「タフだなあ、セナイちゃんよぉ」
「勝つ、今度こそ、勝つのであります……!」
残り200、抜き合い、差し合う2人。
「ここまで仕上げて来てくれて、嬉しいぜ」
『譲らない、どちらも譲らず駆け抜ける!』
残り100、互いに全てを振り絞る。
永遠にも似た一瞬。
「けどなあ、ゴルシちゃんも負けたいわけじゃねえんだ……よぉっ!」
最後の最後。
一呼吸分の余力を、ゴールドシップは残していた。
「く、ぐぅ……」
……半バ身。
たった半バ身差だが。
『勝者の名はゴールドシップ! 無敗の三冠ウマ娘の誕生だ!』
セナイは……俺たちは、届かなかった。
「強かったぜ、セナイちゃん」
関係者通路からウィナーズサークルに、セナイを迎えに行く。
すると多宝院にドロップキックをかまして、ゴールドシップが戻って来るところだった。
……なんで担当トレーナーにドロップキックをかましているんだあの娘は?
「そっちの方が、強かったのでありますが……」
呆れ顔でセナイは言葉を返した。
「もしかして、楽しくなかったか、今日のレース」
「……」
勝つのが一番楽しいに決まっている。
決まっているし、悔しい。
だが、楽しくなかった、とも言えない……。
そう、セナイの複雑な表情が物語っていた。
「また一緒に走ってくれるだろ?」
「それは……まあ、同じレースに出れば」
「だよな。ほら、耳を澄ませよ」
そう言われてセナイが目を閉じれば、観客の声が聞こえただろう。
「惜しかったぞ、モブトハヨバセナイ!」
「凄いレースだったぜ!」
「ゴールドシップを倒せるのはお前だけだ!」
「あ……」
「観客は見てんだよな。頑張るやつみんなをさ」
耳を絞って、セナイは観客席に向けて叫んだ。
「声援ありがとうございます、次は勝ちます!」
拍手が巻き起こる。
「いーやゴールドシップは次も負けないね」
「どうかな、だいぶ差が縮まってたと思うけど」
「次はわからないよな」
観客の意見が分かれるのは、本当にギリギリのレースだった証だ。
それでも、だからこそ。
「勝ちたかったなあ……」
控え室に戻ったあと、そう呟いたセナイに、俺は心から同意した。
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消耗したセナイの体調などを考慮した結果、11月のエリザベス女王杯は回避とした。
同11月のジャパンカップは出走枠を勝ち取れなかった。
悔しいが、取れなかったものは仕方がない。
そう自分に言い聞かせている内に12月、クリスマス。
今日もトレーナー室で仕事をしていたのだが……。
「あの……」
セナイもクリスマスぐらい遊びたいだろうと思い、昨日今日と休養日にしていたのだが。
何故かトレーナー室にやってきた彼女は後ろ手に荷物を持ったまま、もじもじとしていた。
「トレーナー、そろそろ休憩、どうですか」
そう言われて気づく。
どうやら休日返上な俺を心配しての事だったようだ。
こんなトレーナーを気にかけるのは、彼女の心根が優しい証拠と言える。
「そうしよう」
軽く伸びをしてデスクから離れた。
コーヒーメーカーを動かして、2人分のカップを満たす。
「クリスマス、なので」
「うん」
「買ってきました、ケーキ」
ああ、後ろ手に隠していたのはそれか。
見ると、彩り豊かなフルーツケーキだ。
「俺の好きなやつだ。合わせてくれて悪いな」
以前軽く話した気がする。
しかし、それを覚えてわざわざ持ってきてくれるとは。
「いま切り分けるよ」
ケーキの入った箱とコーヒーを交換する。
彼女の好みはブラックなので、もちろんミルクの入っていない方を渡した。
「美味しいでありますー!」
「ああ、美味い」
セナイと2人、ケーキの甘みを存分に楽しんだ。
2杯目のコーヒーを淹れたあと、自分がプレゼントを用意していない事に気づいた。
しかし何も渡さないというのも心苦しい。
少し考えたが、自分から彼女に渡せるのは……。
「プレゼント、と言えるかわからないが」
休憩前まで編集していたデータを印刷して、ファイルに纏めてセナイに手渡す。
「あ、これって……!」
「TSクライマックスの作戦案だ」
それも3戦行われる内の1戦でしか使えない、難易度も恐ろしく高い。
しかし、セナイの優勝にはこの内容を完遂してもらうしかないと俺は考えた。
「もっとクリスマスらしいプレゼントが用意できればよかったんだが……ごめんな」
「いえ、いいえ」
セナイは忙しなく首を横に振った。
「嬉しいです」
そんなに、か……?
と思ってしまうほど、彼女は喜んでくれた。
もうちょっと気の利いた物を用意しておけばと後悔しかけた。
しかし、ここまで喜んで貰えるなら、良かったのかもしれない。