どんなに最低でも。
俺は自他ともに認める最悪な奴だった。
お互いに好きあっているくせに、一途な相手と違って、俺は「好きだ」と言われればすぐに好きになってしまう。
その悪癖はトレセン学園内でも有名であり、よくこれみよがしに「先輩って可哀想だよね」だとかと、後輩たちから哀れまれるし。
「別れた方が、いいよな…」
きっと、この性分は死んでも変わらないから。
俺を好きになってくれる人を、俺は好きになってしまうから。
清く正しい相手とは違うから。
「おかえり」
「…ただいま」
久方ぶりに帰った、ふたりの部屋という名の寮部屋は相変わらず綺麗で。
最近はずっと誘われるままに自分を好きだと言ってくれる相手の部屋を転々としていたから。
「昨日は誰のところに泊まってた?」
「……さあ?後輩は後輩らしいけど」
「そう。それよりこれ、知り合いから来たからどうかなって」
二人で小さなテーブルを挟んで向かい合って、他愛もない会話をする。
至福の空間で、とても幸せな瞬間だった。
「このコーヒー、美味しい」
「うん」
清く正しい相手とは違うからこそ、俺はコイツと付き合うべきではないと思う。
断るべきだと思った。
そう思う自分も確かに居た。
でも…。
(好きなんだよな…本気で)
好きだと言われると好きになってしまうが。
それでもコイツだけは違う。
どう違うのかは言語化できないが。
「それで、何泊目?」
「なんだよ突然」
「愛して止まないお前の帰りが遅くて、寂しいなぁって」
「……オマエには関係ないだろ」
またしても俺は断れない。
コイツのことが、好きだけど。
「ねえ。俺のこと好き?」
「……さあな」
(好きだなんて言ったら)
コイツに嫌われてしまうかもしれないから。
だから俺は今日も嘘をついた。
だって、好きなのにあっちへこっちへするなんて。
俺なら許せないし。
なら自分もするなよって話だけど、生憎俺はどうやっても断れそうもないから。
コイツも、ほんとは。
(でも、もう……終わりかな)
「好きだよ」
「……ああ」
(俺も好きだよ)
「愛してる」
「……うん」
「だから……」
「……うん」
(ごめん。もう無理なんだ)
俺は今日も嘘をつき続ける。
だって、好きなんだ。
本当に。
コイツのことが、好きで好きでたまらないんだ。
だから。
「……、」
決定打を紡ごうとして、口を噤む。
ああなんで。
決意しても決意しても鈍ってしまうのか。
だってもう、嫌えない。
嫌うことに、意味がない。
(好きだから)
もう仕方ないじゃないか。
だから今日も俺は嘘をつく。
「俺も」
「うん」
(好きなんだ)
「…ううん、何でもない」
帰りつく場所はそこだから。