モブとは呼ばせない   作:夜野みる

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19.最終話:戦い、終わって

 

『ゴールドシップ! 掲示板出ました、ハナ差でゴールドシップです!』

 

 その日一番の、大歓声が上がる。

 俺たちは、ゴールドシップと多宝院に、最後まで届かなかった。

 

『しかし……これは……』

 

 続く実況のやや口ごもった声に、歓声が止む。

 

『狙った、のでしょうか。それとも』

『こればかりは、聞いてみないとなんとも』

 

 そう、1着にはついぞ届かなかった。

 しかし、それでも。

 

「これって……どうなるんだ?」

「何が?」

「ポイントだよ」

「あ!」

 

 悪いな、とは言わない。

 

『獲得ポイント上位が発表されます。トーセンジョーダン、エイシンフラッシュが同率20ポイント』

 

 ただ、堂々と名乗りを上げて良いはずだ。

 

『2着、5着、1着となったゴールドシップ、21ポイント』

 

 TSクライマックス……『最強』の称号だけは、俺たちが貰った。

 

『そして3着、2着、2着……モブトハヨバセナイ、22ポイントで総合1位です』

 

 悲鳴とも、怒号とも歓喜ともつかない、まぜこぜになったような声が観客席から上がる。

 

 

 

 ウィニングライブ、0勝での優勝を果たしたセナイは、初めて大舞台のセンターを取った。

 

 担当ウマ娘が『最強』を決める舞台の、センターで踊る。

 どんな思いか、わざわざ言わなくてもわかるだろうが、言わせて欲しい。

 

 感無量だ。

 

 涙を拭きながら、万感の思いで彼女のライブを見届けた。

 

 

 

 

 後日……当然というべきか。

 セナイへ、TSクライマックス運営へ。

 ポイント制そのものへの抗議が鳴り止まなかった、という。

 1着を1度も取らずに『最強』とは、到底納得できない、と。

 

 端的に言えば、炎上した。

 

 

「確かに、そのようなお声を数多く頂戴しています」

 

 公式放送の席で、乙名史記者はTSクライマックス運営を代表して語った。

 

「しかし、我々はこう宣言します。それが『最初から決まっていたルールである』と!」

 

 そうだ。

 俺は恥じない。

 セナイも、そうだ。

 

「このような事態も起こりえると、想定した上でのポイント制、3戦制度でした」

 

 決められたルールの中で、同条件の中で足掻いて、掴み取った結果だ。

 誰にも否定させない。

 

「ご不満の皆様方、是非TSクライマックス運営へ、ご意見をお送りください」

 

 罵詈雑言ではなく、意見であれば歓迎だと、言外に告げる。 

 

「頂いたご意見を元に、今後のシリーズ改善に向けて努めてまいります」

 

 淡々と、しかし力強く、乙名史記者は言葉を選んで話し続ける。

 

「決して、御本人ならびにトレセン学園への不適切な声は送らないよう、お願い致します」

 

 同じ内容を書面でも映しながら。

 しかし決して譲らないという面持ちで。

 

 この放送以降、批判は日を追うごとに減っていった。

 セナイが悪し様にモブと呼ばれることも、なくなった。

 

 

 放送から数日。

 学園で偶然、多宝院トレーナーと出会った。

 彼女も俺も、ここ数日、取材や講演の依頼がひっきりなしで、TSクライマックス以来だった。

 話題は自然、あのクライマックスの3戦のことになる。

 

「あの3戦、お見事でした」

「あなたにそう言ってもらえると、光栄です」

 

 本当に。

 ゴールドシップを3年連続最優秀ウマ娘に育て上げた彼女に、そう言われるのはいい気分だった。

 

「ですが、トゥインクルシリーズはこれからも続く」

 

 それは、確かに。

 1つの区切りは付いたが、特にトレーナーである俺と多宝院には、これからも戦いが続くのだ。

 正直、勘弁してほしいと思う。

 

 思うが……。

 

「多宝院トレーナー、これからは、あなたに負けない」

 

 心の何処かで、楽しみにしている自分も居た。

 この楽しさは、最後の最後で、勝利を奪い去れたことの賜物だろう。

 

「望むところです。これからも勝負しましょう。何度でも」

 

 差し出された手を、宿敵への敵愾心を燃やして握りしめる。

 思いの外、温かい手だった。

 

「それでは、講演の準備がありますので、これで」

 

 握手していたのは、ほんの2秒。

 十分な時間だった。

 これから嫌になるぐらい――もう既に嫌になっている部分もあるが――顔を合わせることになるのだ。

 

 あまりに実績に差があって、世間がそう見てくれるかわからない。

 しかし俺たちは確かにライバルなのだ。

 お互いにそう思っている。

 

 それを確かめ合えた握手だった。

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 TSクライマックスシリーズに挑みはじめて3年。

 セナイとの日々に区切りがついたある日の昼下がり。

 

「狙ってたんならミラクルだよ」

「レースの振り返り映像とか見てると、ああ、狙ったんだ、凄いなって」

 

 TSクライマックスを振り返るニュースを見ていると、セナイが尋ねてきた。

 

「トレーナー、お話があります」

「うん」

 

 頷き、話の続きを待つ。

 彼女はすぅーはぁーと深く息をしてから言った。

 

「契約期間、もうすぐ終わりですよね」

「ああ……そうだな」

 

 聞きたい言葉と聞きたくない言葉が、すぐに頭の中に思い浮かんだ。

 きっと、期待していることを言ってくれると、そう思ってはいるのだが。

 どこかそわそわと落ち着かない気持ちになるのは避けられない。

 

「あの、よかったら。トレーナーさんがよかったらですけれど」

「いいよ」

 

 本題に入る前に答える。

 俺の気持ちはもう決まっているのだ。

 あとは、セナイの気持ちを聞かせてもらうだけだった。

 

「あの、まだ言ってないのでありますが」

「この場合、選択権があるのは君だから」

 

 だから、契約延長でも、契約解除でも、どちらでもセナイが決めること。

 解除なら、俺が泣くだけでいい。

 

「その、じゃあ……」

「うん、君の答えを聞かせて欲しい」

 

 俺の気持ちはもう言った。

 君が望むようにすると。

 

「じゃあ、これからもよろしくお願いします……で、良いんでしょうか」

 

 耳に入ったその言葉を噛みしめる。

 

「もちろん、喜んで」

 

 俺はただ、嬉しかった。

 

「あは、なんか照れちゃいますね」

 

 今後も彼女と共に、やっていけるのだと。

 口の端がゆるむのを、どうして抑えられるだろう。

 

「とっても勇気を振り絞ったのに、トレーナーは涼しい顔で……なんか悔しいなあ」

「そんな事ない。顔は元からこうだけど、契約解除って言われたらどうしようかと思ってたよ」

「わたしもでありますよ」

 

 どうやらお互いに同じ不安を抱きながら、同じ結論に達していたようだ。

 ふたりで笑い合う。

 

 彼女との日々は、まだまだ続く。

 

 

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