五話「うたがいスパイ」
「ふぅ…」
浅いため息をつくその男、ロイド・フォージャー…
職業は精神科医だが、それは表の顔。裏の顔は、隣国西国ウェスタリスの諜報機関WISE
「ワイズ」が誇る伝説のスパイであり、そのコードネームは『黄昏』で知れ渡っている。
オペレーション〈梟〉と称される長期作戦が現在動いているがそんな彼に、また一つ極秘任務が舞い降りた。
今を生ける伝説の人間でも、疲労の二つや三つも抱えてもので片手にあるコーヒー一杯でも到底養えるものでもない。しかし、異常に激務な状態が続く中でまたしても余計な仕事を背負わされる彼は胃の痛みが止まらない。
「一体なんなんだ…」
そこにある1通の手紙、謎に一般の郵便局を通じず独自のルートから彼の自宅へと配送されたその謎の手紙は内容を見るにそれは直ぐに分かった。
「ドン王家の調査…!?」
「ドン王家」と呼ばれる家系に目が飛び出そうになる。数多の機密情報を網羅した彼でさえドン王家の詳細は聞くことすらない程その正体は闇に包まれている。唯一分かる事は世界有数の一族でありながら表向きは国際協力を目的とした世界の統治する役目を担う程の権力を持っている事。その謎の一族に良くない噂や都市伝説などざらにあり、彼らを暗殺しようとする者やその真実を探る者も少なくない。
だが、ここ数100年とその真実を公に暴かれる事はなかった。が、ほんの小さな情報が彼の読む手紙に綴られていた
「ドンの名を持つ者、「ドン・モモタロウ」の調査と監視…」
どうやら「東国」で「ドン・モモタロウ」と疑わしき人物が存在していると判明したらしく、彼らの動向が何なのか危険を冒さない程度に見張っておけとの事。その他には身長や性別、大まかな情報が載せられていた。
とはいえ、どこにいるさえも分からない状態で見つけるのは大砂漠で宝石を探す程気が遠くなるようなもの。しかも、偽称さえされたら…
「ドン王家なぞ、ただの都市伝説にしか過ぎないと思っていたが…」
「……俺にもようやくその話が流れてきたって訳なのか」
出来れば触れたくもなかった事なのだが、WISEが「ドン王家」の存在を認めた以上、 かなり危ない領域まで足を突っ込むことになる。もしかすればオペレーション〈梟〉と同等、いや…それ以上に過酷な任務になるかもしれない。
稼働力がますます増大するロイドは頭を抱える。
彼は、ふと窓側の景色を見る。かなり激しい雨が降っており、到底ピクニック日和とは言えない。
今日は久しぶりの休暇とったのだが妻もおらず、おまけに厄介な任務を舞い降りたりと既に早朝から疲労感が積もる彼だったが「ドン王家」の話一旦置いておく事にした
「アーニャ、何やってんだ?」
カリカリと紙に絵を描いているアーニャの所へ向かう。見てみると自分の似顔絵と、隣にはでかい男の絵が描かれてある。
「アーニャとたろう」
「た、たろう…?誰だそれ」
「アーニャのおとも!」
絵を描きながらもロイドの質問に返答する。なるほど、要するに友達という事か。
男の子の友達が出来るとは少し意外だったが、まぁ学校生活を馴染んできている証拠だろうと納得する。
「タロウ…」
タロウという名にロイドは引っかかる。いや…まさかな、とありえぬ事を自己否定する。ドン・モモタロウの偽名かタロウなどと、それはあまりにもバカ過ぎる。などと考えていたらピンポン、と玄関のチャイムが鳴るのを耳にする
「たろう!」
と、寝転んでいたアーニャが思い切り立ち上がる。
「(タロウ?そんなもの買った覚えはないが…)」
ロイドは毎週火曜日にはある程度の日用品定期的にネット注文していた。色々と事情があり彼はあまり外に出る事を極力控えている為、宅配サービスには世話になっている。
「はい」
「お届け物です」
「いつもありがとうございます…」
そこにはそこそこの身長がある男が荷物を抱えて待っていた。別に至って変ではない、と普通にサインをしようとしたのだが…
「たろう!」
「そうか、アンタが父親って事か」
「え?」
たろう、とアーニャがそう名指す彼…確かに良く見ればネームプレートには「タロウ」と記されている。
「……」
「(ん?)」
ロイドはここで今までの出来事を整理する。まず、
