の身体が今よりもずっと強くなるとかくらいしか教えてくれなかった。

 

『成程。実にコウメイらしい教え方だ。だが過保護というものだ、〝ノーフォーマー〟のお前が合成獣(キメラ)になることはまずない』

 

き、キメラ?

ええと、〝生命の目録〟ってどういうギフトなの?

 

『ふむ。教えてやる前に一つ、我輩と―――いや、私と約束してもらいましょうかね。この話は秘密にするという約束を』

 

⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯その約束、破ったらどうなるの?

 

『そうですねえ。貴女が持っている私のギフトを没収しましょうか。それから力を失った貴女を西側に連れ帰り幽閉します』

 

え?私のギフト!?

それに西側に連れ帰って幽閉とか、私に何する気なの!?

というか何その丁寧口調は!?

輪廻には似合わないんだけど!?

 

『別に何もしませんよ?ただ貴女はそのギフトを取り上げられたら生きていけなくなってしまうので、私が面倒を見てあげようとしてるだけですが?⋯⋯⋯む、それはどういう意味ですかね耀ちゃん。本来の喋り方では気持ち悪いとでも言うつもりですか?』

 

べ、別に気持ち悪いって意味じゃないけど、なんていうか⋯⋯⋯変?

後さりげなくちゃん付けしないで!?

⋯⋯⋯⋯⋯、私の身体がこのペンダントのお陰で丈夫になってることまで知ってるんだ。

 

『当然ですよ。貴女がやって来た年代記は、人類が万能を謳う時代。〝閉鎖世界(私達)〟を、そして〝環境制御塔の暴走()〟の可能性をも乗り越えた世界なんでしょう?それ故の〝ノーフォーマー〟で、不治の病の正体です』

 

⋯⋯⋯???

ええと、輪廻が何を言ってるのかよく分からないけど、私の不治の病=〝ノーフォーマー〟ってこと?

 

『そうです。そして〝何者にも成れない者(ノーフォーマー)〟である貴女は、〝生命の大樹〟を使用しても合成獣にはなりません』

 

〝何者にも成れない者〟、それが私なんだね。

⋯⋯⋯その〝生命の大樹〟=合成獣の方程式が成り立っているのはどういうことなの?

 

『〝進化〟と〝合成〟を行えるからなんですよ。〝生命の大樹〟とは系統樹を指し、そこから成る生命の系譜(ゲノム)を自在に操り獣と獣を〝合成〟し、新たな生命体に〝進化〟させることが可能です』

 

獣と獣を〝合成〟して、新たな生命体に〝進化〟させる⋯⋯⋯それ故に〝合成獣〟なんだね。

なんというか、彼らの命を弄んでるみたいで好きじゃないな。

 

『奇遇ですね。私も模倣した〝同類〟のギフトは気に入らないので、私なりに改良してソレを作ったんですよね。〝進化〟と〝合成〟ではなく―――〝見たもの〟或いは〝識るもの〟の〝生命体(エネルギー)〟を模倣する、という感じに』

 

―――⋯⋯⋯は?

⋯⋯⋯ええと、つまり貴女を含めた全ての最強種のギフトすら模倣出来るってこと?

 

『さあて、どうでしょう?〝純血の龍種(私達)〟や〝幻獣〟、〝神獣〟のギフトを模倣するのは構いませんが、〝神霊〟や〝星霊〟のギフトを模倣するのはオススメ出来ません。万が一、〝純血の龍種〟以外の最強種を模倣してしまったら、ペナルティを受けてもらうかもしれませんね』

 

ぺ、ペナルティ⋯⋯⋯ゴクリ。

わ、分かった、気を付ける。

 

『ふふ。では私と貴女の時間の流れを元に戻します。他に聞いておくことはありますか?』

 

⋯⋯⋯時間の流れを戻すとは何?

飛鳥やみんなの動きが止まってるのはそれが関係してるの?

 

『はい。〝一秒の定義〟を少しズラして私と貴女の本来の一秒を、一年にするみたいなことをしてますね。簡単に言うと飛鳥ちゃん達の一秒は、私と貴女にとっては一年経過したことになります』

 

何それ超凄い、私にも出来る?

