第七話「マイヒーローとあばたろう」
一見閑散とした街並みだが、もう営まれていない廃家の奥深い地下の中でとある密談が行われようとしていた。
東国の隣国に位置する西国のそんなとある場所にて、短期出張と偽称した最重要人物との面談を目的として彼、ロイド改め黄昏はその場所へと赴いたのだ
「ここか」
少し短い階段を下った先に、殺風景の空間が広がる一室が見えた。
そこの真ん中に置かれた机と椅子…まさしく収容所の面談室のような空間には最低限のWISEの工作員三人と、黄昏が目的とした人物がいた。
「申し訳ございません…わざわざこんな何もない所まで」
「いやいい…ここなら誰にも盗み聞きされなさそうだからな」
顔を隠したフードをようやく脱いだその男、見るに歳のいったその男性は…
「さて、失礼ながら私達もそこまで時間の猶予がありません…彼の話を、出来れば端的にお願いします」
ドン王家末裔【ドン・モモタロウ】を育てた所謂、養い親の【ジン】という男だった
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「とある日の事…」
「別に特別な理由があった訳でもないが、俺は夜道で歩いていた話だ」
「その時、上から特殊なカプセルが川に落ちて流れていった」
「俺はそれを引き上げると中から赤ん坊が出てきたんだ」
「それが後のタロウ…君達が探している人物だよ」
「話は、残念だがそれまでだ」
話を聞き終えた彼らはおとぎ話を聞かされたかのような感覚に陥る。要所要所に不可解な点がちらほらとあり過ぎてどこから聞けば良いか分からなかったが、その話によってドン・モモタロウの謎がさらに深まってしまっう。それに、ただでさえジンという男の素性ですらほとんどが闇に隠れているといっても過言でもなかった。
タロウを5歳まで育てて以降、何らかの罪を着せられたと述べてからタロウを孤児院に移し、ジンは逃亡を繰り返しながらも西国へと逃げた後に辛うじてWISEの人間に保護される事となった。不思議な事に、彼はタロウを保護してから【歳を取っていない】そうなのだが、創作物であるまいと信じる気にはならなかった。
とにかく、彼が何者かまた一度調査していく必要がある。
「俺が言えるのはこれまでだ、もしかすれば…アイツなら知っているかもしれない」
「ですが…その青年がどこにいるのすら分かりませんし…」
「いや、俺は知っている」
「え?」
黄昏の言葉に工作員達を口を揃えて振り向いた
「奴は、配達員だ」
「アーニャ、けっこんする」
「な…」
「何だとぉ!?」
それはロイドは短期出張を終えて休息のひとときを嗜んでいた最中だった。爆弾級…いや、ビッグバン級の発言を耳にした瞬間に,これでもかと言うくらいの驚いた顔で反応した。
キッチンからは、「まぁ…」と、偶然耳にしたヨルも同じくして驚いていた
「だ、誰とだ!!いつ!どこで!どうやって言われた!?」
「うええぇええ」
前後左右に揺らされるアーニャはロイドを腕を掴んで止めさせてから事の事情を説明し始めた
「えん…げき、だと?」
「うぃ、そこでアーニャ、ひめやくになった」
「な、なんだ…そんなこと…」
「姫役ぅ!?」
そう…アーニャに託されたのは背景の木やキャラクターを乗せる車など、そんなちんけな脇役ではない。恐らく主役級とも言える重大な役割になんと大抜擢されたのだ!
しかし何故アーニャがそんな大役を任されたのか、それは時は少し遡る事数時間…イーデン校の教室では毎年行われる大演劇会の役決めを行っていた時だった
「ここで、女の子が憧れている姫役なのですが…」
「実は、もう決まっています!」
そんな教師の一言によって男子除いた生徒たちはザワザワとし始める。先制や多数決ではなく教師自らの指名なのだから余程期待されていているに違いない。
皆がなりたい訳ではなかったのだが、とある三人だけは姫役に対してとてつもない執念を込めていた
「(姫役になるのはこのキャサリン様よ…!)」
「(お姫様の役なんて、私決まってるわ…!)」
「(アーニャがいいな〜…)」
「なんと、今年のお姫様に選ばれたのは…」
「アーニャ・フォージャーさんです!」
「え!?」
「はぁ!?」
「やったー!」
教師から出た名は、彼女の名前だったのだ。自分で指名されるであろうベッキーは隣のアーニャに視線を移して驚き、キャサリンに限っては腹いせに隣の気弱な男子生徒に背中を殴っていた。
「ちょ、ちょっと!なんでこんなチンチクリンがお姫様役なのよぉう!!」
「そ、そういう決まりなので…」
「…」
「(フッフッフ…)」
生徒の様々な反応の中でただ一人心の中で笑っていた人物がいた。それは、ダミアンである…何を隠そう、アーニャが姫役に抜擢されたのは彼のおかげにあったのだ
「(こうもあろうかと、上の連中共に相当の金を積んでおいたんだ…!)」
「(まさしく、賄賂大作戦…!)」
アーニャが抜擢された理由…それは、デズモンド家(ほぼたった一人)による莫大な賄賂によるものだった。金というのは人間を操作するにあたって実に便利な物で、実際にイーデン校の教頭達は実に忠実なものだった
