眠って。
たぶん、誰かを蹴落とすのに向いていなかったのだと思う。
後ろ指さされるのに傷ついて、その傷は治ることはない。
この世界に入ったのだって周りの期待に逆らえなかったからで、そうでもなければ人を押しのけるなんて死んでもご免だ。
「お前はやさしいな」
ポンポンと頭を撫でられる。
今日も眠れなくて、ぼんやりとした頭で先輩に擦り寄る。
こんな弱さを見せられるのは先輩だけで、それ以外は、それぞれにあったペルソナを被ってしまう。
「無理するなよ」
先輩の胸に頭をすり寄せる。
「先輩、俺、先輩のためならなんでもするから」
「…」
「だから、俺のこと捨てないで」
先輩は少し黙ってから、俺の額に口づけた。
「……お前だけだよ」
その一言で満足できる俺はなんて安い男だろう。
それでもいい。
先輩が俺を受け入れてくれるなら、この心も体も全部あげていいと思えた。
依存と言われればそれまでだが、こんな自分に初めて気づいてくれたのが先輩だから。
先輩のためならなんでもできる。
「せんぱい」
*
外はシトシトと雨が降り注いでいる。
カーテンを開けるのも億劫だ。
湿度が高くて、空気はじっとりと重たい。
今日はずっとこんな天気らしい。
テレビの情報では、これから雨足が強くなるそうで。
こんな日に外を出歩こうとするものはおらず、閑散とした街並みが広がっていることだろう。
ここも同様だ。
「あつい……」
そんな時に俺はというとぐったりと布団に伏せていた。
何故だか風邪を引いたのだ。
申し訳ないことに先輩が世話を焼いてくれるのに大人しく従う。
だって前、自分で自分の世話してたらめちゃくちゃキレられたし。
先輩が俺の額に手を当てる。
「熱あるな」
ひんやりとして気持ちがいい。
「先輩、うつっちゃいますよ」
先輩はいつだって俺の面倒を見てくれる。
嬉しいけど申し訳なくもあって。
こんな女々しいことを考えてるのも風邪のせいだと思いたいが、たぶんそうじゃないことを俺は知っていた。
ずっと頭が痛いのだ。
そんな俺をみて先輩はつぶやく。
「いいんだよ」
その笑顔がどこか暗く見えてドキリとした。
「お前は、何も考えるな」
優しい手つきで、俺の体を拭き始める。
「俺がいるからな」
やさしい声ながらも。
どこか今の天気のような湿度のある声。
気のせいかなと思いながらも熱のせいでうつらうつらとしてくる。
「おう、寝とけ寝とけ」
起きたら、何か食べられるようになっていればいいのだけど。
そもそも、早く熱が下がればいいなあ。
…ああ、疲れたあ。
全てを忘れられるわけではないけれど。