アーニャはタロウの事を「おとも」と呼んでいる。そのタロウというのが、今週に頼んだ荷物を持ってきたこの男。
「(……んん??)」
手紙にある情報と見比べた。性別は男で身長170を超えている。
「(ま…まさか…)」
ロイドは手紙の情報と彼が一致している事に驚きを隠せなかった。
極めつけには「タロウ」という名前が決定的となっていたのかその衝撃的な状況に思わず片手に持っていたペンを落としてしまう
「(嘘…だろ…!?こんなにも近くにいたとは!)」
「(確かに、あまり配達員の人とは顔を合わせてこなかったが…先程きた緊急任務の重要人物がまさか配達員に紛れて生活しているなんて!!)」
想定外の展開に現役スパイでも頭の整理がつかないでいた。
ただ分かる事は彼がとてつもない人物であり、さらにアーニャと既に交流があるという事。その事実が判明した彼だったが、咄嗟にある考えに至った
「(まさか…!?)」
「あんた、どうした?」
「(アーニャと仲を深める事で逆に俺からの情報を抜き取ろうっていうのか!?)」
こんな小柄な少女とわざわざ仲良くなるには何か理由があると踏んだロイドは、ポーカーフェイスを交えながらタロウに諭されぬよう周りの状況をみた。これといった武器はないが、あのドン王家である以上どんな手を使ってくるけわからない。
だが、まさかこんな方法で攻めてくるとは…想定以上の危険な状態が続く中、タロウが一言口にした
「サイン、貰っていいか」
「…!あぁ、すみません…」
今のところ怪しい動きはない所、相当な慎重派だとにらんだ。今までターゲットにここまで追い込まれたのはある意味タロウが初めてかもしれない。
と、ただサインを書くだけなのにとてつもなく重たい雰囲気が流れる。それを気にも留めずアーニャはピーナッツ貪り食う
「これでアンタにも縁ができたな」
「何…?」
意味深な発言をしたも思われるタロウに対してロイドも身構えた。縁がある、どういった意味かは分からないが自分に対しての宣戦布告なのかもしれない。どこまでの謎な男にどっと汗をかく
「こいつと同じだ、中々いい目をしている」
「(なるほどな…こちらの目的は筒抜けという事か)」
極秘任務でさえも彼には全てお見通しという訳か、と彼がドン・モモタロウである事を確信したロイドは一歩引きながらもタロウへの視線を外さない
「それは、どうゆう意味で?」
「決まってるだろ」
「アンタも俺のお供になれ!」
「…は?」
突拍子もない言葉に間抜けな声を漏らす。思っていた返事ではなかったのでどう返していいか分からずにいたが、彼の意見を無視してタロウはどんどん話を進める
「そうだ、見るからにアンタは普通の人間じゃあない」
「どうだ、なってみないか?」
「いや、結構です。では」
ガチャン、と静かにドアを閉めるロイド。もう話にならないと判断した為か勢い勢い余った行動だったが、こうでもしないと彼は止まらないだろう。ドン王家の人間あんなにも変人な奴が多いだろうか、少なくとも対面はあまりしたくない。
「はぁ…」
「なんでしめた?」
「…確かアイツが友達なんだろ?」
「ん」
「……一応行っておく、次からはあんな奴とは絡むな。いいな?」
自分の為にも、そして何よりアーニャの為にも金輪際タロウと会う事を禁じたロイドは肩に手を乗せてそう言う。
「たろう、悪いやつじゃない…」
「かもしれないが、あんなキャラクターみたいな奴は危ないかもしれないんだぞ?」
「でも、何度もアーニャの事助けた…」
その一言で、また一つある事を思い出す。
チラリと聞いた事があるものの、アーニャがよく誰かの話をしていたのが多々あった。恐らくタロウについてだろう…となればあの頃から面識があるとすれば、もうこちらの話は既に知り尽くされているかもしれない。
「……一生の頼みだ、アイツにだけは会うな」
「……」
念押しをするように、彼はアーニャにそう釘を刺した。幼児と青年男性が一緒になって遊んでいるというのは一般的から見てあまり良く思われないかもしれない。だが、それはアーニャにとってはどうでもいいこと。
人生で指折りの友達といえるであろう彼を腫物扱いするロイドを良く思っていなかった。
「ちちのわからずや!」