とはいってもデズモンド家であったらほんの小さな差し金程度でも通用する筈だと思うが、あれだけの大金を積んで確実に成し遂げようとしていたのは彼女の為に他ならないのだろう。好きの力というのは、そこまで人を動かす…極めて恐ろしいものである
そして、もっと恐しいのはこの真実は全てアーニャの力で見透かされていた事であった
「(わいろってらなんだ?)」
賄賂という邪推な言葉をまた一つ覚えたアーニャだった。
と、ここまで良かったのだが…最後の王子役がまだ空いていたままであった。
「そうね…どうせなら王子様役は、フォージャーさんに決めてもらいましょう」
「(俺様俺様俺様俺様俺様…)」
「うーん…」
「いない!」
「(何ーー!?)」
トンデモ発言にダミアン含めた数人の男子達は驚愕した。王子というのは俗に言う「イケメン」のイメージが定着しているのだが、まだ幼い事からその認識がないアーニャはその代わりアニメに出てくるスーパーヒーローのようなキャラクターに強い憧れを抱いている。ましてや彼女の目に映っているのは鼻垂れ小僧や間抜けヅラした男しかいない。
アーニャが頭の中で思う「王子」というのはまだその程度の浅さだったのだ。
とはいえ、早くも成熟しきっている女子達はトップクラスに人気のあるダミアンを熱烈に候補していた。
なによりも向こうもそれを望んでいる(決してやましい思いがある訳ではない)
「王子様といったらダミアン様よ!」
「そーだそーだ!」
「アイツは似合わん!」
「な、なんだとこのヤロウ!?」
お前には言われたくない、と立ち上がって激怒するダミアン。何故こんな奴に賄賂してまで姫役に選ばせてしまったのだろうか、別にドレス衣装のアーニャが見たいだとか合理的に接触したいだとかそういう下心満載に動いていた訳ではない、そう……決して
「ふ、二人とも…!喧嘩はいけま…」
「エレガントォー!」
これ以上はまたもや初対面以来の乱闘になりそうだと察知した教師は宥めようとしたが、とある男性が突然現れた
「中々煮詰まっているようですの…」
「せ、先生…!」
「(おっさんだ…)」
「どういう登場の仕方なのよ…」
ヘンリー・ヘンダーソン
66歳の男性教師で担当教科は歴史学を中心に務めている、何よりもエレガントであることを重視し以前行われた入試基準でもエレガントを求めるなど…言うなれば「変人」でもある。
因みに彼はあのアーニャを一目置いているらしく、何か魅入るものがあったのだろうか時々手助け等をしてサポートをしている
今回も同じくして一年3組による演劇会にとある助言を申し出にやってきた訳だが…
「話だいたい盗み聞きさせてもらったぞ…この舞台の華となる役は重要だからの…確かに迷う所はある」
「ならば!」
バン!と教卓を思い切り叩いてこう叫んだ
「皆が思うマイヒーローを選ぶのだ!」
そんな言葉にポカンと目を点にさせたクラスメイト達。
とりあえず彼の言うマイヒーローとはなんなのか、皆の気持ちを代弁してベッキーはそう質問した
「あの…マイヒーローってどういう…」
「よくぞ聞いてくれた、マイヒーローというのは自分の中にある大きな存在…簡潔に言えば自分が最も好きな人物の事だ」
「なんでもいいぞ…俳優やアニメのキャラクター…アイドルグループやコメディアンタレント…もっといえば自分に近しい存在でも問題ない」
「ヒーローというのは単純に力で物事を証明する人間の事ではない…ど 人を理解して、人を思いやれる人間の事をそう呼ぶのだ」
「さぁ、アーニャ・フォージャーよ…其方にとってのマイヒーローはなんだ!」
「!」
アーニャは考えた。自分にとって支えになる人物…これまで時を重ねて、何に背中を押されて生きてきたか…
「…ちち」
「と、いうわけで…おーじやくはちちになったと…」
「(何やってんの…ッッ!!??)」
頭がおかしくなる展開に頭を抱えてそう心の中で叫ぶロイド。クラスの演劇会の主役に選ばれるのも謎で、それを許可した学校も謎…どうしてそうなったのか意味が分からない
王子役の父とその姫役の娘などと、考えただけで火が出るほど恥ずかしい思いでいっぱいである。
「で…本番は?」
「明日」
「明日ァ!?」
クラリ…と遂に立ちくらみが起きるロイド。ただですら日常的な生活でも神経を使うというのに、ここまで野暮な用事が積み重なればいよいよ気絶しそうな勢いになる。心配で駆けつけたヨルも事の事情を耳にするとロイドと同様の反応をする
「でしたら演劇の練習をした方がいいのでは…」
「そうだ…そうなんだよ、そもそもなんで明日なんだ!?」
「舞台は?衣装は?他の子も台詞とか覚えなきゃいけないんだろ…?」
「あー、それは…」
アーニャは引き続きヘンリーの言葉を思い出した
『演劇において練習も重要だろう…しかし!その場その場で吐き出した感情や動き、初々しさも残るその仕草こそ真のエレガント演劇を発揮する!!』
『その為全て台詞もアドリブにしてあるぞ!!考えておくのも別に良いが、何よりも解き放たれた純粋な言葉こそ、エレガントなものない!』
「馬鹿ヤロォ!」
「ロイドさん!?」
急に身体を丸めたロイドはあまりの発言に思わず暴言を放ってしまう。
