さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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もしもの世界線。



そこにいたけど

彼女はよく、『運の悪いウマ娘』と言われた。

恵まれた才覚と愛嬌と美貌。

がしかし、

 

「キミと私なら素晴らしい世界が作れるはずだ。なァ?」

 

彼女の前にはいつだって───【皇帝】シンボリルドルフがいた。

「【皇帝】さえいなければ」とは彼女を知る第三者から見た率直な意見だが、当の本人はそこまでシンボリルドルフを憎んだり恨んだりしていなかった。

だけど───彼女がいくらルドルフのことを気にせずにしようとも、…周りがそれを許さず。

 

『今度こそ【皇帝】を差し切るか!?』

 

彼女の追込の脚質と絡めた、大きな見出し。

最終的に七冠バとなるシンボリルドルフに対して、挑むものなんてそういなく。

だからルドルフに真っ向から挑み続ける彼女がいつだって話題の中心になった。

 

『今度こそ!』

 

誰もがそう言う。

そりゃあそうだろう。

【皇帝】がいない時の、GⅡ・GⅢではいつも余裕の圧勝をしていれば嫌でもそうなる。

だが出るGⅠ出るGⅠ狙っているのかと言われてもおかしくないほどに毎度【皇帝】とかち合っては惜敗する。

故につけられた異名が【惜敗の反逆者】なんて。

一度も勝ったことがないくせに反逆者とつけるなと色々言いたいことはあるが、それはさて置き。

 

『この私に諦めず何度も挑んでくるのはキミだけだ』

 

そう言って、シンボリルドルフは何度も何度も彼女を称賛した。

同じレースに出れば毎回称えるし、走り終わった後は穏やかに話しながら共に帰るほど。

ある時ルドルフは言った。

『我々はふたりでひとりなのだ』と。

そんな訳あるか。

もう彼女の名前など誰も知らなくなっていた頃、それをルドルフが許さなかった。

 

「キミに庶務をしてほしい」

「本来なら副会長を任せたかったのだがなあ。如何せん早々と埋まってしまって」

「あぁ、…断られてしまったんだよ。彼女以外に、となるとキミしか信用ができなくてな」

 

───して、やってくれるだろう?

 

…嗚呼、なんたる!

 

 

シンボリルドルフにはいっとうの"お気に入り"がいる。

その"お気に入り"は彼女と友人のとある小柄なウマ娘の一歳下のきょうだいだ。

が、きょうだいと言えども走り方は真逆であり、姉の方が逃げなら件の妹の方は追込脚質で。

 

「ヒヤヒヤしたよ。危なかった」

 

併走でも、公式戦でもひとつ上の世代の彼女らを除けば【皇帝】の奥底にある獣性を刺激するのは唯一彼女のみで。

シンボリルドルフは、彼女に向けて語られる「シンボリルドルフ(じぶん)さえいなければ」という言葉を知っている。

だが、自分を除く他のありとあらゆるを圧倒する彼女が…自分にだけは惜しくも頭を垂れ敗北する姿に。

 

「キミは私のモノだ。そうだろう?」

 

コレは自分の獲物だと。

自分しか喰らうことが許されぬモノだと。

そして、そんな彼女が見初めた『怪物』。

その彼女の名は───。





でも当人はそう言われるのを恐れ多く感じているものとする。
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