さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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無事脳焼き。



貴方のための

その一族-のちに【王冠】一族と称される彼らは、彼らの馬主である人間がある競走馬に魅せられたことから始まって。

その競走馬の名は───シルバーチャンプ

 

シルバーチャンプという馬は父があのオグリキャップであり、母方の近親に…というのがよく知られ、またその流れで人気があった馬だが、【王冠】一族を成した馬主にとってはオグリキャップも件の近親もどうでもよく、ただシルバーチャンプだけが重要だった。

自分はシルバーチャンプの血を繋ぐために生まれてきたのだ、と思うほどに。

その走りの素晴らしさはまさに天に愛されたとしか言いようがないもので。

 

「…すごい」

 

G1に出る馬というのはある意味『天才』と似たようなものだ。

彼らは生まれながらにして、または経験を積み、その才能を開花させ、他とは隔絶した能力で勝利をもぎ取っていく。

そんな天才の中でもさらに異才を放つものがいるとすれば、それはまさしくシルバーチャンプだろう…なんて。

 

 

その一族は海外遠征に力を入れていることで有名な一族だった。

新興ながらも徐々に勢力を伸ばし、今ではシンボリやメジロと同等…とは呼べないかもしれないけれど、でもそれに近いくらいの位置まで上り詰めて。

そしてその一族の当主は……いや、一族全てがシルバーチャンプを神聖視していた。

『あの方こそ我らが原初』と。

()()()()()()()()焼き付いているのだ。

自分たちが生まれた理由であるシルバーチャンプが。

 

「シルバーチャンプさまは、すごい」

 

その一族が誇る当主は、そう呟いた。

 

「あの走りは……神業だ」

 

当主である彼女はもちろん他のウマの走りも見たことがあった。

だがそれでもなおシルバーチャンプを特別視している。

いや、彼女だけではない。

彼女の周りにいる人間全てがそうだ。

この家に生まれたからには、組み込まれるからには、すべてが。

 

「チャンプさま…」

 

当主が見つめるのは、床の間に置かれたガラスケース。

そのガラスケースの中にはシューズがあった。

 

「……」

 

『この靴をキミに』と彼女は言った。

何も知らない彼女は、そう言った。

自身のファンであると告げられたから、たったそれだけで。

 

 

「…なんか、俺にもファンがいるんですねえ」

「どうした」

「いや、俺のファンだっていう奇特な方がいたんでシューズあげたんです。サインも入れようと思ったんですけど…断られまして」

「ふぅん」

「でも、なんかどこかで会ったことのあるような方でしたね」

「そうか」

「不思議ですね」





【王冠】一族:
全頭が【銀色の王者】の血を持つウマで構成された一族。
♂なら「クラウン」、♀なら「ティアラ」が冠名。
馬主が【銀色の王者】に焼かれた結果、資材を投じて世界津々浦々の良血牝馬を集めた結果できた一族。
今では【銀色の王者】のサイアーライン存続の重要な役割を担っている。
なおこの一族、海外遠征を積極的に行うので…ハイ。
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