それはそうとクラスメイトですらない自分を巻き込まないでほしいと心の底からそう思っていた。全く何よりである
だが、もう安易に逃げられる状況ではない…この演劇では多数の保護者も観に来ると言われている…勿論だが、目的のデズモンド一家も例外ではない。
まさか親子一緒に参加するハメになるとは計算外だったが、任務を円滑に進める為にはこれを機に好印象を与える必要があるだろう。
つまり、決して手を抜く訳にはいかない…
「…やるしかないのか」
無理難題だがやるしかない、自分に恨みがあるのかという程理不尽な事態に巻き込まれた背に腹はかえられぬとロイドは言い聞かせて明日の大事な演劇会に備えるのだった。
「でもまぁ、多少の練習くらいはしておきたいよな…」
「せめて演劇でやる一番大事なシーンくらいとかはあるだろ?」
「ある」
ロイドは試しにアーニャの演技力を査定する。片方にペンギンのぬいぐるみ、じょーずと色々モチーフが混ざったキメラをもう片方置いて、姫が敵に囚われるシーンを演じる
「あぁ〜、このままじゃ死んでしまうわ〜。助けて〜」
「うっひっひ、あともう少しできさまは魔女さまのエサとなるのだ」
「さぞふるえてまっておるといい〜」
「いや〜」
「…」
「ん」
「え?」
「ん!」
お前もやれ、と言わんばかりの視線を送るアーニャ。今どういう展開かは何となく思い付くものだが、多少困惑しながらもロイドは演者モードに入った
「や、やぁ!もうお前達の野望もここで終わりだ!」
「観念するがいい!」
「おうじ〜!」
「待ってたのよ〜」
「はぁ!」
コテン、コテン、とおもちゃの剣でぬいぐるみを軽く倒した。その一瞬で、途端の恥ずかしさから光のスピードでベッドルームに移動して飛び込んだ
「なんで俺がこんな事しなくちゃいけないんだぁ〜っ!!」
「ロイドさん…お気を確かに…」
大の大人と女児が家でやるのようなごっこではなく本気で演劇をやるというのがどれだけな辱めを受けるのか。実際泣いて逃げたい気分だが、そうはいかないのがタチの悪いところ。
ヨルに憐れまれながらも自身が徹底している決まり事を頭に思い浮かべる
スパイは、目立ってはいけない
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同刻…バーリントの夜は依然として賑わっており、仕事終わりの社員は酒を交えて雑談を楽しんだり、健康推進の為にランニングを行う者もいたりとそれぞれが夜を過ごしていたその日…何ら変哲もない会社員はあまり穏やかじゃない雰囲気を纏って歩いていた。人間というのは仕事や関係など上手くいかない時にストレスを抱えるのが必然の現象だが、人間に危害加える恐れが時としてある。
『何なんだこの出来損ないの資料はぁ!?』
『俺が指示するまで自発的に行動しろ!』
『俺が指示してないのに勝手な行動するな!』
「クソ…無能共が…俺についてこれないならさっさと会社辞めろってんだ…」
自身が放った言動を思い出すとさらに苛立ちが加速して歩くスピードも早くなっていた。彼は典型的なパワハラ上司と呼ばれる人間であまりの周囲の出来なさ加減に彼は癪が触り、毎日がストレスの日々だった。
仕事終わりは人相の悪い顔つきで街中の人間を卑下しては勝手に暴言を吐く、という事を行ってストレスを発散していたのだが、日が経つにつれて徐々に悪化していった
彼は周りを見渡しては気弱そうな女性を見つけると、「あえて」真正面から歩いて近づく
「黙って下向きながら歩きやがって…女のくせによぉ…」
「(だが丁度いいぜ、無能共で募ったストレスをここで発散してやる…)」
「オラァ!」
「キャア!」
すれ違いざまに女性をショルダータックルをかまして吹き飛ばした彼は快楽からなのかニィ、と不気味な笑みを浮かべた。明らかに意図的と思える悪質な行為だが彼はお構いなし女性と子供を中心に次々と通り魔の如くぶつかっていった
「痛っ!」
「あっ!」
「(…足りねえ…もっと発散させてぇ…)」
最低な行為をしたのにも関わらず彼はまだ内に秘めているストレスを感じ、身体の様子がおかしくなっていく。
もっと破壊したい、建物…人…何もかも粉微塵にきてやりたいと願望や負の感情をくすぶらせる彼はついに抑制の限界へと達した
「うおおおおぁぁぁぁあ!!」
「キャァァァァ!」
そんな邪悪な欲望を持つ人間が邪なる悪鬼へと変貌した。取り返しのつかないドス黒い欲望に取り憑かれ、住民の悲鳴を無視して自らの欲望を更に満たすべく上空へと飛び込んだ。
それを遠目で見ていたとある男はこのバーリントが不穏の空気に包まれているのを感じ、その危険性を察知していた。何かとてつもなく悪い事が起きる…そんな嫌気が刺すような雰囲気に思わず言葉を漏らした
「これは…良くないな」
この国では、最近になって穏やかでないニュースが立て続けに報道されていた。強化対策を持ち込まれているのにも関わらず絶えず激化していくマフィアの抗争…それとはまた別に万引きやひったくり、さらには強盗と刺傷事件等がぽつぽつと現れたりなど、外に出るのも少し戸惑う程に不祥事案が立て続けに発生していた。
物騒な時期がいつまでも続く中で、それらを超える恐ろしい事件が発生しようとしていた。