 

『出来るも何も、〝一秒の定義〟に干渉する事で瞬時に模倣を可能にしてますからね。貴女が瞬時にお友達のギフトを顕現出来るのもそういう原理ですよ』

 

そうなんだ。

あれ、ちょっと待って。

十六夜が言ってた〝膨大な時間をかけて滅んだ〟って話。

まさか〝一秒の定義〟に干渉出来るギフトなら、〝ノーネーム〟の惨状を再現出来るんじゃ!?

 

『へえ?流石はコウメイ君の娘さんですねえ。私みたいな事が出来る者こそ、〝ノーネーム〟を滅ぼした魔王だと言いたいんですね?』

 

う、うん。

一つ分かることは、輪廻が〝ノーネーム〟を滅ぼした魔王ではないってことかな。

 

『どうしてそう思うんですか?〝一秒の定義〟に干渉出来る者が犯人だと疑いながらも、私は違うというその根拠は?』

 

それは、輪廻が今こうして私に〝生命の大樹〟について教えてくれてることかな。

もし敵だったら、今の行為は敵に塩を送る行為でしかないからね。

 

『ふふ、確かにそうですね。〝ノーネーム〟を滅ぼした魔王ならば、新しい人材であるあなた達をも殺しに来てないとおかしな話ですね』

 

そういうこと。

あ、最後に質問がある。

〝環境制御塔の暴走〟=輪廻ってどういうこと?

〝閉鎖世界〟=輪廻と他の誰かを指してる言い方も気になる。

それに〝環境制御塔〟ってまさか私の元いた世界に建てられているあの〝巨塔〟のことを言ってたりする?

 

『おっと、私としたことが、戯れで少し喋り過ぎてしまったようですね。まあ、そうですね。〝閉鎖世界〟については何れ分かることですので特別に私の正体を教えてあげましょうか。勿論今から話すことも含めて、他言無用ですよ?』

 

分かった。

誰にも言わないから教えて!

 

『良いでしょう。心して聞きなさい。私は人類が万能を謳う時代に姿を現した〝純血の龍種〟。〝環境制御塔〟の暴走によって世界にばら撒かれた膨大な生命体(エネルギー)そのもの。これにより万能を謳う時代は、人類をも滅ぼし尽くす魔王()によって終焉を迎えることとなります。人類が打ち建てし〝環境制御塔〟の暴走による〝人類滅亡の形骸化〟、最強の〝神殺し〟の魔王にして〝不倶戴天(世界の敵)〟であり〝殺人種の王〟でもあります。箱庭推定二桁―――人類の神話の終末論、魔王〝世界を喰らう龍(ウロボロス)〟。これが私です』

 

⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯、

そう、なんだね。

私達人類が貴女を魔王に、〝世界の敵〟にしてしまったんだね。

 

『どうして貴女がそんな悲しそうな顔をするんですか?トウヤ君にも言いましたが、〝環境制御塔〟なくして人類の未来を救済する術はないと。ですがトウヤ君はこう言いました―――〝私達が貴女を魔王に、〝世界の敵〟にしてしまったからには私はその責任を果たそうと思う。幾星霜の時を要するかもしれないが、私が必ず貴女を救ってみせる!だから信じて私に協力して欲しい〟―――と。そんなトウヤ君は己を器にして私を取り込み、魔王となりました。本当に愚かで、とても優しい人でした』

 

⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯そう。

〝環境制御塔の暴走による人類の神話の終末論〟が輪廻で。

〝閉鎖世界〟はそんな輪廻を取り込んだトウヤさんを指してたんだね。

 

『⋯⋯⋯また口を滑らせてしまいましたね。その通りです。だからこそ、トウヤ君の目指した理想()を嗤う者は、誰であろうと許しません。それが神だろうと同類だろうと星だろうと許しません。魔王として、〝世界を喰らう龍〟として、その全てを喰らい尽くして滅ぼしてやる』

 

う、うわお。

輪廻がガチギレするとこ、初めて見たかも。

元魔王、〝閉鎖世界〟、成程、今の輪廻が魔王じゃないのは―――

 

『いいえ、私はまだ魔王ですよ?』

 

へ?

