「中央のレベルは、わたしの想像を超えていました。トレセン学園に来るまで、負けたことなんてなかった」
契約手続きの傍ら、現状とこれからの話をした。
彼女、モブトハヨバセナイは、地元では負け知らずだったようだ。
と言っても、それだけだと中央では勝てない。
「そういう娘たちが集まる場所だからね」
地元は勿論、中央でも模擬レースなら負け知らず。
そのぐらいでなければ重賞は取れない。
「わたしは、何をすれば良いのでありますか?」
「基礎からだね。身体を作っていくこと、フォームの調整、様々な作戦への理解」
まだまだ課題はあるが、まず身に着けるべきはこの3つだ。
「わたしは、何もかも足りない。模擬レースで勝ちをさらっていく娘たちに、それを思い知らされました」
彼女はうなずき、両手を握ってやる気を見せる。
「ご指導、よろしくお願いします」
「畏まらなくていいさ、それが仕事なんだから」
まあ、やる気があるのは良いことだ。
俺にはあまりないが、そのぶん本人が頑張るだろう。
「明日からのトレーニングメニュー。随時調整していくけど、これがベースになると思ってくれ」
「わ、こんなに」
ファイル2冊にまとめたトレーニングメニューとその目的、注意事項など。
昨日スカウトした時には契約手続きの窓口がしまっていたので、空いた時間に仮組みしておいただけだが。
「そっか、トレーナーに使用申請してもらえばこういうトレーニングができるんだ……」
「作戦についてはどう思う?」
「実は、ここまで抑えて、あそこでスパートとか、そのぐらいしか」
セナイはバツが悪そうに目を閉じて見せる。
「まあ、これから覚えていけばいいさ」
基礎練習が必要なのは、身体面だけではなさそうだ。
翌日。
「まず目指すのはメイクデビューで勝つこと」
贅沢にも新米に宛てがわれるトレーナー室。
ホワイトボードに大きく、最初の目標としてメイクデビューの勝利を掲げた。
「ここで戦うのは同世代のライバルたちでもある。だからここでの勝ちは大きな意味がある」
「格付けを済ます、というやつでありますな」
「その通り」
勝った負けたはもちろん、2着か3着か4着か。
それ次第でトレーナーに向けられる目線も変わってくるというものだ。
「走るのは芝、2000mが良いと思う」
「確かに、その方がやりやすいです。模擬レースは距離が短かかったので」
セナイはこう言っているが、彼女の適性はもしかしたら……。
いや、距離を決めつけるのは、まだ時期尚早だ。
メイクデビューでは中距離までのコースしかないというのもある。
「よし、2000で行こう」
今からメイクデビューまでの20週間あまりを、トレーニング漬けで過ごす。
忙しくなるだろうが、担当すると決めたからには走り抜けてやる。
そう決意した。
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そんなある日。
駅前を通りかかると、なにやら人だかりができていた。
「おい、駅前ビジョンでなにかやってるぞ」
「あれだろ、スポーツ新聞で一面使って今日重大発表があるって広告してたやつ」
駅前ビジョンには、見覚えのある記者が映し出されている。
トレセン学園によく出入りしている人だったと思うが……。
「私、乙名史 悦子と月間トゥインクル。そしてウマ娘を愛する全てのメディアは――」
噂だけは聞いていたが、発表の中身は俺も知らなかった。
いったいどんな……。
「ここに新レース、『トゥインクルスタークライマックス』の開催を宣言します!」
新レース……!?
その後の放送内容を噛み砕くと、以下のようになる。
メディア主導で『最強のウマ娘』を部門別に決める。
このシリーズでは『最も安定して強いウマ娘』を『最強』と定義する。
そのため、『トウィンクルスタークライマックス』ではポイント制を採用。
選びぬかれたウマ娘たちが、同条件のレースを3回行い、着順により獲得できるポイントを競い合う。
短距離、マイル、中距離、長距離、芝はもちろんダートも各部門を用意する。
「なるほど……何度でも上位に食い込める、安定した強さが求められる、か」
正直言って、面白い。
面白いが……。
「俺にはあまり関係なさそうだな」
セナイが選ばれるほどの結果を残せるとは、正直思わない。
観客として楽しませてもらうのが良さそうだ。