走ることが好きだ。
そして、その気持ちの根幹になったのはやっぱり親父の走りだろう。
「…また見てたのかい?」
「おう!」
テレビには現役時代の親父のレース映像が流れている。
祖母が厳重に取っておいたものであるらしく、雑に扱うとあとが怖いシロモノだ。
俺や、その他の兄弟姉妹も親父のレースを見るのが好きなのだが、親父自身は苦笑するばかり。
「恥ずかしい」だとかなんだとか言って。
「さぁ、みんな用意できてるからね」
「はーい」
ぷつりとテレビの電源を切って立ち上がる。
今日は毎年恒例の花見の日だ。
行事を大切にしている親父はことあるごとにこうしてイベントを行う。
そのイベントごとの中で俺がいっとう好きなのが花見だった。
だって料理は美味いし騒げるし。
けれどいちばん好きなのは、
「今年も綺麗に咲いたね。…けどちょっと遅すぎたみたいだ」
視界いっぱいに桜が広がっている。
例年よりもはやく散り始めている桜に親父は残念そうにしているが、俺はこれくらいの、散り際の桜が好きだった。
短い間ではあるが精一杯咲いて、散っていく桜が。
「みんなもう集まってるね。行こうか───シンゲキ」
そんな俺の名はシロガネシンゲキという。
*
トレセン学園へと入学した。
同期にはハイセイコやヒーロー、ガールがいる。
それはそれとして、俺の走りはどうやら親父というより祖父の方に似ているらしい。
『日の丸特攻隊』。
そう称された祖父にソックリだと。
はじめはそう称されたことがショックだったけど(俺がいちばん尊敬している人間は親父である。まぁ兄弟姉妹みんなそうだが)、最終的には受け入れた。
だって俺には親父のようなスタミナがなかったから。
ならば全身全霊で戦って、負けても悔いが残らない方がいい。
脚をあますことなく、どこまでも、どこまでも、逃げおおせてやる。
『来た、来た、来た!
シンゲキだ、シロガネシンゲキだ!
後方は、まだ後ろ!
逃げ切った逃げ切った!
シロガネシンゲキだ!
快進撃は止まらない!!
これは恐ろしいウマだ!
クラシック級の怪物・シロガネシンゲキがスプリンターズステークスを制しましたァ!!』
俺の適正的にマイルは長すぎた。
必ず1400mを超えると失速してしまう。
だがそれまでなら誰にも負けはしないから。
短距離なら親父のように、祖父のように、最初から最後まで逃げ切れるから。
「ジュライカップ?」
スプリンターズステークスを制したあと、そんな話が上がった。
来年、ハイセイコとヒーローが海外遠征するのに着いていかないかと。
その話に、俺はノった。
「…ジュライカップ獲ったら、親父は喜んでくれるかねぇ?」
親父の、シルバーバレットの喜ぶ顔を思い浮かべながら。
シロガネシンゲキ:『快進撃は止まらない』
シルバーバレットの初年度産駒。母父サクラシンゲキ。
シルバーバレットの血に連なる者の中でもサクラバクフウオーと並ぶガチガチの短距離馬だが、サクラバクフウオーが1200mのスペシャリストであるのに対して、シロガネシンゲキは1400mまでなら絶対に負けない馬であった。
戦績も負けてる部分は全部1400m以上以上であった。
主な勝ち鞍:
スプリンターズステークス(1996年度)
高松宮記念(1997年度)
ジュライカップ(1997・1998・1999年度)
香港スプリント(1999年度)
シルバーバレット:
多分白目向いてる。
けど初年度産駒以降もバカみたいに子どもが勝ってくるのでそのたびに天を仰いで魂が抜けてるらしい。最終的にはその模様が名物になって雑誌などで写真があげられるように。
最終的には息子娘孫たちから「おみやげ」と言われては優勝レイなどを渡されるのがもっぱらの悩みになる。