本馬としては『ぽけ〜』としてるだけだったりするんだけど。
白銀さんの息子から預けられたその馬は"サラ系"だった。
その息子とは何度か会っていたが、こんな競馬というギャンブルをするような人間には見えなかったのに、
「この子を、お願いします」
年若い男はそう、真摯な目で俺に頼んできた。
「貴方なら差別しない」と、「どれほど血統が悪い馬でも任されたのなら最後まで責任を持ってくれる、信用に値する人だ」と、勝手知ったるように言ってその馬を、"シルバーバレット"を俺に任せた。
任せられたその馬は非常に貧相な体つきをしていた。
1000人が見れば999人が走らないというだろう。
だがひどく頭のいい馬であり、一度物ごとを教えればスッと覚え、教えていないことまでも上手い具合に熟すこの馬に俺はいつしか魅せられていた。
コイツなら八大競走だって、三冠馬だって夢じゃないかもしれない。
そう思った。
そして、
「あの馬がいい」
"シルバーバレット"は白峰透と出会った。
まるでそうあることがはじめから決められていたようにひとりと一頭は快進撃を始めて、だが、
「っクソ、あああああ!!」
あの冬の日、厩舎が燃えた。
競走馬として生き残ったといえるのはシルバーバレットだけで。
何もかもがぐちゃぐちゃになりそうな喪失感の中で、唯一残った彼がいつしか俺たちの『希望』になった。
コイツをいっぱしの存在にすることが、無念のうちに亡くなってしまったヤツらへの弔いになると。
そんな人間の思惑などいざ知らず、シルバーバレットは勝ち続けた。
軽々と、時には苦難に見舞われながら勝ち続けて、
「行け!走れ!勝てェっ!シルバーバレット!!」
ジャパンカップ。
KGVI & QES。
ムーラン・ド・ロンシャン賞。
凱旋門賞。
BCクラシック。
本当に夢のようだった。
あの日、連れてこられたお前は本当にみすぼらしくて、脚も枯れ枝みたいで、走るのかと思った。
もし走らなかったら、俺が引き取ってどこかで面倒を見てやろうと思っていたのに、お前は俺の気持ちなんて知らないまま勝って勝って勝ち続けて。
お前がいなければこの厩舎はなくなっていただろう。
手に塩をかけて育てた、我が子と呼んでも構わないほどに情を、時間をかけた彼らが慈悲なく、唐突に奪われたことに打ちひしがれて、テキを辞めていただろう。
でも、お前がいたから、"シルバーバレット"がいたから。
あの日見た一縷の『希望』はいつしか国をも背負う『夢』になって。
どこまでもどこまでも走り続けるその背に、いつしか自分を重ねていた。
まだお前が諦めていないのに、俺が諦めていいわけないだろう、と。
「お前と出会えて、本当によかった」
栄光を勝ち取り、祝福を受けるお前の姿を見て無意識に出た言葉。
普段の自分なら絶対言わない言葉に気づけば俺の口角はゆるりと上がって…。
それは、醒めて欲しくなかった『夢』の話。
テキ:
人間の子どもは娘ひとりだが、競走馬の息子・娘はいっぱいいる。
面倒見る競走馬たちを自分の子のように真摯に世話をする系調教師。
普段は仏頂面で無口な怖い職人気質のおじさん。人間にはコワモテなので遠巻きにされるが馬にはとても懐かれている。
自らの厩舎の火事によって絶望に打ちひしがれそうになっていた時、唯一競走馬として生き残った僕に『希望』を見た。
唯一残った"息子"である僕にめちゃくちゃ情を傾けてる。
もしかすると実の娘である静ちゃん以上に僕へ情を傾けてるかもしれない。
あの日、あの時、"僕"が、"シルバーバレット"が見せてくれた『夢』にどうか醒めないでくれと願った人。
僕:
シルバーバレットという名のウッマ。
全方位脳丸焼きホース。
"サラ系"というド底辺の身の上から出会った騎手くんの"必然"になり、テキには『希望』と『夢』を見せ、担当厩務員の恋を成就させて、国の威信を見事に叶えてみせた。
これで脳丸焼きにされないとかある?
でも死んだり死ななかったりする。
……おお、もう、お前、お前お前お前!!