何も知らない無垢。
「なぁに?ザンさん」
ホワイトバックの髪は長い。
くくっている状態でも肩甲骨ぐらいまではあり、それでいて手入れもよくなされている。
なので単にくくられているのが勿体ないくらいには美しい髪であるからして、気づけば指でその髪を梳いていた。
されている本人は不思議そうにするばかりで、何の懸念もなく俺を背もたれにしている。
「この髪はなんのために伸ばしているんだ」
「家族のため」
髪を梳き、白く透き通った頬の横を過ぎる。
髪の触り心地がいいということはすなわち耳の触り心地もいいというもので。
そこでようやく違和感に気づいたようで、彼は振り向いて俺の顔を見上げた。
「……ザンさん?」
「触られて嫌か?」
「嫌じゃないけど……」
まるで壊れ物を扱うかのように丁寧に触る。
もう手を握られただけで顔を赤くするような年でもないだろうに、それでも大切にされることに慣れていないのか、俺の指先が肌を掠める度に肩が小さく跳ねる。
「なんか、変な感じする」
「そうか?どんな?」
「ザンさんが優しいの……変な感じ……」
そうして再び前を向くとそのまま胸に顔を埋めてしまった。
髪の間から覗く肌はやはり赤い。
その赤と、きっと俺も同じ色をしていることだろう。
「ねぇザンさん、」と彼が俺を呼ぶ。
「なんだ」
「もう少しだけ……このままで」
*
やさしくしてくれるのは、愛してくれるのは、家族だけだった。
だから他人から…ザンさんから向けられるやさしさがむず痒くて…怖くて。
打算も何もないソレが、いつかなくなってしまうものなんじゃないかって。
だから……、
「もう少しだけ、このままで……」
「あぁ」
彼のやさしさは、きっとぼくじゃ測れないほど大きくて。
『ただいま』と『おかえり』の挨拶が当たり前にできるのも。
『おはよう』と『おやすみ』を言える相手も。
ぼくにはなかった。
でも今は違うんだ。
「ともだちって、こんなんなんだね…」
ぼく、今すごく幸せだ。
それはきっとザンさんも同じで、だからこんなやさしいことをしてくれるんだと思う。
でもだからこそ、いつか来てしまう終わりが怖いんだ。
「ザンさんはさ……いなくなっちゃうの?」
「ん?なんだ急に」
「いなくなっちゃわないよね?」
「……どうした」
「だって……『ともだちはいつかいなくなる』って……」
「誰がそんなこと言ったんだ」
「……本に書いてあった」
「そうか」
また、やさしく撫でられる。
それにぴくりとすれば。
「俺は、どこにも行かねぇよ」
安心させるように触れるだけの…。
純粋に「ともだち」だと思ってるんだよね。