モブとは呼ばせない   作:夜野みる

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9.吐露した想い

 

「どうして……」

 

 日本ダービーで負けた。その事実を、わたしは受け入れるしかなかった。

 全力は尽くした、持てる力すべてを出した。

 でも届かなかった。

 

 わたしの全ては、あの3人に及ばなかった。

 じゃあ、どうすれば良いんだろう。

 どうすれば、勝てたんだろう。

 

「セナイ、お疲れ様」

 

 優しい顔が、控え室でわたしを出迎えてくれた。

 

「よく頑張ったね」

「トレーナー……」

 

 彼の労るような微笑みが、今は辛かった。

 

「わたし、一生あの娘たちに勝てないんじゃないですか」

 

「いや、そんなことは――」

 

「やめてください」

 

 気遣いの言葉を遮るのは気が引けたけれど。

 

「あなたの言葉は、わたしには優しすぎるのであります」

 

 もう、涙を抑えることはできなかった。

 

「トレーナーは、いつもベストの状態でわたしを送り出してくれたのに」

 

 堰を切ったように、涙と言葉が溢れて止まらない。

 

「全然期待に応えられなくて、わたし……わたしなんかが重賞に勝つなんて、無理だったんです」

 

 わたしは弱いから。

 こんなに凄いトレーナーに、釣り合わないほど弱いから。

 

「わたしなんかを選ばなければ、トレーナーはもっと……」

 

「こら」

 

 トレーナーが作った拳が、雨粒でも当たったような弱さで、コツンとわたしの頭を叩いた。

 ぽかんとして、わたしはトレーナーを見上げた。

 

「……確かに俺も、シンボリルドルフやゴールドシップのような天才を担当していたら、と夢に見ることはある」

 

 耳がしなしなになるのを感じる。

 

「そう、ですよね」

 

 そう思われて当然の、情けないモブウマ娘がわたしなんだから。

 

「でもそれは、非現実的な夢だし、今から担当を取り替えようと言われたってお断りだぞ」

「え……」

「セナイを担当したのが俺だ。それで、俺の担当になったのがセナイだろう」

 

 初めて、だったのかもしれない。

 山田トレーナーが、怒っているところを見るのは。

 

「それは、そうですけど。今からでも、わたしなんかより良い娘が居るんじゃ」

「そう思うのか? ならよく聞いてくれ」

 

 トレーナーが熱いぐらいに、深く息を吐く音が聞こえた。

 

「俺が勝たせたいのはセナイなんだよ。ゴールドップとか、他のウマ娘じゃない」

「……ぁ」

「今までカッコつけて、冷静なフリをしてたのが悪かった。俺は」

 

 トレーナーの目が、左右に迷って揺れている。

 今から言う言葉を吐き出そうか、飲み込むか迷っているんだとわかった。

 聞かせて欲しい、と思った。

 

「俺は、君に魅了されている。夢中なんだ」

 

 熱く言葉を吐き出した彼の表情は、普段の穏やかなものとは違っていて。

 優しい目が、ギラついた光を帯びていた。

 

「わ、わたしを……?」

「ああ、どれほど困難でも、俺の手で君を勝たせたい」

 

 耳が、尻尾が。

 勝手に反応してピンと立ってしまう。

 

「君と一緒に戦わせてくれ」

「はひ……はいっ……」

 

 わたしは、全身とろけそうになって、舌をかんでしまう。

 まだ5月なのに、真夏の炎天下みたいな熱気が頭にのぼっていた。

 

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