シーズンはあっちでオフは戻るよって生活だったり…。
まあ本人が家族大好きのファミリーコンプレックスだからね。
リリィやきょうだいたち、可愛い我が子、気心の知れたみんなから離れることになってしまった。
普通はこんなこと、あまりないらしいのだけど、最近帰ってきた初めての我が子である彼ら彼女らの活躍が凄まじかったため…だとか。
にしても、
(まさかここまで丁重に扱われるとは)
乗せられた車も何か豪華だったし、着いてからも何か恭しい。
(居心地が悪い…)
連れてこられ、入れられた広い放牧地でぼうっとする。
周りに誰もいやしねえ、と、視線をうろつかせる。
その時、風が不自然に吹いたのを感じた。
(え?)
風が吹いてきた方を見やると、そこには。
「……誰だ、お前」
僕よりは大きいけど、どちらかというと小柄な黒い馬。
言葉少なでも友好的とは言い難いその態度に、
(…この子、面白!)
僕は───歓喜していた。
なにせ、自分と対等に接しようなんてヤツが今までいなかったのだ。
みんながみんな、地位が天ほども高い相手に接するようにしてくるせいで、対等に話せるのなんてリリィや同じ腹から生まれたきょうだいぐらいなもので。
「なんか言えよ」
そう考え込んでいたら、少々時間が経っていたらしく。
ぶっきらぼうながら心配そうな声をかけられたので返事を返す。
「ええと…これからお世話になる、まあ、どこにでもいる一介の馬です」
よろしくね。
*
その日は、うるさかった。
いや、その日の少し前からうるさかったか。
俺たちの世話をするヤツらがドタバタと。
何か、大変なことが起こるらしいとは雰囲気で察して、でもそれが悪いことではないらしいとソイツらの表情から見て分かって。
その日がやってきた。
「……思った以上に簡単に出られたな」
どんだけ焦っているのか、開いていたところから出て歩くと知らない匂い。
匂いを辿り、たどり着くと。
「……」
そこには、ナニカがいた。
ナニカと言い表したのは雰囲気が、その……異質すぎたからだ。
此処に来たなら走ることを引退しているはずだろうに、まるでまだ───。
「これから、よろしくね」
ハッとした頃には、もう遅かった。
その時にはもう、俺は得体の知れないソレのお眼鏡に適ったらしく、友好的な雰囲気で話しかけてくる。
……本能的に、いや、動物的な直観が告げていた。
こいつはバケモノだと。
しかしそれを今言うのは何だか負けた気がして悔しかったから言わなかったけど。
「ねぇねぇ、キミ名前なんて言うの?」
「自分も名前教えねえヤツに教える義理はねえよ」
「え〜そんなあ。名乗るほどの名前はないんだってえ!」
「どうだか」
本人は普通にしてるつもりなのに培った雰囲気がヤババ過ぎて誰も普通に接してくれなくなってたところに普通に話しかけてくれた相手を気に入る図(なおもう少し時間が経たないと身にまとっている威容がマシにならない模様)。