モブとは呼ばせない   作:夜野みる

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13.バレンタイン

 

 12月の有馬記念は出走枠を取れなかったため観戦にとどめた。

 

 一方、ゴールドシップはファン投票1位で有馬記念に出走。

 激しいレースだった。

 大外からエイシンフラッシュらを躱して一気に抜き去り、2着に1バ身半の差をつけて有馬記念を制する。

 

 皆が知っていたようなものだが、ゴールドシップは今年も最優秀ウマ娘に選出された。

 

 今年最後にとんでもないレースを見せつけられたと囁き合いながら、年は変わり――

 

 

「大吉、大吉でありますよトレーナー」

 

 俺たちは初詣に来ていた。

 

「良かったな、俺もだ」

 

 大吉が一番多い神社もあるなんて話を聞くが、セナイの喜びようを見て言うのは野暮というものだろう。

 しかし、わざわざ「トレーナーと初詣に行きたい」と言い出すとは思わなかった。

 友達と行かなくて良かったのだろうか。

 

「今年の目標は……」

「俺は決まってる」

 

 絵馬から文字の端がちょっとはみ出てしまったが。

 

『TSクライマックス優勝』

 

「おぉー、ではわたしも!」

 

 同じく『TSクライマックス優勝』と俺よりは小さい文字で書き込んだ。 

 

「書いてて思ったのでありますが」

「うん」

「選出、されますかね」

 

 TSクライマックスの選出評価基準は非公開だが、人気投票やレースの実績などを総合的に勘案するという。

 セナイの場合、重賞の上位入賞数は稼げているが……。

 

「ギリギリだな」

 

 選出されるとしたら、競合相手の多い中距離よりは、長距離になるだろう。

 そしておそらく、その方が勝ち目が大きい。

 

「ギリギリでありますか」

「ああ」

 

 特にショックを受けた様子もなく、ふむふむとうなずくセナイ。

 

「ギリギリでも、滑り込みでも、とにかく勝ち取りましょう」

 

 いい意味で、セナイは図太くなった。

 

「その意気だ。君がそのつもりなら」

 

 ウマ娘にとって最も大事と言われる最初の3年間。

 その、最後の1年の始まりに、俺は誓った。

 

「俺が君を、勝利に導くよ」

 

 勝利を。

 彼女に、モブトハヨバセナイに、光り輝くような勝利を。

 主役となれる勝利への誓いを、改めて捧げるのだった。

 

 

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 2月。

 G3ダイヤモンドステークスへの出走を控えて、わたしモブトハヨバセナイは寮でチョコレートを作っていた。

 練習しろと言われるかもしれないけれど、もちろんトレーニングの合間のことなので許して欲しい。

 

 去年は……50円ぐらいの市販のチョコを渡した気がする。

 タイムマシンがあればその時に戻って、レシピをちゃんと調べて手作りを渡せと怒鳴りたくなるような暴挙だった。

 せめて、せめて市販品でもちゃんと包装されたものを……。

 

「フラッシュさんはチョコ、作るんですか?」

 

 手伝ってくれているエイシンフラッシュさんにそう尋ねる。

 

「チョコレートは……判断保留中、です」

「え」

 

 フラッシュさんはなんでも計画的に進めるタイプだ。

 だからイメージの話になってしまうけれど、去年の内からバレンタインの予定は立てていると思っていた。

 

「バレンタインにチョコを贈る、というのはドイツでは馴染みのない行為なので……」

「あれ、そうなんですか」

「ええ、バレンタイン自体は祝うのですが、親しい人ではなくパートナーにだけ、チョコでなく花を贈る日なのです」

 

 そっか。

 バレンタインと言っても、ドイツでは結構祝い方が違うんだ。

 

「でも、贈るかどうか考え中なんですよね」

「それは……まあ」

 

 ここまで言葉を濁すフラッシュさんは珍しい。

 もう少しイジワルしたくなる気持ちもあったけれど、深くは追求しないことにした。

 なにせ教えてもらっている立場なのですから。

 

「形が乱れていますね。大切な想いを伝えるのでしたら、これでは不十分かと」

「はい、作り直すであります!」

 

 足りなくなった材料を買い出しに行って、戻ってきて、また試作。

 

「味が……使うチョコレート自体を変えたほうがいいかもしれません」

「はい、作り直すであります!」

 

 

 フラッシュさんの手伝いのお陰で、どうにかこうにか、見た目は整えられた。

 そして味も良いものになったと思えるチョコが、バレンタイン当日に完成した。

 

「ありがとう、嬉しいよ」

 

 トレーナーにそう言ってもらえて、食べてもらった時の反応ときたら!

 

「うお、美味い」

 

 その後、思わずトレーナー室を飛び出して3200を走りきってしまったのでした。

 

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