さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

1076 / 1416

謝るけれど。



ごめんねと

(僕みたいなのを愛しちゃって、可哀想にね)

 

誰からも愛され、頼りにされる彼を見てはいつもそう思う。

彼なら、どんな相手でも選り取りみどりだったろうに、こんな自分に魅入られたせいで。

未だに周囲から秋波を送られているというのに、それに全くといっていいほど気づかない姿は…もはや残酷といっても差し支えない領域に至っていた。

 

「どうしたの?」

 

そんなことを堂々巡りに思考していると、彼が自分の元へ戻ってきて。

なんだか不満気な顔でこちらを見つめてくるのに、思わずキョトンとする。

 

「…ううん、なんでも」

「そう?」

「うん」

「なら、いいけど……」

 

不満気な顔のまま、彼は、自分の隣に腰掛けた。

……ああ、本当に可哀想だ。

こんな自分なんかに捕まっちゃって、本当に可哀想。

そんな思いを込めて彼を見つめると。

 

「……なに?」

 

視線に気づいた彼が、無表情のまま首を傾げた。

 

「いや…うん、」

 

そんな彼に首を横に振って、自分はそっと彼の肩に寄りかかった。

 

(でも愛しちゃったから、手放せないんだ)

 

自分が、『彼のために』と、手放すことができるような殊勝な人間であればよかったのに。

だが、現実は『彼のために』などと言えそうにない。

彼は自分のモノだ。

誰にも譲らない。

自分は彼を手放せない。

それが当然だ、と、そう強く思っている自分がいる。

 

「…本当に、どうしたの?」

「ううん」

「変なの」

 

たまらず自嘲する自分を不思議そうに見やる彼に、自分は曖昧に笑った。

 

「ねえ、」

「うん?」

「して」

「……ここで?」

「うん」

「……わかった……」

 

少し躊躇った後、自分から触れるだけのものを送る。

珍しいこともあるもんだと思えば、「もっと」と静かにねだってくる彼に、自分はそれに応えた。

 

「……もういいの?」

「うん」

「そっか」

 

あいしてほしい。

けど、そんなものでは足りない。

それを自分に求める彼が愛おしくて、どうしようもなく可哀想で。

彼は自分のモノなのに。

そんな気持ちを込めながら彼をそっと抱きしめると、彼は少し驚いたような顔をした後、自分の背に腕を回してきた。

 

「……どうしたの?」

「……別に」

「そう……」

(……ごめんね)

 

こんな自分に愛されて、本当に可哀想な彼。

バケモノなのだ、己は。

きっと。

これから、どんなに彼にお似合いの人が現れたとしても。

 

(…手放せない)

 

ごめんなさい。

内心、そう謝る。

ごめんなさい、ごめんなさい。

あなたを愛してしまって、ごめんなさい。

でも、もう。

 

「ねえ」

「……ん?」

 

そんな自分の思いに気づかず、彼は自分を呼ぶ。

 

「好きだよ」

「……うん、知ってるよ」

「そう?ならいいけど……。あ!そうだ!今度さ、一緒にどこか行かない?」

「……どこかってどこ?」

「どこでもいい!」

(……ああ)

 

本当に可哀想だ。

こんな自分に愛されて。

 

(でも)

 

それでも、手放せないのだ。

この手を、離せない…。

 

「それと」

 

……?

 

「僕がキミを愛するのは、自分の意思だよ」





ふたりはしあわせ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。