───そして、火を灯せ。
「……」
あの日。
勝者だった彼女に、唯一話しかけたのは二着であるオグリキャップだけだった。
他のウマ娘は、あんなタイムを出した彼女を「本当に
「……」
ふぅ、と穏やかに息を吐く。
『や、僕は有馬出ないぜ?』
『そもそも、もうこんな年齢だし…このJC出たのも実質引退レースで…ってアレ?ルドルフ?』
まぁ…あんなタイムを出せばああなるのも納得ではあるが。
さすがに【皇帝】からの本気の睨みにはさしもの
中央移籍直後なら、いや…あのジャパンカップの前ならいざ知らず。
今のオグリキャップは────。
───お前は、オグリキャップだろう?
「……言われずとも」
我ながら、レース前とは思えないほど落ち着いている。
まるでこの地と一体化しているかのような感覚。
観客も、フィールドも、何もかもが…オグリキャップの味方のような。
『なぁ、オグリキャップ。改めて聞こう』
昔、彼女がトゥインクルシリーズを走ることが決まった際。
一対一で食事を取りながらシンボリルドルフとこんな話をした。
曰く……タマモクロスや永世三強の他のふたりのような
それは必ずしも一等星である必要は無いが……ただ
ならば、
「憧れでは終われない、熱になれ──か」
「……」
「……オグリ、お前」
「…タマ」
「なんや、えらい落ち着いてるやないか。てっきりまたレース前でも飯食うとる思うたんやけどな」
「……ああ」
懐かしい声に振り返ればそこには……タマモクロスだけでなく、クリークやイナリも。
気遣うような、それでいて安心したような声に「いってくる」と一言告げて。
*
「強かったねぇ、オグリくん」
「……そうだな」
「みんな、すごい目だ。今度の入試、いっぱい人来るんじゃない?」
URA史上見ても見たことがない大盛り上がりの様にシルバーバレットはのほほんとそう話す。
それを傍に控えるシンボリルドルフがどんな風に見ているのか知らずに。
「…先輩」
「なぁに?」
「本当に、行ってくれるんですよね?」
「そりゃあ、シンボリだけじゃなく他の有名な冠名のところからも支援ってなればそりゃあねえ」
シンボリルドルフは。
トレセン学園生徒会長として……ひとりのファンとして、かつてオグリキャップを中央に引き入れたいと告げた彼女に対し『分かりました』と返したことを後悔している。
だが……それは後の祭りだ。
「……」
ああ、時間だ。
そんなことはいざ知らず、スマホの画面を見るシルバーバレットに、ルドルフは静かに口を開き告げるのだった。
「……先輩」
「うん、分かった。───行こっか」
【The Hero】
90年 有馬記念。
誰もが"安心"する強さがそこにあった。
誰もが"平伏"する強さがそこにあった。
その強さを讃えるように───17万人の、いやそれ以上の歓声があがった。
勝者───オグリキャップ。
本当の"強さ"を見よ。
熱狂の渦へ。
有馬記念。