さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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眠って。



沈むように

たぶん、誰かを蹴落とすのに向いていなかったのだと思う。

後ろ指さされるのに傷ついて、その傷は治ることはない。

この世界に入ったのだって周りの期待に逆らえなかったからで、そうでもなければ人を押しのけるなんて死んでもご免だ。

 

「お前はやさしいな」

 

ポンポンと頭を撫でられる。

今日も眠れなくて、ぼんやりとした頭で先輩に擦り寄る。

こんな弱さを見せられるのは先輩だけで、それ以外は、それぞれにあったペルソナを被ってしまう。

 

「無理するなよ」

 

先輩の胸に頭をすり寄せる。

 

「先輩、俺、先輩のためならなんでもするから」

「…」

「だから、俺のこと捨てないで」

 

先輩は少し黙ってから、俺の額に口づけた。

 

「……お前だけだよ」

 

その一言で満足できる俺はなんて安い男だろう。

それでもいい。

先輩が俺を受け入れてくれるなら、この心も体も全部あげていいと思えた。

依存と言われればそれまでだが、こんな自分に初めて気づいてくれたのが先輩だから。

先輩のためならなんでもできる。

 

「せんぱい」

 

 

外はシトシトと雨が降り注いでいる。

カーテンを開けるのも億劫だ。

湿度が高くて、空気はじっとりと重たい。

今日はずっとこんな天気らしい。

テレビの情報では、これから雨足が強くなるそうで。

こんな日に外を出歩こうとするものはおらず、閑散とした街並みが広がっていることだろう。

ここも同様だ。

 

「あつい……」

 

そんな時に俺はというとぐったりと布団に伏せていた。

何故だか風邪を引いたのだ。

申し訳ないことに先輩が世話を焼いてくれるのに大人しく従う。

だって前、自分で自分の世話してたらめちゃくちゃキレられたし。

先輩が俺の額に手を当てる。

 

「熱あるな」

 

ひんやりとして気持ちがいい。

 

「先輩、うつっちゃいますよ」

 

先輩はいつだって俺の面倒を見てくれる。

嬉しいけど申し訳なくもあって。

こんな女々しいことを考えてるのも風邪のせいだと思いたいが、たぶんそうじゃないことを俺は知っていた。

ずっと頭が痛いのだ。

そんな俺をみて先輩はつぶやく。

 

「いいんだよ」

 

その笑顔がどこか暗く見えてドキリとした。

 

「お前は、何も考えるな」

 

優しい手つきで、俺の体を拭き始める。

 

「俺がいるからな」

 

やさしい声ながらも。

どこか今の天気のような湿度のある声。

気のせいかなと思いながらも熱のせいでうつらうつらとしてくる。

 

「おう、寝とけ寝とけ」

 

起きたら、何か食べられるようになっていればいいのだけど。

そもそも、早く熱が下がればいいなあ。

…ああ、疲れたあ。

 





全てを忘れられるわけではないけれど。
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