人には誰でも、程度というものがある。
わきまえるべき程、分相応、相応しい立場。
俺たちは全能でも万能でもないから、人生のどこかで自分の程度を思い知る。
それは逆上がりができないことであったり。
家出しても親の力がないと生きていけないことを思い知った時であったり。
テストの点数で勝てない相手がいた時であったりするだろう。
俺にとってそれは、中央トレーナー試験の合格発表だった。
静かで、禁欲的な戦いを潜り抜けて、全国最難関の試験を突破した。
そこまではよかった。
合格者が出ない年もあるほどの難関試験に合格したという安堵と高揚。
「やった、やったんだ……!」
虚栄心の鎧に包まれる無敵の時間は短いものだった。
主席合格者、2名。
その報は合格発表の日の夕方には出回っていた。
詳細な評価基準は公表されていないが、自分が合格点ギリギリだったことは理解している。
どう考えても自分ではない。
「いったい、何者なんだ……?」
中央トレーナー試験の合格者が出席する式典で、主席合格者ふたりと少し話してみた。
話したといっても、2分も話さなかったが。
そんな短い時間でもはっきり理解できたのだ。
「俺は生涯、あの2人に及ばない」
中央のトレーナーになって、輝くようなウマ娘を育てよう、などと夢見ていたこともあった。
何歳だったかも思い出せないほど子供だった頃、テレビ越しに見た常勝ウマ娘の輝く姿。
俺はひと目で夢中になった。
自分はウマ娘ではないから、あんなきらめくウマ娘を育てるトレーナーになろうとした。
誰をも魅了する最強のウマ娘のトレーナーに。
その夢を頼りに、身の丈以上に困難な中央の試験に挑んだのだ。
だが、俺では奴らの影すら踏めまい。
程度が違う、レベルが違う、領域が違う、同じ人間という生き物とは思えない。
それを理解しながら、トレセン学園でトレーナーとして働くのだ。
同僚として、同期として、同じ職場で。
常に比べられ、あるいは自分から比べて。
劣っていることを、力不足を認識させられる。
そんな、脇役(モブ)のようなトレーナー人生を。
だから、頂点を目指そうなどという子供っぽい考えは捨てた。
不要だからだ。
無用だからだ。
自分より明らかに上の人間が、同期にふたりも居る。
それでも頂点を目指そうなんて、馬鹿げているだろう。
もういい。
程々でいい。
重賞など取れなくても、トレーナーもウマ娘も生きていける。
夢はただの夢だったのだ。
本気でそう思っていた。
いや、本音を言えば今でも思っている。
彼女と出会い、胸を焦がす情熱の火が小さく灯った今でも。
それが担当ウマ娘への、最低の裏切りだと知りながら。