さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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そのためなら何でも。



それが願い

傷つくことは愛であるからして。

 

「大丈夫?」

 

切った額からどろりと血が流れ、目が開きにくい。

それでも目の前の大切な人に手を差し伸べれば、強く抱き締められた。

慌てて「汚れるよ」と言っても、

 

「うるさい」

「……」

 

本当に強く強く抱き締められる。

痛いぐらいに、でもこの人は僕が愛しくて大事で仕方ないんだ。

 

「一緒にいてやらなきゃって思ったのに。放っといたらおまえはすぐに……」

 

自分のせいでいなくなってしまうって、そんな予感がしたんだって。

それはある意味正しくて、ある意味では間違っていると思った。

 

「大丈夫だよ」

 

振り向こうとすれば引き戻されるようにさらに強く抱き締められる。

僕は思ったままの感想を口にした。

 

「僕はキミのモノだから」

 

 

自分と共に生きるようになってから、大事なあの子の体に傷が増えていく。

手、足、腕、胴体などなど。

あの事件が起きた日、俺はあの子を一人にしていた。

そしてあの子は、自分の意思で俺を乏しめた奴に…。

 

「……」

 

あの日の光景が蘇る。

もう何度も、何度も繰り返して。

『ごめんね』と一言だけ言って、あの子は笑う。

『ごめんね』ってなんだよ?

謝るくらいならなんでこんなことしたんだよ?

どうして何も言ってくれなかった?

なんで……なんで自分はあの子を守れなかったんだ?

なんで、あの子が苦しんでいることに気付かなかったんだ?

なんで……なんで……なんで……。

 

「……大丈夫」

 

傷でざらついた手が頬を撫でた。

「うなされてたよ」と心配そうに見る目。

自分は堪らず目の前のその影を抱き締めて熱を感じた。

自分なんかよりもずっとずっと傷付いた体のそいつは、やっぱり何も言わないで微笑んでいたけれど。

 

「僕がいなくなる夢でも見たの?」

「……」

「キミがうなされるなんて珍しいね」

 

古傷がたくさんある、小さな体。

優しいようでいて、残酷で、俺のために生きていく、そんな身体。

その額を触ればひんやりとしている。

でも怪我の影響でまた熱くなるのも知っている。

 

「……そろそろ薬切れてくるだろう?飲めよ」

「飲まないとダメ?」

「ダメ。ちゃんと治さないと」

「……うん」

 

薬の紙袋を開けて手渡すが、そいつはなかなかそれを飲もうとしない。

なんで?と問えば、「キミはさ……」と言うから自分は黙って言葉を聞く。

 

「別に放っておいてもいいのに。やさしいね」

 

痛みに呻くのも、熱に苛まれるのも、慣れてるから別にいいのに。

にこりと、そう。

どこか恐ろしいほどに……。

 

「ほんとうに、やさしいね」





愛しているからね。
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