……だからみんな見えてるんだ。
…何だか懐かしい場所だなと思う。
ニンゲンに引っ張られて歩いていると不意に話しかけられた。
『シロガネガイセイ!』
僕の名前を呼んでいる、ということは知り合いなのだろうか。
確かによくよく見てみるとどこかで会った気がしなくもないが。
『今度こそ勝って、お前の目を俺に…ッおい!まだ話してるんだが!?』
何がしたかったのだろう。
引きずられていく姿を見ながらぼうっとしていると上に乗っていたニンゲンが話し出す。
「はは…、クライハウンドは相変わらずだね」
クライ…。あぁ、そういえばクライなんとかというヤツがいたっけ。
アレが今のか。何だか見覚えがあると思った。毎回絡まれてたら嫌でも顔を覚えるよね、うん。
「そういや今回の出走馬全頭に銀色の血が入ってるらしいぜ」
「えっ、本当ですか!?」
ニンゲンが何かを話している。
けれど興味を抱くことはない。
早く、早く走らせてくれないかなぁ…?
*
テレビは今から始まるレースを映していた。
それを聞きながら僕は目を閉じる。
「…楽しんでいこうぜ、相棒」
*
いつも通りのスタートだったはずだ。
だが自分の前にはひとつの影があって、
「は…、」
上からはニンゲンの困惑の声が聞こえる。
その影は悠々と進んでいく。
こんなこと、今までなかった。
自分がハナを取れない、なんてこと。
『…ハハッ』
ありえない現状に闘志が燃える。
何もかもはじめてだ。
誰かにハナを譲るのも、ここまでココロが掻き乱されるのも。
『アンタが誰かなんて、関係ない』
自分の前を往く影に。
ただそれだけを思った。
『勝ちたい』
お前に、勝ちたい。
*
…随分と"彼"は調子がいいらしい。
確かにあのころと比べると走りやすくなってるよね。
まぁそれ以外の要因の方が強いんだろうけど。
*
『誰だ、アイツ…』
俺含む全員が困惑していた。
『シロガネガイセイからハナを奪うなんて…』
そう。
今回このレースに出走しているヤツの中で逃げ馬はシロガネガイセイただ一頭。
だからレースを作るのもシロガネガイセイだと、思っていたのだが、
『誰だよ…!』
シロガネガイセイは誰かを追っていた。
自分よりも前を往く"誰か"を。
ハイペース過ぎる展開。
後ろにいる俺たちはお前を追うことしかできなくて、それしか許されなくて。
だがそれこそが、今の走りこそが、
『お前の本気なのかよ、シロガネガイセイ…!』
引き離されていく。千切られていく。
辛うじて二番目にゴールを切ったが、
『ぜぇ…、しろがね、がいせい……、っ!?』
爆発したような歓声の中で、ソイツの顔を見た。
どうして。
お前が、そんな顔するわけ、
『…まけた』
呆然とする俺の前で雫が落ちる。
シロガネガイセイは、泣いていた。
『まけた』と言って、ひどく静かに泣いていた。
その顔に俺は、
(おれが、そのかおをさせたかった)
ただ、そう、それだけを思った。
*
「…いましたよね?」
同じレースにいた同業にそう聞くと誰もが「いた」と応えた。
いないはずの存在が、いたと。
誰よりも前に往く影があったと。
今日の勝者──シロガネガイセイとそっくりなその影。
それは、
「シルバーバレット…」
その日ジャパンカップには『亡霊』がいた。
それを知るのはジャパンカップという舞台にいた騎手と馬だけだが、
『…"あの子"と一緒に、いい夢を見せてもらったよ。ありがとう』
その『亡霊』の相棒であった男からそんな言葉が告げられたのも、また事実であった。
再来&まだまだ新人騎手:
オリジナルが見えちゃった馬(父:コントレイル)&人。
今回はのちに無敗の11冠になる馬のベストレースだった。
だが今まででいちばん本気で追ってるのに追いつけなかった。
はじめてココロを揺らし、負けた悔しさで泣き出したウッマに騎手くんもココロ揺らされてる。
再来被害者の会・会長:
クライハウンドくん。血統に某心の叫びさんとシルバーチャンプがいる。
3歳・4歳に天皇賞・秋連覇、4歳に大阪杯勝ってる。
けど再来には一度も勝てないまま、後塵を拝して終わる。
まぁ再来が引退してからはコイツが猛威を振るうんですけど。
自分じゃない相手に宿敵である再来が心揺らされて泣き出して曇ってる。
俺がその顔をさせたかった、とのこと。
亡霊とその相棒:
再来&騎手を相手してやってもいいと見定めた。
そのために蘇ってきた亡霊なのかもしれない。
完全に円熟した天才の再来と馬場があの頃よりもよくなってるからね。
それと自分に競り合ってこようというウッマがいたお陰でテンションアゲアゲだった模様。勝てるわけがない。
多分2:19.0は普通に超えてる。