さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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もうなれた、けど。



ずたずた

昔から、いじめられっ子だった。

親があのオグリキャップとかのウマの全妹であるからして、保育園に入園した時からもう既に注目されていたといま思い返せば分かる。

その頃にはもう既に俺はいじめられっ子で、靴やらを隠されたり、わざと転ばされるとかしょっちゅうだった。

それ以外にも他の子の親御さんや先生が「あのお母さんと比べるとチャンプくんは…ねぇ?」とか、その親の言葉を聞いてるから「ブス」とか言われて。

壊れたものを買い換えれば「親が金持ちで羨ましい」って。

トレセン学園に行きたいと言えば「お前には才能ないんだから」って。

リレーで勝てば「親からマンツーマンだったんだろ」とか。

それで負けてたらお前のせいで負けたんだと殴られたり蹴られたり。

そんな毎日を送っていたのを、今でも覚えている。

だから俺はいつしか人を信じることをやめた。

もう誰も信じないと決めたのだ。

親きょうだい、こんな俺がいいと言ってくれたトレーナーを除いては……。

 

『████████さんについてどう思ってますか?』

 

幼い頃から何度も繰り返した同じ文言の取材にいつも通り答えて。

『あの二人から生まれたにしてはって感じですね』、『もうちょっと綺麗な芦毛ならマシなんだろうけどな。…でもあんなドブみたいな色じゃなあ』、『しかし親の七光りって凄いっすね。全然強くなさそうなのに中央なんて』と、何度も聞いた言葉。

『あ~……その、ごめんごめん!でも本当のことだから』とバレた際には申し訳なさそうに謝る彼らに、俺は何も言えなかった。

けれど、

 

「行くぞ」

「え、あ」

 

あなたが、先輩だけが、()()の手を、引っ張ってくれた。

誰もが見て見ぬフリして、「やっぱそうだよな」って同意する中で、あなただけが。

 

「もう大丈夫だ。俺が、お前を守るから」

 

そう言ってくれたのが、本当に嬉しかったんだ。

だから…俺はあなたが。

 

 

「……おう、どうした?」

「むかしのこと、…ゆめみて」

「…そうか」

「でも、だいじょうぶです。となりに、せんぱいが、いるので…」

 

隣で寝ていた後輩がむずがったので目を覚ますとふにゃりと笑ってそう言われて。

誰からも否定されて、それを大事な人に隠し続けて、そして果てには自分で自分を愛せなくなったコイツを、ありのままのコイツを、愛したのは俺だった。

少し優しくしただけでズブズブと底なし沼に沈むように懐いてくるコイツが可愛くてしょうがなくて。

 

「せんぱぁい……」

「ん?」

「……だいすき」

「……俺も、大好きだよ。……おやすみ」

 

そう言って頭を撫でてやれば、安心したようにまた静かに寝息を立て始める後輩に苦笑しつつ、俺はコイツを愛でるのだった。

……ちなみにこの後起きてからしばらく恥ずかしがった後輩と目が合わなかったのは余談である。

 





ずっとずっと心が傷つき通しの【銀色の王者】概念。
もう慣れたとはいうけれど、それ麻痺してるだけじゃないすか?
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