それもえげつない速度で脚をぶん回すピッチ走法。
回転数から普通のヤツらとはダンチもダンチで、そのぶん体力の消耗もあるのにそれで勝ってたんだ。生涯無敗だったんだ。
そういうとこでもバケモノって言われてそう。
透兄ィにとってアイツが『最愛の存在』だとしたら、俺-白峰誠にとってのアイツは『最も心を許せる存在』だった。
*
白峰という家は基本的に馬に関わる仕事をしていて、俺が厩務員になったのも高卒でぶらぶらしていたところを見かねた親から透兄ィに話がいったからで、
「コイツはシルバーバレット」
「はぁ…」
新人であった俺にはじめて任された馬がソイツ-シルバーバレットだった。
思えばコイツははじめからどこか普通とは違う馬であった。
まず人の邪魔をしない。
厩務員の仕事は担当馬の検温や馬房の掃除から始まるのだが、
「来たぞーチビ」
俺がそう声をかけるとシルバーバレットはすうっと邪魔にならないように退く。
ボロだっていつも決まった場所にして、寝藁もそう散らばっていることはなかった。
「なんだよ」
そして綺麗好きな馬だった。
くっ、と俺の服の裾を噛んだシルバーバレットが向く方を見るといつも少しばかりのゴミが残っていて、俺は「もうちょっと寛容になれよ」なんてぶつくさ言いながら掃除をしていた。
次に特異だった点はレースの時だ。
馬というのはその日レースがあると分かると異常に興奮することがある。
そんな彼らに寄り添って落ち着かせるのも厩務員の仕事なのだが、
「…お前本っ当に変わんねぇな」
シルバーバレットはいつだって自然体だった。
逆に厩務員である俺の方が緊張したりして騎手である透兄ィに諌められていたほどで。
「…こんにちは」
「はい?」
気づけば俺とシルバーバレットは同年代の友だちのようになっていた。
彼女とはじめて会った時もそう、
「シルバーバレットってこの馬ですか?」
「あ、あぁ…、そう、だけどアンタは?」
「あっ、わ、私、
「灰方?灰方って…」
「そ、そうです、いつも父が…!」
「はぁ!?アンタあのクソジジ…っ、テキの娘ェ!?」
「は、はいぃぃ…!」
後の妻になる静と出会ったキッカケもシルバーバレットで。
父であるテキからすごい馬がいると聞いていた彼女が興味を持ち、厩舎にやってきたのが出会いだった。
「ふふ、人懐っこいんですね…」
「あぁ、そう、だな…」
静が来ると、シルバーバレットはいつも可愛こぶった。
お前そんなキャラじゃないだろと見つめると「可愛こぶってやってるんだから何とかしろよ」なんて眼差しを返されて。
そうやって愛瀬を重ねる内に俺と静は恋人になった。
「なぁ、チビ」
あと数日で凱旋門賞となっていたあの日、俺は彼と話をしていた。
「俺、日本に戻ったら静と結婚するんだ」
そう言うと「そうか」という風にいななくシルバーバレット。
もしくは「やっとか」とでも言っていたのかもしれない。
「それで…、結婚式にお前が出てくれると嬉しいんだよ。
…お前は、俺と静のこ、恋のキューピッドってヤツだから!」
シルバーバレットと出会ってかれこれ10年、恋人となった静には彼が引退するまで待ってくれと頼んでいた。
静もそれを了承してくれ、シルバーバレットが海外遠征に行く際は「頑張ってきてね」と見送ってくれた。
「だからさ、勝ってくれねぇと恨むぜ?」
俺の言葉にシルバーバレットが「ハッ」と鼻を鳴らす。
それはまるで「荷物を増やすな」とも、「当たり前だ」とでも言うようで、
「ホンットにお前は…、サイコーだな!」
思わず抱き着く俺に「うげ〜」という顔をするのもいつも通り。
それが俺には愉快で仕方がなくて、笑ってしまった。
……そんな、いつかの記憶の話。
厩務員さん:
本名白峰誠。白峰の姓のとおり白峰おじさんの血縁。
白峰おじさんより年下。
はじめてのお世話相手が僕だった。
のちに僕が縁でテキの娘である
僕が自分たち夫婦の恋のキューピッドなので結婚式に出てもらいたいらしい。
僕:
シルバーバレットという名前のウッマ。
厩務員・誠くんのことは憎からず思っているし、思っているが故に静ちゃんの前でいつも可愛こぶってやっていた。
誠くん&静ちゃんの告白の時も一緒にいた。