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日はとっくに暮れ、街並みが点々と街灯で照らされていくこの時間帯でアーニャとロイドはめずらしく外食を取る事になった。子供ならば外食と聞くとそれだけでテンションが上がるだろう。そこそこのいい店でもあるレストランに訪れ、いつもよりも元気なアーニャはひと回り豪華な食事を堪能していた。
「うま!」
「あんまり溢すなよ」
年相応な拙い食べ方だが、見ようによって愛くるしいその様子をみるロイド。
とはいえこれから多くのお偉いさんとの会食がある事を考え、やはりある程度の作法は学ばせておかないとならない。
「はは、かえるのおそい」
「仕方ない、今日も忙しいみたいだからな」
今日は二人だけの食事、少なくない事だが…どこか物足りなさを感じているのは確かだった。やはり家族全員で食事しているのが一番安心するのだろうか
「それは残念だな」
「ああ…ん?」
後ろから聞こえる男の声、その方向に振り向くと食事を行うタロウの姿があった。どうやら彼もここにいたらしい。
「(な、なんでまたこんなにも近くに……!?)」
タロウとの再会に悲痛な表情を浮かべるロイド、こんな偶然などあるものだろうか
それとは反対にまた会えたアーニャはペカーっと笑顔を振りまく
「たろう、また会えた!」
「ああ…やはり、アンタには縁があるみたいだ」
「(さっきから何なんだそれ!?)」
何度も思うがこの男、やはり奇妙にして変人である。
「(この男、俺たちの夕食まで監視するつもりか…?全くもって抜け目がない奴だ)」
相変わらずタロウを敵視するロイド。獲物を狙うライオンの如く睨みつけるもそれを無視するタロウは頼んだメニューに手をつけた
「…何だこれは」
「たろう、それ美味いの?」
「5点だ!!」
「は?」
ガタっ!!と勢いよく立ちながらそう言い放つタロウ。そして何故かそのままズカズカと厨房へと入っていく。流石のシェフ達もそれには動揺し「どうされました!?」などとタロウを宥めようとするが彼の足は止まらない
あまりの奇人っぷりにロイドも頭を抱える。
「(くそ…あいつ余計な事を…!)」
彼にはこのレストランで余計な事をして欲しくないある理由があった。
だが、それに構わずタロウはシェフ達に向かってこう言った
「あの料理を作ったのは誰だ?」
「わ、私ですけど…」
「あの料理は最悪だ!とても食べたものじゃない!」
なんと、タロウが食べた料理を酷評し始める。これにはショックよりも動揺の方が勝ってしまい、「は、はぁ…」としか言いようがなかった。
いきなり食べて、いきなり文句を垂れる…もう古典的なクレーマーのやり方である。だが、ここからが違った
「俺が手本を見してやる」
いつのまにか料理服を見に纏うタロウ。巧みな捌きで下拵えを済ませていくその光景に続々と客たちが見に来てゆく。
「(くっ…ドンモモタロウ、また妙な事を…)」
「(やむをえん、少し出直すとしよう…)」
「アーニャ、少し早いがもう帰…」
「たろうの料理!わくわく!」
「アーニャァ!」
もう一つある用があったのだがまた今度にしようと一旦帰るロイドだったが、タロウの調理姿にアーニャも釘付けだった。
何故あんな男の方の料理姿が気になるのか、自分だって毎日料理を家でやっているのに…
もはや嫉妬すら生まれてしまうのをよそにタロウはあっという間に一品出来上がった
「さぁ、食ってみろ」
「…」
シェフや客の周り達も試食をしようと口に運んでみると、皆が目を見開いて驚いた
「これは!」
「兄ちゃん凄いな!一流シェフ並みだよこれは!」
「美味しいわ!」
「まぁな…アンタも、分かったか?」
「えぇ…」
ものの見事な料理を出された彼は確かに美味しいとタロウの腕前に納得した。
口だけでは実力を行使して人の成長を促していく。それがタロウだけにしか出来ない事であり、当然の事であると考えているものの一人を除いては彼の暴走に不満を抱く者がいた。
「君、ちょっと来て!」
グイ、とロイドに首根っこ掴まれるタロウ。ズルズルと男性トイレに連れて来られ、タロウに一喝した
「変に余計な事しないでくれ!」
「何故だ。あのシェフの腕前は未熟で、俺はそれを指摘しただけだ」
