未だに巣食ってる。
可愛がっている後輩-シルバーチャンプは現在もとても人気なウマである。
それを本人は己の親族から来るネームバリューからだと思っているようだが、知らぬは本人ばかりなり。
あの凱旋門賞に脳を焼かれた奴らが多いこと多いこと。
そのため各国から良血のお嬢さんを宛てがわれているというのに(まあその大半がある個人が紹介してきた淑女たちというのは置いておいて)。
それでいて、その淑女たちとの間に作った子どもたちが当然のように大活躍して追い焼きしているのだから…さもありなん。
「おかえりなさい、先輩」
帰ってきた家の中には異国の言語が流れていて。
「今日はあの子がレースで…」と出迎えたシルバーチャンプが嬉しそうな顔をする。
どうやら勝ったらしいと反応で察したが、どこか曇った眼差しにぎゅうと抱き締める。
「わ、わわっ、先輩?」
コイツは、死ぬほど自己肯定感が低い。
低空飛行ならぬマイナス軸にぶっ刺さってるレベル。
「頑張ったんだな」
「……はい」
「どんなレースだったんだ?」
「……えっと、その、あの」
「うん?」
「"あの方"……みたいな……その……」
「ああ」
「あ!あの!ちがっ……違うんです!いや違わないんですけど!」
しどろもどろと言い訳を紡ぐシルバーチャンプの背中をぽんぽんと叩く。
ああ、本当に…変わらない。
そんな俺の思いはどうやら伝わってしまったらしく。
「わ、分かってますよ自分でも…割り切った方が良くて、引きずりすぎだって…」
「……うん」
「でも、やっぱり……悔しくて……」
「そうか」
ぐず、と泣き出す。
ああ、こういうところも変わらない。
今までこんなコイツを見てきた人間が本当にいなかったのだから、当然か。
俺だから素直に甘えられているのだと思えばまあ悪くはないし、そもそも俺がいなければ…と思うとゾッとする。
「先輩……あの……」
「ん?」
「今日だけ……甘えていいですか……?」
不安そうに見つめる瞳。
その目に俺は、
「いつも甘えろ」
「で、でもそれは…」
「俺がいいって言ってるだろ」
「うう……はい……」
おずおずと俺の背に腕を回し、胸に顔を埋める。
そんな甘やかし方を俺がシルバーチャンプにしていたら、多分周りに何やかんやされそうと思うのは何故だろうな?
まあでもそれはそれだ。
今はこの可愛い後輩を存分に甘やかしてやろうと心に決めたのだった。
「せ、先輩そろそろ…」
「あ?」
「い、いや…」
あの後、互いの体温を共有するように抱き合っていた俺たちだったが。
「そろそろ夕飯が……」という言葉に俺は目の前の身体を解放した。
何度も何度も振り切ろうとしても追ってくる。
それはもはや───染み付いて取れないみたいに。