そう願っても。
【金色旅程】はその後輩を初めて見た時、ゾッとした。
元から「あの」と期待されていたのは知っていたが、それ以上に。
「これからよろしくお願いします」
そう言った目が今にも壊れそうな様相を呈していて。
それを、誰も気づかないものだから気持ち悪くて、気持ち悪くて、仕方なかった。
(なんで、誰も気づかねぇ!!)
走ったあと、覚束無い足取りで帰るのも。
異様なまでに食が細いのも。
トレーニングの量が度を超しているのも。
誰もが「あの」と色目をつけてみるから、本当のことなど見やしない。
「おい、テメェ。少し無理しすぎじゃねぇか?」
「ご心配おかけして申し訳ありません。もう少しですので」
「……ちっ」
だが、だからこそ見ていられないと思ったのだ。
それで怪我をされても後味が悪いし、何より同室の先輩として最低限の責任がある。
だから、止めるために声をかけたのに。
その後輩ときたら「先輩も自分の練習をしていてください」と取り付く島もない。
「っ……はぁ…」
段々、アイツが壊れていく。
はじめから壊れていたのに、それを見ないフリして、見て見ぬフリして、誰もが「あの」と持ち上げるものだから。
だから、壊れていく。
(なんで誰も気づかねぇんだよ!!)
そして、それは。
(……俺以外誰も気づこうとしねぇなら)
もう俺がやるしかないだろう?
「とっとと辞めろ」
「お前みたいなやつ、トレセン学園にいていいわけないだろ」
ひどい言葉を、投げつけた。
そうでもしないと、アイツは。
「そう、ですね」
壊れてしまうから。
「でも、俺は走りたいです。だから」
だから。
「もう少し、待ってくれませんか?」
(ああ……)
そんな顔をさせたかったわけじゃないのに。
「必ず勝ちますから。負けませんから」
(違うんだ)
そんな顔をさせるつもりじゃなかったんだ。
「だから」
(俺はただ……)
お前に、無事でいて欲しかったんだ。
「それまでさようなら、先輩」
(ああ……)
・
・
・
そのニュースは、瞬く間に全世界を駆け巡った。
このトレセン学園でも連日「なんで!」と騒ぐヤツらが多いこと多いことで煩わしかったが。
「やり遂げましたよ先輩!元から打ち止めだったところからちょっとは持ちましたし…」
当の本人は。
嬉しそうにそう言って、…二度と補助の器具なしでは歩くことすらままならない脚を抱えて。
それでも嬉しそうに、笑った。
「やっと……やっと舞台に立つことができました!」
「!なんで、笑ってるんだよ」
その笑顔は心底嬉しそうで、俺なんかじゃなくもっと先にある輝かしいものを見てるんじゃないかと錯覚するぐらい。
だからこそ俺は問いかけた。
どうして笑えるのかと。
そんな脚でどうして嬉しいと思うのか、と。
だが。
「……先輩?分からないんですか?」
そんな俺の気持ちなどまるで知らないように後輩は笑うのだ。
…ああ、そうかよ。
「え、せ、先輩…泣かないで…!」
目的のためなら自壊することも構わない野郎に出逢ってしまったのが運の尽き。