さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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なにかひとつでも残ればいいけどね。



気づいた?

思えばそれは蠱毒だと、気づいたのはいつだったか。

愛する子どもたちが、気づけば自分にバレぬよう蹴落とし合い、見下し合い、排斥しようとする。

……それを赦してきたのは、他でもない自分自身なのだ。

 

『お前、気をつけた方がいいぞ』

『……あらまあ、ほんとに良い子に育ったわね、羨ましいこと』

『…程々にしろよ、チビ』

 

年を経るごとに濃くなっていく血の匂いをまぎらわすように、いつも陽気に笑っていた気がする。

そんな異常を感じ取っていたのかいなかったのか、いや────気づいていないわけがなかろう。

ひどく鈍い自分でも勘づいたのだ、他が分かっていないなんて、その方がおかしい。

 

この悲劇を招いたのは誰だ?

運命なんて最初から決まっていたのか?

甘い(ことば)に堕とされた彼女らも、何の罪もないのに虐げられた子どもたちも、何一つ選択しようとしないままに善意を甘んじて流された自分も────そんなすべての悪に、気がついた。

……こんなことになると知っていれば、我が子など持たねばよかったのか。

 

『だって、サラ系でしょ?』

 

嘲る声が聞こえる。

それが幻聴だと、知っている。

だけど、だけども鼓膜に染み付いて止まない声は、絶えず僕を蝕み続ける。

 

『好き勝手、言えばいい』

 

それに手を出したのは、おぼろげに見えていた雲の彼方に未来があると信じたからだった。

 

『ただで力をくれてやるわけがないだろう?』

 

権力を広げる中で、際限なく取り込んだ。

取り込んで、魅了して、離れられなくした。

 

『バカだろう、お前』

 

もっともっと、()を注ぎ込んだ。

その実を食らって狂っていったのは、他でもないこの自分自身だったのに。

 

────ああ、でもね? この程度で済ませる気はさらさらないよ? もっとキミたちを愛して、満たそうと思う。

 

気が狂うまで呪おう(祈ろう)じゃないか。

呪い殺すほど愛してあげよう。

もう今更間に合わないけれど、今度は振り払わないから。

 

「だから」

 

ぼくのゆめを、かなえてよ。

 

 

見ようによれば、愚かな父であったように思う。

それを他のきょうだいに言ったが最後、集団で███されることは分かりきっているので、絶対に言わない。

 

「あの人は今どうしてる?」

「……」

 

何も言わないでいると美しい母は美しい顔で怒り狂って見せて、金切り声をあげた。

 

「……僕もう行かなきゃなんだけど」

「なんでそんなッ」

「……………………」

 

喉が微かに上下するのを見て、見まいとしていた現実に引きずり戻される気がした。

ああ────僕も結局はあの人の子どもなのだと、冷めた頭で思っていた。

……見てくれはやさしい癖して、その実は冷酷。

自分のことも、他人のことも考えやしない行き当たりばったり。

それは『洗脳(あいじょう)』なんてものを使いこなす(しってる)父も同じこと。

 

「出かけます、お母様」

「待ちなさい、話はまだ終わってないわ!」

「お父様は、…お分かりでしょう?」

「……っ!」

 

母は顔を真っ青にして、そのまま床にへたり込んだ。

……この分では、当分は使い物になりそうもなかった。

ああ、本当に。

 

「バカだったなあ……」

 

あの人が何をしたかったのか、今となってはもう分からないけども────きっとあの人はただ、誰もが鼻で笑うような、だがしかし、誰もが普遍的に求めるものを望んだだけで。

 

「かわいそう」

 

…自分も、その他も。





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