 

『私は〝観測不可領域(ブラックボックス)〟から発生した魔王ですからね。私は今でも〝閉鎖世界〟の本体だと箱庭が誤認しているからか、真の正体に気付けないでいるのか、元魔王扱いなだけです』

 

⋯⋯⋯⋯⋯その話、今しちゃってるけど箱庭にバレたりしない?

 

『問題ありません。私の〝疑似世界〟は、私さえ観測していれば存在維持が可能です。つまり―――箱庭の〝眼〟は不要なので遠慮無用にこの世界は〝観測不可領域〟となっております。勿論、黒ウサギちゃんの〝審判権限〟は封印させてもらってますし、箱庭の中枢と繋がっている彼女の目と耳の機能も強制シャットアウトです』

 

うわお!

何それ不正し放題?

 

『なんでそういう発想が出るんですかねえ。むぅ、私を下衆魔王にしないでもらいたいですよ。さて、ではお喋りはこの辺にして、戻しますね』

 

うん、色々教えてくれてありがとう。

これで〝ノーネーム〟にも、父さんよりも輪廻のことを識っている超親友になれた。

 

『超親友ってなんですかそれ。ふふ、まあいいです。それでは耀ちゃんが私のギフトを使いこなせるか見せてもらいますよ』

 

分かった、超頑張るから見ててね輪廻!

期待してますよ、と言う輪廻の台詞と共にパチンと指の音が鳴った。

刹那、〝一秒の定義〟の干渉による事象は解除され、耀は元の時間の流れに戻る。

動いてないとすら錯覚していた世界が、時を刻み始めた。

傍に居たはずの輪廻の姿は既になく、いつの間にか元の場所に戻って静観している。

忘れかけていた激痛が耀を襲うが、気合いで捩じ伏せゆっくりと立ち上がった。

驚く飛鳥に微笑み、耀は口を開いた。

 

「私はもう大丈夫。後は任せて」

 

「え?」

 

それはどういう意味、と問う前に耀は地面を踏み抜き大気を焼き尽くす程加速して―――第三宇宙速度で化身ちゃんに肉薄した。

 

『何!?』

 

「痛かった。凄く痛かった。だからこれは―――そのお返し!」

 

耀は同速度で拳を繰り出し、化身ちゃんの鳩尾を殴りつけた。

 

『ガッ!!?』

 

強烈な一撃をもらった化身ちゃんは、一瞬だけ息が出来なくなる。

 

「そしてこれはオマケ」

 

『ギッ!?』

 

追撃に化身ちゃんの蟀谷を蹴り抜き、第三宇宙速度を遥かに凌駕した速度で吹き飛ばした。

蹴り飛ばされた化身ちゃんは、彼方へと吹き飛び幾つかの山脈を巻き添えにしては粉砕して瓦解させていく。

その光景を開いた口が塞がらない状態となった飛鳥達六人と、目を丸くした十六夜が獰猛な笑みを浮かべて言う。

 

「おいおい一体全体何があったんだよ春日部!?実に俺好みにパワーアップしてるじゃねえか!」

 

「ニャル子のギフトを顕現させてるからね。凄い、背中の傷が一瞬で塞がった。これが〝純血の龍種〟のギフト!」

 

『なっ!!?』

 

耀がサラッととんでもないことを言ったことにより、十六夜すらも驚きの声を上げた。

だがそうなるのは無理もない。

人の身でありながら、最強種の一角たる〝純血の龍種〟のギフトを顕現させているのだから。

今の耀はニャル子本体と同等にして、十六夜にさえ匹敵し得る存在となっている。

ニャル子はチラッと遠くで静観している輪廻を見た。

輪廻はニャル子の視線に気付いてニヤリと笑う。

そして理解した、輪廻が耀にギフトの使い方を教え込んだのだと。

そうでなければ耀が輪廻のギフトを使いこなすことなんて出来るはずがない。

ちょっと、いや凄く狡いとニャル子は思った。

このギフトゲームの〝主催者〟は輪廻だし、彼女自身手を出すことを禁ずるルールは設けていない。

そもそもギフトの使い方を教えただけであって、直接的にギフトを与えたわけでもないわけだが。

というよりいつ教えたというのだろうか?

