さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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でも本人にその自覚はない。



とりあえず脳を焼く

その日、俺は生まれ直した。

同じ人生のようで、どこか違う世界に。

 

「……」

 

その世界では、おじ二人が共に無敗で凱旋門とBCクラシックを制覇していて。

そういうわけだから、その甥っ子である俺も…父の血を抜きにしても多大な期待をされているわけで。

とはいえ、

 

「なにしてるんだい、先輩」

「クラシックの追加登録の書類」

 

俺の脚は今世も不安だ。

だから何とか間に合いそうになった今書類を書いている、が。

 

「…色々集めにゃいけないもんがあるから面倒なんだよなあ」

「そうなのかい?」

「おう。ほら、見るだけ見とけよ───オペラオー」

 

 

「…久しぶりです、おやっさん」

「おー、クソガキ」

「クソガキって…」

「クソガキだろうが。あんな反対したのにトレセン行きやがって…」

「……すみません」

 

俺の脚は厳重にケアしなければいずれ歩くことすら困難になるだろうぐらいには、"前"よりもひどいらしい。

故に幼いころから同じお医者様に診てもらっているのだが…この人偏屈なんだよな。

その代わりに技術は神がかってんだけど。

 

「生きてるんなら治してやるが限度ってのがあるだろ」

「善処シマス…」

「はあ……一応見てはやるが、そんなやり方だと将来無事な見込みはほとんどねーぞ」

「……はい」

「わかってんなら、さっさと行け。誰にもバレたくねぇんだろ。俺には治療ぐらいしかできねえから誤魔化しなんてとてもなァ?」

 

そう言っておやっさんは奥に戻っていった。

おやっさんが言った通り、俺の脚は治らない。

いや、正確には治す方法はある。

ただそれはあまりにも現実的な確率ではなく……そして何より()()()()()()()技術的なリスクが大きすぎるのだ。

だから俺はその選択を捨てた。

 

「…ちゃんと、ケアの仕方も教わったから大丈夫」

 

俺は、続かなくちゃいけない。

前世よりも、もっと、もっと。

多くの期待をかけられ、前世があるが故に出せた強さから勝つのが当たり前だと見られている。

 

「海外、頑張らないと…」

 

だがそれはそれとして。

 

「おやっさん、サイレンススズカってウマのこと、知ってます?」

 

 

シルバーチャンプというウマがいる。

今代の世界最強と、誰もが認めるウマがいる。

そのウマがその時代に与えた影響は大きく、世界を転戦し、その全てで勝利を収めたのもあって、彼は今代の世界最強バとして君臨していた。が、

 

「引退します。これからは後進育成に…」

 

唐突な、シルバーチャンプ当人からの引退宣言。

今度こそ、生まれ故郷である日本に戻り、走るのか、走ってくれるのかと期待した中での…あまりにもあまりな。

だって、誰もが引退するにせよドリームトロフィーリーグに行くと思っていたのだ。

せめて現役では戦えなかったが、と思うかつての名選手たちも多かったのだ。

けれど、

 

「ん、頑張ったな」

 

当の本人は何も知らず…。





逆行してるタイプの【銀色の王者】。
救える奴は救っていくし、いずれ自身の母と子を成す後輩にやさしくしたりする。
でも脳を焼いた自覚はないんだよね。
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