モブとは呼ばせない   作:夜野みる

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3.TSクライマックス開幕

 

「中央のレベルは、わたしの想像を超えていました。トレセン学園に来るまで、負けたことなんてなかった」

 

 契約手続きの傍ら、現状とこれからの話をした。

 彼女、モブトハヨバセナイは、地元では負け知らずだったようだ。

 と言っても、それだけだと中央では勝てない。

 

「そういう娘たちが集まる場所だからね」

 

 地元は勿論、中央でも模擬レースなら負け知らず。

 そのぐらいでなければ重賞は取れない。

 

「わたしは、何をすれば良いのでありますか?」

「基礎からだね。身体を作っていくこと、フォームの調整、様々な作戦への理解」

 

 まだまだ課題はあるが、まず身に着けるべきはこの3つだ。

 

「わたしは、何もかも足りない。模擬レースで勝ちをさらっていく娘たちに、それを思い知らされました」

 

 彼女はうなずき、両手を握ってやる気を見せる。 

 

「ご指導、よろしくお願いします」

「畏まらなくていいさ、それが仕事なんだから」

 

 まあ、やる気があるのは良いことだ。

 俺にはあまりないが、そのぶん本人が頑張るだろう。

 

「明日からのトレーニングメニュー。随時調整していくけど、これがベースになると思ってくれ」

「わ、こんなに」

 

 ファイル2冊にまとめたトレーニングメニューとその目的、注意事項など。

 昨日スカウトした時には契約手続きの窓口がしまっていたので、空いた時間に仮組みしておいただけだが。

 

「そっか、トレーナーに使用申請してもらえばこういうトレーニングができるんだ……」

「作戦についてはどう思う?」

「実は、ここまで抑えて、あそこでスパートとか、そのぐらいしか」

 

 セナイはバツが悪そうに目を閉じて見せる。

 

「まあ、これから覚えていけばいいさ」

 

 基礎練習が必要なのは、身体面だけではなさそうだ。

 

 

 

 翌日。

 

「まず目指すのはメイクデビューで勝つこと」

 

 贅沢にも新米に宛てがわれるトレーナー室。

 ホワイトボードに大きく、最初の目標としてメイクデビューの勝利を掲げた。

 

「ここで戦うのは同世代のライバルたちでもある。だからここでの勝ちは大きな意味がある」

「格付けを済ます、というやつでありますな」

「その通り」

 

 勝った負けたはもちろん、2着か3着か4着か。

 それ次第でトレーナーに向けられる目線も変わってくるというものだ。

 

「走るのは芝、2000mが良いと思う」

「確かに、その方がやりやすいです。模擬レースは距離が短かかったので」

 

 セナイはこう言っているが、彼女の適性はもしかしたら……。

 いや、距離を決めつけるのは、まだ時期尚早だ。

 メイクデビューでは中距離までのコースしかないというのもある。

 

「よし、2000で行こう」

 

 今からメイクデビューまでの20週間あまりを、トレーニング漬けで過ごす。

 忙しくなるだろうが、担当すると決めたからには走り抜けてやる。

 そう決意した。

 

 

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 そんなある日。

 駅前を通りかかると、なにやら人だかりができていた。

 

「おい、駅前ビジョンでなにかやってるぞ」

「あれだろ、スポーツ新聞で一面使って今日重大発表があるって広告してたやつ」

 

 駅前ビジョンには、見覚えのある記者が映し出されている。

 トレセン学園によく出入りしている人だったと思うが……。

 

「私、乙名史 悦子と月間トゥインクル。そしてウマ娘を愛する全てのメディアは――」

 

 噂だけは聞いていたが、発表の中身は俺も知らなかった。

 いったいどんな……。

 

「ここに新レース、『トゥインクルスタークライマックス』の開催を宣言します!」

 

 新レース……!?

 その後の放送内容を噛み砕くと、以下のようになる。

 

 メディア主導で『最強のウマ娘』を部門別に決める。

 このシリーズでは『最も安定して強いウマ娘』を『最強』と定義する。

 そのため、『トウィンクルスタークライマックス』ではポイント制を採用。

 選びぬかれたウマ娘たちが、同条件のレースを3回行い、着順により獲得できるポイントを競い合う。

 短距離、マイル、中距離、長距離、芝はもちろんダートも各部門を用意する。

 

「なるほど……何度でも上位に食い込める、安定した強さが求められる、か」

 

 正直言って、面白い。

 面白いが……。

 

「俺にはあまり関係なさそうだな」

 

 セナイが選ばれるほどの結果を残せるとは、正直思わない。

 観客として楽しませてもらうのが良さそうだ。

 

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