「それの何が余計だ?」
「余計だろ!」
最もである。
「やはり君は普通じゃない、縁だの何だのおかしな事言っていたが…」
タロウの人間性がますますわからなくなっていくロイド。ここにきて彼は本当にドン王家の者なのか、それともただの変人なのか分からなくなっていた。
彼がこれ以上暴れ回るのも困ってしまう為、事の事情を全て話す
「…アーニャはともかく、俺はこのレストランに来た理由はもう一つあるんだよ」
「理由?」
「…俺は訳あってとある仕事を任されている。普通と言われればそうではない、特殊な仕事だよ」
ピラリ、と一枚のとある写真をタロウに見せた。
「ここのレストランの店長は選挙立候補の当選者でな、その者がとある組織とイザコザがあって命が危うい状態なんだ」
「そして今夜、その組織の一人がこのレストランの中に忍んでいる」
「恐らく毒殺か、それ以外の方法で仕留めにいくつもりだろう…」
彼はいくつか任務を請け負えており、今夜はその一つの方を遂行するつもりでいた。
本来ならばアーニャにトイレと言い訳している間にササッと終わらせるつもりだったが、その間にタロウが下手に乱入してくれた事で計画が少し狂いつつあったのだ。
「何故、俺に話した?」
「それは、君が一番よく分かっているんじゃないか?」
「【ドン・モモタロウ】…」
「!」
ロイドの放った言葉に、タロウはカッと目を見開いた。
その反応でほぼ確定した、彼こそがドン王家の末裔であるドン・モモタロウだと…
「何故その名を知っている」
「……俺は一般人じゃないと言っただろう」
なるほどな…とニヤリと口角を上げるタロウ。それがどういった意図なのかは、その時
ロイドも判断しかねる
「単刀直入に言う、君はアーニャとどういう関係なんだ?」
「…」
その一言でロイドの鼓動も段々と速くなっていく。幾多の修羅場を経験してきた彼でさえも、あのドン王家で対峙しているだけ何をされるか想像もついていなかった。襲いかかってくるのだろうか、それとも案外すんなりと話を飲んでくれるのか…直球な質問をしてしまったかとその時ロイドは一瞬後悔するも、その返事はすぐに返ってきた
「お供だ」
「ただ、それだけだ」
アーニャについては、それ以上何も言わなかった。
「…はぁ…分かった、分かったよ」
「別に命を狙っている訳ではないんだな?」
「当たり前だ、俺はそんな事しない」
「勿論、アンタもだ」
本当なのだろうか。まだ警戒心は解けていないが、正直なところとしては彼が嘘をついているような様子は見当たらない。
「…そうか」
「俺は君を信じるつもりはない」
「…だから、この事は忘れて今すぐに帰ってくれ」
「…」
「いいな?」
奇人で妙な雰囲気を持つ男だが、ロイドが思っている程凶暴性の強い人間ではなかった。故に、できれば彼にはこのままアーニャに近づく事なく帰ってほしいとただ祈るようにそう命令したのだ。それなら彼も心から安心する事が出来るからだった
じゃあ、と肩にポンと手を置いてロイドは例のターゲットの身柄を確保する為後を去った。やはり、拘束ぐらいはした方が良かっただろうか。自身が下した判断に多少の不安が募るも、タロウの顔を一瞬見る。
ただ顔つき一つ変えずただ自分の方を見ていた。
「…」
「中々面白い男だ…」
やはりあの男は只者ではない、とうすら笑みを浮かべていた。
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「さて…」
場所は変わり、レストランのある一室にて一人の男性が居座っていた。大きなジュラルミンケースを開き、いかにも取り扱い要注意を醸し出す物騒な小瓶を取り出してある準備に取り掛かっていた。東国ではここ幾つかの闇組織や暴力団体なとが対立を繰り返している。麻薬取引や武器の密流に伴って商売競争の激戦化が激しなくなっていく一方で、その取引の防止化が各地域に広まりつつあった。
その市長の殺害を理由としてその男は立候補であるこのレストランの店長を殺害すべく計画を進行していたのだ
だが
「見つけたぞ」
「…クソ、タイミングいい時によ…」
「残念だったな、お前の計画は大体お見通しだ」
