さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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とある世界線。



『父さん』

白峰(あらた)は母の死をきっかけに遠縁である白峰透に引き取られた。

本来なら父親であるあの人が(あらた)を引き取るべきだったのだろうけど、あの人も含めてあの人の家族は何があってもろくな反応を見せない(あらた)のことを気味悪がったので。

 

「…」

 

やさしく伸ばされた手に従った。

とはいえ、養父-白峰透は色々と共同生活に向いていない…に加え、仕事が仕事だったため。

 

「…」

 

(あらた)の目の前に広がるのは広い広い芝。

此処は白峰透と縁深い牧場。

この牧場で(あらた)は競馬学校に通うまでの約十年間、ここで過ごすことになる。

さて、ここでターニングポイントがひとつ。

 

『こんなところでなにしてるんだい?お坊ちゃん』

「!?」

 

(あらた)に声がかけられた。

振り返ったそこにいたのは小柄な馬で。

まさかとパチクリ瞬きをするものの、続けてかけられる『親御さんは?』との言葉に、「え、う…」と。

思わず生返事を返すと馬は『わあ』と言いながらも面白そうに笑う。

 

『はぐれたの?』

「ち、ちが…。今日から、ここで暮らす…」

『え?じゃァあっちに送った方がいいかなあ?』

「……」

 

ちらりと違う方向を見たその馬に(あらた)は縋り付くように抱きついた。

…なにせ(あらた)は生まれた頃から人間の言葉が分からなかったから。

どれだけ懇願するように話しかけられても(あらた)にとっては雑音にしか聞こえなくて。

だから、(あらた)は。

 

「……」

『え、なに?どうしたの?』

 

(あらた)は初めて自分が分かる言葉を話してくれた馬を離したくなかったのだ。

 

『……へえ』

「?」

 

馬は(あらた)の姿をまじまじと見て、それから何かを思い出すように頷き。

 

『……ふうん、そうかい』

「?」

『ここで会ったのも縁だろうし…。せっかくだしおじさんに乗ってみるかい?』

 

 

その日から、(あらた)は暇さえあれば自らを『おじさん』と呼ぶ馬-『父さん』に乗るようになった。

本当はちゃんと名前があるらしいが(あらた)にとって初めて父親らしいことをしてくれた馬の名前は(あらた)にとっての『父さん』で。

その話を聞いて馬-『父さん』は笑った。

 

『そりゃ光栄だね〜』

 

(あらた)が『父さん』に懐くのはあっという間だった。

(あらた)が言葉を話せないと知ると、馬は(あらた)に人間の言葉を教えてくれたから。

 

『……ねえ』

「?」

 

ある日のこと。

(あらた)に『父さん』が静かに語りかける。

 

『騎手くんは元気?』

「騎手くん…?」

『あ、いや、分からないならいいんだよ』





白峰おじさんが遠縁の子を引き取った世界線。
なおその子は血から来る奇跡の御業的な感じで馬と意思疎通ができるんだ。
…その分普通の人間からは排斥されちゃうんですが。

それはそれとして、日々暇さえあれば『父さん』や『父さん』の子どもたちの背に乗せてもらって英才教育されるんだよね。
…実質産駒って、コト?
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