目を開けるとそこには"誰か"がいた。
『キミの名前は?』
顔の見えないその人が自分の名前を聞く。
口元だけが楽しそうに笑っているその人。
その問いに自分は何と返したのだったか。
*
ぼくは偉大なる当主様によく似ていると言われ続けて生きてきた。
当主様はぼくが生まれる随分前に亡くなっていて、写真だけが当主様と関わる唯一の手段だった。
垣間見た当主様の写真は思わずゾッとしてしまうほど自分によく似ていた。
顔に火傷がないことだけが唯一の差異と言えるほどに。
当主様は随分と長生きな方で、亡くなる数年前の動画くらいなら残っており、すっかり白くなった当主様の髪を見ていつしか自分もこうなるのかと考えたこともあった。
ぼくに敵はいなかった。
そういうところも当主様そっくりだと称された。
ただただトレーニングで出したタイムを超えるぐらいしか本番のレースでの楽しみがなかった自分にとって、当主様の残した記録がライバルとなりえる唯一のモノで。
周りから讃えられる度に当主様と会ってみたかったと思う。
あなたはどんな人であったのだろう。
譲ってもらったあなたの写真を見ながらいつもそう考える。
────それは、きっと恋と呼べるものに似ていた。
ぼくは、あなたに触れてみたかったのです。
もう亡くなっているとは分かっていたけれど、それでも触れてみたかった。
あなたの作り出した記録に打ち勝てば触れられるだろうかと。
門の先にいたあなたは既に銀色の一族の方に取られていたから。
だから、
「捕まえたかったんです」
だが、伸ばした手が、その黒い衣を掴むことは終ぞなかった。
*
最強の存在がいた。
その目に誰もが映ることを許されなかった。
その目に映っているのはいつだって、あの『亡霊』で。
『英雄』だの『怪物』だのと讃えられる存在は、最強に挑む者たちにとっては『亡霊』と罵ってしまうほどに憎い存在だったのだ。
私たちは、ずっとあなたに見てもらいたかった。
あなたをこちらに振り向かせたかった。
こっちを見て。どうか、こっちを見て。
どれほどそう望んでもあなたの視線を奪うのは『亡霊』で。
あなたの前ではにこやかに接しながらも、裏では『亡霊』に向かって後ろ指をさした。
誰もが一度は憧れる、憧れていた存在は、あなたに出会ってからは無用の長物となった。
どれほど話しかけたって興味を一欠片も示さないあなたの興味を引くのはいつもあの『亡霊』で。
ニコリともしない表情が唯一崩れるのは『亡霊』のことを話す時だけで。
…あぁ、憎い。
でもいちばん憎いのは、あなたを振り向かすことができない自分の不甲斐なさだ、なんて。
ぼく:偉大なる当主様であるシルバーバレットに憧れている。
シルバーバレットにしか興味がない。
もうこの世にいない存在に激重感情を抱いている。
周りから自分に向けられている視線にはまったく気づいていない模様。
たぶんコイツもシルバーバレットと同じく脳焼かれ会もとい被害者の会ができあがってると思う。