今日は少し曇り空で、時々「歪んでいるよう」な気がしてならない。その様子を街の住民達は気づく事なく夜のひと時を相変わらず過ごしていたのだった…
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「来てしまったか…」
夜が明け、信じたくもなかったが今日大一番の勝負が待っているのを感じたロイドは支度はとっくに済ませた状態で気が休む事なく出発の時間まで椅子に座っていた。緊張で夜も眠れないというのは彼にとっては無縁の言葉だったのだが、ここまで気が気でならないのは人生で初めてである。
コーヒーすらも口に入らない程張り詰めていた彼だったが遂にその時を迎える
「アーニャ…行くか」
「うぃ」
「頑張って下さいね〜」
実を言うとヨルに対してはこう思っていた…「出来れば見ないでほしい」と…。だが、アーニャの晴れ舞台でもあるのでその気持ちを殺す勢いで噛み締めて言わないでおく事に。と、そんな気持ちでいながらも校門付近へとあっという間に着いてしまう
どうしてか今日はイーデン校に着くまでとても早いような気がした。身体的代謝によって時間の速さが違うように感じると、どこかの本で見たような気がしたが多分それだろう。
中々大きい行事なだけあってデカデカと「大演劇会入口」と縦文字で綴ってある看板が立っていた。そして多くの保護者達が子供達の活躍を見る為にぞろぞろと校舎へと集まっている。エリート校なだけに演劇の舞台やその衣装もまるで本格的な舞台イベントのようなクオリティである。そんじょそこらの学校とは格が違うのが目に見えてわかる。
「よく来てくれたな…」
「貴方は…」
ロイドをこんな状況にまで追い詰めた張本人(もはや戦犯ともいえる)のヘンリーがロイドの前に現れた。
「見たかね?この言葉を失うほどの豪華な舞台を…」
「私のイメージとしては体育館のステージでやるような物だと思っていましたが…まさしく予想を上回るものでしたよ」
ロイドが指を指した例のステージはもやは本物のシンデレラ城のような荘厳で美しい建造物だった。もはや通常の演劇という枠を大きく超えているだろう…数百台も超える高精度カメラを搭載しており、あらゆる場面に切り替える事が出来るらしく臨場感満載のシーンを激撮するのにはもってこいの環境だった。
「すごい、お城…!わくわく!」
「(俺、ドキドキ…)」
最も、その方が尚更緊張が走っていい迷惑ともいえる
「ふむ…それは何より…」
「……距離が近いの」
「貴方でしょう、私をここまで巻き込ませたのは」
真犯人を問い詰めるかの如く至近距離でヘンリーにそう冷静に問いかけた。
「その方がいいと思ってな」
「そもそも生徒ではない私が参加していいものでしょうか…?どちらかといえばそちらの方が気になっているのですが」
「それについては彼らも承知の上で君の事を許可している、まぁ…割と自由な校風だからの」
「(それにしちゃあ自由過ぎんだろ!)」
凝るもの拒まずの精神が溢れているイーデン校に心の中でそう突っ込んだ
「まぁ、確かに無茶な事をさせてしまったがそれに負けず頑張ってくれたまえ…楽しみにしているぞ」
「ベリーエレガント演技を!」
ヘンリーはそう言い残して後を去った。やはりあの男は、何から何まで掴み所がない人間である。
「(全く、なんなんだあの人は…)」
「…って」
「なんでお前もいるんだ?」
気づけば、見覚えのある人物が椅子に座って台本らしきものを読んでいた。【フランキー・フランクリン】…東国の出身だが黄昏の協力者で、表向きはバーリントでタバコ屋をしながら、裏では情報屋として情報収集や書類偽造で黄昏をサポートしている。
今日はこの学校の演劇の協力者として携わっており、演出やストーリー構成…ギミックの考案などを手がけている。地味に器用貧乏なのだ
「もじゃもじゃー!」
「よっ、久しぶりだなー!それにしても…お前も大変だよなぁ、こんな変な事に巻き込まれて」
「ほんとだよ…」
「しかし…」
グイッ、とロイドは誰に盗み聞きされない程度にこう囁いた。
「これでオペレーション〈梟〉の進行に大きく影響が出るかもしれない…恐らくだが、デズモンド家の者がここに来訪しているのは間違いない」
「ならばここで俺たちに対して興味を引かせる事が出来れば…多少の誤算が出るが結果的には彼らとの接触の機会が増える、かもしれない」
これまで嫌々な反応を見せてきたロイドだったが、これは逆に好都合かもしれないと前向きに捉えていた。
「なるほどなぁ…要は印象作戦、てことか」
「ああ…」
「ちち〜」
「どうしたアーニャ…」
ロイドが振り替えた先には既に舞台衣装に着替えたアーニャの姿があった。恐らく多くの大人達が愛くるしいと言われるような可愛らしい姫のドレスとキラキラとしたティアラが照明の反射で光り輝いている
自分で言うのもなんだが、本当にこんな子供がいたら間違いなく溺愛しきっていたかもれない
「どう?すごくきらきらしてる」
「いいじゃないかアーニャ…先生に着付けてくれたんだな」
「うぃ、たろうがやってくれた!」
「へぇ…」
「え?」