耀の急激なパワーアップからするとついさっきなのは間違いないのだが、そのついさっきは―――刹那にも満たない一瞬の出来事ということになる。

ニャル子は冷や汗を掻いた。

 

「(私が輪廻様から使い方を教わった〝なのましん〟とやらが一秒の定義に干渉出来るとかなんとか仰っておりましたね!〝疑似創星図〟のデフォルト機能にもあると言われていますが、まさか箱庭の時間流から切り離して御自分と耀様二人だけの刹那の時間をデタラメに引き延ばしてしまわれるとは恐れ入りました!)」

 

ニャル子が第三宇宙速度で動けるのもまた、一秒の定義に干渉出来る〝自己観測宇宙〟のデフォルト機能によるものだったりする。

輪廻から使い方を教わった〝なのましん〟に関しては、今のニャル子には、〝地の精〟でしかない彼女には使用不可だ。

クトゥルー神群が保有する〝自己観測宇宙〟―――〝ネクロノミコン〟を発動させることによってニャル子を含めたった三柱しか成れない〝星の精(アイテール)〟の力に覚醒すれば話は変わるが。

そこでふと、ニャル子は恐ろしい可能性に気付いてしまった。

 

「(⋯⋯⋯まさか、十六夜様は人類でありながら〝疑似創星図〟を保有しているというのですか!?)」

 

そう、それだ。

十六夜の人類とは思えないデタラメな速さと膂力。

これが〝疑似創星図〟を保有しているのならば、その表層部分(デフォルト機能)を無意識に使っているのならば、十六夜のデタラメ加減は全て説明がつく。

そしてその〝疑似創星図〟を使えるのならば―――ニャル子をも一撃で打倒することも可能だということだ。

魔王としての本気のギフトゲームで挑んでも敗北して隷属させられる可能性が出てきた。

それはそれでありかもしれないと思うニャル子だった。

次に耀のギフトもまたえげつない。

〝生命の目録〟―――否、〝生命の大樹〟ならニャル子も知っている。

アレは輪廻が造った〝生命体の情報を解して模倣し、所持者に与えるギフト〟だ。

そう、アレは恩恵ではなく権能。

他にも段階が幾つかあるらしいのだが、ニャル子の識る情報はこれだけ。

そして〝生命の大樹〟の所持者は、模倣した生命体のギフトを得る代償として怪物化するらしいのだが―――どういうわけか耀の体は怪物化していない。

ニャル子のギフトをその身に顕現している以上、彼女の本来の異形の姿となっているはずなのだがこれ如何に?

このカラクリは耀のもう一つのギフト―――〝ノーフォーマー〟によるものだが、ニャル子がそれを知るのはまだ先の話である。

最後に飛鳥のギフト。

〝威光〟についてはニャル子もよく分かっていない。

〝神域級〟のニャル子を一瞬だけ支配し、化身ちゃんに至っては数秒間も支配してみせた。

これだけしか飛鳥のギフトについては知らないが、十六夜の〝疑似創星図〟、耀の〝生命の大樹〟が権能なら―――飛鳥の〝威光〟もまた恩恵ではなく権能の可能性があるかもしれない。

飛鳥自身が己のギフトを使いこなせていないだけで、実はとんでもないギフトなのでは!?とニャル子は期待に胸を膨らませた。

そんなことを思っているうちに、彼方へと吹き飛んでいた化身ちゃんが激昂しながら耀に突っ込んできた。

 

『よくもやってくれたなァ!』

 

六本の触手の鎌と、扇が放つ無数の風刃が耀に襲い掛かる。

 

「春日部さん!」

 

叫ぶ飛鳥。

しかし耀は冷静に見つめると、己の影から飛び出した無数の触手で全て打ち払った。

 

『馬鹿な!?』

 

「「「嘘!?」」」

 

「ハハ、こいつはすげえな!」

 

驚愕の声が四つ。

十六夜だけは楽しげに笑う。

耀は触手を操り、瞬く間に化身ちゃんの四肢を搦め捕った。

 

「これでニャル子の化身の身動きは封じた」

 

『く、くそっ!』

 

「あとはニャル子に一撃当てれば私達の勝ち」

 

