篭絡してやる…!
彼女はどんな相手だって籠絡できる、生粋の【白の一族】の者であった。
がしかし。
彼女と一番仲のよかった一族の者がとある家の者に誑かされたまま帰ってこなかった。
一族総出で助け出しに行こうとも当の本人が頷かないのである。
故にその者と一番親しかった彼女は騙されているのだと、身分を隠しその家へと乗り込み…。
「███」
気づけばその家の当主夫人となっていた。
いやソイツと出会ったのはソイツがまだ少年と青年の境目の折で。
初めに聞いた話では妾腹の生まれで当主の継承権なんて無いに等しい立場であったはずなのに…あれ〜?
蚊のごとく自分にキスしてくるソイツを軽くあしらいながら彼女は考え込む。
目的の存在とは入り込んで一年ぐらいで会うことができた。
再会したらひどく驚いた顔をされたけど、次の瞬間にどこか『ご愁傷さまです』とでもいうような顔をされたのが印象的だった。
彼女は大切な親族を帰さないこの家を無茶苦茶にする気でここに来たのに。
気がつけば…気がつけば、どうだ。
「ああハイハイ、落ち着けガキ共」
たくさんの子どもたちに、それに付随する孫たち。
その全てがすべからく彼女を慕い、それ以外の家の使用人たちだって皆彼女を敬愛する。
確かに、この家の掌握はできた。
しかしそれは、彼女が望んだものとは違う。
「」
だから彼女は、その家の者たちにこう告げたのだ。
『どっか旅にでも行くわ』と。
「え?」
「な、なんで!?」
「おじいさまのこと嫌いになったの!?」
当然の如く反対されたし泣きつかれたしで彼女はたじたじとなった。が、
「もう決めたことだ」
そう、彼女の意思は固い。
たとえ可愛い可愛い我が子や孫たちに泣かれようが止まら…ない!
「ねぇ、どこ行くの?」
止まらない、はずなのだが。
ぎゅうと握り締められる手に顔を顰める。
だがハイライトの無い目をしたソイツにはそんなの気にする余裕がないようで、彼女と彼女の隣にあるスーツケースを見ては、
「ねぇどこに行くの?」
なんて先程から同じことしか言わない。
もうこれ、こいつ狂ってんじゃね?なんて思いつつも彼女は笑顔で答える。
「また帰ってくらぁ」
これは噓ではない。
でもやはりその目的を伝えればそれはまた騒ぎになること請け合いなので、彼女ははそれっぽいことを言ってその場を乗り切ろうとする。
がしかし相手が悪かったようで……。
「戻ってくるって言ってちゃんと戻ってくる人、今まで一人もいなかったよ?」
と、そう返されたのだ。
いやそういうの微々たるものだろうと思うが彼女にとっては図星なので押し黙る。
「うん。じゃ、寒いし中に戻ろっか」
さて?どっちが篭絡されたのやら。