タロウ、という名で一時硬直した後に嫌な予感がしたと感じたロイドは辺りを見回す。今一番出会いたくないあの男がいると、直感的に感じたのだ
そして、案の定すぐそこにいた
「また会ったな」
「(嫌ァァァーッ!!!)」
タロウ…そんな彼が出てくるということはもはや絶叫レベルにまで達していた。
「何故君が…」
「突然で申し訳ないが、俺はここの教員として就任している」
「(う…嘘だろ!?こいつ、教員試験も軽くこなせる程天才だというのか!?)」
つくづく彼の常軌を逸した超人っぷりには脱帽させられてしまう…というか、配達や料理教室などどれだけ掛け持ちすれば気が済むのであろうか。もしすればドン・モモタロウは何人もいるのかと疑ってしまう程だった
「なんだ?知り合いか?」
「こいつは例のドン王家の末裔…ああして俺の周りを付き纏っていやがる…あと超のつく変人だ」
最後の言葉をえらく強調するロイドの動転っぷりにフランキーも動揺を覚える。あの黄昏二ここまで冷静さを欠けさせているあの男とはどれだけ恐ろしい人物なのか…気になる所だが、もうそろそろ開演時間が近づいてきた
「つーか、もうじき始まるから最終調整に入るわ!んじゃ、ご武運を!」
「ああ…」
「しかし、こんな幼児に紛れて演劇とは…あんたも中々面白い奴だ」
「(好きこんな事やってる訳じゃないんだよ…ッッ!!)」
お前だけには言われたくない、と言わんばかりに表情を険しくする。
「まぁ…せっかくの機会だ。とくと見せてもらおうか、お供達の演技とやらを」
「ふっふっふ…かつもくするといい!」
「…ていうか何で俺もお供になるの?まだなんも許可とか出してないだけど…」
そう言い終わる頃にはスタスタと何処かへと消えていってしまった。自分の言いたい事だけ言って後は無視して去ってしまう。一体どそまで自分勝手なのだろうか
「(本当になんなのアイツ…)」
午後一時…それは突然始まった。大広間の観客席にて、今か今かと演劇を待ち望んでいる保護者達は徐々に暗転していった所で開演するのだとと察し、辺りは忽然と静まり返った。
そこに光っているのは巨大なモニター…そしてヘンダーソン寮長がマイク片手に大演劇会、初めの言葉を送る
「えー、本日この由緒正しきイーデン校の年に一度行われる大演劇会にお越しいただき誠にありがとうございます…」
「あまり悠長と喋るのも、気が気でならないと思いますので…この演劇で感じてほしい点を一つだけ挙げた後に開演を宣言させて頂きます」
「…エレガント」
「「「(エレガント…?)」」」
「それでは、一年3組による演劇「マイヒーロー」でごさいます、とくとご覧あれ…」
いまいち締まりがない言葉によって、演劇がスタートする。
ヘンダーソンが口にした劇のタイトル「マイヒーロー」…それは、とある国の幼き姫から始まる物語である
「…あ〜あ、今日も退屈ね〜」
アーニャと呼ばれるその姫は不便のない
日常に嫌気がさしていた。退屈で、平凡な毎日…そんなある日の事である
「ひーひっひっ!」
「お前がアーニャ姫だな!」
「あ、あなたは!?」
そこに現れたのは邪悪な魔女、キャサリンと闇の騎士ダミアンが現れたのだ
「永遠の美貌を手にする為、お前の身からを捕らえさせてもらおう!」
「さぁ、やっておしまいなさい!ダミアン〜!」
「承知!」
「いや〜」
「(うっひょ〜…手もちもちだ!…てか、こんだけ近づけられたの初めてじゃね?)」
「(な、なんでアタシがこんな事しなくちゃいけない訳〜!?)」
そんなこんなでアーニャ姫は二人の手によってカラクリの城へと幽閉されてしまったのだった…!!もうこれから…ずっと一人なのだろうか…
「助けて〜、ロイド王子〜」
「…はっ!」
「姫の声が…!」
一方で、姫の声が勇敢な王子であるロイドの元に届き姫が捕われていることに気づいた!
と、ひと回り異常にデカいロイドの登場により周りの保護者達がざわつき始めた。
「どう考えても大人の方よね…?」
「なんだか見覚えあるような…」
「確か…フォージャーさん所の…」
「(スパイは目立ってはいけないスパイは目立ってはいけないスパイは目立ってはいけないスパイは目立ってはいけない…)」
話を戻し、ロイド王子は姫を探すべく街の中へと駆り出した。そこでとある怪しい占師に声をかけられる
「私の名はベッキー…貴方、お困りの様子ですね?」
「はい…」
「それでは、貴方が求めるものをこの水晶で表しましょう…ホニャララホニャララ…」
彼女が呪文を唱えるとそこには幽閉されたアーニャ姫の姿が!
「ここは!」
「どうやらこれはあのカラクリの城の様子ですね…」
「さぁ、お行きなさい…さすれば貴方の望むものは叶います」
「ありがとうございます!占師さん」
占師ベッキーの手助けによりロイドはカラクリ城の中へと潜入していった!
「ここが一階か…」
「貴様が王子ロイドか!」
そこに立ちはだかったのはこの城の刺客である魔道士エミールと強戦士エミールであった
「お前は敵なのか!?」
「ククク…言わずもがな、魔女キャサリン様の命の元に貴様の命を頂戴するのだ!」
「そうはさせるかー!」
ロイドは持ち前の勇気と剣術によって、エミールとの厳しい闘いを乗り越える事が出来たのだ!!
