ふたりきり。
本当は。
生まれ故郷に帰るはずだった僕は、僕を打ち負かして、
『…キミが、女の子だったらよかったのに』
『……』
僕をモノにした彼は、薄い僕の胎を見てはよくそう言った。
その場所には僕ら以外にも同族がいたけれど、この場所に来た時点で彼がボスになった。
彼は僕が傍にいないと落ち着かないので、僕が彼以外の同族に会うことは滅多にない。
とはいえ、僕は女の子じゃないし、彼もまた男だ。
だから子どもは生まれないし、僕らはこの場所で二頭きりだ。
……ただ、ちょっと困ったことに。
彼は僕を
いやまあ、確かに僕は男らしくないけれど……。
『…ただいま』
そんなこんなと考えていると件の彼が帰ってきた。
どうにも"仕事"終わりのようで見るからに機嫌が悪い。
『おかえり』
彼は、僕以外に興味がないらしい。
いや、僕の子どもであるのなら多少の興味は持ってくれるようだが、それでも"多少"だ。
『…何も、臭わないな』
『……今日も、大人しくしてたよ』
男の子だから、僕も彼のように"仕事"があるけれど。
その"仕事"があんまり出来ていないのは、僕が彼以外の臭いをつけていると彼が怒り狂うからで。
そのため彼が"仕事"に行っている間に僕も"仕事"をしては、世話してくれる人に体を綺麗にしてもらって、こうしてある程度外の匂いをつけないと…。
『……ん、』
『っ、と……』
彼は僕の匂いを嗅ぐのが好きらしい。
僕としては恥ずかしいのでやめてほしいのだが、彼はお構いなしに僕に擦り寄る。
そうして、そのままべっとりと引っ付くのだ。
"仕事"で疲れているだろうに、よくやるなあと思うけれど。
……まあ僕も彼に擦り寄られるのは嫌いじゃないし、彼の匂いは落ち着くからいいのだけれど。
『……あしたも、大人しくしていろよ』
『うん……』
ああ、…きっと明日も変わらない。
*
サンデースクラッパという馬は、遠目で見れば父であるサンデーサイレンスとよく似ているが、近くで見ると母方譲りの可愛らしい顔立ちをした馬であった。
それでいて華奢で、初対面の人間に股を覗かれたほど、本当に…牡馬には見えない馬であったから。
『なんで此処に牝馬がいるんだ?』
『あんな可愛い顔の奴、牝馬に決まってるだろ』
そう、ヒソヒソと。
繋養先にやってきた直後から、同族に噂され、中には……『優しそう(で泣き寝入りしそうな奴)だから』と狙う者もいたのだが。
『何を、している?』
サンデースクラッパと共にやってきたグローリーゴアが一日でその場所のボスとなり。
恐ろしいまでの地獄耳で、大切な彼に関する不埒な話を聞けばすぐさま脅し…ゲフンゲフン、話をしていたので。
『アレはボスのオンナなのだ』
と、いつしかその場の暗黙の了解となったのだ。が、
『…?どうしたの?』
まだ何も知らない新入りや、幼駒から若馬に移行したばかりの馬がサンデースクラッパに一目惚れしては…?
思った以上にクソデカ感情。
それを普通と思っている【戦う者】と最早【戦う者】関係のあれこれがヤバすぎてギャングのボスみたくなってる【栄光を往く者】。
…たいへんそ〜。