さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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どう諦めた?



諦めましたよ

「だ、だめだヨ。ぼくには妻と子が…っ」

 

するりと傷だらけの頬を撫であげれば、ぽうと頬が染まった。

…そんなこというなら、そんな思わせぶりな態度をしないでほしい。

華奢な体を震わせて、潤んだ瞳を向けてくるのは反則だ。

 

「そうか」

「そっ、そうだよ!常識で考えてヨ!」

「……ンなの、知ったことか」

 

こちとら何年お前を想ってると思ってる?

ドがつくほど鈍いお前にどれだけトチ狂わされてると思ってんだ。

嗚呼、はじめは俺もついに可笑しくなったかと思ったさ。

お前みたいな狂ったヤツ──しかも家庭がある身を好きになるなんて。

でも、……もう無理だ。

 

「っ、」

「……はは、顔真っ赤だな。可愛い」

「な……ッ!か、かわ……!?」

「ああ。可愛いよ」

「や……っ!」

「なぁ、バック」

 

するり、と腰に手を回して抱き寄せる。

俺の胸にすっぽりと収まる細い身体。

その耳元に唇を寄せて囁くのは愛の言葉だ。

 

「愛してるぜ?」

「……ッ!!」

 

ああ、…俺のことをどうしたいんだよお前は。

 

「っ、……ぼ、ぼくも」

「……ん?」

「ぼくも、キミのことが……っ!」

 

ああ。

もう駄目だ。

もう俺はコイツを離してやれない。

 

「愛してるよ」

 

そう囁いて、その小さな体を。

──ああ。やっとだ。やっと手に入れ…。

 

 

「おはヨ、よく寝てたネ」

 

そんな、夢を見た。

ズキズキと痛む頭はきっと二日酔いのせいだろう。

自分の腕の中で「だいじょーぶ?」と俺の頬を撫でるソイツは、先程まで俺の夢の中でされていたことを知らぬまま、こてんと可愛らしく首を傾げた。

 

「お味噌汁、飲む?」

「…飲む」

「ウン、わかった。なら用意するネ」

 

よいしょっと俺の腕から抜け出し、慣れた手つきでエプロンをつける姿がいやに眩しい。

 

「お前、料理できたんだな」

「ウン。そりゃリリィがいるしねぇ。それくらいはネ」

「……そうかよ」

 

……ああ、くそ。なんだこの気持ち。

なんで俺はこんなに苛ついてんだ?

「はいどーぞ」と差し出されたお椀を受け取れば、ふわりと香る出汁の匂いに腹の虫がきゅうっと鳴いた。

「いただきます……」と呟いて口をつければ、じんわりと体に染み渡る優しい味に思わずほっとする。

ああ。

 

(なんで、諦めきれないんだよ…)

 

ふわふわと笑う姿も、何もかも。

惚れてしまった弱みなのか、心臓を握られているようで。

 

(ああ、お前が薄情なやつだったらよかったのに)

 

かつての相手なんて忘れて、口説かれるままに俺のモノになる…。

そんな、ヤツならよかったのに。

 

(俺は、こんなにも好きなのにな…)





諦められぬと、諦めた。
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