『ゴールドシップ! 掲示板出ました、ハナ差でゴールドシップです!』
その日一番の、大歓声が上がる。
俺たちは、ゴールドシップと多宝院に、最後まで届かなかった。
『しかし……これは……』
続く実況のやや口ごもった声に、歓声が止む。
『狙った、のでしょうか。それとも』
『こればかりは、聞いてみないとなんとも』
そう、1着にはついぞ届かなかった。
しかし、それでも。
「これって……どうなるんだ?」
「何が?」
「ポイントだよ」
「あ!」
悪いな、とは言わない。
『獲得ポイント上位が発表されます。トーセンジョーダン、エイシンフラッシュが同率20ポイント』
ただ、堂々と名乗りを上げて良いはずだ。
『2着、5着、1着となったゴールドシップ、21ポイント』
TSクライマックス……『最強』の称号だけは、俺たちが貰った。
『そして3着、2着、2着……モブトハヨバセナイ、22ポイントで総合1位です』
悲鳴とも、怒号とも歓喜ともつかない、まぜこぜになったような声が観客席から上がる。
ウィニングライブ、0勝での優勝を果たしたセナイは、初めて大舞台のセンターを取った。
担当ウマ娘が『最強』を決める舞台の、センターで踊る。
どんな思いか、わざわざ言わなくてもわかるだろうが、言わせて欲しい。
感無量だ。
涙を拭きながら、万感の思いで彼女のライブを見届けた。
後日……当然というべきか。
セナイへ、TSクライマックス運営へ。
ポイント制そのものへの抗議が鳴り止まなかった、という。
1着を1度も取らずに『最強』とは、到底納得できない、と。
端的に言えば、炎上した。
「確かに、そのようなお声を数多く頂戴しています」
公式放送の席で、乙名史記者はTSクライマックス運営を代表して語った。
「しかし、我々はこう宣言します。それが『最初から決まっていたルールである』と!」
そうだ。
俺は恥じない。
セナイも、そうだ。
「このような事態も起こりえると、想定した上でのポイント制、3戦制度でした」
決められたルールの中で、同条件の中で足掻いて、掴み取った結果だ。
誰にも否定させない。
「ご不満の皆様方、是非TSクライマックス運営へ、ご意見をお送りください」
罵詈雑言ではなく、意見であれば歓迎だと、言外に告げる。
「頂いたご意見を元に、今後のシリーズ改善に向けて努めてまいります」
淡々と、しかし力強く、乙名史記者は言葉を選んで話し続ける。
「決して、御本人ならびにトレセン学園への不適切な声は送らないよう、お願い致します」
同じ内容を書面でも映しながら。
しかし決して譲らないという面持ちで。
この放送以降、批判は日を追うごとに減っていった。
セナイが悪し様にモブと呼ばれることも、なくなった。
放送から数日。
学園で偶然、多宝院トレーナーと出会った。
彼女も俺も、ここ数日、取材や講演の依頼がひっきりなしで、TSクライマックス以来だった。
話題は自然、あのクライマックスの3戦のことになる。
「あの3戦、お見事でした」
「あなたにそう言ってもらえると、光栄です」
本当に。
ゴールドシップを3年連続最優秀ウマ娘に育て上げた彼女に、そう言われるのはいい気分だった。
「ですが、トゥインクルシリーズはこれからも続く」
それは、確かに。
1つの区切りは付いたが、特にトレーナーである俺と多宝院には、これからも戦いが続くのだ。
正直、勘弁してほしいと思う。
思うが……。
「多宝院トレーナー、これからは、あなたに負けない」
心の何処かで、楽しみにしている自分も居た。
この楽しさは、最後の最後で、勝利を奪い去れたことの賜物だろう。
「望むところです。これからも勝負しましょう。何度でも」
差し出された手を、宿敵への敵愾心を燃やして握りしめる。
思いの外、温かい手だった。
「それでは、講演の準備がありますので、これで」
握手していたのは、ほんの2秒。
十分な時間だった。
これから嫌になるぐらい――もう既に嫌になっている部分もあるが――顔を合わせることになるのだ。
あまりに実績に差があって、世間がそう見てくれるかわからない。
しかし俺たちは確かにライバルなのだ。
お互いにそう思っている。
それを確かめ合えた握手だった。
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TSクライマックスシリーズに挑みはじめて3年。
セナイとの日々に区切りがついたある日の昼下がり。
「狙ってたんならミラクルだよ」
「レースの振り返り映像とか見てると、ああ、狙ったんだ、凄いなって」
TSクライマックスを振り返るニュースを見ていると、セナイが尋ねてきた。
「トレーナー、お話があります」
「うん」
頷き、話の続きを待つ。
彼女はすぅーはぁーと深く息をしてから言った。
「契約期間、もうすぐ終わりですよね」
「ああ……そうだな」
聞きたい言葉と聞きたくない言葉が、すぐに頭の中に思い浮かんだ。
きっと、期待していることを言ってくれると、そう思ってはいるのだが。
どこかそわそわと落ち着かない気持ちになるのは避けられない。
「あの、よかったら。トレーナーさんがよかったらですけれど」
「いいよ」
本題に入る前に答える。
俺の気持ちはもう決まっているのだ。
あとは、セナイの気持ちを聞かせてもらうだけだった。
「あの、まだ言ってないのでありますが」
「この場合、選択権があるのは君だから」
だから、契約延長でも、契約解除でも、どちらでもセナイが決めること。
解除なら、俺が泣くだけでいい。
「その、じゃあ……」
「うん、君の答えを聞かせて欲しい」
俺の気持ちはもう言った。
君が望むようにすると。
「じゃあ、これからもよろしくお願いします……で、良いんでしょうか」
耳に入ったその言葉を噛みしめる。
「もちろん、喜んで」
俺はただ、嬉しかった。
「あは、なんか照れちゃいますね」
今後も彼女と共に、やっていけるのだと。
口の端がゆるむのを、どうして抑えられるだろう。
「とっても勇気を振り絞ったのに、トレーナーは涼しい顔で……なんか悔しいなあ」
「そんな事ない。顔は元からこうだけど、契約解除って言われたらどうしようかと思ってたよ」
「わたしもでありますよ」
どうやらお互いに同じ不安を抱きながら、同じ結論に達していたようだ。
ふたりで笑い合う。
彼女との日々は、まだまだ続く。