「ぐわー!」
「俺は命を奪いたくない…」
「ククク…馬鹿な奴だ…だが、この上の階には更なる刺客がお前を待ち受けている…!」
「待ち受けているー!」
「…望む所だ!」
受けて立つ!と決意を固めたロイドは二階へと上がっていく…
するとそこには…落ちたら即溶岩!まさしく死の道がそこには広がっていた…!
正面を向くと振り子のように左右に動く巨大な斧が!
「(あれ…これ、マジで落ちたら死ぬヤツか…?)」
リアリティの追求が過ぎる鬼畜の道に思わず冷や汗をかくロイド…まさかこんなお遊戯会で身体を張る事になるとは思いもしなかったのだ。さすがの観客もこれには息を呑んで見守る…当然ヨルも落ちれば死ぬと直感的に感じ、不安でいっぱいになる
「ロイドさん…!」
「く、これしきのこと!」
王子ロイドは気を取り直して死の道をどんどんと突き進んでいく…
こうして次々に立ち会う数々のカラクリを突破してきたロイドは、ついにアーニャ姫のいる最上階へと登り着いたのだ!!
「姫!」
「お、王子〜!」
「(…って、アイツ絶対にさっきまでくつろいでいたな…)」
ピーナッツの食べかすらしきものが見えたがギリギリカメラから見えてないのでギリギリセーフだった
と、話はまた戻して姫と王子は対面するもとある二人がロイドの前に立ちはだかったのだ
「オーホッホッホ!!よくきましわねロイド王子!!ですが、貴方の命もここで終わり…さぁ!やっておしまいなさぁ〜い!」
「(あの子、すごい生き生きとしてるな…)」
「了解したぁ!」
キャサリンの命令を受けて、ダミアンはロイドに戦いに持ち込んだ!
「はー!」
「く!お前、中々やるな!」
「そっちもなぁ!」
白熱とした闘い…両者一歩も譲らぬ必死の攻防が続き、二人の闘いは激化していく!
「これでトドメを刺してくれる!喰らえー!」
「ぐっ!?」
「目潰しとしてコショウを振り撒いてやったぜ!隙あり!」
「(本当にかける奴があるか!?)」
ここにきてショボい演出は置いといて、ダミアンの小賢しい戦術に攪乱させられるロイドは視界を奪われた事で弱まってしまう!
絶対絶対のピンチ!しかしそこに突如現れたのは…!
「おわ!」
「!?」
上空から謎の物体が飛来してきたのだ!…という訳だが、台本にはない展開にフランキーや他の教員達、さらには出番が終わった他の生徒たちが困惑していた。
「あれ?こんな演出あったっけかぁ〜?」
「なになに?」
「どういう事なんだ…?」
「ぐ…一体何が…」
ロイド達が目にしたのは、とてつもない風貌をしたモンスターだったのだー!
「ストレス…発散サセロォーッ!」
「(な、何何!?こんな仕掛け知らないんだけどぉ!?)」
「(でも…中断するわけにはいかないわ!)ほーほっほ!これはワタクシが召喚した魔獣よ!さぁ、やっておしまいなさ〜い!」
「(そ、そんな事聞いてないんだが!?)」
当初とは違う展開になったロイドは何故か魔獣と呼ばれる怪物と闘う事になった。複数の騎士の兜を強引に鎧として落とし込んだ様な形状のスキン・“騎士の甲冑”を身に纏った姿をしている。頭部は兜のバイザー部分を開いて上下互い違いに動く複数の赤い眼を持った、不気味な素顔を露出しており、兜は恐竜の頭部にも見える禍々しい風貌…
「さぁ、かかってこい!」
「(随分といい作り物だな…)」
「発散〜〜〜!」
魔獣は携えた剣を振りがさした襲い掛かった!王子は華麗に避けるもたまたま当たったオブジェクトが真っ二つに切断された!
「(な…!?)」
そう、これは演技でもなんでもない…死闘を経験してきたロイドだからこそ分かる。本当の殺し合いが始まっていたのだと!!
これは、演出でも何でもなかったのだ!
「ちょっと!」
「な!?」
「アーニャ!俺の背中に掴まれ!」
「うぇ?」
それに気づかない他三人はロイドに掴まれていた。両腕にダミアンとキャサリンを身体ごと抱えて、アーニャにはおんぶするよう指示した!
「ちょっとお〜!何すんのよぉ!大事な演技の途中でしょうがぁ!」
「違う!あれは作り物ではない!"本物,,だ!」
「え…」
「逃げるぞ!」
未だ理解が追いついていない三人はロイドの指示に従いあの化物から逃走を図った!しかし、奴は逃す事なくロイド達に攻撃をくわえようとする!!
「ギャァ!」
「うぇええ〜!!ママァ〜!」
恐怖のあまり二人は泣き叫んでいたが、アーニャはまだ演劇の途中だと思い込んでおり興奮していた!
「すごーい!」
「馬鹿!あれは劇のヤツなんかじゃないんだぞ!?」
こうしてロイド王子達は元いた最上階から一階へと下りながら奴を撒くように降りていった…その度に魔獣から繰り出される斬撃やビームによって城は崩壊寸前まで追い詰められていた!
「凄いなぁ〜、最近の劇というのはこんなにも迫力あるのか?」
「ただのお遊戯会と思っていたけど、結構凝ってるのね〜」
一方観客で見ていた彼らは呑気にそんな事を口にしていた!!
確かに、一見劇のレベルとしてはかなり臨場感があってハラハラ感が味わえる物だが、魅入っていいる観客とは裏腹に舞台裏の関係者達は思わぬ事態と展開にパニック状態となっていた!
