なんで?
「ネェちゃん!」
「ん、んゅ…」
そのウマ娘の名はクロスグレイ。
先輩であるシルバーチャンプを一心に慕う、一介のウマ娘である。
だが、
「オレ、強なったで?約束…!」
「う、う…」
傍から見ればふたりの姿は襲っている方と襲われている方で。
見るからに興奮した出で立ちでシルバーチャンプを掴んで離さないクロスグレイは、自身の瞳をギラギラと光らせながら。
「な、な?ネェちゃん……オレと……」
「や、やだ……やめて……」
「なんでや!?オレ、もう子どもやないで!ネェちゃんとも釣り合う強いヤツになったで!?」
「い、いや……!」
クロスグレイは必死に抵抗するが、力の差は歴然で。
シルバーチャンプの抵抗をものともしないクロスグレイに、彼女はただ恐怖した。
「な、約束、破るんか…?」
その瞬間、クロスグレイは脅すような、それでいて泣きそうな顔をする。
そんな顔をされてしまうと、何故だか彼女には甘いシルバーチャンプに為す術はなく。
「……わ、わかったから……!」
「やった!」
その言葉を待っていたかのように、クロスグレイはニッコリと笑った。
「や、優しく……してね……?」
「おん!」
*
こんな自分のことが好きだと、初対面から迫ってきた後輩-クロスグレイは日が経つごとにその奥の部分が見えるようになってきた。
同期の中でも一番そういうとこに鈍そうな総大将サマにまで「気をつけてね」と言われたぐらいなのだから、今の自分は相当危ない位置にいるわけで。
「ネェちゃん、どないしたんや?」
「あっ、ごめんねグレイ」
件の後輩が隣を歩いている。
彼女は誰から見ても可愛いよりかっこいい系の顔立ちをしていて、如何にも女性ウケが良さそうな子で。
「なんや、考えごとか?相談のるで」
こうして笑うとふにゃりと上がる目尻と長いまつ毛から生まれるその笑顔は、流石は(時折だが)女優として活躍しているだけあるなと感じる程だ。
「ううん、なんでもない」
「そか。……あ、せや!ネェちゃんにこれ!」
「え?なにこれ?」
そう言って渡されたのは小さな小包。
中を開けるとそこにはシルバーチャンプとクロスグレイのイニシャルが刻まれたネックレスが入っていた。
「……くれるの?」
「おん!オレからの誕生日プレゼントやで!」
思えば、クロスグレイが自分に懐くようになったのは、あの模擬レースからだった。
『なぁなぁ、そこのネェちゃん』
その日、シルバーチャンプは負けた。
普通に、負けていた。
誰もがデッドヒートを繰り広げていた同期たる黄金世代たちに感嘆する中で、唯一クロスグレイだけが彼女らに歯牙にもされなかった自分に声をかけてきた。
『カッコよかったで〜!惚れ惚れしたわ!』
『そ、そっか、ありがとう…』
まだ暗い色の芦毛の髪に自分よりも大きい体格。
たぶん大成するだろうなと先達の勘で感じたシルバーチャンプは、それに対して嫌味を返すことなくただ素直に言葉を受け取った。
『むふふ……ネェちゃんは未来のスターやな』
『か、買い被りすぎ……』
そんなやり取りがあった次の日からクロスグレイは彼女について回るようになった。
思い返してみると、そこから自分の日々が変わってしまったような気がシルバーチャンプにはしていて。
(なつかれたなぁ……)
レース終わりの汗ばんだ髪を指で弄りながら、そう思うのだ。
「……」
「……ネェちゃん」
「ん」
「…好きやで」
なんか好かれちゃった。