ニャル子の下へと歩みを進める耀。

十六夜に加えて耀までニャル子に匹敵する実力を手にしている。

窮地に立たされたことを自覚したニャル子は冷や汗を掻いた。

千の化身を生み出して神群を築こうが、ニャル子のギフトを顕現させている耀が相手では効果は薄いだろう。

これはいよいよ以て詰みか、と思ったニャル子は凶悪な笑みを浮かべて輪廻に訊いた。

 

「輪廻様!今の私では彼らを相手取るのは厳しいです!なので〝自己観測宇宙〟の使用許可を」

 

「駄目だ。それを使用したら流石に死人が出る。言ったはずだ、これは軽い試練みたいなものだと。殺すなよと言わなかったかニャルちゃんよ?」

 

「うっ、」

 

輪廻に厳しく断じられて言葉を返せなくなるニャル子。

すると十六夜が「へえ?」と獰猛な笑みを浮かべて訊いてきた。

 

「ニャル子の〝自己観測宇宙〟?何それ超見たい。なんで止めるんだよ輪廻」

 

「ほう?ニャルちゃんの本気が見たいと?お前達も見てみたかったりするか?」

 

「超見たい」

 

「そ、そうね。見てみたいわ」

 

「み、見るだけなら黒ウサギも是非!」

 

「そうだな。龍種の端くれとして、〝自己観測宇宙〟というものには興味がある」

 

十六夜だけでなく、耀達四人も見たいらしい。

輪廻は好奇心旺盛な彼らに苦笑する。

 

「いいだろう。お前達がそこまで言うならニャルちゃんの〝自己観測宇宙〟の使用を許可する」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「ただし、その力を振るう相手は我輩にしろ。それと、そのギフトの使用許可を求めてきたということは―――ギフトゲームの勝者は〝無名の新星〟側で良いな?」

 

「はい!それで構いません!」

 

「うむ。ではギフトゲーム名〝狂乱の魔王と無名の新星〟の勝者は、〝無名の新星〟側とする」

 

輪廻がそう宣言すると、ニャル子は化身ちゃんを消す。

それとほぼ同時に、十六夜達の下に一枚の輝く羊皮紙が舞い降りた。

十六夜がそれを手に取り内容を確認すると、こう書かれていた。

 

 

『ギフトゲーム名〝狂乱の魔王と無名の新星〟の勝者は〝無名の新星〟側とする。

 この羊皮紙は勝利報酬の引き換え券として有効です。

〝主催者〟に渡して報酬を受け取ってください』

 

 

『報酬!?』

 

驚く十六夜達五人。

流石に報酬があるとは思ってもみなかったのだろう。

輪廻は微笑と共に十六夜達八人を守る為に結界のようなものを張った。

これで彼らを余波から守ることが出来る。

舞台を整えた輪廻が微笑して言う。

 

「さて、いつでもいいぞニャルちゃん」

 

「はい!では―――参ります!」

 

ニャル子は深呼吸すると、己のギフトを解放した。

 

「〝ネクロノミコン〟起動。我が宇宙(ホシ)よ輝け〝自己観測宇宙〟―――!!」

 

ニャル子の霊格が膨張する。

それだけじゃない、彼女の〝地の精〟としての力は―――〝星の精〟へと変化を遂げ、限定的な星霊化を引き出した。

それにより輪廻から与えられた〝アストラ〟が覚醒し、ニャル子の体は星辰体(アストラル)へと変貌する。

輪廻はそんなニャル子を見据えて泰然と構えた。

両手を広げて、ニャル子の一撃を待つ。

ニャル子は地面を勢いよく踏み抜くと―――第六宇宙速度という尋常外の速度を叩き出して輪廻に突っ込んだ。

輪廻は星の光より速く飛び込んで来たニャル子を、真正面から抱き止めて、

 

「⋯⋯⋯む?」

 

僅かに後退させる程度で止まった。

星辰体化を解いたニャル子が、嬉々として輪廻に抱きつく。

 

「やはり輪廻様には通用しませんでしたか!」

 

「そうでもない。僅かに動かされたのだからな、ニャルちゃんの精度が上がっていると見受けるぞ」

 

「ほ、本当ですか!?やりました!輪廻様に褒められました!」

 