背後から現れたもう一人の男性、ロイドがオートマチック銃の銃口を彼に向けながらも歩み寄る。男の場所を特定するなど、ロイドにとって目を瞑りながらでも出来る所業であるのだ
「さて、それを渡してもらおうか」
「誰が渡すか…!」
お互い一歩も引けない状況に変わり、彼に揺さぶりをかけて隙を生み出す為に言葉を投げかけた
「それは毒薬か?成る程その手を選んだわけか」
「流石は天下の黄昏さんだ、勘の鋭さも噂通りって訳だが…」
「…」
チラリ、と彼の背後にある鏡を見る。その様子は背面に一本コンバットナイフを隠し持っているのが分かる。恐らく奇襲に持ちかけようと考えているだろうが、こちらからはその魂胆が見え見えである
「(コイツは思った以上に間抜けだな…)」
彼に負けることなどない、そう確信したロイドだったが
「やはりここにいたか」
「!き、君!来るなと言っただろ!!」
「!テメェ、誰だ!」
まさかのタロウが扉から現れた男の退路を防いでいた。今が危険な状況なのにも関わらずタロウはズカズカと彼に近づく。
「どうりでおかしいと思っていた」
「シェフがあんな不味い料理を作るわけがない…」
「そう思っていたんだが、アンタがそのシェフだったら納得がつく」
男が携帯武器を所持しているのにも関わらずそんな危険極まりない行為を及ぶタロウに対し、ロイドは声を荒げた。
「おい!!?なんで来た!?」
「中々面白そうだからだ、丁度退屈なもんでな」
「(何?それ??馬鹿なの?マジコイツ馬鹿!)」
やはりこの男は意味不明。なぜ面白そうだからという理由だけてまここまで行動に移せるのか。確かにロイドがタロウに任務の全貌を話してしまった事に原因があるかもしれない。この事に一切関わらせたくなかったのだが、彼の言う通り縁があるというのは本当だったのかもしれない。
「黄昏、お前のツレか?」
「絶対に違う!」
「…この男は俺のお供、そして俺たちはアンタの悪事を止める為に来た」
「(…俺いつのまにか変な扱いにされてるの何故だ?)」
なってもいない事をすらすらと既成事実かのように言い放タロウ。
そう、彼が認めた者は皆お供になる。それは絶対であり覆る事は絶対にない。まさしく不条理の極みである
「さぁ、大人しく降伏しろ」
「はっ…」
「こんな所で終われるかよ!」
ニヤリと笑みを浮かべる男は風のように一室から姿を消した。
「君!!!何故そうやって毎回余計な事を…!」
「俺は武力を行使しない、食べ物を扱うこの場所で銃撃なんて響かせれば客はパニック状態だ」
「…」
「…確かにそうかもしれない」
「だが奴が外に逃げてしまったら元も子もないがな!」
そう言い捨てたロイドは彼を追うべく部屋から出ていった。タロウにとって無闇な戦闘程意味のないものはないと悟っていた。だが、そんなことは彼もとっくに周知していた事かもしれない。あんな行動に移ってしまったのはやはり自分が現れたことによる動揺だったのか、少し申し訳ない気持ちに駆られたタロウはロイドの後を追いかける事はしなかった
「流石にすまない事をしたか…なら、これで手助けしてやろう」
「アルターチェンジ」
そう呟いたタロウは何故かパタリと意識を失って倒れてしまった。
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「おそい」
一方その頃、「トイレに行ってくる」と言ったきりに帰ってこないロイドに対してその一言を放つアーニャ。スプーンに口に加えたまま退屈そうな顔で彼の帰りを待つも、もう我慢の限界に至る。
「(こうなれば、冒険だ)」
大人かればそこまで広くない店だが、ちびっ子のアーニャにとってここはちょっとしたダンジョン…冒険と称した外歩きを開始するアーニャは下手すれば食い逃げになりそうな状況でそのまま外へと出ていった。
「お?」
店から少し出た先に、建物と建物の間の路地裏で妙な人騒ぎが聞こえる。
これは何か事件の匂いがすると感じ、路地裏へトテトテと走るアーニャ
「(誰かいる…?)」
「ピッ!?」
ガシッ!と身体ごと掴まれるアーニャ、どうやら突然現れた謎の男に捕らえられたらしくさらには自分の近くナイフを近づけた
「丁度いいガキがいたんもんだ!」
