あんな産駒現れたら乗りたくなるのも仕方ないよね。
あんなもの見せられて、乗りたいと思わないのは騎手じゃない。
それが『シルバーチャンプ』という馬の走りを見た騎手連中の総意だった。
まるで弾丸のように全てを打ち抜ける脚と、操縦性の高さ。
気性面だって下された指示に完璧に従うあたり、やりたいと思ったことをやらせてくれる……そんな理想的な馬。
(乗ってみたい)
ようやっと現れた、オグリキャップの後継。
オグリキャップの能力を引き継ぎ、オグリキャップの能力だけじゃなく"あの馬"の能力まで引き継いでみせた。
「あの馬と、一緒に走りたい」
その欲求は日に日に高まり、やがてそれは『シルバーチャンプ』の騎手になりたいという叶いもしない夢になった。
だってもうシルバーチャンプには運命の相手がいて。
まるで比翼連理か、もしくは錠前と鍵のようにぴったりと寄り添い、噛み合っては互いを高め合う、そんな関係。
そんなひとりと一頭に……どうあがいても自分はなれないと知っているのに、それでもその馬に乗りたいと強く願う自分がいたから。
「シルバーチャンプ」
だから、その馬に乗るために。
「俺と一緒に走って欲しい」
もう届かない夢だと知りながら、そう願った。
『シルバーチャンプ』という馬がターフを去った日。
ならばと目を光らせた人間たちがいたことを、当人たちだけが知らないのだった。
*
白峰遥はあまり人付き合いをしない。
よく言えば職人気質で、悪く言えばコミュ障。
でも実力は確かだしストイックなので、信頼されているが。
「せんぱ〜い、今日も一人なんですかァ?」
「…ん」
友人らしい友人というか、まあそういうのは同じ厩舎所属の後輩-白山晴人ぐらいなもので。
周囲曰く生意気なところがあると言われているらしいが、遥にとっては可愛く、また得がたい後輩。
「今からの予定ってもう見ました?」
「……来た時に」
「ええ!?なら言ってくださいよ!」
「……見てるかと思ってたから」
と、いう感じに遥が唯一心を開く相手がこの白山で。
呆れながらも「ご飯ちゃんと食べてくださいね!?」と遥に指を指してくるのに「わかってるわかってる」とジェスチャーをすれば「ならいいんですけどォ!」と、それ以上は追及してこない。
そういう聡さというか、引き際を弁えているところに遥は好感を持っていた。
「……そういえば先輩」
「ん?」
だからふとした時に彼に話しかけられたりすると……なんだか変な気持ちになる自分がいたりするわけだが。
なんでだろうか?と考えてみるものの答えは出なくて。
(ま、いいか)
馬鹿げた考えがよぎる前に、小さく頭を振る。
とりあえずは、
「はやく食べ終わろう」
なので虎視眈々とその産駒を狙う皆さんなんだ。
そして大繁殖する銀王者産駒定期…。