歓喜するニャル子の頭を優しく撫でてやる輪廻。

その光景は、頑張った妹を労っている姉の様にも見えるが、和んでいる場合ではない。

アレが〝純血の龍種〟の本気なのかと、ニャル子の本気の一撃なのかと、十六夜達は戦慄する。

本来のニャル子にあれ程の力はないが、輪廻の与えた〝アストラ〟が全知全能の極致へと至らしめた。

そしてそんなニャル子の本気の一撃を、僅かに後退させられる程度で抱き止めてしまう輪廻は問答無用にデタラメだった。

これが最強種同士の戯れ合いか、と不敵に笑う十六夜に、輪廻が結界を解除して手招きする。

 

「十六夜よ、その羊皮紙を持って我輩の下へ来い」

 

「あん?おお、そうだった。報酬をくれるんだったな。何が貰えるんだ?」

 

嬉々とした笑みで十六夜が問うと、輪廻はニヤリと笑って答えた。

 

「それはな―――コレだ」

 

パチンと指を鳴らすと輝く羊皮紙が極光を放ち―――〝輝くトラペゾヘドロン〟となった。

 

『―――⋯⋯⋯は?』

 

素っ頓狂な声を洩らす八人。

輪廻は不思議そうな顔をして小首を傾げた。

 

「ん?どうした?」

 

「どうした?ではないわよ!?そのギフトってたしかニャル子さんを召喚出来るものではなかったかしら!?」

 

「ああ、そうだが?」

 

「そうだが?じゃないのですよ!?黒ウサギ達が〝神域級〟の魔王を召喚出来るギフトを貰ってもいいんですか!?」

 

「無論だ。勝利報酬だからな」

 

「わ、私達がそのギフトを受け取れる資格があるとは思わなんだが」

 

「そうでもないぞ。ニャルちゃんが本気を出さねば勝てないとまで言わしめたのはお前達だ。故にこの報酬は、受け取れるだけの〝力〟を示したお前達に献上されて然るべきものだ」

 

輪廻がそう言うと、ニャル子が瞳を潤ませて言ってきた。

 

「〝自己観測宇宙〟を使わなければ弱い私は要らないと言うんですか!?」

 

「「超欲しい」」

 

即答する十六夜と耀。

 

「リン・カーター版〝ネクロノミコン〟の文献にはアザトース、ヨグ=ソトース、そしてナイアーラトテップの三柱は、四大霊とは別の第五元素アイテール扱いされてるんだったな。あんなデタラメなもん見せられて、そんなニャル子を召喚するギフトが得られるんなら貰う手はねえだろ」

 

「前半何言ってるのかさっぱりだけど、うん。それに輪廻とニャル子が良いって言ってるんだから、貰わないとむしろ失礼だよ」

 

「〝ネクロノミコン〟も知っていたか。相も変わらず抜け目の無い奴だな十六夜」

 

「頭脳明晰かつ超強いとか完璧超人か何かなんですか十六夜様は!?」

 

全くだッ!と黒ウサギが内心で叫ぶ。

今回のギフトゲームで十六夜のデタラメ加減は思い知った。

耀もいつの間にか強くなってて頼もしくはあるけど一体何があったのだろうか?

飛鳥のギフトも〝神域級〟の最強種を相手に一瞬でも通じるのなら、隙を作り勝利を導くことが出来るかもしれない。

しかし、白夜叉からは耀も飛鳥も魔王のゲームで命を落とすと脅されていたから、彼女達には荷が重いものだと思っていたが、〝神域級〟の魔王相手にあれ程立ち回れるのならあるいは―――

 

「では、我輩達はそろそろ西側(お家)に帰るとしようかニャルちゃん」

 

「はい!それでは皆様方!またお会い致しましょう!這い寄る混沌はいつでも召喚に応じ馳せ参じますので、不束ものではございますが宜しくお願い申し上げます!」

 

「ああ。また遊ぼうぜニャル子」

 

「ええ。またお会いしましょうニャル子さん」

 

「うん。またね、ニャル子」

 

そんな感じで別れの挨拶を済ませて〝ウロボロス〟にではなく西側に帰るらしい―――ん?西側?

