どう諦めた?
「だ、だめだヨ。ぼくには妻と子が…っ」
するりと傷だらけの頬を撫であげれば、ぽうと頬が染まった。
…そんなこというなら、そんな思わせぶりな態度をしないでほしい。
華奢な体を震わせて、潤んだ瞳を向けてくるのは反則だ。
「そうか」
「そっ、そうだよ!常識で考えてヨ!」
「……ンなの、知ったことか」
こちとら何年お前を想ってると思ってる?
ドがつくほど鈍いお前にどれだけトチ狂わされてると思ってんだ。
嗚呼、はじめは俺もついに可笑しくなったかと思ったさ。
お前みたいな狂ったヤツ──しかも家庭がある身を好きになるなんて。
でも、……もう無理だ。
「っ、」
「……はは、顔真っ赤だな。可愛い」
「な……ッ!か、かわ……!?」
「ああ。可愛いよ」
「や……っ!」
「なぁ、バック」
するり、と腰に手を回して抱き寄せる。
俺の胸にすっぽりと収まる細い身体。
その耳元に唇を寄せて囁くのは愛の言葉だ。
「愛してるぜ?」
「……ッ!!」
ああ、…俺のことをどうしたいんだよお前は。
「っ、……ぼ、ぼくも」
「……ん?」
「ぼくも、キミのことが……っ!」
ああ。
もう駄目だ。
もう俺はコイツを離してやれない。
「愛してるよ」
そう囁いて、その小さな体を。
──ああ。やっとだ。やっと手に入れ…。
*
「おはヨ、よく寝てたネ」
そんな、夢を見た。
ズキズキと痛む頭はきっと二日酔いのせいだろう。
自分の腕の中で「だいじょーぶ?」と俺の頬を撫でるソイツは、先程まで俺の夢の中でされていたことを知らぬまま、こてんと可愛らしく首を傾げた。
「お味噌汁、飲む?」
「…飲む」
「ウン、わかった。なら用意するネ」
よいしょっと俺の腕から抜け出し、慣れた手つきでエプロンをつける姿がいやに眩しい。
「お前、料理できたんだな」
「ウン。そりゃリリィがいるしねぇ。それくらいはネ」
「……そうかよ」
……ああ、くそ。なんだこの気持ち。
なんで俺はこんなに苛ついてんだ?
「はいどーぞ」と差し出されたお椀を受け取れば、ふわりと香る出汁の匂いに腹の虫がきゅうっと鳴いた。
「いただきます……」と呟いて口をつければ、じんわりと体に染み渡る優しい味に思わずほっとする。
ああ。
(なんで、諦めきれないんだよ…)
ふわふわと笑う姿も、何もかも。
惚れてしまった弱みなのか、心臓を握られているようで。
(ああ、お前が薄情なやつだったらよかったのに)
かつての相手なんて忘れて、口説かれるままに俺のモノになる…。
そんな、ヤツならよかったのに。
(俺は、こんなにも好きなのにな…)
諦められぬと、諦めた。