「アーニャ!」
「お…?どうやらお前んとこのツレみたいだな…」
「どうせ作戦失敗でテメェに捕まっちまうんだ、お前にデカイ爪痕残してやるよォ!」
「ひっ!」
思い切りナイフを振り上げてから、アーニャに傷を負わせようと突きつけようとする。
出来ればこんな事はしたくはないが、こうなれば腕ごと撃ち抜いている。と殺意を込めて打ち抜こうと引き金を引く瞬間、配管が「意図的に破壊された」かのように破裂音と共にガスが男の目へと直撃する。
「あだぁ…!!?」
「…!今だ!」
幸いにもアーニャには被害がなかった為か、隙ありと彼を一瞬にして押し倒して拘束する。
アーニャに恐怖感を与えたことへの怒りだったかのか腹いせに峰打ちをして気絶させた。
「うぅ…ちち…」
「全く…!外に出るなと言っただろ…!?」
「ごめんなさい…」
「(…今日は何故かうまくいかない日だ、俺もらしくない判断ばかりしてしまった)」
「(いつもこんなはずではないのだが、安全策をとってアーニャを家にいさせるのが正解だったか…)」
今回奇跡的な現象が起きてくれたおかげでことなきを得たが、あれがもしなければ…強行策を取る所だった。決して楽観視していた訳ではない、今までもプライベート中でなんとかくぐり抜けれた事はあった。水族館の時のように…
「すまない…」
アーニャに手をそっと置く。あれもこれも全てタロウのせいだ、とはならなかった。それは彼の言った通り無駄な戦いになるかもしれなかった。それを危惧して駆けつけてくれた彼に少し感謝していた
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あれから組織の男を拘束した後、民間人に紛れたWISEの工作員達によって連行される。後の始末には問題はないだろう。車にアーニャを乗せてひと段落した頃、ロイドとタロウが対峙していた。
「一つ質問があるが…」
「あれは君がやったのか?」
「何のことだ」
「あの時配管がいきなり破裂した…なんの予兆もなく、まるで「人が破壊した」かのようにだ…」
「どうもおかしいと思っている」
「…」
「…まぁ強いて言うなら、あれは俺がやったことだと言っておこう」
「どうやってやった?」
「…秘密のパワーって奴だ」
何だそれ、失笑したロイド。漫画やアニメじゃあるまいし、何も超能力を使ってやった訳ではないだろう。彼がやったとなればあらかじめ何かしらトラップや仕掛けを仕込んでいたのに違いない。
「あんたも色々大変なんだな」
「…その大元が君なんだけどな」
彼に労ってもらっても困る
「俺は君を信頼してない」
「未知の存在であるドン王家の末裔…君が何者なのか、何故俺達に絡んでいくのか」
「君の事は暫く監視させてもらおう」
「なるほどな…」
ロイドが自分の事をあまりよく思ってないと判明したタロウは、力強い言葉でこう返した
「面白い!!」
「…え?」
「あんたが監視か、それは中々いいものだ…俺を知り尽くす絶好の機会と言う所か!」
「頑張って俺を調べるといい!」
未だかつて聞いた事のないセリフを吐きながらそう去っていくタロウ。その背中を見ることしか出来なかったロイドはどこまでも読めない奴だと改めて理解を深めた。
これから奴がどう言った危険人物になるのか…目を見張る必要があるだろう。
「はぁ…」
「とんだ変な奴に、会ったものだ」
オペレーション〈梟〉と同時進行する。ドン・モモタロウ及びドン王家の調査任務…
オペレーション〈桃〉(ペェスカ)が今日から本格的に始動する事に、これから骨が折れる日々が続くとロイドは気が滅入る思いでアーニャの元へと戻っていった
補足説明…
・ドン王家
世界有数の一族であり、世界の裏を統べる謎の王族。その正体を突き止める為数多くの人間がその足を踏み入れようとするもだれにもたどり着けず数百年が経ち、ついにその手がかりを掴む事に…
・タロウの言う「秘密のパワー」について
決して例の全力全開な人ではなく、タロウの「アルター」を言い換えてるだけです。
沢山の評価、おきにいりありがとうございます。気難しく考えずにドンブラらしい破茶滅茶なお話を書いていこうと思います。
じかーいじかい、「クッキングはは」お楽しみに