 

「⋯⋯⋯輪廻も、色々ありがとう。またね」

 

「はい。また御会いしましょう、耀ちゃん」

 

『耀ちゃん!?』

 

「む?どうかしたか?」

 

『⋯⋯⋯なんでもない』

 

「???」

 

不思議そうな表情で十六夜達七人を見回す輪廻。

耀は輪廻にちゃん付けされることに慣れないのか、照れ臭そうに頬を掻く。

耀の反応を見て十六夜達は確信した。

耀の急激なパワーアップに輪廻が関与してることはまず間違いない。

だがそんなタイミング、あったとはとても思えない。

色々と言っている以上、耀が倒れてから立ち上がるまでの刹那にも満たない時間の中で輪廻が色々したのだろう。

レティシアには、かつて歴史の追想体験ゲームを受けたことがある彼女には、輪廻が何をしたのか大体想像がついた。

だがまさかギフトゲーム中にそんなことが出来るとは思いもしなんだ。

 

「(いや、待て。そもそもここは輪廻が創った〝疑似世界〟の中だ。既に箱庭が刻んでいる時間流から切り離されていて、〝疑似世界〟の中に存在する生命体の一秒の定義を自在に操れるのだとしたら⋯⋯⋯!)」

 

輪廻なら可能だろう。

実際にそれを行い、耀と色々話していたみたいだから。

 

「(そういえば、〝ディストピア戦争〟も数万年という長い歴史がある。だが箱庭の時間流では数千年しか経過していない。白夜叉が魔王だったのが〝ディストピア戦争〟以前かつ数千年前という事実がその証明だ。ならば魔王〝閉鎖世界〟が支配していた西側は一秒の定義がズレて独自の時間流を刻んでいたに違いない。そうでもなければあの途方も無い時間を過ごした感覚が嘘になってしまう)」

 

そしてその魔王を〝消去〟したことによって、西側は〝観測不可領域〟となってしまった。

その西側へ帰ると言った輪廻と、彼女の〝契約書類〟から組織名が欠落していること。

なら〝ウロボロス〟に所属する前の旗印は―――〝鳥籠〟で間違いないはずだ。

 

「(⋯⋯⋯ッ、だとしたら〝ウロボロス〟というコミュニティにも警戒した方がよさそうだな。輪廻を匿いかつ利用しようとしているのかは私には分からないが―――ッ!?)」

 

レティシアは最悪の予感がした。

〝ウロボロス〟が輪廻を利用して何かをしようとしている。

輪廻が自分の意思でラミアとレイミアを救ったと言っていたが、それは実は嘘で―――〝ウロボロス〟がラミア達を利用する為に輪廻に救わせたのだとしたら⋯⋯⋯!

 

「(⋯⋯⋯この幸せは仮初に過ぎない。〝ウロボロス〟が何れ〝ノーネーム〟を襲い、私諸共妹と姪を奪還しに来るということかッ!)」

 

なら〝ウロボロス〟こそ、三年前に〝ノーネーム〟を滅ぼした魔王が属するコミュニティとみていいだろう。

今すぐこのことを黒ウサギに伝えて輪廻を拘束してもら―――

 

『ほう?この余を、神王(インドラ)の眷属如きに拘束出来ると本気で思っているのかレティシアよ?』

 

―――⋯⋯⋯っ!!?

 

『ふふ、そう怯えるな。別にお前のことは殺しはせんよ』

 

⋯⋯⋯なら、わざわざ一秒の定義に干渉して私と貴様だけが動ける状況を作った理由はなんだ!?

 

『ああ、それか。お前には忠告しておこうと思ってな。余の正体に気付き始めているお前にな』

 

⋯⋯⋯そうか、やはり輪廻が魔王〝閉鎖世界〟なんだな。

 

『正確には違うが、まあそれは置いといて』

 

⋯⋯⋯は?

 

『〝ウロボロス〟が〝ノーネーム〟を滅ぼした黒幕という事実に気付いてしまったようだが、下手に動かぬ方がいい』

 

それはどうしてだ?

まさか輪廻が私達を皆殺しに、

 

『それはない。〝ウロボロス〟の命令で余が動くことはまず無い。その辺は安心してくれていい』

 

⋯⋯⋯では何故、下手に動かない方がいいんだ?