ここまでリアリティを追求する必要はない、と危惧したフランキーはヘンダーソンに中止の要求をした!
「こ、これヤバイんじゃないッスかァ〜?だって明らか危ないでしょ!」
「…確かに、これは異常事態だ」
ヘンダーソンはモニターを見てそう言った。不運にもあの魔獣がカメラに映る事はなく、その為彼らは不慮の事故が発生していると勘違いしていたのだが、どちらにせよ非常に危険な状況である事には変わりはない。
だが、その男は衝撃の言葉を口にした
「いや、続行だ」
「えぇ!?」
「彼ならきっとやり切ってくれるであろう!」
「…この事態を切り抜け、リアルをフィクションに変えてくれるのだと!」
「…まさしくっ、ベリィィィエレガントッ!まさかこんな素晴らしい劇に出来上がるとは!」
「(この人頭おかしいんじゃねぇかぁ!?)」
そんな切り抜ける所ではない騒ぎになっているといざ知らずにロイド達はついに魔獣によっね追い詰められてしまったのだ!
「頑張れロイド王子〜!」
アーニャはエールを送るが、そんな呑気な状況ではないのだ!!
「(くそ…両腕自由に動かせれば少し対抗できたんだが…)」
「ストレスゥ〜…発散〜〜ッッ!」
隠して持っていた拳銃はあるものの、手もあまり自在に動かせず退路も瓦礫によって塞がれてしまった…つまりそれは、大ピンチ!王子は絶対絶命であった!!
その時!
「アーッハッハッハッハッ!!」
「!」
「お?なんだ?」
ロイドとアーニャは声のする方向へと振り向く!
「袖振り合うも他生の縁」
「躓く石も縁の端くれ…」
桃の葉に見立てた大きなサングラスに
「共に踊れば、繋がる縁!!!」
勇ましく象った丁髷…
「この世は楽園!悩みなんざ吹っ飛ばせェ!!!」
「さぁ、笑え笑え!!」
額の大きなメタリックピンクの桃!
「ハーハッハッハッハ!!」
人の男性が担ぐ神輿に立ち、その周りに天女達が紙吹雪を散らしつつ舞い踊る…ド派手な登場に魔獣含めて皆が唖然としていた!
「さぁ!勝負勝負!」
勇猛果敢に突貫する赤き男が奴との剣を交えたれ
「とりゃあ!」
「ウバァァアア!」
「ふぉおおお!」
まるでアニメの世界にそのまま没入したかのような光景を目の当たりにしたアーニャは二人の剣技に魅了されていた…それに対してロイドは今がチャンスだと、城の脱出を図った
何がなんだか分からないが、この三人達を安全な所に移動せねばならない。何せキャサリンとダミアンはとっくに気絶している為、二人の意識が危ういからである
「ハッ!」
進路が塞がれた瓦礫をロイドは軽々と飛び越える!
「アーニャ!しっかり捕まってろよ!」
「あいさー!でもあっちの方もみたい!」
「後にしろ!」
退路が断たれた今、少し高いがあの窓枠から飛び抜けるしかない…!問題はそこまで届くかどうかだが、それでも彼は己の脚力を信じ飛び上がった!
「さぁ!必殺奥義だ!」
【DON! DON! DON! 】
【DONBURAKO〜!!】
桃代無敵
赤き男は相手に迫って立て続けに斬撃を浴びせ、トドメの最後にすれ違いながらの鋭い一太刀で切り伏せる!
アバター乱舞!!
【MOMOTARO-ZAN!!!!】
「ぐっ!」
敵の身体は辺り一面のものををかき消すほどの大爆発を起こした!
そんな爆風から逃れるように、ロイドはなんとか城の外へ脱出することに成功したのだった!!