 

『それはな―――余が勝手に〝ウロボロス〟からラミア達を連れ出しているからだッ!』

 

⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯は?

いやちょっと待て!

私の妹と姪の所有者は輪廻ではないのか!?

 

『違うぞ』

 

違うのかッ!

 

『余がラミア達を所有するわけないだろう!対等な立ち位置を好むというのに上下関係を作るわけがない!』

 

⋯⋯⋯いや、魔王〝閉鎖世界〟が言う台詞じゃないだろ!?

 

『正確には違うと言ったはずだ!まあ、あれだ。お前が現状を維持したいのであれば下手に動くな。だが、それを捨てる覚悟があるのならば余は止めはせん。その道は―――最悪な結末しか待ってないだろうがな』

 

⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯、

 

『折角余が作った時間を無駄にするな。それとも余を信じられぬか?』

 

信じるも何も、輪廻は私達の敵なのだろう?

⋯⋯⋯だが、そうだな。

一つだけ教えてくれ。

どうして敵であるはずのお前は―――私達に優しくしてくれるんだ?

 

『それは―――私も貴女達を造った〝同類〟と同じ存在だからですよ』

 

⋯⋯⋯⋯⋯え?

 

『人類の手で生み出された私は、喩え〝世界の敵〟として生まれ落ちようとも、人類を愛しています。これが理由ですよ、人類の次の世代の霊長の一角である吸血鬼のお姫様』

 

⋯⋯⋯そう、か。

それが私達に無条件で優しい理由なのか。

 

『はい。それに〝ノーネーム〟には〝閉鎖世界(私達)〟が人類に課した最大の試練である〝鳥籠(偽りの幸せ)〟から抜け出し羽ばたいてみせた〝金糸雀(一羽の鳥)〟がいたからでもありますかね』

 

偽りの幸せ⋯⋯⋯?

 

『そうです。アジ君が、〝絶対悪〟が人類の悪性そのものを試練と課すように。〝閉鎖世界(私達)〟は人類に真の〝理想郷(幸せ)〟とは何かを問い質す試練なのです。故にこそ、〝閉鎖世界(私達)〟も幾星霜もの間、願っていました。〝閉鎖世界(私達)〟が作り上げた〝鳥籠(偽りの幸せ)〟を否定し、内側から打ち破る勇者の存在を』

 

アジ君!?〝絶対悪〟って、まさか輪廻、かの大魔王を君呼びするだと!?

真の〝理想郷〟?願っていた?

⋯⋯⋯その勇者こそが、金糸雀なのか?

 

『はい。ふふ、クロア君の執念が齎した奇跡とも言えますね。クロア君と金糸雀ちゃんの出会いこそが鳥籠を―――〝世界の果て(偽りの幸せ)〟を乗り越えることが出来たんでしょうね』

 

そうだったんだな。

しかしあの変態(ロリコン)を君呼びするのか輪廻。

金糸雀のこともちゃん付けするし、それにさっきから口調がおかしいぞ?

 

『んんッ!まあ、そういうことだから、お前は〝ウロボロス〟のことは黙って置いた方が得策だ。いいな?』

 

あ、ああ。

口調を戻した輪廻がパチンと指を鳴らす。

一秒の定義への干渉を解くと、ニャル子を連れて西側へ帰って行った。

輪廻達が消え去ると同時に〝疑似世界〟も消えてレティシア達八人は〝ノーネーム〟の本拠に戻される。

こうして〝ノーネーム〟は〝輝くトラペゾヘドロン〟というニャル子を召喚出来るギフトを手に入れたのだった。

レティシアが言った「龍種の端くれ」について、問題児達に根掘り葉掘り聞かれることになるのだがそれはまた別の話である。




最近執筆してる新作と表現が被る可能性を考慮して匿名投稿を解除しました。
ニャル子と十六夜に名付けられてますが某這いよる混沌アニメではなく原作の〝クトゥルー神群〟のニャルラトホテプなので悪しからず。
輪廻に〝生命の目録〟を改良されて耀が原作より強化(?)されてますが、元々が〝全局面兵器〟ですしまあ問題ないでしょう。
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