「ふぅ…」
「あ〜!お城が〜!」
「(俺はもう本当に知らんぞ…)」
散々彼らは暴れ回った為にカラクリ城は元のような美しい造形が跡形もなく崩れさり、炎に包まれて巨大な瓦礫の山と化していった…短い付き合いなだけにアーニャは惜しむ表情でその行く末を見届けた
登っていて感じたのだが、あの城にはかなり莫大な費用がかかっているとひしひしと伝わっていたのでもはやどうなっても責任は取るものか、と知らんぷりするロイドだった…
しかし間一髪の所で抜け出せたので一件落着…というところだったが、もう一つ重要な事を忘れていた。
そう、肝心の演劇である
「こ、このままじゃ締まんねぇぞ〜!?」
当初は魔女キャサリンを倒してアーニャ姫を救う…というのがこの話のオチだったのだが、それが大幅にズレた為か終わりどころが見つからなかった…
「まぁ、見ておれ…」
が、任せろと言わんばかりにヘンダーソンがマイクを持って観客席の方へ再び現れた。
救出したロイド達の映像が途切れ、壇上にいるヘンダーソンにスポットライトが当たる
「こうして、優しき王子ロイドは姫アーニャ、魔女キャサリンとその騎士ダミアンも含めて崩壊寸前の城から救い出す事に成功した」
「二人は誘拐の罪を反省し、姫と王子は幸せに暮らしましたとさ…」
「めでたし、めでたし」
締めの言葉を送ると、観客から盛大な拍手が送られた。
「凄いアクションだったよ!」
「こんなにいい演劇になるとは思わなかったわ!」
「ブラボ〜!」
とてつもないクライマックスに興奮した保護者達はその圧巻のクオリティに脱帽していた。色々と異常事態が起きたものの、こうして素晴らしい演劇会を終える事が出来たのだ。勿論、一部始終を見ていたヨルも最初はどうなる事かと思っていたが…いい演劇であったと笑顔を見せた
「…素晴らしいです…!」
そんな大好評を受ける一年3組の生徒達は演者でありながらも、最後のシーンで圧倒されていた
「すげー!本物のヒーローみてーだ!」
「フォージャーさん所のお父さん、かっこいい〜!」
「お疲れ様だぜ〜!」
「うぃ!」
舞台から出てきたのはアーニャだけで他の三人の様子は見当たらなかった。二人は気絶していたが直ぐに目を覚ましたらしく、ロイドに関しては気づいたら何処かに行ってしまった。
そんなアーニャだったが、あの盛り上がりで彼女を中心にしてクラスメイト達が集まり始める
「お疲れさま〜アーニャちゃん!」
「凄かったぞ〜!」
「…私、舞台裏から見てたけども…一時がどうなるかと思ったわよ?」
「怪我、ない?」
「問題ナシ!」
「全くあなたは…心配させちゃんうんだから…」
「…でも」
「凄かったわ」
「…くるしゅうない〜!」
皆から褒められ二パッ、とご満悦な表情を浮かべるアーニャ。
まさしくクラス全体が、一致団結した証拠であった
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「お前だったんだな、あの赤い奴の正体は」
無事に大団円を迎えた演劇会…とてつもない活躍を果たしたロイドは、一目のつかない一室でとある男に拳銃を突きつけた。
彼は、城で激闘を繰り広げた謎の赤い男の声を聞き逃さなかった。流石は伝説のスパイと言わしめただけあって、その声の主があの男のものだと直ぐ一致して突き詰めたのだ。
そしてあの男というのは…タロウであった
「流石スパイ、といった所か」
「御託はいい…是非とも説明してくれないか」
「あの姿はなんなのか…そしてあの妙な怪物はなんなのか…」
「君は一体、何者なのか…」
現実世界で生きるための名前が「タロウ」だとすれば、あの姿は以前から機密裏で耳にした【ドン・モモタロウ】という事なのだろうか…。
どちらにせよ彼が本当に"ただの人間ではない,,事になる。
以前としてタロウは先程から沈黙を貫いていたが、ふとした瞬間にその口をようやく開いた
「俺はアバタロウだ」
「は?」
「たった一人だけのマイヒーローではない…皆を助け、あるべき道へと導く」
「…それが、アバタロウだ」
「…」
「なんだかよく分からんが、それが君の正体という訳か」
「君がこうしてドン王家であることをひた隠しにして生きているのもそれが理由という事か?」
「…ふっ」
「どうだろうな」
真実を知っているのか、あるいはロイドに対して悟られない為にそう誤魔化しているのか…
それはロイドでさえも分からなかった
「暴いてみるがいい、俺の正体を」
まるで挑戦状を投げつけるかのように、タロウはそう言い残して何処かへ去っていった。
最後の最後までロイドはタロウを上回ることは出来なかった…どこまで掻い潜ってもまだまだ未知数なあの男が抱える真実に辿り着く
のは一体いつなのだろうか…
「…」
「本当に、一体何者なんだ…」
危険人物として取り扱っていたロイドだったが、彼の奇妙の行動を前にしてその概念が揺らぎつつあった。タロウは悪人なのか、善人なのか…未だ掴めない彼に対してロイドは複雑な表情を浮かべてその背中を見つめていた…
フォージャー家は、特殊な家族である。極秘ミッションの為に形成された仮初の世帯を持ち、それぞれが特別な秘密を抱えている。父であるロイドは伝説スパイ…母のヨルは一流の暗殺者…その娘のアーニャは超能力を持つエスパー、そして…
アーニャをお供とする男、タロウは【ヒーロー】である
補足の前に、今回の話の文字量が特に多い事を謝らせてください…
とはいっても、別に多い方が全て悪いという考えではないのですが自分的にはもう少しコンパクトに話を書きたいというのがありましたが、いかんせん書きたい所が多すぎて結局くどい言い回しばっかになるのが大半で…気持ち的には八千字で収めたいのが正直な話ですが…(泣)
思っている方といると思いますが「分割すればいい」というも勿論あると思います。ですが、この作品では一話完結として書いているつもりなんですよね…そうなんです、自分的にはあまり下手に区切りたくはないのです
以上のことで、今度から短めの話にしていきます。
続いて補足なんですが、ドンモモタロウの変身音声についてです。これなんで英語表記かというとそこまでの理由はありませんが強いて言えば舞台が外国だから、なんです。その方が浮かないかなーって思った次第でこのような表記にしています。
そもそもの話ドンブラザーズ自体が桃太郎や和風チックな部分はどうしてもねじれが生じるので仕方がない所ですが…そこは目をつぶって頂ければと
それともう一つでタロウとジンについてですが、変身音と同様ですが今作では両者とも「桃井」という苗字が存在していない事にしています。
「モモイ」という表記にすれば別にいいんじゃ、と思ったのですがあったとしても呼ばれる事も特にないのでいっその事名前のみにしました。
と、どうでもいい補足はここまでとなります。最新話の購読有り難うございました。
じかーい、じかい「アーニャ、たんていになる」お楽しみに…